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元事務職員、黄金郷に挑む 3

 アーク


 アンドリュー


 エルリィ


 その誰もがおらず、たったひとりで俺は黄金郷を歩いていた。


 いや、


 この世界でこれは黄金郷と呼ばれているが、本質は全くの別物だ。


 景色に見覚えがあった。


 目の前には俺がかつて働いていた自社ビル。


 たかだか6階と小さいこともあり、調査そのものは楽だ。


 通勤経路を歩き、開いていたビルの入口を入ると、金色に輝いているものの内部構造が記憶のとおりである以上に、1Fエントランスに飾られている調度品である等身大のマスコット人形もあったことに驚いた。


 あまりにも知っている、日常だった光景がこの世界にあることに寒気がしている。


「俺や、俺以外の転移者がいるとして、その記憶から造られた複製なのか」


 それにしても細部があまりにも精巧な印象がある。


 5Fまで階段で昇り、職場だった部屋のドアを開ける。整然と並べられたデスクと、その上にあるワイヤーで固定された数々のノートパソコン。


 驚くことに電源も入る模様。共用のPCにも電源を入れ、覚えていたユーザーIDとパスワードを入れてみるとログインすることができた。


 デスクトップの日付を見ると、202x年のy月z日。俺が死んだ約一ヶ月後だった。さすがにインターネットには繋がらなかったものの、イントラにはアクセスできたし、俺が作成途中だったファイルが個人用ストレージに保管されている。


 俺の死後、どこかのタイミングで俺の職場があった某区がそっくりそのままこの世界に置き換わるように転移した。


 窓の外から見える、見慣れた光景。もはやそれしか答えが見当たらなかった。


 ひとつの答えに行き当たると新しい疑問が生まれてくる。


 なら、ここに生きていた人たちは一体何処へ?


 そもそも、なぜここが黄金郷になったのか?


 俺を転移させた女神は黄金郷の存在を知ってて放置していたのか?


「答えましょう、人の子よ」


 突如脳内に響く声。


 と、デスクを挟んだ先が光り、その光が消えると一人の女性が現れた。


「女神様か・・・」


 驚くことはなかった。

 俺を転移させた張本人。

 この状況を説明するのに最も適切な存在。

 聞き覚えのある声、白いローブを羽織っていて、以前と違いちゃんと顔が見えている。


「これは神も手を焼く超特異現象です。神の視点からは、今の今までこの黄金郷なる転移してきた異界の領土は認識できないようになっていたようです。が、あなたが黄金郷の謎を一部解いたことで私にも存在が認知できるようになり、これは世界の危機にもなりうる現象と判断して、一時的に下天しました」


 成程、神は知らないようになっていたのか。

 とすると、放置していたことを責めるのはお門違い。むしろ、認知してから下天するまでの素早い行動に感謝すべきか。


 黄金郷に足を踏み入れた途端、パーティメンバーと離れ離れになってしまった。とすると、3人の安否を確認しつつ、下天した女神と黄金郷の調査をするのが、今後の妥当な行動だろう。


「世界の総数は24。それぞれ独立してそれぞれ文明を築いています。世界は隔絶していて本来干渉することはないのですが、ごく稀に不具合が起こり管理者である神ですら想定しえない事態が発生します。本案件はその特大級のインシデントです」


「黄金郷の存在を認知していない、できなかったのもそれが理由ですか」


「仰る通り、できませんでした。どうやら、あなたが転移した一ヶ月後に何かが起こり、あなたの住んでいた領地が約2000年前に転移してきました。転移の影響でそこにいた人々は建物や土地と同一化し、ありとあらゆる重篤な呪いを振り撒く黄金郷へと変質しました」


「解決方法は?」


「黄金郷の中心部に呪いのコアとなる部分が存在しているようです。その解呪やこの領地の再転移は私が行いますが、下天により力をセーブした状態であるため、あなたの協力が必要不可欠になります」


 率直に言って助かった。

 謎に思っていたことが氷解したこと、これからやるべきことの指針が定まったのだ。自分だけならまだ右往左往していたかもしれない。


 一方で、神が介入しなければならないほどの重大事項であること、もっというと神を欺く現象に神が対抗しえるのかという不安があった。


 それは女神も同様のようで、整った顔を緊張感で悲壮に歪ませるその様は人間と変わらないように思えた。


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