ゴブリン族の魔法使い、今代の魔王に謁見す
俺はとあるゴブリン族の魔法使い。
俗に「ゴブリンメイジ」と呼ばれる類いだな。ゴブリン族は魔法が苦手とされているが、たまに産まれる突然変異。とはいえ、そこまで希少なものではなく、1000人に1人くらいの割合。身体能力は低いが魔力は魔人族に匹敵するくらい高い。
得意とする属性は「火」。中級位までなら自在に使え、上級位もそれなりに使えるほどには習熟している。
それがどれくらい評価されるものなのか。魔法使いであればピンとくるかもしれないが、そうでない者にはわかりづらいだろう。
冒険者ランクはB+。来年くらいにはAランクに昇格しているだろうというのが自他共に共通した認識。魔王軍で言えば四天王直下の師団長級だし、聖王国の聖王騎士団でも師団長、いわゆる副団長級の強さを持っている。
持っているのだが。
「ふむ、聞いた通りよく練り上げられている魔力ですね。我が軍に欲しい人材です」
そんな俺が、いま魔王領の最高権力者である魔王と対面している。
俺たちは魔王領の冒険者ギルドを拠点にして冒険者活動をしている。パーティを組んでいる他の2人それぞれの冒険者ランクは俺と同じくB+で、あくまで冒険者という括りでは魔王領の中でもトップクラスの戦力。魔王が俺たちの情報を知っていても不思議ではない。
とある事情で俺だけがピンポイントで魔王に呼び出されることになったのだが、俺にアポを取ろうと拠点に来訪した魔王秘書官である魔人族の女性でさえ今の自分を上回るし、目の前にいるこの魔王ははっきり言って比較にすらならない。
歴代の魔王もそうだが、今代の魔王の領政は特に良く世界でもトップクラスと目される。そうした領政をしているので恐らくはパーソナリティも良いものなのだろう。実際、明君と謳われている。
だが、本来的に魔王という称号が「魔王領で最強であること」を前提としたものであり、いくらそれなりにキャリアを積んできたいう自負があっても、目の前にいる魔王にはまるで敵いはしないと、実物を見て思い知らされる。
見た目は美しい女性と見紛う優男な青年。
だが恐らく、思いつく不意打ちを全力で仕掛けたとしても軽くあしらわれて、一瞬で消炭になってお仕舞い。そんなイメージしか沸かない。
「私としては直接赴いて話を聞くべきだと思ってはいるのですが、今は私が魔王に就任して以来の多忙故、無礼を許されたい」
とは言うが、魔王が直接拠点なりギルドなりに来られても正直困る。気は重いが魔王城に行く方がまだマシだ。
用件は何となく予想がついている。
先般、黄金郷が無くなったという特大級のニュースがあった。
長い間、いや永い間と言っていい。この世界の最大の謎であり最大の禍いだった黄金郷消滅の報は、文字通り世界を揺るがした。
黄金郷由来の呪いで行けなかった場所に行けるようになったり、
呪いで荒れ果てた不毛な地に清浄な魔力が宿るようになったり、
呪われた一族が解放されたり、
世界のあらゆることが刷新されたのだ。
各国の首脳部や、様々なギルドが、状況確認や対応に追われている。
魔王も例外ではないだろう。
「恐らく魔王様と知っていることは大差ないと思います。黄金郷踏破パーティのひとりであるゴブリン族のアークとは同郷ですが、接点はなかったですよ。強いて言えば、ゴブリン族でも類を見ない大食いだってのを人伝に聞いたくらいです」
俺とあのパーティに接点があるとすれば、これくらいだ。そもそも、俺は冒険者歴10年のベテランで、あいつはまだ2年そこらの新人。あいつが里でどういう生活をしていたのかさえ知らないのだ。だから、噂くらいしか知らないのだ。
ということを魔王に説明する。
率直に言って、俺が知っていることは魔王の役にはまるで立たないのだ。
俺の言葉が魔王の望むことの先手を打っていて、かつ適切な回答だったのだろう。
「なるほど、事前に情報をある程度インプットできればと思ったのですが、確かに活動期間的に君が彼女のことを知らないのは当然ですね。足労かけさせました」
魔王という立場であれば、これが最上の謝罪の言葉であろう。それを、いち冒険者にあっさり言ってしまえる度量は流石だと思った。
「ところで、近々聖王国で主要国サミットが開催されます。魔王領も私と四天王持ち回りの一角が毎回参加しているのですが、君たちのパーティに護衛として同行いただきたい」
思わぬパンチが来た。
黄金郷消滅で頭から抜けていたが、確かに主要国サミットも行われる。ほぼ間違いなく黄金郷消滅についても議題に上る。
「当然報酬も十分に出します。これは些事で魔王城に来てもらった謝辞でもあり、実際に君と相対してポテンシャルを評価した上での提案であります。ギルドを介した指名依頼とさせてもらうので、いったん持ち帰って検討してください」
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結論をいうと、俺たちは満場一致で魔王からの指名依頼を受けることとした。
約二ヶ月の拘束にはなるが、通常のクエストに比べて報酬が桁違いということ、また魔王軍の精鋭と行動を共にするので俺たちの今後に役立つ何かが吸収できるかもしれないというのが快諾の理由だった。
実際に目論見は大当たり。
俺はこれが縁で魔王や秘書官、四天王の一角とのコネを持つことができ、更になし崩し的にだが将来的には四天王補佐官に就任することになる。
のだが。
素直に喜べるものではなかった。
何故なら、この指名依頼が人生史上最大の危機に見舞われる事態になるほどのものになるなど、当然のことながら想像してはいかなったからだ。
魔王様、あなたのことは尊敬していますが、想定していなかったとはいえこのことばかりは絶対に忘れないですし、今後も酒宴のネタにさせていただきますからね。
魔王は「まず力を持っていないとお話にならない」ということから、多種族に比べて魔力や身体能力に秀でる魔人族から排出されることが多いですが、世襲制ではないことから稀に他種族が魔王になることもあります。




