元事務職員、黄金郷に挑む 1
冒険者活動は順風満帆だった。
前衛のアーク。
撹乱役のエルリィ。
後衛の俺。
補助や回復役のアンドリュー。
役割分担がはっきりしていて各々役目をちゃんと果たすので、バランスが良く安定してクエストをこなしていっていた。
単独ないしは誰かが抜けた状態でクエストに挑むこともあったが、そもそもの個々のポテンシャルを発揮させたり、不足した部分をそれぞれ補ったり、身の丈にあった難易度のクエストであれば失敗することはまずなかった。
パーティ内での仲が良好なのも成功率の高さに寄与しているだろう。誰もが誰もを信頼している。少なくとも俺はこの3人を無二の戦友だと思っているし、他の3人もそう思っていると信じたい。
そんな順風満帆だからこそ。
数少ない「失敗したクエスト」について述懐しておこうと思う。
世間的にはそう認識されていないが、とある事情から俺はそういうことにしておかなければならない。
「黄金郷?」
ギルドの掲示板に貼られた古い依頼紙には、そう書かれていた。
冒険者の間で存在だけは認知されているが長らくの間アンタッチャブルなもの。魔王領の魔王でさえ手を出そうとしない。たまにクエストに挑もうとするパーティが出てくるものの、クエストが失敗するだけでなく、何らかの甚大な被害を被るというもの。
曰く、黄金郷の呪いで魂が抜き取られ廃人となる。
曰く、黄金郷の呪いで身体と魂が変質して黄金郷を守る傀儡の兵と成り果てる。
曰く、五体満足で戻ってきたとしても黄金郷の呪いで人生が破滅する。
何にせよ、黄金郷というものが強力な呪いの場となっており、それが世界に悪影響を与えていると思わしいので、その調査をしたいということ。
最初の依頼は約500年前らしく、既に依頼者は故人。
だが、事の重要性から依頼元が中央ギルド預かりとなり、黄金郷に一番近い辺境国ギルドの依頼板に貼られている。
黄金郷はその成立経緯すら一切の記録が残っておらず、いつから存在しているのかすらわかっていない。あくまで説だが、世界各地に呪いを振り撒いているだけでなく、魔獣の発生の元となっているという話も出ている。
そんな極めて危険な場所だが、何故か俺が調査に行かなければならない、そんな直感があった。
女神様からは「何かしらの文化を広めてほしい」という依頼を頂いている。それは未だ完遂しておらず、黄金郷の調査をすることでそれが未完に終わってしまう可能性があるが、
それでも、俺は黄金郷に行かなければならない。その直感自体が呪いなのかもしれなくても。
俺はパーティメンバーにそのことを伝えた。愛想を尽かしてパーティが解散になることも覚悟していた。むしろ、俺が追放されることも覚悟していた。そちらのほうが現実味がある。
「うん、エルフの里には黄金郷に纏わる逸話が幾らかある。まぁ口伝の眉唾物な内容ではあるから役には立たないだろうが」
「ゴブリン族にはそういうの全く無いなぁ。聖王国興についての伝承ならあるんだけど」
「オーク族も似たようなものだよ。記録も伝承もない。むしろ、僧侶職の総本山である聖王教会が何度か黄金郷の調査をしようとしたことがあるけど、悉く失敗。顛末はギルドに伝わっているのと大差ないみたいだね」
意外にも3人は黄金郷という言葉に嫌悪感を示さなかったばかりか、黄金郷を攻略対象として見ていそうな口ぶりだった。
「黄金郷の謎を解き明かすのは冒険者にとって夢だからね。この面子ならそれを追っても良いと思えるよ。行き着く先が先人と同じ末路になったとしても、後悔したくはないね」
「中央教会にとっても黄金郷の浄化は決して達成できない至上命題として扱われているんだ。名声そのものはどうでもいいんだけど、僕らがその命題から解き放てる可能性があるなら、それに賭けてみたい」
「私は別にどうでもいいんだけど、みんなやる気だし、ゴロがそうしたいってのなら付き合うつもりだよ」
・・・不覚にも泣きそうになったというか、実際泣いてしまった。
かくして俺たちは黄金郷へ向かうことになったのだった。




