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エルフ王、建国に向ける

 私はエルフの王。

 女なので女王という方が適切でしょうか。


 私は以前、黄金郷の呪いに罹りました。

 徐々に衰弱して最終的には死に至るというものでした。黄金郷の呪いは頻繁に起こるものではないらしいですが、1000年以上前から稀に起こる現象として全種族が警戒していました。


 が、警戒しようと対策は無意味で、罹ってしまうときには罹ってしまうものです。黄金郷の呪いは普通の呪いではないのです。


 エルフの里は黄金郷の呪いを極度に忌避し、疑いのある者は放逐されるか隔離されるかしていたようです。私の前に罹ってしまった人は、それが本当に呪いによるものか疑わしい症状だったようです。


 結論を言うと、記録に残っている限りでは私がエルフの里で最初の呪いの罹患者でした。

 罹患した私を見て、感知に長けたエルフの誰もが本能的にそれを「黄金郷の呪い」と直感で理解しました。

 つまり、それまで黄金郷の呪いを受けたと見做される人たちは、他のエルフが「黄金郷の呪い」であると直感しないもので、単なる病気であったという疑いが強くなりました。


 呪いにより衰弱する中で私は思いました。

 この呪いを克服したら、呪いを受けたとレッテルを貼られた人たちの無念を晴らすと。

 疑わしきにこうしたレッテルを貼り迫害し始めたのは今の管理者の老人たちだ。許し難い。

 元々隔離に否定的で、私が呪いに罹患したことで王の地位を返上した父は別ですが。


 私というサンプルを盾に過去の罪を糾弾し、失脚させる。その上で、こうした閉鎖的で偏屈な考えが蔓延するエルフの里を、外の国々との交流で開かせて考え方を刷新させる。それが呪いに耐える原動力になりました。


 ただ、黄金郷の呪いは非常に強く、私では打ち克つことはできませんでした。後で聞いた話だと呪われたが最後、解呪や克服したケースはないとのことでした。


 ある日。

 私は呪いが解けたことを実感しました。

 理由は分かりません。分かりませんが、黄金郷そのものが消失したと直感しました。


 黄金郷が消失した理由も、それを何故直感したかも、私にはどうでもいいことでした。

 重要なのは、私に罹った呪いが解けたことのみ。


 湧き上がる怒りと、力。

 呪いに罹患する前より遥かに上回る力をもって、私はエルフの里に単騎で攻め入り、父の後任である暫定王を締め上げ制圧しました。

 気がつくと私の後ろには同じように現体制に憤りを感じていた複数の若いエルフがいました。


 私たちが起こしたそれは、間違えようのないクーデターそのものでした。

 クーデターは大成功し、かつての権力者であった老人たちは失脚、私は勢いと本来の血統由来で王となり、為政者として外の世界との繋がりをどう作るか模索していました。


「そうして困っている時に私が帰ってきたのか」


「ええ、タイミングが良くて本当に助かりました。あまりにも種族単位での隠遁生活が長かったので、外の世界とのパイプが無いに等しく、とっかかりが欲しかったんです」


 いま私は3人のエルフと外の世界を知るエルフとの計5人で走っています。

 エルフは健脚です。故に素早く体力もそれなりにあり、斥候に適している種族です。

 なので、移動は専ら自分の足です。外の世界を知るエルフのエルリィお姉様が先導し、他の4人が後ろからついていっています。私たちも相応に速いつもりですが、明らかにお姉様は私たちに合わせてスピードを落としています。


 エルリィお姉様は、私の父が王だった頃、エルフの里の管理者のひとりでした。エルフの中では若く、次世代のリーダーと目されていましたが、育ての親が黄金郷の呪いを掛けられた疑いで里から隔離されたとき、その立場を返上し、その育ての親が亡くなってからは外の世界に飛び出したと聞いています。


 里を憎んでいるであろう彼女には無理なお願いをしたと思いましたが、彼女の奔走のお陰で昔からの世界の主要王国である聖王国と話をつけ、エルフの里が国として承認を受けることができるようになりました。

 実際は国際会議とやらに諮った上で認められなければなりませんが、エルフという外の世界にとっては伝説の種族からの歴史的な申し出ということもあり、内諾を受けているというのが状況です。


「エルフの里がある静寂の森は、地図上は聖王国の領土ということになっている。なので、名目としては聖王国領土からの独立ということを前提に今後の話が進んでいく。今まで聖王国の誰が森を管理していたわけではないのに何を今更と思われるかもしれないが、形式的にそこは承知いただきたい」


「わかりました」


「また、事前にサミットに出席する国の首脳には独立のことは通達済みで、現状反対意見はひとつもない。主要国サミットの初日に議題として挙げ、承認という流れになるが、初日のみ貴方もサミットにゲストとして参加いただきたい。手筈はエルリィ殿に伝えておく」


「承知しました」


 聖王との面会はあっさり終わりました。

 要点を絞り簡潔に、かつ私が望んでいたことを100%受け入れる内容です。

 何か駆け引きをしなければならないかもしれないと思っていたので、些か拍子抜けとも思いました。


「普段はともかく、主要国サミットを控えた今は特に多忙なのです。伝説の種族とも言われるエルフ族がその姿を現し、国として本国を含む様々な国との交流を望まれているということは聖王暦において歴史に残る出来事です。王にとって非常に喜ばしくお思いです」


「失礼ながら、そうは見えなかったですが」


「サミットが終わりましたら祭宴が行われます。王の王としての役目からはそこである程度解放されますので、恐らく王から女王に色々話をされると思いますよ。楽しみになさってください」


 聖王の側近は嬉しそうに言いました。

 それが本当かどうかは後日わかるわけですが、とりあえず建国についてはハードルをひとつ乗り越えたというところでしょうか。


 と、聖王城の別室に控えていたエルリィお姉様たちの元に戻ると、お姉さまはとても険しい表情をしていました。


「どうしました?」


「王、あなたに面会のアポが入った」


「どなたからですか?」


「当代の魔王だ」


 魔王!

 あのかつて初代聖王と勇者が激戦を繰り広げてようやく誅伐されたという、悪の権化ですか!?


「私が言えた義理でもないが、いくら世間知らずのエルフでもそれは外で言ってはいけないからね。初代はともかく、二代目以降の魔王は世界のあらゆる困難に先頭になって立ち向かう守護者だよ」


「そ、そうなんですね」


「面会の要件は魔王は本人から概要は聞いたが、一旦持ち帰りということで先に女王に伝えておく。まぁ、話の限りだと我々の意志はどうあろうと断る選択肢は選べない」


「どういうことですか?」


「つまりだな」


 私はエルリィさんから魔王のアポの内容を聞きました。確かにそれは断れないです。

 ですが、我々エルフの能力を誇示する一環にもなるでしょうし、今後あらゆる国と交流をするのであれば是非とも助けになりたいものです。


 私の判断に、お姉様を含む全員が肯定してくれました。

 私たちの力がどこのどういう局面で使われるのか察しはつきます。ので、魔王との面会のアポを快諾しました。

 1日で国のトップに2人も会うという機会に、私は少し緊張していました。


 魔王も聖王城の別室に控えていたらしく、私の少しの休憩ののち貴賓室に移動して会うことになりました。


・・

・・・


「あ、ちょっと面倒臭いんですが、魔王()ではなく魔王()です。初代魔王の戒めから、どんなに規模が大きくなっても我々は国ではなく領土内の人間だという意識を強く持っています。繰り返しますが、ここちょっと面倒臭くて譲れないところなので、ご留意いただけると助かります」


 魔王は華奢で女性と見紛う容姿をした男性でした。こういう人が魔王を名乗っているのか。

 それにしても、敢えて国を名乗らないことを美徳とするとか、エルフとは逆ですね。ただ、経緯を知ると納得です。色々な形があるのだと感心しました。


 そんな感じで釘を刺されましたが、本来知っているべきことを知らないというハンデは大きいです。大きいからこそ、少しずつでも学んで、外の国々との交流の糧にしようと思います。


 では魔王、用件はざっくりお聞きしていますが、改めてその内容をお伺いさせてくださいね。

死の淵から蘇ると戦闘力が上がってしまう例のアレです。

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