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元事務職員、黄金郷に挑む 2

 黄金郷の怖いところは、行動のあらゆる点に「呪い」が付帯することにある。


 領域に足を踏み入れたら挨拶代わりに呪われる。領域に入らず遠目で見る分には問題ないが、望遠鏡で内部を探ろうとしたり、探索魔法の範囲を領域に広げた場合呪われる。


 呪われた結果、体が極端に衰弱して死に至る。これが序の口レベルの呪いでしかないというから恐れ入る。


 だから、黄金郷に行くには呪い対策が必須となる。ここはアンドリューが中央教会に直訴して対魔の銀を編み込み、浄化魔法を施した糸で作られた法衣を人数分用意することでクリアできた。

 超強力な呪いには対抗できないまでも、黄金郷標準で「並」と見做せる呪いには耐性がつくようになる。


 また、黄金郷には強力なモンスターが出現する。先人の調査からアンデッドばかりとのことなので、武器も銀製とするのが原則となる。


 こうした武具の調達で貯蓄がほぼ使い果たされたが、必要経費であると自分に言い聞かせる。最難関ダンジョンへ行くのに、前準備でケチってクエスト失敗の憂き目に遭うのは避けたい。後悔しないようあらゆる要素で万全を期したい。


「最終的には身ひとつでどうにかしなければならないが、事前準備を入念に行うことであらゆる危機を回避できるようになる。自分自身が強くなる以上に、何をどう準備したらよいかを考えるようにするんだ。俺はチンケな冒険者だが、それが出来ていたから今の今まで何とか命を散らさずにいられた」


 とはチュートリアルを担当した先輩冒険者の談。俺たちのパーティはそれを入念に行なっていたからこそ、生き残れていた。

 自分を過信してはいけない。それが冒険者にとって大切なことなんだと、経験を経て強く実感できる。


 辺境国の深森を抜けると黄金郷が見えてくる。事前情報どおり、黄金色に輝く広大な都市といった風情。

 なのだが、色はともかく無数の建物の形状には強い既視感があった。





「これは・・・ビル?ビル群だよな」


 俺にとって元の世界でよく見かけた構造物であるビル。

 まず目に入ったのは、数えてみると15階建て。それと前後する高さのビルが立ち並んでいる。


 努めて冷静に、慌てないようにを心がけていたが、まさかの自分のルーツに関連しそうなものを見て愕然とし立ち尽くしてしまった。


「ゴロー?どうしたんだ?」


 アンドリューが声をかける。

 どう応えようか、全く答えが出なかった。


「うーん、ちょっと休憩する?ここまでも結構歩いてきたし、ゴロも何か考えようとして纏まっていないようだし、気分転換みたいなことをしてもいいかなと思う」


「そうだな。ゴローには何かあるのかもしれないし、黄金郷のエリアにはまだ入っていないことだし、まずはいったん休憩しよう」


 アークもエルリィも気を遣ってくれている。用意してくれた果実水を飲んで、ようやく平静さを取り戻すが、やはり悩んではいた。


 ギミックは関係ないだろうが、少なくともこの黄金郷の建物群は前の世界が何らか関係していそうな気がする。


「ゴロー、少しいいかい?何か考えがまとまらないなら僕に話してみてもらえないかな」


 アンドリューが声をかけてくる。そういえば、俺が転移者であることを知っているのがアンドリューだ。他の二人には聞こえないように、俺はアンドリューに黄金郷の建物が俺のいた世界のものに酷似していることを伝えた。


「成程、だからあんな呆然としていたんだ」


「・・・これ多分二人にも伝えたほうがいいよな。俺が転移者であることを伝えた上で」


「その情報がプラスになるのかどうかは分からないけど、そうした方が良いと思う。ただ、二人はゴローが転移者だってことまでは勘付いていないけど、記憶喪失がブラフだってことは見抜いているよ。良い機会だから、ちゃんと話したほうがいいよ」


・・

・・・


「一度死んで蘇らせられて、しかも若返った状態で異世界から転移してきた、かぁ」


「僕はゴローが異世界人だってことは聞いていたけど、そういえば経緯まではちゃんと聞いていなかったね。話してくれてありがとう」


「そりゃ信じがたいところはあるけど、ゴローがそう言うならそうなんだろう。で、ビル?か。そうした建造物が日常の中に存在する世界があるということか。我々にとっては完全なるオーバーテクノロジー、凄まじいな」


 ちゃんと話したほうがいい。

 そう言ったアンドリューもそうだが、アークとエルリィもすんなり受け入れてくれた。


 有り難さを通り越して申し訳なくなってきた。

 前世を含めて、ここまで無条件に自分を信頼してくれる人はいなかった。

 いや、非現実的なことを言われて二つ返事で納得しろというのが本来無茶な話なのだ。


 が、この3人は信じてくれている。

 申し訳なさはやがて3人と出会えたことへの感謝となり、何としても黄金郷の謎を解く決意を固めた。


 本当に、俺は良い仲間を持った。


・・

・・・


 地面。

 土色と金色の境界線。

 一歩踏み入れたら黄金郷の領域。


「行こう」


 俺たち4人は同時に黄金郷へと入った。


 その瞬間、黄金郷の呪いなのかとてつもない立ち眩みに襲われて、


 立ち直った時には他の3人はいなくなっていた。


 そのことも異常事態だったが、俺にとってはそれ以上の非常事態が起こっていた。


 黄金色に輝いているが、どう見ても既視感しかないこの光景。


「ここは・・・東京都じゃないか・・・」

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