悪役令嬢は推しの幸せを願う・・・それはもう全力で!!
これから連載もちょっと書いていきたい作品です。
推しだ!!!
推しが目の前で生きている!!!しかも2Dではなく3Dで、だ。
思わず嗚咽を漏らしそうな私に向かって、推しことアルベルト王子は怪訝な顔を向けてきた。
「ローゼリー嬢?大丈夫ですか?」
待って!本当に咽び泣きそう!ヤダ声まで天使!
「・・え、あっ、はい。何でもありませんわ」
落ち着け私。荒ぶるな私。
ここで一旦状況を理解したい。
よくある話だが、私、ローゼリー・クレシェンドはついさっき、本当に、今さっき前世の記憶を思い出した、いわいる転生者だ。
前世では、目の前にいるアルベルト王子、通称アル様を推しに推すオタクをしていた。人生を捧げていたと言っても過言ではない。
つまり!ここは私の推し様がいる、前世で私が夢中になってプレイしていた乙女ゲーム『シンデレラプリンセス』の世界。略してシンプリ!
え?なかなかベタなネーミングだって?驚くなかれ!中身もネーミング通りの王道中の王道なのだ。
ざっくり説明すると、下級貴族生まれの主人公が、行儀見習いのメイドとして城にやってくる所から始まる。
はい。もぅなんかベタでしょう?
後は多分ご想像通りだから。
対象者は5人の高貴なイケメン達。騎士に公爵子息に王子に宰相の息子にいろどりみどり!
主人公はイジメやら苦難を乗り越えて、イケメン達と恋に落ちるってわけ。
その攻略対象者が一人!王子アル様ことアルベルト様が私の推しなんだけど・・・
もう一度冒頭に戻りたい!
推しだ!!!
推しが目の前で生きている!!!しかも2Dではなく3Dで、だ。
再度感動に打ち震えそうになるが、何とかこの7年間で習得した令嬢魂で、咽びなくオタクを頭の隅に追いやった。
今はそうだ。御歳8歳を迎えられるアルベルト王子へのお祝いのご挨拶に、クレシェンド公爵令嬢として城へ来ていたのだ。
そして、王子の誕生セレモニー的なお茶会に参加し、王子へ挨拶へ伺った瞬間!アル様の顔を見て全てを思い出し今にいたる。さすが推しへの愛の力!
それにしても尊い!顔最高か!!
ゲームのスタートは16歳からだから、まさか幼少のアル様に会えるなんて!!
私前世で徳でも積んでたのかしら?ありがとう!神様!ありがとう世界!
あー。スチル楽しみ過ぎる!生スチルよ!生スチル!!全オタクの憧れであり叶わぬ夢!
それが目の前で、見れるのかしら?いや、絶対みる!
これから、アル様は素敵なヒロインが現れ、素晴らしい恋に落ちる。それを私は全力で応援する!いえ、させて下さい!だから最高なスチルお願いしますよ!?
ヒロインとの恋のスパイスにローゼリー・クレシェンド公爵令嬢って悪役がこれまた酷い奴で、二人の仲を邪魔するんだけど・・・
ん?
ローゼリー・クレシェンド?
「ローゼリー嬢先程からどうされたんですか?」
「・・・アルベルト王子・・あの、わたくし・・ちょっと失礼しますわ!」
「あっ、ローゼリー嬢!」
言うや私は脱兎のごとく会場を抜け出した。目指すべくは鏡!鏡のあるところ!
迷路のような広い会場を縫うように歩くと、人気のないところに小さな噴水をみつけた。
水の揺れてない所で、恐る恐る水を除きこむ。
自分の姿を見ての第一印象は、マジか!?だった。
猫目の少し釣り上がった碧眼に淡い金髪白い肌。はっきり言って100歩譲っても美少女だ。
思わず、おー。さすが悪役令嬢スペックだと感心してしまう。
前世冴えないオタクだったからなー。これだけの美少女って私前世でやっぱり徳積んだ?
って!違う!私のバカ!
私はよりにもよって悪役令嬢に生まれ変わってしまったのだ!よりにもよって!
「あー!!シンプリの悪役令嬢のエンドって何だっけ?確か、ハーピーエンドで領地幽閉、バッドエンドで身分剥奪の上国外追放・・。」
ってあれ?意外に大丈夫じゃない?
そう言えばあのゲーム死亡エンドってなかったわ。
えっ?待ってむしろ特等席?確かローゼリーはアル様と幼馴染設定で、アル様に近づく下級貴族のヒロインが気に入らなくてイジメ始めるんだったよね?
えっ!?ヤダ。それって幼少のアル様からヒロインとゴールインするまでを最も近くで見れるってこと!?
何それ!最高か?最高じゃん!!!
幼いアル様が見れる!それも生で!
領地幽閉?国外追放?元々前世で一人暮らしのオタクには問題なし。
ただ、今の家族に迷惑かかるのはなぁ・・・。
一瞬チラついたが、アル様と家族の迷惑を天秤にかけると、カタンと音を立ててアル様に傾いた。
うん。ごめん。お父様。お母様。親不孝な娘を許して欲しい。
オタクは自分の欲望に忠実なのだ。ましてや自分の推しに自分を捧げないオタクはオタクじゃねえ!
私は鼻息荒く立ち上がると、会場へ戻るべく歩き始めた。
やるぞ!悪役令嬢!!推しの幸せを願うのだ!それはもぅ全力で!!
そんな私が、いつの間にかアル様に外堀埋められて、王子妃になるのは遠い未来のまた別のお話。
連載だとちょっとしんどいので、一旦短編にします。
気まぐれに更新していきたいと思います。