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閑話:ちょっと未来の魔王、失踪する

 さて、俺は何代目なんだろうね。


 俺は魔王。魔王領における最大戦力であり、最高責任者であり、稀代のグータラ野郎だ。

 魔王国ではなく魔王領。ここ重要ね。ホラそこ規模は明らかに国だろうとは言わない。大人の事情があるんです。


 あぁ、グータラと言ったけど、だからといって魔王って仕事をというか役職を軽視しているわけじゃない。そもそも、やろうと思って就ける役職じゃないからね魔王って。世襲制じゃないけど、ちょっと特殊なんですよ。

 だから為政はそれなりにやるし、魔王としての力が必要なときにはちゃんと力を発揮させているけど、ただ寝ている時間がとっても好きで、隙あらば居眠りをしてたいってだけです。

 あまりできないけど。だから自称くらいはさせてほしいところ。


 先代魔王は比較的若いうちに退任したんだよな。退任理由は「力を失い魔王としての最低限の資格を失ったから」とのこと。

 かなり仕事をしていたからなぁ。仕事履歴を見て愕然としたよ。実績数も、その質も異常。

 極め付けは超スタンピードを解決した立役者として聖王国では英雄扱いされているしな。考えてみれば初代魔王の討伐をした聖王国が魔王を英雄扱いとか、ちょっと面白いな。


 奴は名君。俺の魔王としての評価は普通、いや、平均以下かな。いいんだよ、ほどほどに仕事して、次の魔王への礎になるなら。


 さて、今回の魔王としてのギルド代理受注は、調査のため北の国の氷山に住むという竜種に会いに行くというもの。そもそもの道のりが困難で、道中の補佐を頼みたいとのことらしい。


 魔王はその能力の高さから冒険者ギルドの手に負えないクエストを冒険者の代理として受注してクリアするというのも業務のひとつとしてある。ちなみに、魔人種や竜人種が跋扈する猛者揃いの魔王領でも最高戦力であることが就任の最低条件だ。うーん力こそ正義。嫌いじゃない。

 そうした魔王への依頼は、超強力な魔獣の討伐や未知のダンジョンの踏破が多く、ただ目的地に行くだけのものは過去に例がない。


 が、実際試しに現地へ行ってみると装備を整えれば何とかなるという次元ではない。

 大量の雪に覆われた大地、台風を想起させる勢いの吹雪、視界が遮られ、移動も困難ときた。これだと竜種の居ると思われる巣に辿り着くのは魔人族や竜人族の精鋭でも無理だ。そりゃ魔王に依頼が来る。納得。


 今回随伴するのは調査員の女性がひとりだけ。若いが研究職にありがちな身なりにあまり気を遣わないタイプっぽく、櫛を入れていないボサボサのロングヘアに白衣といった風体。こういう子ほどちゃんと身綺麗にすれば化けるんだよなぁあるある。クエストが終わったらデートを申し込みたい。


 最初はチームでの移動補佐を依頼されていたが、俺の進言で限定させた。

 今回のような場合、用件がはっきりしているなら人数を絞りに絞って、俺が背中に背負って移動するほうが圧倒的に早い。一応合理的な理由はあるんよ。


 背負子に調査員さんを座らせて、それを背負う。火魔法と風魔法をミックスして酸素を通す保温領域を展開して、更に風魔法で吹雪を避けて視界を作り、雪山を猛スピードで上る。

 標高もさることながらそもそも広大で、また猛吹雪で雪も柔らかく通常の移動が困難なので、風魔法で足場を作って走る。これを複数人にやって時間をかけて上ると思ったら相当な手間なので、人数を絞る提案をして大正解だった。


「アハトさん、どーだい?乗り物酔いとか大丈夫?」


「いえいえ、全然大丈夫です。っていうか、魔王様に背負っていただいて移動とか生きていてまず無理な経験をさせていただいています」


「ハハハ、これだと風の影響もそうないからね。快適な雪上の旅をお楽しみください。で、も少し飛ばしますよ。びゅーん!」


 気遣うセリフを言ってみたが、なるべく早く終わらせてゆっくり寝たいという思いがあった。調査員さんのことを考えない移動をした結果、体調を崩させてクエスト終わらせる時間が遅くなるのは避けたかったので、まぁ気遣ったというよりは自己都合。

 デートのお誘いはその後だ。受けてくれるかわからんけど。


 この雪山に竜種が棲んでいることは確定事項だそうだが、全く開発されていない土地なので竜種の巣がどこにあるかはわからない。

 が、調査員さんは吹雪にかき消されきっていない竜の魔力の残滓を感知する機器を持っていて、それを元に場所を僅かながらにでも特定させていく。しばらくすると俺もその魔力の波長を検知できるようになったので、機器を稼働させる調査員さんを制して走る速度を更に上げる。


 中腹。

 辿り着いた先には確かに竜種が棲んでいそうな大きな洞窟があった。ダンジョンという規模ではなく、あくまで吹雪やらを凌ぐだけの穴蔵だ。巨大な竜種が棲むので大きさは桁違いだが。


 穴蔵に入って火魔法で灯りをつけて少し進むと、竜種の魔力が吹雪以上に大きな風となって襲いかかる。恐らく、こっちに来るなという意思表示。


「ひぃっ」


 調査員さんが怯えるが、無理もない。普通の人間なら吹き飛ばされて吹雪の中に逆戻りしていただろう勢いの突風だ。魔力障壁を張って調査員さんを守る。


「あ、ありがとうございます」


「いーえ、当然のことをしたまでですよ。しっかし、あからさまに警戒されてますねー。いや、それも当然のことなんだろうけど」


 それなりに強いんだから、弱い者を守るのは当然のこと。というより、竜種と普通の人間は格が違いすぎるんだから、ここまであからさまに危害を加えるような警戒はしないでほしかったなぁ。最悪、戦闘もありえるし。

 とりあえず、穏便に済ませようとしますかね。


「あー、突然家の中に入って驚かせたのは大変申し訳ない。が、危害を加えるために来たわけじゃないんで、とりあえずそっち行っていいっすかね?」


 返答はないが、俺の呼びかけで風は止んだので受け入れてくれたと判断。

 そのまま進んだ先で、驚きの光景が広がっていた。


「えー・・・」


 確かに竜種はいた。

 俺も魔王として何頭かの竜種と会ったことはある。それらと酷似した姿形だが、上半身しかない。

 厳密にいうと、下半身は何か値の知れない空間の穴に吸い込まれようとしているようだった。


「一ヶ月前、この災厄の穴が突如生じてな。このまま放置しているとこの世界に異変を巻き起こしかねない故に、我が身を使って封じている」


「あー、なるほど・・・だからこっちに来させないように、ここに辿り着ける者が耐えうるレベルの風を出して威嚇してたのか」


 実際そのとおりなんだろう。

 俺も竜種が巻き込まれているその穴から得体の知れない嫌な予感を抱いている。異変を起こしかねない。わかる。


 こーゆー嫌な予感は大体当たるんだ。

 で、こういうのって多分こっちから塞ぐことはできないんだ。誰かが向こうから塞がないといけない。竜種は世界を守るためにそれをやろうとしたけど、図体が大きすぎて無理だったんだろうな。ある意味では悪化しないよう現状を維持してくれていると見れる。


 穴にはまった竜種をどうにかして、穴を塞ぐ。

 このクエストの本題はコレだな。

 しかし、クエスト受注が2週間前ってことを考えるとタイミングがよすぎるな。これ、依頼者は竜種が穴に嵌っているなり何かしらの異変を察知していたとみた。


 そもそもの依頼者は誰なんだ?


「私です」


 調査員さんかよ。

 いやもうさっきみたいな怯えた様子が全くなくなってる。ボサボサの前髪から覗く目つきがとんでもない意思力を持ってる。魅力的な綺麗な眼だけど、これもう人の域に無いよねってのが丸わかり。


「本来であれば解決できる者が参上すべきですが、諸事情があり現在それができません。ですので、私がこの竜種に人化の術を施して次元穴から救出し、穴は私が向こう側から塞ぎます。魔王、ここまで連れてきてくれたこと感謝します」


 あー、事態をちゃんと飲み込めていないけど、調査員さんが何をやりたいのかは承知した。


 で、ちょっと質問なんだけど。


「何でしょうか」


 穴の先ってどうなってんの?


「別の異世界があると思われます。どこのどういう世界に行くことになるのかは不明ですが・・・」


 異世界。

 前の魔王がそんなのがあるって言ってたけど、ホントにあるのか。ふーん。「別」の「異」世界って表現したのが気になるけど、些事だな。

 穴を塞いだあと、調査員さんはどうなるの?


「帰る手段がありませんから、その異世界に留まることになります」


 あー、了解した。

 これ肝心な説明を意図的に省いているな。

 うーん、なら、たぶんこうしたほうがいい。


 ちょっと行動開始するの、1日くらい待ってもらっていいかな?

 身辺整理してくる。


「身辺整理とは?」


 まず体裁上、クエスト達成の報告をギルドに。

 あと魔王を退任するので最低限の引き継ぎを。

 調査員さんの事情は何となく察したけど、これ1人じゃ間違いなく無理だから、俺級の戦力が随伴しておいたほうがいい。


「貴様、魔王だったのか」


 実はそうなんですよ竜種さん。

 見えないとはよく言われるよ。見せたくないもん。グータラしたいし。

 とはいえ、グータラを自称しているけど、世界のためにやれることはやりますよ。

 まぁ俺の部下は優秀ですし?後継にも目星はついているから、最初は混乱するでしょうけど魔王領は俺の代よりは間違いなく良くなる。


 ってなわけで、ちょっぱやで行ってくるんで!くれぐれも早まらないでよー。


・・

・・・


 その後。

 魔王が1枚の書き置きを残して失踪したという報道が世界を駆け巡った。

 前代未聞の事態に、世界各国の首脳が緊急で魔王領へ赴き、次期魔王の選定をどうするかで紛糾した。


 その行方について、現役の魔王四天王が知っているかもしれないという噂が浮上したが、その本人は知らないというばかりか突然の失踪に強く憤慨している。


 魔王という特級の役職に就いていたので優秀さは世界で指折りにせよ、失踪したことで歴代魔王の中での評価は最低クラスとなった。

 しかし、各国首脳が苦悩の末に導き出した次期魔王が彼の書き置きどおりの人物に決まり、その見通す力からやはり能力自体は非常に高かったのだと見做す声が高い。


 とにもかくにも、彼は突如失踪してしまった魔王として、魔王史に名を刻まれることになった。


 なお、以下が当該魔王の書き置きである。一部、読み取れない箇所があるのはご容赦いただきたい。


「やんごとなき事情で魔王辞めます。ごめんね。どっかでスローライフしたいです。無理かなぁ。次期魔王については、四天王■■■■の娘さんが良いんじゃないかな。俺は不出来な魔王だったけど、魔王領ひいては世界の行く末が明るくあることを、どこか遠くから祈っています。じゃ」

魔王は失踪の前、四天王のとある一人には打ち明けました。

打ち明けられた四天王は、事情は飲み込んだものの「厄介ごとを残しおって」と憤慨していました。

彼女は彼の優秀さを理解していましたが、ちゃらんぽらんな人物だったという後年の評価に是正を求めませんでした。真実はともかく、その方が都合が良いし、彼もそう思われたいでしょうから。

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