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第1話 投げかけられた提案

 落ち着いてきたので、昔書いていた『妹と学校一の美少女の家に住ませてもらうことになった』を大幅改稿し、もう一度挑戦してみようと思いました。

 一章完結まではノンストップでいけると思います。

 高校一年生二学期の始まりである始業式を終えた後、僕──榊原優(さかきばらゆう)はバイト先である喫茶店に向かっていた。


 学校からは徒歩で十分ほど。

 閑静な住宅街の中、木造のおしゃれな建物が建っている。そこが僕が働かせてもらっている喫茶店だ。

 働くといっても、その店のマスターが親戚のため、手伝っているといったほうが正しいのかもしれないが。


 その喫茶店では二年と少し前から手伝っている。当時中学二年生だったが、中学一年生の半ばに両親を交通事故で亡くしたため生活に困っていたのだ。


 まだ小学生だった妹もいたことから、自分がお金を稼がなければと考えていた僕の元に、マスターから手伝ってくれないかと声がかかったのだった。


「もうすぐかな……」


 そう呟いた視線の先には木造のおしゃれな店が見えている。おしゃれな店ではあるが、あまり客足が多いわけではない。


 昼頃だというのに未だ落ち着いた穏やかな雰囲気があった。客層も年配の方が多く、その雰囲気を助長しているのだろう。


 そしてその落ち着いた雰囲気が学生たちを遠ざけているというのもありそうだ。


 もっと繁盛してほしいという思いと、この落ち着いた雰囲気そのままであってほしいという思い。

 そんな矛盾ともいえる思考を抱えながら、優は裏口のドアを開いた。






「こんにちは」

「……お? 優じゃないか。今日は学校じゃなかったか?」


 ドアを開けた先、食器を洗いながら低い声で迎えてくれたのはこの店のマスター──玄秀幸(げんひでゆき)だった。


 大人っぽい雰囲気に加え、穏やかな話し方で気を配っているため、この店でかなり人気がある。それに、髭を少し伸ばし、黒髪をオールバックにしたダンディな風貌は女性受けもいいらしい。


「今日は始業式だったので早く終わったんですよ」


 夏休みが終わった後の始業式。教室に入ってくる生徒はみな気怠げだった。


 優は友だちが休み時間のたびに「だりぃだりぃ」と言っていたのを思い出していた。

 せいぜい三時間ちょっとだというのに、とも思ったが優も昔はそちら側だったと思いだし、口をつぐんでいたのだ。


「なるほどなあ。まあ、学校が始まって疲れているかもしれんが、今日も頑張ってくれよ」

「はい。いつものことなので」


 懐かしそうに思いをはせている玄さんの言葉に答えながら、店の奥まで向かう。

 玄さんは決して若いといえる年ではないため、昔の学生時代のことでも思い出しているのだろう。


 まだ九月上旬ということもあってか外はまだまだ暑い。クーラーの効いた店内が心地よかった。






 荷物を置き、学校の制服からこの店の制服に着替えてからカウンターへと向かう。


 この店の制服は白と黒を基調とした、派手ではない、この店の雰囲気を示したかのような色合いだ。僕個人の意見としては、この落ち着いている制服をかなり気に入っていた。


「優、今日も似合っているな」


 準備をしている間に皿洗いも終わったのか、玄さんは既にカウンターにいた。


 いつもにこやかに話しかけてくれるのは、両親が亡くなってからあまり笑わないことに気を使ってくれているのだろうか。

 いつも明るく話しかけて、元気付けてくれるのだ。


「そうですか? ありがとうございます」


 本当にそうだと嬉しいが、自分自身、容姿は特段優れたものではないと自覚していた。

 目にかかるかぎりぎりの黒髪も暗い印象を与えるだろうし、あまり笑わないことが更に暗さを加速させている。


 良く言ったとしても悪くはない、「普通」というのが一番いい表現だった。


 しかし、それが世辞であったとしても褒められるのは嬉しい。もしかしたらこの制服が僕を引き立ててくれているのかもしれないと、そう考えることにした


 玄さんとの話もほどほどに、作業へ行動を移そうとしたその時。


 チリンチリン


 そうベルの音が店内に鳴り響いた。お客さんが来てくれた証拠だ。この店ではドアが開くとベルで知らせるような仕組みになっている。


 夏だからか、その音は涼しさを感じさせた。


 ベルの音と共に汗を拭いながら入って来たのは、ここの常連客である七瀬誠二郎(ななせせいじろう)だ。

 誠実そうな見た目と優しい笑顔が特徴的でいつも優に話しかけてくれる。そして、玄さんの親戚と聞いたこともあった。


 個人的に話をする機会はあまりないが、玄さんがよく話しているのはたびたび目にする。


「いらっしゃいませ」

「お、今日は優くんもいるのかい? 久しぶりだね」


 優しい笑顔で話しかけてくれる七瀬さんにお久しぶりですねと答えながら、いつも座っているカウンター席に座るよう促す。

 空いているときに座る席はおおかた決まっているのだ。


 そして、七瀬さんが座った場所に合わせて、玄さんはカウンターを挟んだ正面に立った。それはどちらかが話をしたいという証拠だった。


 いつも七瀬さんがきた時に、玄さんが少し話しているのを見るが、今日はいつになく真剣な目をしていたのが印象的だった。

 いつもの愉快な話ではなく、重要な話なのだろう。それに合わせるように七瀬さんも表情を変えた。


 その間にいつもの楽しそうな雰囲気は微塵も感じられない。

 少しすると互いが話をし始めたため、見ているのも悪いと思い、静かに食器の整理をすることにした。






 玄と誠二郎が話し始めてから一時間ほどがたった。


 もちろん、玄さんは途中注文が入ったら料理を作ったりはしていたが、七瀬さんとの話で真剣な表情が変わることはなかった。


 一時間経った今でも、客足の変動はあまりない。多くの客が纏まって来るのではなく、常連客と初めての客が、少しずつ来るのがこの店の特徴だった。


 僕と同じようにこの店の雰囲気が良かったのか、毎日顔を見せてくれるお客さんもいる。毎日美味しいと伝えてくれるお客さんには、料理を作っていない僕まで嬉しい気持ちになる。


 料理の大半は玄さんがしているようなものなので負担が多い。慣れたとは言っていたものの、僕には早く力になりたいという思いが強かった。


 僕はいつも、料理は出せないため自分にできる手伝いをしているのだ。接客、皿洗い、店の掃除くらいならば難なくこなせるようになっていた。


 かといって、料理が全くできないわけではない。寧ろ店で提供できるレベルではないだけで、練習はしているのだ。一般の高校生よりかは少なからずできるレベルまで上達していた。


 両親を亡くして以降、家事をしていることも料理が少しできるところに起因するのだろうか。


 それにしても。


「……長いな」


 話すことが好きな玄さんはともかく七瀬さんがここまで話し込んでいるのは珍しいことだった。


 いつもは話はそこそこにしてパソコンと向き合う姿をよく見るというのに、今日は楽し気な様子を出さずに話を続けていて、否が応でも気になってしまった。


 あまりチラチラと見るのも悪いとは思っているが、気になってしまうものは仕方がない。そう誰に向けてか言い訳をしつつ、様子をうかがっていた。


「……?」


 視線に気づいたのだろうか、玄さんと目があった。

 よく見ると手招きをしているようだ。どうやらこっちに来いということらしい。

 二人だけの話ではなかったのだろうか? そう怪訝な思いを抱きつつも手を止めてそちらへ向かった。


 相変わらずその目は真剣そのもので僕まで気を引き締めてしまう。

 心なしか、足が重く感じて、そこに行くまでの道のりがいつもよりも遠い。


「何かありましたか?」

「ああ、少し話があってな」


 そう言った声はやはり固かった。その場の空気とは自然に伝わってくるものだ。その声音にさらに緊張感が高まった。

 一息ついて、七瀬さんは口を開く。


「こちら側で勝手に話を進めてしまって申し訳ないと思うが、これからの話は君に大きく関係のある話なんだ」

「…………」


 それに対して、僕は頷くことしかできなかった。これから聞く話は、今後の生き方を大きく左右するような、そんな気がしたから。


「誠二郎くん────」


 玄さんがその先を言うように促す。七瀬さんも真剣な顔で、しかし温かみのある顔で頷くように言った。


「うん、そうだね。……優くん────




────うちで暮らしてみないか?」


 評価やアドバイス頂けると嬉しいです。

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