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第18話 友達である自覚

この話から大幅に改稿しているので、自分でもどうなのかわからない状況です。もし違和感等あれば教えてもらえると嬉しいです。


それと、ブックマークや評価ありがとうございます。とても励みになります。


「お疲れ様です」


 そう一声かけて店を出る。

 6時頃、僕が一旦家に帰ろうと言う時、同時に一輝たちも勉強を切り上げた。どうせなら一緒に帰ろうと言うことらしい。


 入店した当初こそ重かった足取りは、今は玄さんと話したお陰か幾分軽快な足取りになっていて、新しく活動場所が増えたことにも嬉しそうにしている。


「いやー、いいところだった」

「うん、だねー」


 店を出てそう零したのは、仲睦まじいカップルのお二人である。


「何ていうか、温かいところだったな。……いや、ほら、物理的な意味じゃなくてな?」

「いやわかるよ。店長さん気さくで、すっごく良い時間だった」


 いやわかる、わかり過ぎるくらいにわかる。


「わかってるねー、二人とも」


 だからつい口を挟んでしまったのは、嬉しかったからだ。

 偶然紹介する形になったが、ここまで喜んでもらえるならば教えてよかったというもの。そして共感を得られたことにも内心大喜びである。


 横から来た僕に気がついた一輝は、肩をガシッと組んできた。


「お、優。そういえばめっちゃサマになってたぜ。なんかいつもよりカッコよく見えた」

「ありがと、でもそれじゃあいつもはカッコよくないみたいだろ」

「んなことは言ってねえよ」


 つい気恥ずかしくて出た軽口に、一輝は呆れ気味に「ははっ」と笑った。

 それに次いで後ろから「ふふっ」と上品な笑い声も聞こえてきた。振り返らずともわかる。


「お、まさか七瀬さんもそう言いたいのかな?」


 だから、振り返りつつ一輝と同様に軽口を吹っ掛けるのだ。


「違うよ、学校も喫茶店も似合ってる。それでいい?」


 口ではキツくいうものの、その口元は弧を描いていて楽しげだ。

 本当、初めに比べれば随分と笑顔も綺麗になったように見える。なんだか感慨深いなと思うと同時、少し照れ臭かった。


「……なんか、七瀬さんに言われると照れるね」


 カップル二人が一斉に笑った。

 それで、一輝は僕にだけ聞こえる声で言った。


「でもまあ、仲良くなってくれてよかったよ」

「……ん? 誰が?」

「優と七瀬さんが、だ」


 ああ、僕と……


 まあ確かに、仲良くなれるかなんて実際に話してみないとわからない。友人らしき友人は一輝しかいないから、一輝なり配慮してくれたんだろうか。

 でも、そうじゃなきゃ麗香さんなんて連れてこないよなあ、と。


「そうやって軽口叩きあえるくらいにはなったってわかって安心したよ」


 チラッと麗香さんを見る。目があったが穏やかだ。


 それで何となく、そこにいるのは麗香さんじゃなきゃダメな気がした。他の誰でもなく、あれだけドタバタした事情があった麗香さんだからこそ、ここまで来れたような気がした。


「七瀬さんでよかったって思うよ」

「奇遇だな。俺もだ」

「いってぇ……」


 一輝は僕の肩をバシっと叩き、呻き声など聞きもせず距離をとる。


「こんな感じで、学校でも話せたらいいんだけどな」

「まあ、それはねー」


 ぼんやりと告げた一輝に、望月さんは同意した。麗香さんも小さく頷いたのが見えた。


 話すだけなら勝手に話せばいいのだが、あまりにも麗香さんの影響力は大きすぎる。望月さんは普段から一緒にいるからいいものの、男女グループともなると少なからず噂になることはわかる。

 だから、尻込みしている。


 それはきっと、他でもなく僕が──


 一輝は僕を一瞥すると、すぐに視線を外して言った。


「まあ、それはまたでいいか。今はとりあえず目先のテストからだな」

「そうだね。追試にならないようにね?」


 自分が教えている人たちが追試を受けるのは麗香さんとて不服だろう。釘を刺すように二人に向けていった。


 一輝と望月さんは引きつった笑いを浮かべているが、一輝に関しては大丈夫だろう。なんだかんだで平均はとっていくのが一輝だ。

 望月さんに関しては僕は全くわからないが。


「榊原君もだよ?」

「うん、ならないよ」


 陰でこっそり教えてもらっているのは僕もである。そんな失態を冒さないように、心に誓った。


「──それじゃ、俺はこっちだから」


 住宅街の十字路。

 どうやら一輝とはここでお別れらしい。気がつけば思いのほか進んでいた。


「朱莉、いくぞー」

「はーい!」


 麗香さんと戯れついていたのをやめ、パタパタと一輝の元へ。

 もう既に夜色に染まりかけている。そのため今日も一輝による送迎のようだ。


「んじゃ七瀬さん、優、また明日な」

「二人ともまた明日!」


 また明日、か。明日も来ることは確定しているんだな、と苦笑い。けれど、少し嬉しみを感じていることを悟らせないように、僕も応えた。


「うん、また明日」

「櫻田くん、朱莉、また明日」


 手を振り、僕たち二人も歩き出す。

 ──また明日。

 何だか良い響きだと思った。






 麗香さんと二人になる。向かう場所は同じ。

 けれど、少し前のように気まずさなど欠片もなかった。


 立っている場所も隣。もう友達だと自信を持って言ってもいいくらいには、距離が縮まっている気がした。


「久々だったみたいだけど、どうだった?」


 自分から話しかけるのも慣れたものである。昔来たことがあるという話、詳しく聞きたかったのだ。


「んー、悪い意味じゃなくてね。なにも変わってなかったかな」


 麗香さんは昔に思いを馳せるように、どこかを見つめる。


「内装も雰囲気も何も変わってなくてびっくりしたよ。あと、玄さんのおしゃべり好きもね」

「あはは、玄さんは相変わらずだよね」


 注文がなければ基本お客さんとの会話に勤しむのが玄さん流である。それでいて常連客を掴み、注文があればそちらに回るのは流石としか言いようがなかった。

 なんといっても気さくさが売りなので、今のままのスタンスがいいとか言っていたような気がする。


 動き回る玄さんを想像していると、麗香さんは「あ、でも」と言葉を発した。


「榊原くんがいることでちょっと変わったかも」

「僕? 雰囲気壊しちゃったかな……?」

「違う違う、玄さんにも余裕がありそうだったってこと」


 ああ、なるほど。

 確かに、僕が手伝いに来た当初と比べるとかなり落ち着いた気がする。少し前は一人で切り盛りしていたため、忙しかったことだろう。


 もちろん指導を受けているときは余計にバタバタしていたが、最近の接客はすっかり一任してくれて、玄さんも手が空くことが多い。


「最近やっと手伝えること増えてきたからね」

「玄さん榊原くんに任せっきりだったね。信用されてるんじゃない?」

「どうだろ? しゃべりたいから丸投げしてるだけだったり?」


 ありそう、と二人して笑い合う。


「でも榊原くん、ちょっと表情固かったかなあ」

「よく言われるよ……」


 よくもまあ、気にしていることを的確に突いてくるものだ。少し悲しい気持ちになった。


「あ、やっぱり? ……ってそんなに落ち込まないでよ」

「いや、いいんだよ。少しずつ会話したりして、克服していこうと思ってるから」


 玄さんまでとは言わずとも、いずれはコミュニケーションも取りたいと思っている。

 喋りが上手いに越したことはないだろうし、お客さん側から望まれることもある。というより、堅い云々の話はお客さんから言われることの方が多いのだ。


「でも、私とは普通に話せてるからいけるんじゃない?」

「それは、麗香さんは友達だからだよ」


 自然と出た()()という言葉、麗香さんは少し固まっていた。それはまるで驚いているようで……

 今更友達かどうかを考えるなんて、野暮のように思えた。僕は少なくとも今こうして絡んでいることが楽しいし、嬉しい。

 何度か遊んでいるし、一緒に勉強もしている。ならばそれはもう友達と呼べるだろう。


「違った?」

「ううん、合ってる。今まで友達って呼べるほどの子、朱莉しかいなかったからちょっと驚いただけ」


 麗香さんの場合はきっと、高嶺の花すぎるのだろう。異性からも同性からも、気を遣って接されているところはしばしば見る。

 自分より上の存在だと見られがちだからなあ、と。


「だからそう、友達と話す時とお客さんではちょっと違うんだよね」

「確かにそうだよね」


 だけども、こうして話しているのも何かのきっかけだ。


「まあ、今度少しだけ勇気出して話してみるよ」

「うん、それが良いね」


 バイト中に楽しむという表現はいいのかわからないが、玄さんもあんな調子だし、ちょっとくらい楽しくしても良いだろう。




 明るさを認知して、辺りの電灯が光を点し始めた。家まではあと少しくらいだ。最近は歩き慣れた道を二人で歩くのは何だか不思議な気がした。

 そんな中、電灯に照らされた彼女は口を開く。


「誰かのために何かに真剣になれるって、すごくいいと思わない?」


 それは誰に向けられた言葉か。

 ただ、光に照らされた彼女は、いつもより美しく映った。


「まあ、素晴らしいことだと思うよ」

「だよね。榊原くん見て、私もそうありたいって思った」


 僕のことだったのかと気づくも、まるで自分はそうじゃないかのような言いっぷりに困惑した。

 少なからず人のためになっているような気がするんだけどな、と思っているのだが。


「それは、麗香さんは違うって……?」

「うん、私は自分のことだけ。自分の保身しか考えてない」


 保身……

 その言葉の真意はわからない。けれど、そのことが麗香さんの心の内に抱え込んでいるものだと、容易に理解できた。


 でも、どうして今それを話す気になったのか。そんな思いを他所に、その答えはすぐにわかる。


「なんだろ。感化されちゃった、って言うのかな。今日榊原くんを見たら、急にそう思っちゃってね。誰かのためになりたいって、そう思ったの。」

「……」


 僕は、そんなできた人間じゃないんだけどな。

 そう思ったけれど、黙っておいた。

 これは麗香さんの独白であって決意のように思えたから。


「ごめんね。こんな話して」


 申し訳なさそうに笑う。無理矢理笑ったようで顔は綺麗なのに、僕には何処か歪に見えた。


「まあ手始めに、料理とかでも手を出してみようかな」

「うん、良いと思うよ。料理」


 僕は結局、麗香さんの言いたかったことが分からなくて、ありきたりな返事しか返せなかった。


「あ、着いたね」


 そう言った声は、もう既にいつもの麗香さんに戻っていて、さっきのことなどなかったかのように、扉の前へ進んでいく。

 だから僕も、いつもの調子で返した。


「うん、入ろうか」


 僕が扉を開け、麗香さんを入れる。

 そして先程の言葉をあまり意識しないようにして、「ただいま」を言った。

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