閑話:ゴブリン族の少女、模擬戦を振り返る+α
ゴブリン族のアークです。
冒険者になりたくて里を出てから2年。色々なことがあったけど今は辺境国ギルドで「絶滅危惧種」というパーティを組んで冒険しています。
ちょっと顔をしかめるパーティ名だけど、所属しているメンバーが全員異種族っていう珍しいパーティだし、名前の響き自体はカッコいいから、悪く無いかなと思っています。
あ、ごめんなさい、めっちゃ気に入ってます。
さて、今日は中央聖王国からここ辺境国に聖王騎士団が視察に来ます。それに際してセレモニーとして行われる模擬戦の面子を冒険者ギルドが選出しなければならないということで、私が選ばれました。
ランクアップ試験を受けていないからまだBランクだけど、Aランク相当には強くなれたので、自画自賛ながら妥当かなと思っています。事実、辺境国の冒険者ギルドで剣術のみでは私が一番強いですし。
聖王騎士団が国王に謁見する場に私も同席しましたけど、確かに練り上げられた強さの雰囲気をひとりひとりから感じました。
聖王騎士団は苛烈で高度な戦闘術を叩き込まれたエリートの集まりで、一兵卒でもBランク相当の強さを持っているとされています。各国にもそれぞれ王家直下の騎士団がいますが、聖王騎士団の実力は他と比べて抜きん出ているというのが世間の評価です
謁見の儀を終えて退出するとき、騎士団長と目が合いました。団長だけあって、他の団員と比較にならない圧、強さの差を感じます。たぶん、今の私では軽くあしらわれて終わってしまうくらいには。
「・・・強いね、あの人」
「うーん、よくわかんないな。体付きが凄いし、みんな凄そうだなってくらいだよ。なんでアークといいエルリィといい、一目で強さを把握できてんの?すごいよ」
緊張感をもって私は同意を求めましたが、その相手は首を傾げてそう答えました。
同じく冒険者ギルドに依頼され同席していた、私たちのパーティリーダーのゴロー。
人間族の魔法使いで、背格好もそこらの一般人と同じような感じで強さの片鱗もなさそうですが、率直に言って私より強い。以前手合わせしたときには、なす術もなく制圧されてしまいました。
というか、私の方が身体能力は上なんですが魔法の使用を禁止した戦いでも勝てる気がしないんですよねぇ・・・今度手合わせお願いしてみようかな?
とりあえず、模擬戦の後に懇親会のようなものがあると聞いています。それが楽しみです。
・
・・
・・・
模擬戦の結果、私は副団長級と戦って決着がつかず引き分けでした。
さすがに強かったです。型にはまった剣術かと思いきや柔軟性があって、奇を照らった攻撃を次々といなされました。かといってこちらも容易に反撃させず、お互い決定打を見出せないまま制限時間を経過して引き分け、となりました。
これで騎士団もギルドも面目を保ったというところでしょうか。
元々この模擬戦は冒険者ギルドの質を聖王騎士団ひいては聖王国が量ることを目的に行われているそうです。
過去、ギルド代表が騎士団員に勝つことはそう多くない中で、引き分けた私は快挙扱いされました。副団長級は引き分けたことに納得がいかないという態度を取ることなく、お互い健闘を讃え合いました。
セレモニーとしてはそれで美しく終わる筈でしたが、そのあと団長がゴローを指名して番外の模擬戦が始まろうとしていました。
どうやら国王との謁見の際に目をつけられていたようです。「どうして私じゃないんだ」とは微塵も思いません。むしろ、強者の雰囲気がまるで無いゴローに強さを見出したことに驚きました。
現騎士団長はS級に限りなく近いA級の強さを持っていると聞きます。精鋭揃いと言われる魔王領の猛者を除けば世界でもトップクラスの強さと見做されています。魔王領でいうなら四天王と同等とも。
前述のとおり、私だと手も足も出ないでしょう。それくらいの隔絶とした差が今はあります。かといって、そのままでいる気は微塵もありませんが。
・・・が、私にはどうしてもゴローが負ける姿が思い浮かびません。
あ、ゴローが「負けちゃうと恥ずかしいけど胸は借りたいので他の方々を退室させてからお願いしたい」と言ってる。
騎士団長は「ハハハ気にするな」と返しました。いや、ゴローはホントに負けるのが恥ずかしいと思ってるわけじゃなくて、騎士団長を気遣ってるんだと思うんですけど。え、結局ここで今からやるの?
あー、始まってしまった。
え、ゴローは魔法使わないの?それってホントに大丈夫なの?
でも騎士団長の剣戟を全て見切って紙一重でひょいひょい躱している。いやいや、あんなの私は見切れないし、受け止めて無事で済むとは思えない。
「ほいっと」
騎士団長の素早く強力な剣戟をひととおり躱して、首筋にそっと模擬剣を据える。
呆気ない決着。
私も含めて模擬戦を見ていた誰もが唖然としています。
世界でも最高峰の強さを持つ騎士団長が、一介の冒険者に敗れてしまうという、前代未聞の事態が起こってしまいました。
同時に、私と副団長級の騎士が引き分けて無事に終わった筈のセレモニーが台無しになってしまいました。あぁもう。
・
・・
・・・
「いやいや、素晴らしい動きだったよ。私の見る目が正しかったというべきか。今の私が対人で敵を捉えられないなど、その極意を是非ともご指南いただきたいところだ」
「私の故郷に相手の力を利用して最小限の力で制圧する武術があって、その応用です。聖王国にも似たような流派があったと思いますので、私に聞くよりそういったところに尋ねられたらよろしいかと」
「うんうんなるほど、聖王騎士剣術はあらゆる武術を取り入れて作られたものだけど、時代も移り変わっているし、いったん様々な流派をちゃんと見直して良いところを新たに取り込んでもいいかもしれないね。良い学びを得られたよ」
辺境国の王城の舞踏会場での懇親会では、騎士団長がゴローを独占する勢いで話をしていました。
公衆の面前で負けてしまったことでひどい扱いや報復をされるのではないかと思いましたが、騎士団長からそんな雰囲気は微塵も感じられないばかりか、素直に勝者を讃えています。
高名な騎士団の長は精神も高潔ということなのでしょうか。
「団長は目上の者には当然敬意を払うが、だからといってそれ以外の者をぞんざいに扱うということはしない。むしろ自分より優れている者は身分を問わず認めて教えを乞う。まさしく騎士の規範となる方なんだ」
私と戦った副団長級の騎士がビュッフェの皿を片手に話しかけてくる。
「あぁ、お疲れ様でした。学びのある良い模擬戦になりました。普段はギルドで上位級の扱いをされていますので、今回の戦いで慢心を改めなければと思います」
「というなら私も同様です。上には上がいることは承知していますが、上ばかり見ていてもいけませんね。世界に目を広げてみれば、あなたのような方もいるし、無敵と思えた騎士団長を容易に下せる猛者もいる。勉強になりました」
「ですね。お互い上を目指すとなると壁が高いですが、精進していきましょう。ところで、おたくの騎士団長さん、話が盛り上がるのはいいですけど、にしてもウチのリーダーにベッタリすぎないですかね・・・」
「頃合いを見計らって早々に引き離します。いやホント申し訳ないですが戦闘の話になると止まらないんですよねウチの団長・・・」
副団長級の騎士に引き離され、ようやくゴローが解放されました。心なしかほっとしたような感じがします。
「話を聞く分にはいいけど、それでも少し疲れたかな」
戦いの時には冷徹に絡め手も使ったありとたらゆる戦術を躊躇いもなく繰り出しますし、また戦うということにこの上無い適性を持っているリーダーですが、そうした豪胆さが嘘のように社交場はあまり得意ではないようでした。
懇親会が終わったら立ち合いをお願いしてみようと思っていましたが、疲れているのに私に笑みを向けるその表情を見てやめました。たぶん私が少し嫉妬していたことに気づいてます。
「まぁこういう場は得意ではないけど、折角の機会なんでこれ以上騎士団長に絡まれない程度には色々な人と話をしてみるよ」
「あまり無理はしないようにね」
「うん、ありがとう」
そう言って私たちはとりあえず私たちは別行動をはじめました。
懇親会が終わったら二人でゆっくり過ごすのもいいかもしれません。同じパーティメンバーの二人はそれぞれ別件で不在にしています。前にゴローが薦めていた美味しいスイーツのお店でも案内してもらいましょうか。
とりあえず、私はビュッフェ用のお皿をとりました。
・
・・
・・・
私は聖王国の聖王騎士団副団長級の騎士だ。
聖王騎士団は騎士団長を筆頭に10人の副団長・・・つまり、10の師団を持つ武闘派組織。騎士団長が諸国外遊のために不在としていても外敵に対応できる組織形態となっている。
騎士団長の外遊の際には1師団から人材を選抜して付帯することが慣例となっている。故に第4師団を取り纏める私が帯同するのは当然のことだ。
今回の外遊、私には非常に実りのあるものだった。副団長級の中でも上位の強さを持つ私に匹敵するゴブリン族の冒険者の少女は、剣術の基礎こそ教わったものの我流で磨いたとのこと。
そんな彼女に模擬戦で引き分けたことで井の中の蛙だったことを強く実感させられた。高度な戦闘訓練を続けるだけでは得られない強さというものが、確かにあるのだと。
そして、私より遥かに強い騎士団長を制した冒険者の青年。後に騎士団長に聞いたところ、彼は魔法使いであり普段は前線にでることはないという。にも関わらず近接戦闘で魔法を使わず騎士団長を制したという事実は、私に強い衝撃を与えていた。
世の中は広い。
非才の身なれど、目標となるものが増えたことで私にはまだまだ強くなれる余地があるのだと確信できた。
慢心せず、彼らに追いつき追い越す勢いで精進していくことを決意する、そんな外遊になった。
しかし、
あのゴブリン族の少女は尋常でなく食べていたな。私もそれなりに懇親会のビュッフェで料理をいただいていたが、見た限りでも私の10倍は食べていたぞ。となると食べた総量はそんなものではない筈。
しかも、失礼ながら腹部周りが膨らんだ様子もなかったし、無理矢理食べているわけでもなく終始美味しそうに食べていたな。
ゴブリン族は雑食であるが多食であるとは聞かないし、うむむ、食も力ということなのか。
今後は運動量が更に増すのだから、食事量も増やすか・・・ある意味で目標とする騎士団長が制されたことより驚いた出来事だった。
よし、俺も食べよう。
あの子ほどは無理にしても。
良い仲になりつつある時間軸です。




