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閑話:D級おっさん冒険者、着実に外堀を埋められていく

 初めまして。

 聖王国の冒険者ギルドマスターです。


 聖王国には冒険者ギルドに限らず、数多くのギルドの大元が存在します。それ故「中央」「本部」と呼ばれることも多くあります。


 私としてはどちらでもいいです。正式名称は「聖王国冒険者ギルド」です。呼びやすいのであれば「中央」でも「本部」でも。


 ギルドは主要国サミットに参加する国家を中心に、様々な国家や企業がパトロンとなっています。ギルドを取り纏める我々としては超国家的組織であるとともに、癒着や不正が発生しないよう特定の勢力に肩入れしないように常日頃心がけて運営しています。

 とはいえ、地方の目に届きにくいギルドではそうした癒着や不正がままある模様。監視や調査に行った監査官が取り込まれてしまうケースもあり、頭の痛い問題となっています。


 とりあえず、我々が超国家的な組織だということはご理解ください。あ、国家より権力を持っているわけではなく、国家の枠組みを超えた組織だという意味合いであることは承知いただいていると思いますが。国家を抑えつける権力は持っていません。物言いするくらいです。


 さて。


 ここ最近は歴史に残るであろう出来事が連発しました。


 長年解決に至らなかった黄金郷の喪失。

 過去最大級のスタンピードの発生と解決。


 いずれも辺境国ギルドの冒険者が関係していることですが、そもそも私の代でこんな超弩級の面倒な出来事が起こるのは本当に困ります。処理が本当に大変です。


「どういうことだ?黄金郷はともかく、スタンピードはあいつらが関係しているにせよ、主要登場人物みたいな扱いじゃねぇだろ」


「そうでもないんですよ。アンドリュー氏は後方支援で多大な尽力をした女神教を動かした立役者、エルリィ氏はエルフ国樹立における立役者でありスタンピードの戦況把握を率先して行った立役者。そこは先般のセレモニーで周知のとおりですが、肝心のパインブック夫妻は最前線で魔王様と共にスタンピードの半分以上を壊滅させた立役者です」


 半分以上。嘘はついていないです。

 観測範囲内では凡そ7割。なんとその4割をゴローさんが殲滅しています。残りの3割でさえ通常のスタンピードと同量とのことなので、今回のスタンピードの凄さ、また魔王様とパインブック夫妻の規格外さを実感させられますね。


「魔王と!?いや、戦場に行ったことは聞いているが、そうなのか」


 中年男性は驚きを隠せないようです。

 まぁ仕方ありません。


 さて、私はいま執務室にて辺境国ギルド所属のベテラン冒険者の方と話をしています。ランクだけを見るとD級なので標準的と言えます。

 今回、パインブック夫妻のお目付け役のような立ち位置で聖王国にいらっしゃいましたが、この人選は偶然や適当な意図によるものではありません。


「魔王様はパインブック夫妻をそれぞれご自身と同格と定められました。魔人族、竜人族ならともかく、人間族やゴブリン族であの方が同格と認められる者が出るなど、全く想像できませんでしたが」


「あいつらが規格外なのはわかっていたが、もうワケ分かんなくなってきたな」


 さて。

 この辺境国のベテラン冒険者。ランクこそ低めなものの、特筆すべき事項が複数あります。


 まず、パインブック夫妻の冒険者としての入り口で師匠の立ち位置にいたということです。チュートリアルカリキュラムの教官役を担当されたとのことですが、2人に限らずよくよく彼が関わった人材の実績を見たところ、相応の結果を出しているようです。


 彼の言う通り夫妻は規格外にせよ、つまり教え上手だということです。人材育成に長けていると言い換えても良いです。実力は高いが教えることは苦手な「プレイヤー気質」の冒険者のほうが圧倒的に多い中、彼のような人材は貴重です。


 次に、集団を纏め上げる能力が極めて高いということです。何しろ、スタンピードにおけるギルド勢力を取りまとめて戦線に参加したのは彼の手腕によるところが極めて大きい。


 スタンピード発生にあたって、私たちは今いる冒険者を纏め上げようとしましたが、元々冒険者は我が強いのでそう簡単に纏まるものではありません。そこは既に承知していることなので覚悟していました。


 が、戦線に立つには実力が圧倒的に劣る彼は、自ら矢面に立ち冒険者を説得、演説ともいえない演説を聞かせることで冒険者を纏め上げました。その時にいた数々の冒険者にフォーマンセルのパーティを組ませ、更に5つのパーティの代表者を決めて、縦割りで意思決定を伝えるという即席の組織作りをしたのも彼の提案でした。


 お陰で、聖王騎士団に助力した勢力の中ではかなり早い段階で我々は合流できました。恐らくは帝国軍とほぼ同じタイミング。

 私たちも指揮系統の整理に暗いわけではありませんが、中央職員のみで冒険者たちを纏めるのであれば時間を要していたでしょう。


 最後に、辺境国ギルドマスターはこうした彼の資質を買ってパインブック夫妻のお目付け役に抜擢しました。

 つまり、辺境国ギルドマスターはパインブック夫妻のお目付け役とする口実に、彼を中央に派遣し、私に会わせることを目的としていました。

 彼の到着に先んじて届けられた書状では、彼を自分の後継としたく、資質を見極めてほしいという旨が記載されていました。


 そういう意味では、スタンピードでの堂々とした立ち振る舞いから私は両手を上げて彼の資質を認める立場です。いやはや本当に助かりました。

 あとは当人のやる気次第でしょうが、あの老獪な辺境国ギルドマスターのことですから上手いこと外堀を埋めて済し崩しに後継者指名をすることでしょう。


「失礼します」


 と、ようやくゲストがいらしたようです。

 ベテラン冒険者さんは驚いていらっしゃるようです。

 それはそうでしょう。同じく中央ギルドで宿をとっているにせよ、方々を飛び回っていて対面する機会など無い魔王様がいらっしゃったのですから。


「魔王様、この方が今回のパインブック夫妻のお目付け役であり、またスタンピードで冒険者ギルドを取り纏めた、辺境国ギルドのベテラン冒険者です」


「あなたが。魔王です、よろしくお願いします」


 ベテラン冒険者は唖然としながら魔王様の差し出した右手を握ります。魔王様はその人物の資質を測る能力をお持ちですが、今回の目的はそんなものではなく、単にお引き合わせです。


 何故なら、魔王様とは全冒険者ギルドの最高戦力であるとともに、魔王領での冒険者ギルドの実質的なギルドマスターなのですから。


 魔王領のギルドは少々特殊で、表向きのギルドマスターはいますが、最終的な判断が必要な場合は魔王様に上申することになっています。また、魔王様も魔王領ギルドのことを把握していて、あのゴブリンメイジのように冒険者から人材をスカウトすることもあります。


 というのはオフレコですが。

 魔王様がギルドマスターのような役割も担っていることは、ごくごく一部しか知り得ないことです。まぁ、ギルドが手に負えない案件を直接処理する役目を考えれば、言われてみると納得されることとは思いますが。


「聞けばパインブック夫妻のお師匠だとか。彼らには今回のスタンピードで大変助けられましたので、あなたにも感謝しなければなりません」


「いやぁ・・・ホント駆け出しのときに少し世話したくらいで、師匠なんて大それたモンじゃないですよ。アイツらの今の強さは、アイツらが掴み取ったモンです。俺は関係ないですよ」


 謙遜であり、本音ですね。

 好感の持てる虚栄心の無さ。野心が無さすぎるのも問題ですが、こういう人間なら癒着や不正に負けない体制づくりができるでしょう。


「とは仰いますが、あなたに師事していた時期があったからこそ、駆け出しの頃の彼らが生き延び、今に繋がっているのです。あなたが居なければ私は彼らと友人になることができなかったかもしれない。だからこそ、感謝しているということをどうか受け取ってください」


「そこまで言われりゃ・・・」


 恥ずかしそうにしていますが、仕方のないことかもしれません。当代の魔王様は絶世の女性かと見紛う美貌の持ち主。その彼の笑顔に気恥ずかしさを感じてしまうことは決して恥ではありません。


 が、少々軌道修正しましょうか。魔王と彼を引き合わせた理由もありますし。


「魔王様、彼には素で接していただいて構いません。その価値はあると私は進言させていただきます」


「ふむ、お前が言うならそうしようか」


 魔王様は外向きの顔と内向きの顔を使い分けていらっしゃいます。

 前者のときには柔らかな物腰と口調ですが、後者の際には敬語がなくなり、為政者然とした口調となります。

 何もしていなくても、その姿勢の違いは雰囲気に表れます。彼もそれに気づいたのでしょう。警戒というほどではないですが、それに近い心持ちを感じさせる表情に変わりました。


「ギルマスが言ったように、素に戻っただけだ。先ほどパインブック夫妻とは友人だと言ったが、彼らも俺のこういうところを知っている。アンタも知っていて良いだろう」


 私の目的は2人のお引き合わせ。

 ですが、この素の魔王様とのお引き合わせこそが真の目的です。

 魔王様と会ったことのある各国ギルドマスターはいますが、素の魔王様を知るギルドマスターは居ません。

 この状態の魔王様を知ることこそが、彼が今後ギルドマスターになったときに大きな財産となるでしょう。もしその時に、既に魔王様が立場を退くことになっていたとしても。


・・

・・・


 しばらく後。


 私の執務室には私と魔王様の2人だけになりました。


 いや、魔王様の影に気配を感じるので厳密には3人ではありますが。


「いかがでしたか魔王様」


「俺に素を出せって言うだけのことはある。彼が辺境国ギルドのマスターになるなら良いんじゃないかな」


 魔王様のお墨付きが貰えましたね。

 いつになるかはわかりませんが、これで彼の外堀を埋める材料が増えたということになります。しかも、この上なく強力な。


 あのベテラン冒険者は、率先して組織を率いるということはしないでしょう。ですが、済し崩し的に組織の長となった際には嫌々ながらもそのリーダーシップを十全に発揮する。そんなタイプです。巻き込まれ型ともいう。


 あとは今の辺境国ギルドマスターの手腕次第ですが、やはりほぼ間違いなく上手くいくでしょうね。あの狸ジジイと心理戦なり情報戦なりしたくないです。可哀想に。


 とりあえず、これで魔王様をお呼びした用件を済ませることができました。

 魔王様も退席され、執務室には私だけ。

 さて、溜まった通常業務を処理するとしましょう。色々大変なことがありましたし、他国のギルドのことも大切ですが、まずは自分の足元をちゃんとしておかなければ、ですからね。

聖王国の冒険者ギルドマスターは元聖王騎士団の副団長級ですが、同じ副団長級の策略に嵌って追放され、あれやこれやと冒険者ギルドマスターになった経緯を持ちます。

その過程で魔王と出会い、彼が本性で話す数少ない人間となっています。


ギルマスを陥れた副団長級は既にざまぁ済です。

とはいえ、暗躍・汚職の類が明るみに出て騎士団長に処断されるという自爆に近いものでしたが。ギルマスは多忙を極めているため、そのことを全く意に介していません。

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