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転生悪役令嬢は、破滅の運命を『物理』で殴り返すようです

3話目です。今回もお付き合いいただけますと幸いです。

前話の前日談と後日談を兼ねております。

私はエリス・ガーランドと申します。

わかりやすく言うと悪役令嬢ですわね。聖王国ガーランド領ガーランド侯爵の令嬢でございます。


前世では限界OLとして激務に激務を重ねた上での30代手前で過労死。

異世界転生して激務から解放されて貴族令嬢生活満喫だぜヒャッホウと思っていたら、どうやらここは前世で賛否両論を巻き起こした伝説の乙女ゲー「聖女の工房〜6人のイケメンとメチャイチャエデン〜」、通称「イケエデ」の世界。

そして、物語のクライマックスで攻略対象のヒーローに断罪され僻地に追放ないしは無惨に処刑されてしまう末路を辿るのがエリス・ガーランド侯爵令嬢。


3歳のときに前世の記憶を思い出し歓喜し、4歳の時に自分が破滅に至る存在だって事実に気付いて失意のどん底に陥った私は、そりゃ当然運命を覆すために奔走しましたよ。

まず家の書籍を読み尽くしてガーランド家の国内での立ち位置や地理関係、経済状況の把握。周辺領地と王都を主軸にした文化・文明レベルの把握。次に破滅を回避するために必要な能力や取得物のリストアップ。いつごろまでにそれを得られたらよいかのプランニング。


そして、人事を尽くしてなお破滅を回避できない場合の最終手段をどうするか。


最終手段は早急に考える必要がありました。

崖っぷちの崖っぷちで、誰にも頼ることができず、身ひとつでどうにかできる手段。

エリスにとってのバッドエンドを迎えたらタイムリープ、もしくは別世界への転生が可能性として考えられますが、その確証がない。確証があるなら話は別ですが、それが無いケースを考えなければなりません。


考えに考え抜いた結果、


「いやお嬢様、これガーランド家の嫡子は通常8歳から始めるものですよ?貴族学校に入学して1年経ったお兄さんが、ようやく始めたばかりで、かなり筋が良くて期待していますが」

「お父様には追って許可を頂きます。まずは、お父様から許可を得られる前提で、先生から教えを乞うことができるかどうか、そこをお伺いしたいのです」

「そりゃ旦那様が許可するのであれば私も従うまでですがね・・・」


私が選んだ最終手段は「物理で解決する」でした。解決というよりは、ちゃぶ台返しですね。何にせよ力で解決。

進退窮まれば全てを投げ出して逃げるしかない。逃げるには逃げるだけの力が必要。

であれば、エリス・ガーランドのポテンシャルすべてを引き出して逃げるための体づくりをすべき、という結論に至った次第です。

無事逃げ仰せた後は腕っぷしで生きていけば良いですしね。出自を隠して冒険者となる手も使える。極めて合理的です。


ガーランド領自警団の武術指南の先生は、聖王国トップの武術集団である王立騎士団で副団長を務めていた実績があります。

幸い、エリスは闇魔法の使い手という設定があり、実際に使えることを既に確認済みです。魔法に関しては機が来るまで独学で練度を高めつつ、しかし魔法が何らかの要因で使えなくなる可能性を鑑みる必要があります。つまり、魔力による身体強化に頼りすぎるのは危険。

ということで、まずは身体能力を高めるために先生に鍛えていただくという方針で進めることにしました。

当然、あくまで最終手段のための試みですので、己の体を鍛えるのと併行して色々なことを知り、ちゃんと知識としてインプットしていく日々を過ごしていきました。


「前世があるってのを鑑みても、エリスは神童だよ。兄である僕はもとより、今じゃ先生やお父様でさえも剣術で勝てないとか」

「それもそうだが、我が領の伝統的な税収の仕組みに手を入れて合理化したのも驚きだ。あれは優れた為政者の考え方のそれだ。前世の記憶があるにしても、それだけじゃ説明つかないくらいに優秀だよ」

「魔法の才能も秀逸よ。私を遥かに超える魔力量もさることながら、その制御が抜群に上手い。闇属性を秘匿させたいなら、出力を抑えて風魔法に擬態させるのが良いし、エリスなら多分できるわね。魔水晶で闇属性と判定されないための訓練をしていきましょう」


6歳のころ、愛情をもって私に接してくれていた両親と兄には、私が転生者であること、ここがゲームに酷似した世界であること、そして私が破滅の運命を辿るかもしれないことを伝えました。

信じてくれるかどうかは賭けでしたが、彼らは私の言葉を少しずつ咀嚼して、最終的には信じてくれました。信じてくれたことを確信したとき、私は前世で大人だったことを忘れるくらい大泣きしました。


彼らは私の家族でありながら、私の信頼できる協力者となってくれました。賭けに勝ったことを喜ぶとともに、突拍子もないことを言っても信じてくれた彼らに深く感謝をいたしました。彼らに悲しい思いをさせないためにも、意地でも破滅を回避しなければなりません。


「さて、君はとっくに私より強くなったが、集団生活の中では出る杭は打たれる。あと、大変申し訳ないが王太子殿下との婚約はガーランド家の立ち位置的に不可避だ。恐らく破滅のシナリオには要所で一定の強制力があると見るのが妥当だろう。であれば、君にとってはすこぶる不本意であろうが、課せられたシナリオには一応沿ったほうがいいだろう」


「そうですわね。シナリオに沿わないことが問題の先送りと見做される恐れもあります。前世の記憶にある物語の流れと実際の流れの差分を把握しつつ、あなたは裏では自分を更に高めるプランニングに注力したほうが良いと思います」


「という考え方も意図せぬうちにシナリオの強制力に誘導されたものという可能性もあるが・・・どうする?」


王侯貴族学校初等部の入学前には、両親から今後の方針についての提案を受け、私もそれを了承しました。親の視点以上に、世界を俯瞰する神の視点であるかのような内容の提案だったので非常に驚きましたが、故に私も反論の余地がなかったと申しましょうか・・・


ともあれ、シナリオに逆らうためシナリオに沿うという方針に決めたのでした。



・・

・・・



私が13歳の頃、事件が起きました。

ガーランド領で反乱が起こったのです。

とはいえ、領地運営は好調だったので領民によるものではなく、王政そのものを転覆させようとする過激派集団によるものだったので、厳密にはテロに該当するものです。


そして、タイミングが最悪でした。

護衛を連れていたにせよ父と兄と私が東方に視察に出ていた時を狙われて、護衛10人のうち5人が負傷してしまいました。領内を治める頭脳を葬るには格好のシチュエーションです。

身勝手な口上を上げたテロリストは全部で23人。全員が帯刀していました。


父は、


「あれは貴族の私兵以上の訓練を経た手練だ。かつ、あの連携を前提とした立ち位置・・・まず間違いなく集団戦に長けているな・・・そこらの野盗の集団を相手にするのとは訳が違う」


と見立てていました。

これは切り抜けられないかもしれない・・・と。

その時、思い出しました。


設定上、ガーランド領主はここで凶刃に倒れる。

次期領主となったお兄様は、失意とキャパシティオーバーな領主経営に精神を病み、ガタガタになったガーランド家は没落の一途を辿る、というものでした。

・・・そっか、だから悪役令嬢が生まれたのか。


ここが悪役令嬢のターニングポイント。

戦力上、圧倒的不利。

ですが、見ようによっては好機と思えました。シナリオではないですが、まずは"設定"に逆らう絶好のチャンスだと。


ボフッ


ガッ、ドゴっ、ズボッ、ガスンっ


テロリスト達が今にも襲いかかってきそうな中、私は意を決して縮地で飛び出して、まず前方の敵5人にそれぞれボディーブローを叩き込んでみました。


「は?」

「えっ?」


何もできず倒れる5人。

呆気にとられる皆を他所に、続けざまに構えたままの近くの敵3人を同じくボディーブローで悶絶させました。

反撃しなければならないと、ようやく我が返った残りのテロリスト達が、ターゲットの中で最大戦力と見做したのか躊躇なく私を狙って連携で攻撃を仕掛けてきます。その悉くをいなし、1分かからず全てのテロリストを徒手空拳で鎮圧しました。


「」

「・・・はっ、とりあえず今のうちに奴らを縛り上げろ!併せて怪我人の手当てと、念のため他に襲撃者が潜んでいないか警戒しろ!」


落ち着いたあとに当然、父と兄に大説教を受けましたが、とはいえこれで私の鍛錬の成果が出ていること、また有事の集団戦でも単独で力を発揮できることが私の中で実証されました。

この感覚を忘れずに鍛錬を続けていけば、最終的に破滅となるシナリオになるにしても、家の力を借りず、何も持たず、私一人で逃げ切ることができるかもしれない、と。


そしてこの出来事で、いざという時に必要なのはやはり「純然たる力」、つまり「物理」であると、その認識を盤石なものとしたのです。物理で設定に逆らえたのであれば、そしかしてシナリオも。


そして、私は家族にある提案をしました。

それからはガーランド領の内政に携わりつつ、学生の本分を全うし、シナリオから逃れるために周辺貴族への根回しをして繋がりを作り、それと併行して・・・



・・

・・・



「危険度B+のブラッディウルフの群れが観測されたとの報告が入った。自警団では荷が重い。私とエリスとで討伐に向かう。援護は任せろ」

「承知しましたわ」


「エリス。東の村にアースバイパーが出現したそうだ。あれだ、熊をも食べる巨大で凶悪な上位の魔蛇だ。村民の退避は完了しているが、聖王騎士団に救援を依頼しても到着まで時間を要する。父上も母上も不在なので、戦力的には僕とエリスで向かうしかない」

「承知しましたけど、お兄様は大丈夫なんですの?」

「こっ、怖いけどやるしかないだろ!これでも僕はBランク相当には強くなってるんだぞ・・・!」

「無理はしないでくださいね・・・」


「来週、聖王騎士団長が我が領へ視察にいらっしゃるようだ。エリス、君も同席するか?」

「好機ですので訓練場を開けてください。騎士団長はS級に限りなく近いA級と称される聖王国最強の騎士。胸をお借りして、今の私の強さがどの位置にいるのか、確かめておきたいですわ」

「(たぶん騎士団長よりエリスのほうが強くなってるんだよな・・・すまん騎士団長!エリスの試金石になってやってくれ・・・)」


『我が眠りを妨げるものは誰ぞ・・・ん?人間種の女?』

「ガーランド領に封印されたというイケエデの裏ボスである伝説のインフィニティカイザードラゴン・・・魔力強化なしでのあなたの単独撃破をもって、私の鍛錬の総仕上げとさせていただきます!」

『えっ、魔王と死闘を繰り広げた我を人間種風情が単独撃破を宣言って、何それこわい。ぐおおおお!!』




・・

・・・





「なるほど、基本的にはシナリオに沿っていたけど、シナリオに逆らう一環として裏で魔獣や達人や竜種と戦って腕を磨いてたってことかぁ」


「そうですわね。ヒロインである聖女さんに起こった数々の被害は、今の私こそ関知していませんが、本来であればエリス・ガーランドが確かに聖女さんへの嫌がらせで行うはずだったことなんです。シナリオの呪縛、強制、それに伴う修正力のようなものは確かにあったんだなと実感しました」


ガーランド邸客室にて、商談に訪れていたアーク社長をお招きして、私の出自と経緯、顛末をお話ししました。

お話ししようとしたきっかけは、彼女がお土産にとお待ちになった新作のスイーツ、プリン・ア・ラ・モード。

甘味大好きな私が前世の懐かしさに思わずその名前を言い当てたら「もしかして、エリス様って転生者か転移者?」とアーク社長が仰ったからです。


私が転生者というのは家族だけの秘密だったので、一緒に居合わせた父、母、兄は揃って驚き、アーク社長への警戒感を露わにしました。この期に及んでなお越えなければならない障害があるのか、といった絶望に近い様相でした。

私もアーク社長にどうしてそう思ったか聞くと、どうやら彼女のパートナーが転移者とのことで、プリン・ア・ラ・モードも元の世界での名称をそのまま流用したそうです。

障害にはならないようで安心しました。家族の皆もほっとして警戒を解きました。彼も同じ世界、もしかしたら同じではなくとも近い時代の出身の可能性もありますので、いずれお会いしたいですね。


なお、プリン・ア・ラ・モードは大変美味しくいただきました。プリンは断然、固焼き派ですわ。


「一応、旦那が転移者ってのは秘密にしといてほしいんだけど、じゃあ、あの断罪シーンでエリス様が大暴れして逃げる可能性は確かにあった訳だ」


「ご明察です。父からは『ここまでやってきて進退窮まるのであれば、あとは君の判断で何をやっても構わない。自分たちのことは心配しなくていい』と言われました」


「さっすが惚れ惚れするメンタルイケメンだなぁ。とはいえ王太子のアレ、どう見てもちぐはぐで不自然な主張だったから、いくら何でもあれが通るとは考えられないけどなぁ」


「どう見ても不自然なやりとりでしたが、それでも、シナリオの強制力であのままだと私が断罪されることは不可避だったのかもしれません。そういう意味で、私と聖女さんを戦わせて盤上をご破産にしたアーク社長こそが、真のシナリオブレイカーだったのかもしれませんよ」


「いやぁ、私はきっかけだっただけで、培ってきた努力や他の貴族への根回し、あと模擬戦を経て聖女さんとダチになったのも込みで、結局はエリス様が物理でどうにかしたんだよ。ってことは、シナリオからの呪縛ってのからは逃れられて、今はもう未知の未来にいるってことかな」


「そう思いたいですわね」


私とアーク社長はお互いケラケラ笑う。

実は私の知らないところでイケエデの続編が作られていて、しかもそこにエリスが何らかの形で関わっていて、再度シナリオの呪縛に囚われる。というオチは勘弁してほしいですわね。


「ま、エリス様が運命を回避しようと頑張った結果、領地経営は国内でも有数の安定化。自警団は聖王騎士団級の練度に至る。エリス様には劣っても私や騎士団長と同等の強さを持ったお兄様は、聖王第四王女との降嫁を前提にした婚姻が決まる。現領主もバリバリ現役だし、ガーランド家は安泰ね」


「どんでん返しが怖いので警戒しないといけないですけど、当面はそうですわね。なので、学校を卒業したらしばらくは私のやりたいことをやってみたいと思いますの」


「へぇ、何だろ?」


そう。

シナリオの呪縛から解き放たれたであろう私にはやりたいことがあります。


私がやりたいことを取りまとめた資料を嬉々としてお見せすると、アーク社長はどうみてもドン引きした表情をして「い、いいんじゃね?」と苦笑いしつつ、一応は同意してくれました。

まぁ冷静に考えなくともドン引きするだろうなとは思っていましたが、同意してくれたのは優しさですね・・・


「さて、後処理も一段落したし、聖王様から貰うもの貰ったし、今回の出張はこれで終わりということで明日帰るよ。成果物で新しいスイーツ開発したらまた遊びに来るから」


「まぁ!とっても嬉しいですわ。楽しみにしていますね。旦那さんにもよろしくお伝えくださいまし」


・・・破滅の運命を回避するために奔走していましたが、それから解放されたとなると、色々やりたいことが出てきました。


アーク社長にお見せしたのはあくまで「いちばんやりたいこと」。前世ではどんなに激務をこなしても報われず終わりましたが、今世でやってきたことはちゃんと報われました。

だから、やりたいことは人様に迷惑をかけない範囲でやりたい。その上で、破滅の運命を回避する手助けをしてくれた人たちに恩返しをしたい、と思うようになりました。


そのためには、まず王侯貴族学校を無事卒業することからですね。明日、聖女さんとお会いするのが楽しみで仕方ありません。あの夜会の感想戦をする予定なんです。

これからも良き人生を送れるよう、頑張らないといけませんね!


楽しみますわよ!ヒャッホウ!!




・・

・・・




「・・・ってことなんだけど、どう思う?」


「この世界がイケエデと酷似している、かぁ・・・俺はプレイしていないから細かくは知らないけど、言われてみれば確かにって思うことはあるなぁ。それよりエリス嬢がやりたいことってのは何だったの?」


「ゴロには『俺より強い奴に会いに行く』で伝わるかもって言ってたけど・・・これで伝わる?」


「あ、めっちゃ伝わった。何だよその求道者の考え方。怖いなぁ」


「・・・他人事のように言ってるけど、たぶん達成する途中・・・見た限りペースを考えると数年後かな?リストにはなかったけど、多分ゴロのところにも来ちゃうよ?」


「えっ?俺?なんで?ハハハ無い無い」


「・・・うーん?こういうのをフラグって言うのかな?」


予感が当たるまで、数年後といわず、あと100日・・・

お読みいただきありがとうございました。


「シナリオからの呪縛」を掘り下げていますが、すべての元凶級にとんでもない現象になっていて、どうしたものかと悩んでいます。


6/11 0時に次話を投稿いたします。

引き続きよろしくお願いいたします。

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