スタンピード 1 〜皇帝、皆の無事を祈る〜
巨大な円卓。
隔年単位で計12の主要国の各首脳が集まり、その巨大な円卓を取り囲み、世界の行く末について協議するのが主要国サミットです。
厳密には魔王国は存在しないのですが、実質的に国として扱われている魔王領も主要国と見做されて、円卓を囲む1席を拝しています。
つまり、正確には11の主要国首脳と魔王領の領主によるサミット言ったほうが正しいのです。
自己紹介が遅れました。
私は世間的には皇帝と呼ばれています。
聖王国に匹敵する大国である「帝国」の最高権力者です。まだ四捨五入して20歳なので若いと思われるかもしれませんが、即位したのが14歳でしたので、それなりには長く務めていることになりますね。
サミットの12という席の数が無闇矢鱈に増えることはないのですが、次回からは新興国であるエルフ国も円卓に加わり13席ということになります。
これはサミット初日に全出席者が建国承認をしたことによる確定事項です。
今までほとんど書物や伝聞でしか語られなかったエルフという種族が自分達の存在を世界に明らかにしようという中で、サミットに参加してもらうことでその動きを加速させ、国際社会での地位確立を早期にしてもらおうという意図があります。
サミット初日はそのエルフ国の建国の承認と、黄金郷消失および消失に携わった絶滅危惧種というパーティについてが議題でした。
エルフ国の承認は前述のとおりでしたが、黄金郷に関しては多少揉めました。
黄金郷の呪いを解き放つことは全種族の悲願でした。
その偉業を達成した優秀な人材を遊ばせておくわけにはいかず管理すべきという見方と、名誉や役職で縛って無理矢理仕事をさせるのではなく今までどおり冒険者としての活動を許容すべきという見方がありました。
結果、後者寄りで済んだのはよかったです。
私も後者を勧めていました。ご意見板として急遽初日のみ参加となった辺境国国王もそうさせたい意向でしたし、彼の言葉に信じるに足る説得力がありました。辺境国王の言葉が後押しとなったと見て良いでしょう。
サミットは初日が世界にとっての最重要事項に関して。2日目が最重要ではないものの大きな事件や事項についてが議題となります。3日目は特に固定されていませんが、議題が少なく2日で終わることはまずありません。世界には色々なことが起こります。
今日はサミットの2日目です。
竜人国で行われる武道大会で談合があり一部組織に多大かつ不当な金銭受授があった件。
南の緑宝海で竜種に匹敵するという魔獣、というか魔烏賊?のクラーケンが出現した件。これは何とか討伐されるも多数の死者が出たため、遺族への賠償をどうするか意見が割れました。
3つ目の議題が開始されようとする中、円卓の1席に悠然と座っていた魔王は、議題進行の途中にもかかわらずふと立ち上がりました。
「魔王?」
私は魔王を見ました。
今までの議題の内容は魔王が憤慨する要素など何もありません。私にしてみれば本当に突然のことでした。
魔王は無言、無表情。いえ、僅かに焦っている、怒っているかのように感じました。
議会の席を、何の許可も取らず立ち上がることは禁じられています。少なくとも、私はそのケースが過去にあったことを知りませんでしたし、禁じられているということを教えてくれたのは当の魔王です。
「この感覚は・・・魔王よ、始まってしまったのか」
当代聖王が魔王に問いかけました。
聖王は聖王で、魔王が立ち上がる前に言葉のとおり何かの違和感を抱いたようです。後で聞くと、言語化できないがまず間違いなく何かがおかしい、そういう理由のない、無根拠な直感に近いものだったそうです。聖王の血がそう感じさせたのでしょうか。
「ええ。聖王には事前に可能性を伝えましたが、今し方スタンピードが発生しました。私の事前の見立てでは規模は過去最大級。会議をいったん中止し、聖王国は状況を確認のうえ対応を協議されたい。私は昨日議題に出た絶滅危惧種のリーダーとともに第一波を食い止めます」
スタンピード。
その言葉に議会は騒然としました。国の首脳であれば誰もが警戒し、誰もが避けたいと思っている魔獣による厄災。首脳として未熟な私でもそういう認識です。
予兆はあったものの確定ではなかったため、魔王は聖王にしか共有していなかったようです。
聖王と魔王はその在り方から超越者ではありますが、私を含めた各国首脳は種族差こそあれ普通の人なのです。まずは超越者同士で状況を共有する必要があったのでしょう。
そこに異論はありません。
が、
「いくら魔王でも無茶だ!アレは黄金郷とは別ベクトルの厄災、単騎で立ち向かって無事で済むとは思えない!!」
共和国首脳が声を荒らげます。
同感です。
彼も席から立ち上がりましたが、それを咎める人は誰もいません。魔王の言っていることが無茶だと、共和国首脳の言葉が至極最もだと、私を含めた誰しもが思っているからです。
「故にまず第一波のみを対応すると申し上げました。かつ私単騎ではなく、絶滅危惧種のリーダーも随伴すると申し上げています。昨日の議題で私は敢えて彼について言及しませんでしたが、彼は私が同格と認める傑物。私の背中を任せるのにこれ以上の人選は魔王領にもおりません」
「魔王・・・」
その言葉に共和国首脳は何も言えなくなりました。
有り体に言うと、魔王は防衛および殲滅の準備が整うまでの間の面倒ごとを一手に引き受けると言っています。
その高潔な覚悟を、誰がこれ以上止めることができるでしょうか。
「失礼」
共和国首脳の懸念を一蹴した魔王は、話は終わりだと扉の前に向かいます。これ以上の問答は時間が惜しいと言わんばかりに。
聖王の指示で魔王の退室が認められました。
扉が開くまでの少しの間、私のほうに目をやって、それまでの険しい表情とは一転して微笑みました。それは、私に心配しないでいいと伝えようとした、そう思えました。
開いた扉に魔王が無言で消えたと同時に、聖王は高らかに宣言します。
「諸君!魔王の言を信じ議会はいったん中断とし聖王国はスタンピードの対応に入る!諸君は即座に避難されたいが、随伴者に戦力たりうる者があれば弊軍に派遣されたし!」
議会は騒然としますが、もはや戸惑っている人は誰もいません。聖王だけでなく、それぞれが、それぞれの立場で、緊急事態に対応しようと離席します。
私も速やかに離席して控え室に向かいます。今回のサミットにあたる聖王国への私の随伴は約100名。うち戦闘能力のある8割を急遽選出して対スタンピード軍を結成。対集団戦に有利な魔法使いを中心に随伴させておいてよかったと思います。
側近と、今回の随伴で指名した帝国軍の第二師団長を呼びます。二人とも概要は既に理解してくれているようです。
「帝国側の対スタンピード軍は対応の当事者である聖王国聖王騎士団を主軸とし後方支援の形で合同にてこれに対応する。帝国軍第二師団長を本軍の司令官に任命する。総員の奮起を期待することを、皇帝の言として皆に伝えよ」
「はっ」
「皇帝としては以上ですが、私としては人的被害がないよう願っています。皆さん、どうかご無事で・・・」
「御意」
「御意」
短い返事ですが、二人とも即位する前から私のことを慕ってくれている臣下です。国内の政治争いはともかく、戦争経験のない私の思いなど容易に汲み取ってくださっているでしょう。
聖王の叔父様。
我が帝国の大切な国民たち。
各主要国がサミットに際し随伴した方々。
いずれも重要な戦力ですが、やはり肝となるのは魔王のお兄様のような気がします。
とりあえず、私としてはやれることはやりましたので、後はもはや成り行きを見守るのみです。
戦いに関しては門外漢の身、せめて後に未曾有とも言われる困難を皆様の手で乗り越えられるよう、女神様にお祈りしようと思います。
皇帝は、公的なでは場はともかく、オフレコでは聖王を父、魔王を兄のような存在と慕っています。ここは追って。




