スタンピード 4 〜魔王と対等たる者たち〜
俺は聖王国の冒険者ギルドに所属するパーティ「荒野の葉」のリーダーだ。
冒険者としての職業は剣士。冒険者ランクはBで、聖王国ギルドの中でも指折りの実力者であることを自負している。
だが、
「増長し慢心している」
とはギルドマスターの言。
辺境国で名を上げたという絶滅危惧種のリーダーに敵愾心を抱き、因縁をつけるも一蹴されたことで、それは痛感した。聞けば彼は魔法使いであり、測定器における白兵戦に関する値も高くなく、本来剣士と殴り合いで勝てる筈がない。
にもかかわらず、単純な殴り合いで俺は敗北した。
俺から殴りに行ったにもかかわらず。
むしろ殴り合っていないのだ。俺から仕掛けて、瞬時に制圧されたのだから。
上には上がいるということか。不思議と恨む気は全く起こらず、素直に反省できた。
早くも挽回の機会が巡ってきた。
聖王国を対象としたスタンピードが発生した。冒険者ギルドは主に対応する聖王騎士団の後方を補佐する人材をかき集めていた。
俺はそれに志願し、参加した。
他のパーティメンバーは拒否したが。
基本的には聖王騎士団の魔術師団が取り逃した魔獣を白兵戦で倒すというもの。
高ランクの魔獣と当たることもありえ、単独では当たらずチームを組んで挑むことを義務付けられたので、旧知の仲である「乱気流」と即席チームを組んだ。
ギルドが集めたチームの中では中々の戦績を残せているんじゃないか。乱気流はDランクだが、決して弱いわけではなく、実績も上げていないわけではない。ランクに差があっても連携に違和感がない。
そう思案しつつ、撤退および休憩指示が入ったので休憩拠点に入る。
女神教の僧侶が回復を担当してくれているので、傷を癒して簡素な椅子に座り、ポーションを飲む。
と、同じく休憩している乱気流のリーダーが俺に話しかけてきた。
「中々良い連携が取れていると思うぜ俺たち。何ならウチに来るか?無理なノルマはなくてのんびりと冒険者稼業に取り組めるパーティだぜ?」
端的に言うとスカウトだった。
俺以外のメンバーは増長したままだ。ギルドマスターの言葉を、自分たちを正当に評価していない言いがかりのように受け取っている。
乱気流へのスカウトは嬉しいが、まずは今まで一緒に戦ってきたメンバーとのコミュニケーションを取ることを優先したい。それでも、もしダメだったら頭を下げるかもしれない、とは伝えた。
「そうだな、それがいい。ところで、今回のスタンピードに当たっている勢力についてだが」
?
今は俺たちが下がって、回復の終わった聖王騎士団の魔術師団が広範囲魔法で殲滅しているフェーズじゃないのか?
スタンピードに対応するメインの戦力は聖王騎士団の魔術師団で、白兵戦専門の聖王騎士団は撃ち漏らした魔獣の対応。帝国や魔王軍をはじめとした主要国サミット参加国の戦力が参加している。
それらを遠距離殲滅チーム、近距離処理チームで分けてローテーションで回して、今の俺たちみたいに休憩時の回復を女神教の僧侶たちが行っている、くらいなら認識しているが。
「いや、それらの俺たちの集団と同じことを、魔王をはじめとした3人だけで行っているとのことだ。だから、聖王騎士団の魔術師団はまだ回復というか休憩のフェーズなんだよ」
魔王がか!?
さすが世界の切り札とも守神とも言われる存在は違うな。混合軍を加えた聖王騎士団と同等の戦果を出しているとは。
「違う。俺が言いたいのは魔王じゃなくて他の2人だ。斥候役のエルフが話していたのをたまたま聞いたが、その2人はある意味で魔王以上の戦果を上げている」
魔王以上の!?
あの世界の切り札なり守神なりを超えると言わしめるなんて、一体何者だ?
「どうやら、辺境国の冒険者ギルドに所属している絶滅危惧種のリーダーと、剣士らしい」
絶滅危惧種!?のリーダー!?
俺が性根を入れ替える主因となったあの男が、魔王以上の戦果を!?
一体何をどうやって?
彼が俺より上だということは認めつつも、魔王の強さを伝え聞く俺には全く理解が及ばなかった。
「どうやらそのようなんだよね」
俺たちの横には、いつの間にかエルフの女が立っていた。エルフのことは御伽話でしか知らないが、耳長の美形の種族ということで直ぐにわかった。
「ちょっと聖王騎士団の指揮系統に報告があって来たら面白い話をしてたから聞いていたけど、確かにゴローとアークは魔王以上の戦果を上げているよ。同じパーティメンバーとして正直ドン引きしている」
聞けば、彼女も絶滅危惧種のメンバーであり、かつ
エルフ族主導で今回のスタンピードの斥候役として飛び回っているうちの1人だそうだ。
「長筒を持ってるから、休憩がてら見てみるといい。恐らく君たちの出番はあと2時間後あたりになるかな。アイツら継戦能力も化け物染みてきやがった」
そう言って俺に望遠鏡を渡して、エルフは消えたかのようにその場を去った。
渡してもらった望遠鏡を覗き込んで、スタンピードの上空に頻繁に現れる四角い絨毯にまず向ける。
拡大して見えたそれの正体は、石や土の集まり。そして、その絨毯を作り出しているのが、空に浮いている絶滅危惧種のリーダーだった。
空を飛ぶ魔法も、あんな規模の石や土の集合体を作り出す魔法も、聞いたことがない。
彼はそれを地上に向けて落としている。ちょっとした高台に登って落下点を見てみると、落下の勢いで石に貫通され、土に押し潰されて絶命していく魔獣たちの姿があった。
魔獣たちにとって、それは悪夢であり阿鼻叫喚の図だ。スタンピードには低ランクや高ランクの魔獣が混在しているが、分け隔てなく「災害」の餌食になっている。
まさに戦慄する光景だった。そう、本当にこれは戦いではなく「災害」という表現が正しいだろう。
下手をしなくても、聖王騎士団の魔術師団の攻撃よりも遥かに上回っている。
あんな損害を、たった一人で巻き起こすなんて、規格外にも程がある。
ほぼ全ての魔獣が土石の絨毯の餌食になるが、やはりどうしても掻い潜る魔獣も僅かにいる。それでも規模が大きいので一度に100は超える数にはなっているが。
それを文字通り「処理」しているのが、あのとき絶滅危惧種のリーダーの横にいたゴブリン族の女剣士。
同じ剣士なのでわかる。あの無駄のない動き、一太刀で何体もの魔獣を切り捨てる技能は、もはや神業と言わざるを得ない。
少し離れたところから魔王が上位魔法や剣術で殲滅の仕上げをしている。魔法の凄まじい威力のみならず、剣術もとんでもない技量だが、ゴブリン族の女剣士はその更に上を行っている。
まさしく、3人で聖王騎士団をメインとした混合軍と同等、いや殲滅力を見れば上回る働きをしている。
あぁ、あの時に絡んで胃の中をすべて吐き出すだけで済んだ俺は幸運だった。
その気になれば絶滅危惧種のリーダーは俺を何の抵抗もさせず痛ぶることができたし、何なら殺すことだって容易だった。
上には上がいるという次元ではない。
何故俺は思い上がっていたのだろうか。
もはや笑うしかなかった。
「どうだった?」
乱気流のリーダーが話しかける。
俺は彼に望遠鏡を渡して無言で座る。
筆舌に尽くしがたい。
さっきあのエルフはあと2時間後あたりに俺たちの出番が来ると言っていた。
せめて群体の戦力の一助になるよう、英気を養う。
俺に出来るのはそれだけだ。
あの強烈な「個」たちに渡り合うなど、俺にはどう足掻いても不可能なのだから。
乱気流のリーダーが望遠鏡を覗き込みながら、俺と同じように絶句している姿を見て、そう思った。




