スタンピード 5 〜conclusion〜
結局、スタンピードによる魔獣は最終的に第十四波まで出現した。
俺や魔王たち、聖王騎士団をはじめとした各種勢力も終わらない戦いに極度に疲弊。だが何とか押し切り、最後の魔獣がまたしても俺にとって因縁深いデスベアーで、残り少ない魔力を振り絞って石礫の鞭を生成して横凪に払う。
デスベアーは上半身と下半身を切り離され絶命する。そして、スタンピードにより現れた魔獣はその亡骸を世界に残さず消滅する。
魔王領から聖王国を繋ぐ街道をメインに繰り広げられたスタンピード対応作戦は、ここに完全な決着を見た。
「うぉっ・・・」
聖王騎士団を主軸にした連合軍とスイッチしつつではあったが、全力全開で魔力を使う行為をし続けたからか、様々な疲労が限界に来ていた。
体力や魔力が女神の分霊によって回復するにしても、さすがにやはり精神的な疲労にまでは作用しない。
俺は街道のど真ん中に倒れ込んだ。石畳はボロボロに破壊されている。修繕が大変だろうなぁ。
「いやー、あっはっは、お疲れ様だよゴロ」
アークが近づいて声をかける。
足取りが覚束なく、笑顔だがボロボロだ。が、五体満足そうでよかった。所々に傷があるが、致命的なものではなさそうで、たぶん俺と同じく疲れに疲れているだけだろう。
「もうこれ以上は動けないよ。あとは誰かに回収してもらおう。エルリィだといいなー」
「ん、お疲れ様。しかしまぁ、俺の魔力測定のために来た筈なのに、こんなことに巻き込まれるなんて思わなかったなぁ」
「そだね。ところで、もう意識保つのも大変なくらい疲れちゃったから、バタンするね」
「俺もだ」
まったく。
大規模な戦闘をすることなんて全く想定していなかった。
まぁある意味では自分の器を体感する良い機会にはなったかな。
とにもかくにも、俺も疲れに疲れたので意識を手放すとしよう。
うん、何度も言う。疲れた。
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・・
・・・
目が覚めた時、俺はベッドに寝かせられていた。
どこなのかと確認しようとして横を見ていると、アークが椅子に座って本を読んでいた。
「おはよう」
「うん、おはよう」
簡素な挨拶を交わす。
どうやらそれなりに長く寝ていたようだ。アークも相当疲弊していたが2日で起きたそうで、一方俺は4日寝ていたとのことだった。それなりどころじゃなかった。
スタンピードを乗り越え、倒れた後に運ばれたのは聖王国王都にある、とある貴族の別宅だった。郊外にあるので都心の喧騒から離れていて、かつスタンピード対応の拠点から比較的近めにあるというのが理由だった。できるだけ安静にでき、セキュリティのしっかりしている場所をとの配慮だった。
聖王国はスタンピード終局の翌日に勝利のセレモニーを開いた。そこでは魔王が防衛・殲滅の要になった立役者だと賞賛されたそうだ。
スタンピードに対応していた俺たちは認識していなかったが、市井は大変だったらしい。民衆の聖王騎士団への信頼は篤いものの、スタンピードへの恐怖は凄まじく、脅威を阻止した報に文字通り聖都は震え、安堵の歓声が沸いたそうだ。
為政者でもあり英雄でもある魔王は、後日聖王国主催のパレードに参加するという。その参加者の中に俺たちの名前は無い。
「冒険者とはいえお前たちは一般人の立場だからな。このパレードは政治的な意味合いが強いから巻き込むのは悪手と判断した」
正直嬉しい判断だ。
魔王は俺が目覚めた報を聞いて公務の全てを投げ出して見舞いに来てくれた。
考えてみれば彼も尋常でなく疲弊している筈なのに、公務に忙殺されているそのタフさは凄い。
「いや、本来は俺も倒れている筈だったかもな。お前がいて負担が減った上に、それだけではなくアーク嬢の参戦、アインスの補佐という嬉しい誤算もあった。俺一人で対応しなければならなかったかと思うとぞっとする」
世界の危機には先陣を切って剣となり盾となる。
それが魔王の役割だそうだ。
「有村先輩」の時にも責任感が強かったが、ここでは拍車をかけている。ある意味で有村先輩と魔王という役職の親和性の高さなのだろうが、やはり彼は俺の先輩である以上に魔王ということだろう。
「あの3人の中で疲弊の度合いが一番高かったのがお前で、一番低かったのが俺だ。であれば、元々そのつもりだったがお前らに降りかかる政治的な厄介ごとは魔王として引き受けるくらいはするさ。アーク嬢は回復して、リハビリがてらここの貴族の子達の剣を見てやっているらしい」
窓の外を見ていると、確かにアークは2人の貴族の子達に剣を指南している。兄よりも妹のほうが威勢が良さそうに見えるが。
「これから俺たちはどうしたらいい?」
と魔王に聞いてみる。
「しばらくは静養して、落ち着いたら中央ギルドに顔を出してから辺境国へと帰るといい。ギルドマスターは既知だが、お前たちの活躍を見ている冒険者も一部いる。ここには長居しても構わないが、ギルドには長居しないほうが懸命かもな」
「わかった」
「それと、いつか気が向いたら魔王領にも遊びに来るといい。俺は多忙だが、親交を温めるくらいの時間は捻出できる。有り体に言うと、古き友人に俺自ら魔王領の文化を紹介したい」
「そうか、ありがとう」
魔王は笑いながらそう言って去っていった。
俺はまだ倦怠感があるのでベッドに座る。窓の外から剣戟の音が聞こえるので見てみたら帰り際の魔王がアークと模擬戦・・・というよりは演舞をやっていた。
2人を見る貴族の子供たちは圧倒されながらもよく見ている。つまり見取り稽古をしているのだろう。少しの間、剣を撃ち合ったら魔王は風魔法を使って猛スピードで領地から離脱していった。
魔王領には冒険者でない立場でいずれ行くことになる。目的はあれど物見遊山のようなものだと思っていたが、そこで大きなトラブルに巻き込まれてしまうのはまた別の話。
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・・・
俺の体力が完全に回復した後、召喚を受け俺とアークは聖王城に赴いた。聖王に謁見することとなったからだ。とはいえ、魔王の意図を汲んであくまで非公式という形だが。
非公式の場なので、聖王はあくまで個人の立場で俺たちに礼を言った。側に控えている聖王騎士団長は、目を爛々と輝かせて俺のほうを見ているが、そこは見ないフリをした。どうせ後で絡まれるので気休めでしかないが。
聖王だけでなく、たまたま別件で聖王と会談のために来ていた皇帝にも礼を言われた。まだ俺とあまり年齢が変わらなさそうな年若い女性だったが、かつての後輩の面影があって一瞬焦った。それを見惚れたと思ったアークに脇を抓られたが、後で誤解を解くのに苦労した。
「ギルドには詳細の情報は降りていませんが、私や聖王や魔王といった主要国サミットに参加した首脳は貴方がたの功績を認知しております。それを表に出すことはないものの、皆が深く感謝していることを是非覚えておいてくださいね」
皇帝という身分に萎縮せず、むしろ「よく出来た子だなぁ」という感想を抱いたのは、やはり彼女がかつての後輩に似ているからだろう。と言ったら不敬になるので口には出さないが。
ともあれ、聖王との謁見を終えたら中央ギルドに顔を出し、ベテラン冒険者と合流する。VIP待遇だったが何もしないでいることには耐えられなかったようで、職員の仕事の手伝いをしていたと後で聞いた。
またこれは俺も知ったのは後のことだが、対スタンピードでギルド勢力を率いていたのは実質彼だったそうだ。「実力の劣っている俺がそんなことをしていたなんて言うの恥ずかしいだろ」とのことだったが、指揮系統に強さなど関係ないと思っているので、謙遜も過ぎると美徳ではないと言いそうになって口を噤んだ。
帰国のための手配をなるべく早めに済ませ、行きと同じように高級馬車に乗って出国する。アンドリューやエルリィも頃合い辺境国へ向かうそうなので、合流したらささやかな打ち上げでもしようかと思う。
こうして、俺の魔力測定から始まった聖王国のスタンピードを巡る話は一段落となった。
辺境国に戻って4人集まった後、パーティ解散の話になるのだが、別の機会にその事について触れたいと思う。
世界の頂点の見取り稽古は、貴族の子らに多大な影響を与えました。あくまで見せるためのものなので相応に手加減していましたが、それを加味した上で頂点がどういうものか理解し、それを超えるためにどういうイメージをもって訓練すべきかの指標が定まりました。
次回、9/1 0時更新です。




