閑話:不死王、解放される(黄金郷編 エピローグ2)
私はノーライフキング。
誤解しないでほしいのだが、私は別にアンデッドの王ではない。いわゆる「命なきもの」全般の王であり、個人的には誠に不服ながら元は命あるものだったアンデッドも臣下に含まれる。
「命あるもの」から「命なきもの」となったアンデッドが永き時を経て強大な力を得た存在を指すこともあるが、それは生前の魂が成長した後発的な王であり、私とは在り方を異とするものだ。
そうした者が「王」を名乗り災厄を巻き起こすこともあるが、極めて起こり得ない事態であり、脅威度も高くなく結局は「命あるもの」に討伐されて終わる。
余談だが、つまり王を名乗らず災厄を巻き起こしもしない存在もいる。奴らはただ世界の行く末を見守っている、人にとっては強大ではあるが無害な存在だ。類似する「世界の行く末を見守るもの」に竜種を挙げても良い。
私はそんな中途半端な紛い物とは力も精神も隔絶した存在である。
遥か遠い昔に発生したときからノーライフキングであり、奴らを亜種とするなら私は原種であり真祖である。
さて、私は本来的には「神」である。
とはいえ、いわゆる世界の管理者ではない。誤った信仰の結果発生した、正しい信仰の対象でしかない。とある世界における九十九神に類似したもので、かつそれを統括するものと言えばわかりやすいか。
故に、私には超常的な力を持っていても世界そのものをどうこうする力はないし、その気もない。
「そんなこんなで臣下の嘆願で黄金郷をどうにかしようとしたのだが、私にはどうにもできなくてなぁ」
似たような境遇の神に愚痴る。
私は黄金郷を踏破できず黄金郷に囚われてしまっていた情けない存在だが、彼女は黄金郷の本来の土地神だ。
土地神はその土地の意思のようなものが、その土地に住まう者どもの情念を受け、時を経て神格化したものだ。つまり、信仰によって生まれたという意味では神なのだ。
この神は厳密にはその分霊ではあるが、黄金郷が元の世界に転移したあとの管理者が不在となる土地において暫定的な管理をするためアバターとして残ることになった、いわば後始末役だ。
私は彼女の力に屈したが、特段、彼女に恨みはない。
むしろ、本体は土地単位での突然の超弩級な転移に巻き込まれて数千年の時から自らの土地を守らざるをえなくなり、いざ元の世界に戻るにせよ分霊を創ってこの世界の土地の管理を短期間でもしなければならない、という事情に同情している。
前髪を真一文字に切り揃えた黒色のロングヘアーの幼女。まるで人形のように均整のとれた容姿であるが、神にとって容姿は姿を視認させるための記号でしかないので大きな意味を持たない。
また、私を含め神は管理者であるかどうかに拘らず世俗に姿を現すことは滅多にない。とはいえ、別世界の管理者のように文化の視察という体で頻繁に下天する例外はあるが。
女神、か。
・・・黄金郷の厄介なところは、超強力な補正により管理者にその情報の一切が伝わることがなかったというところにある。ここまで都合の良い仕組みを、よくも作れたものだと感心する。
例えば下天した女神の横で黄金郷の話題をする者がいたとしても、女神にその声は聞こえない。
また、私は女神との接点はないが、仮に私が黄金郷のことを女神に伝えようとすると、何かしらのジャミングが発生して女神には伝わらないのだ。
それは黄金郷の土地神がなりふり構わず、呪いにて土地を保全することを最優先とした結果ではあるが、ともあれ解決が遅延に遅延を重ねたのは土地神の土地を愛するが故の処置の結果である。
私は黄金郷に囚われたが、その守ろうとする行為を否定するするものではない。
黄金郷が無くなったこの土地に女神の加護が行き渡るまでかかる時間は約1年。イコールこの土地神の分霊の任期である。その後は何をどうしようが自由であるが、どうやら土地神の分霊は人の子として生まれ変わることを望んでいるとのこと。
既に関係者には宣告済みであるとのことなので、それはそれはで良いのだが。私は管理者でもなければ人類の味方でもないので、当人が納得しているのであれば好きにすれば良い。
「では土地神の分霊よ。私も力を取り戻したことだし、お暇させてもらおう。任期後の新しい人生に幸があらんことを祈る」
土地神の分霊は僅かに微笑み、私はこの土地より退去する。
私を祀り崇める命なきものどもが、私の帰還を待っている。その報を伝え、再び姿を消して神として命なきものどもに祀られる日々に戻るとしよう。
と、そう思っていたのだが。
まさか私が近い将来、「命あるもの」どもと邂逅し、神としての責務と全く関係のない事業に深く関わることになるとは、露ほどにも思っていなかったのだった。
このノーライフキングは、太古の昔、とある種族の一派の邪悪な信仰の結果「発生した」神ですが、それは一派にとっての神ではなく「命なきもの」の神であったため、加護を得られなかった一派はやがて滅び、ノーライフキングは九十九神の「神」として君臨することになりました。
この世界に九十九神の概念はありませんが、あらゆる物質に大小の魂が宿っています。あらゆる九十九神の黄金郷の呪いに苦しむ声に応えて出動したものの、あえなく黄金郷の呪いに囚われてしまいました。
管理者ではないものの神なので、それでも強さ的には人間と計る次元にはいません。本来は。
黄金郷エピソードは次回8/1 0時更新分で一段落です。




