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Preparation

 私は聖王国でとある甘味店を営んでいます。


 いわゆる個人経営ですね。夫が甘味を作って、私が販売。

 行列ができるほどの繁盛をしている訳ではありませんが、地域の方々に根強く支持いただいておりまして、堅実な経営でお陰様で今年で開店3周年となります。


 主に店頭販売とイートインスペースを設けて経営しています。店頭販売のほうが売上は上ですが、私としてはイートインスペースのほうに力を入れたいところです。

 3卓6脚用意していますが、どこかのタイミングで拡張したいですね。何なら独立したカフェを新しく作りたいところです。


 お店の目玉はクリームチーズケーキとプリンです。紅茶の淹れ方にも拘っていて、イートインスペースではこの二つの紅茶セットが売れ筋です。


 いまイートインスペースには女性客お二人が1卓を、若いカップルが1卓をお使いになっています。


「うっわ、このケーキ美味しいよゴロ」


「プリンもヤバい。というか、語彙が見当たらない。ヤバいとしか言えない。俺は堅焼きが好きだけど、滑らかなのも良い。前のとこでも辺境国でもここまで美味しいのは無かったよ」


「オススメリストの筆頭だけあるね。これはお礼言わないと」


 人間族とゴブリン族のカップルさんでしょうか。美味しく食べてくださってありがとうございます。こうした微笑ましい光景は眼福ですね。

 ケーキとプリンをお互い食べさせあって、とても有難いシーンを見させていただきました。いいぞもっとやれ。


「これなら他のものも絶対美味しいよ。今日はお祝いに他のも頼んでいいかな?」


「1種類につき1個ならいいよ。それ以上はお店に迷惑になっちゃうからね。あと、それぞれ1口分けてください」


「あ、それは当然だよ。さすがに独り占めはしないって。店員さーん!」


 なんと、ゴブリン族の女性はケースに用意してある甘味を全種類1つずつ追加注文しました。今日置いているのはケーキ7種にタルト2種にプリンの計10種。先ほど食べていらした2つを除いた8種をお持ちしたら、ゴブリン族の女性はとても嬉しそうにされていました。


 男性も追加で塩気の効いたハーフパスタとレモンスカッシュを注文されました。甘味を食べると塩気が欲しくなりますしね。実はレモンスカッシュもイートインでの隠れたオススメ商品です。


「あぁ、やっぱりアークは全種類注文やらかしたかぁ」


 イートインスペースに入ってきた、最近よくいらしている大柄で筋肉質のイケメンがお二人に話しかけます。ご友人でしょうか。


「ショーケースを食べ尽くすという選択肢を選んでいないから良しとしてくれ」


「そうそう、さすがに節制するよ」


 全部食べ切れるか心配でしたが、ゴブリン族の女性は美味しそうに平らげていました。胃袋が大丈夫かなと思いますが、ご満足いただけたのなら何よりです。

 ってかすげーな。割と1個を大きめに作ってるんだけどウチのスイーツ。


 大柄のイケメンはお二人の隣の卓に座って、何やら込み入った話をされているようです。お仕事の話のようでしたので、聞き耳を立てるのはやめておきます。

 彼は最近タルトを気に入ってくださっていますね。レモンスカッシュとのセットです。よく年配の女性と若い女性をお連れになっていますが、今日はお一人のようです。お母様と妹さんでしょうか。


「ということで進めようと思うけど、いいかな?」


「承知した」


 カップルの男性が声をかけると、後ろの卓に座っていた女性客の一人が立ち上がりました。ん?よくよく聞くと声質が男性?


「えっ?ちょっと待って、もしかしてこの方って」


「一通り話は聞かせてもらった。故に方針は君たちで決めたとおりで結構。アンドリュー君はそちらの勢力側の調整をよろしく頼むよ」


「あー、やっぱりそうなんですね。わかりました。僕は僕のやるべきことをやりますよ」


 口調や体つきから、女性のように見えたこの方は、なんと男性のようです。どうやら今イートインにいる3組はそれぞれ知己ということになるのでしょうか。


「ところで魔王、一緒にいるこの人は?」


「私の側近だ。幼馴染でもあり、かつてのライバルでもあり、婚約者でもある」


 一緒にいらっしゃる女性を紹介したようですが、とても聞き捨てならないというか、むしろ聞いてはならなかった名前と、お連れの方の関係性を聞いてしまったのですが。魔王様に婚約者がいるって公式で発表されてましたっけ?


「しかし五郎、俺もそのパスタは気になっていたのだが、どうだった?」


「いや、これもヤベーよ。ちょっと濃いめの塩水で茹でた麺にバター絡ませただけなんだろうけど、素材の質が高くてシンプルイズベストな美味しさだよ。これ単品で食べるならスパイス欲しいけど、ケーキの合間に食べるならこれ以上は無いな」


「ふむ、五郎が言うなら信用できるな」


 魔王と自称された方はハーフパスタを追加注文されました。一緒にゴブリン族の女性と側近と呼ばれた女性がレギュラーサイズを。


 側近の方ならともかく、ゴブリン族の女性の方は結構な量を食べたと思うのですが大丈夫かなと思いきや、こちらもペロリと平らげました。


 お話が終わって、お食事も終えられたのか、それぞれお会計に来ました。


「いやぁ美味しかったです。ご馳走様でした」


「ありがとうございます。またいらしてくださいね」


 人間族の男性とゴブリン族の女性は気に入ってくださったのか、とても良い笑顔で会計してくださいました。

 ゴブリン族の女性は甘い物に目が無いんでしょうね。ショートケーキとチーズケーキ以外は日替わりで出していることをお伝えすると「毎日来ます!」と仰りました。


「今日もご馳走様でした。いつも一緒に来る二人は午後に来るかもしれないので、来たらよろしくお願いします」


「お母様と妹さんですかね?承知しました、お待ちしています」


「あはは・・・」


 大柄の男性はちょっと気まずそうに笑っていました。母と妹と思っていましたが、ちょっと事情が違ったのかもしれません。


 そして最後の会計。


「私が魔王と明かしてから少し警戒されていたようですが、どうか気にはされないでください。美味しい甘味をいただき、本当にありがとうございます」


「警戒というか、まさか魔王様がこんな場末の甘味処にいらしたことに驚いてしまいました。気を悪くされたら申し訳ございません」


「部下が聖王国の美味しい食事処をリストアップしてくれていまして、ここを強くオススメされたんですよ。とても美味しかったですし、何ならお世辞抜きに御用達にさせていただきたいくらいです。ご馳走様でした」


 御用達はリップサービスかもしれませんが、女性かと見紛う美貌で微笑みかけられたらノックダウンしてしまいそうになります。既婚者なんですがねぇ私。


 ともあれ3組はそれぞれお帰りになりました。総じて良いお客様でした。


 またいらしてくださると良いですね。

<魔王組>

側近が頻繁にテイクアウトに来る。

さすがに魔王はそうそう自由時間を確保できない模様。


<女神教組>

大体隔日ペースで来訪。

後日、家族だという誤解はちゃんと解けた模様。


<アーク>

聖王国の滞在中にどうしても来れない日を除いてほぼ毎日訪問。ショーケースに入っている甘味を全種類1個ずつ、レギュラーパスタ、ドリンクを頼むという太客。

滞在最終日には泣いて別れを告げるくらい気に入ったようで、起業した数年後にレストラン支店を出店するための資金を提供。

それまでの堅実な経営で地盤がしっかりしていた中にノウハウが入ったことであれよこれよと業績を伸ばし、チェーン店化してやがて聖王国内の全飲食店で屈指の売上を叩き出すようになる。

その後、レストラン事業がメインとなるも本店はそのまま残るが、イートインスペースは閉鎖され、アークが立ち上げたスイーツ研究会的なものの聖王国内での彼女たちの集会場所となる。



アインスがアンドリューに脅威が発生する懸念を伝える

→アンドリューが五郎とアークに共有

→観光を取りやめた五郎が魔王に共有

→既に懸念していた魔王は脅威が近々起こることを確信し、エルフ女王に接触して救援を要請

→魔王は五郎を通じて甘味処でアンドリューと接触し、間接的にアインス≒女神とのパイプを持つ


という流れになっています。

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