表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

牛の首企画参加作品

うしのくび

 ぼくたちは夏でも涼しい高原にやって来た。


 景色は広々。目に優しい緑の上を、ジャージー牛たちがもすもす歩く。


 ぼくとさゆちゃんは笑顔で空気を吸い込んだ。ちょっと牛のうんこ臭い。


 だから話を変えて、昨日見た心霊動画の話をぼくは始めたんだ。


「よく動画とかでさ、人の背中に後ろに霊がチラッと見えるとか、あるじゃん?」


「あるある〜」

 さゆちゃんは気分を変えようとしてか、話に乗ってくれた。

「あまりに嘘くさいよね〜。大体、あんなにはっきりカメラに映ってるのに、肉眼では見えないんだろうか」


「見える人にしか見えないんだよ、きっと」

「レイジは見える人?」

「見たことはないなぁ」

「見たいよね」

「うん見たい見たい」


 そんな会話をしながら柵に近づくと、柔らかそうな茶色をした子牛がぼくたちを見つけて、さっくさっくと草を踏んで、こっちへやって来た。


「わーかわいい」

 さゆちゃんがそれに夢中になる。

「かわいい! かわいい! かわいいねぇ!」


「さゆちゃんの方がかわいいよ」

 ぼくは定番の褒め言葉を照れながら言った。


「もー! 子牛ちゃんのほうがかわいいってぇ〜」

 そう言いながら、まんざらでもなさそうなさゆちゃん。かわいい。


 かわいいさゆちゃんは保育園の先生だ。

 いつも子供相手にそうしているんだろう。子牛をあやすように、『おお牧場はみどり』を楽しそうに歌い出した。


「あはっ! レイジ、見て見て!」


 うん、めっちゃかわいかった。


 さゆちゃんが歌の途中で「おー!」と言ってかわいく握った拳を上に上げるたび、子牛が首を傾げるんだ。


 さゆちゃんは一番だけを繰り返し歌った。


 さゆちゃんが「おー!」と言うたび、子牛が「それ何?」というふうに、首をひねる。


「あたしが何言ってるのか気になるのかな?」

 さゆちゃんがめっちゃ楽しそう。

「お話できてるみたいで嬉しい〜」


 遂にはさゆちゃん、「おー!」ばっかり言い出した。

 子牛がそのたびに必ず小首を傾げるのが嬉しそう。

 でも、ぼくは気づいてしまった。


 さゆちゃんが「おー!」と言って右肩を上げるたび、下がったほうの左肩から透き通った少年みたいなものが、ひょっこりと顔を覗かせてたんだ。

 子牛はたぶん、それを見てたんだ。


「おー!」

 さゆちゃんが拳を高く上げる。


 子牛が首をひねる。


 子牛が見てる先に、白っぽい透明な少年が、さゆちゃんの肩からひょっこり覗く。


 少年に手はなかった。


 ぼくは柵の中に入って、ビデオカメラを構えた。

 はしゃぐさゆちゃんを正面から撮った。





「今日は楽しかったねー」


 ホテルの部屋で、まだはしゃいでるさゆちゃんに見えないように、ぼくは録画したものをチェックしていた。


 確かに、映ってる。


 めっちゃ笑顔のさゆちゃんの左肩から、さゆちゃんが「おー!」と言うたびに、どろっとした顔の少年が、にゅっと覗いてた。

 子牛は間違いなくそれを不思議がって見てたんだ。


 ユーチューブに投稿すればこれ、結構再生回数イケるかな……。


「うーん……」


 ちょっと迷ったけど、ぼくはそれを削除した。


 さゆちゃんが怖がらないようにね!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ∀・)さらっと怖いはなしですね。さらっと牛の首が絡むのもまたいい! [気になる点] ∀・)これで5度目の邂逅ですね?しいなさま☆ [一言] ∀・)牛の首企画を巡ってやってきました☆☆
[良い点] 削除や、良し。これでなかったことに!(*´艸`*)
[良い点] 優しい! 男気を感じますね。 でも幽霊が映ってたんだよな~……。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ