焦り
そして、萌花が口を開いた。
「まぁ何となくそんな気はしてた。退院した時も完全に治ったとは言われてなかったし、前にそのことについてお母さんが誰かと電話してるのを聞いたことがあったから」
愛莉は何だか拍子抜けしてしまった。自分が話すことを渋っていたことをもう感づいていたなんて。何だか萌花には隠し事なんて通用しない気がした。もう自分を隠さないでありのまま接していこう。……それはそうと、記憶障害の再発についてだ。昨日見たニュースによると、いつ再発してもおかしくないらしい。ということは今すぐに再発することもあるということだ。…いや、悪い方にばっかり考えるのはやめよう。そう思ったとき、萌花が声をかけてきた。
「早く学校に行こうよ。遅刻しちゃうよ」
…萌花自身はあまり気にしていない様子だったので、愛莉はこのことについて深く考えるのはやめようと思った。
___放課後、学校にて
今日も何も変わったことのない一日だった。しかし、やはり萌花のことが気になって仕方がなかった。
「愛莉ちゃん、一緒に帰ろ!」
やはり萌花は何も気にしている様子は無かった。しかしそんな反応に愛莉は疑問を抱かずにはいられなかった。『再発の可能性があるのに何故平然としていられるのか?』
「ねぇ、それ何?」
突然萌花がそんなことを訊いてきた。
「え、それってどれのこと?」
意味が分からず愛莉が訊き返すと、
「今愛莉ちゃんが持ってるその白い四角いやつだよ」
「これはただの消しゴムだよ…?」
そう言いながら愛莉は、大変なことが起きたことに気付いた。ついに恐れていたことが起こった。記憶障害が…再発してしまった! 当然いつもの萌花なら消しゴムのことなんかを知らないはずがない。…そんな愛莉の悪い予感は見事的中していた。萌花がいつも通りの何も変わらない教室を見まわしてとても不安げな顔をしていた。 愛莉は頭を抱えたい気持ちになった。
「早く、早く帰ろう!」
焦った愛莉は、とりあえず家に帰ろうと思った。
「どうしたの?そんなに急いで」
「いいから!」