過去
__それは約一年半ほど前の事
萌花はその日、いつも通りに学校へ行く準備をしていた。そしたら、何故か学校への道が分からないことに気づいた。学校ってどこにあるんだっけ?どう行けばいいんだっけ?こんな自分の中に沸き起こってくる疑問に焦っていると、部屋に知らない人が入ってきた。そしてその人が、
「どうしたの?学校に遅刻するよ」
と言ってきた。そう、その『知らない人』とは萌花の母親のことだったのだ。未来はパニックになって、夢中で家を飛び出した。しかし、外には全く知らない風景が広がっていた。無論、その風景とは萌花の住んでいる町の風景のことだ。何もかもが分からない。言葉や感情すらも忘れてきている気さえする。萌花は、『恐怖』という感情のままに走り続けた。どれくらい走り続けただろうか。その『恐怖』という感情も消えかけていた時突然萌花の体が宙を舞った。車に跳ねられたのだ。辛うじて残っている『痛い』という感情が萌花の体、そして心までも深く傷つけた。その後、萌花は近所の病院へ運ばれた。しかし、その病院では見切れないほどの重傷だったので、今度は少し遠くの病院へ行くことになった。そこで担当の医師らに色々な検査を受けた。検査の結果、萌花は急速性記憶障害だったのだ。しかし、これを告げられた未来は特に何の反応も示さなかった。未来はこんな病名は知らない…いや、忘れているからだ。それから萌花はその病院に入院することになった。担当の医師らからの手厚い治療を受けていても、症状は悪化の一途をたどるだけだった。しかしその約一年後、萌花に変化があった。入院生活中、全くと言っていいほど声を発さなかった萌花が言葉を話したのだ。「ありがとう」と。その日をきっかけに、萌花は急速に回復していった。そして今に至っている。