後編 『 通天閣から飛び降りる 』
……「僕には幼稚園の頃からの幼馴染みがおったんや」と、タッちゃんが彼女さんに話した。
「……」
ウチはタッちゃんの言葉を静聴する。
タッちゃんは話を続けた。
タッちゃんは中学二年生までよく一緒にいたことやこの通天閣にも何度も足を運んだことを語った。
彼女さんは幼馴染みは女の子なのかと訊ね、タッちゃんは肯定する。彼女さんは少し不機嫌になった。
――だけど、三年前に交通事故で亡くなったとタッちゃんは言った。
その声は淋しげで、少しだけ震えていた。声を震わせながらも、タッちゃんは言葉を紡いだ。
それからわかったことは、タッちゃんはウチが死んでから今日まで、この通天閣を避けていたらしい。
理由はこの通天閣にはウチとの思い出が沢山あって、居るだけでウチが死んだ現実を突きつけられて辛かったからだそうだ。
しかし、ウチが死んでできた心の傷も時間とともに癒え、彼女もでき、気持ちの整理が出来たから三年振りに通天閣に足を運んだのだ。
そして、タッちゃんは最後に――……。
――初恋だった。
……そう言ってくれた。
「……ほんまにアホやなぁ」
ウチはタッちゃんの後ろで毒づいた。
「……今の彼女に言うことやないやろ……彼女さん不機嫌になっとるやないか」
ウチは毒づきながらも涙を流した。
「……アホっ……アホ大王っ」
充分だった。
ありったけの幸せを貰った。
「……………………けど」
ウチの生きていた十四年間は無駄ではなかった。
タッちゃんがいた。タッちゃんと一緒にいられた。
それだけで意味のある時間であった。
「 ウチも大好きやったよ、タッちゃん 」
ウチはスカートのポケットに入っていた〝もの〟をタッちゃんに投げた。
それは綺麗な弧を描き、タッちゃんの頭にぽかっと当たった。
タッちゃんは周りをキョロキョロと見渡し、足下に落ちていた〝もの〟を拾い上げた。
「 バイバイ、タッちゃん 」
……そして、ウチは展望台から飛び降りた。
……少年は足下に落ちていた〝もの〟を拾い上げ、確認した。
――それは新品の消しゴムであった。
「……?」
少年は首を傾げてその消しゴムのカバーを外す。
……そこには少年の名前があった。
見覚えのあるその文字に少年は絶句する。
驚きも収まらぬまま、少年は消しゴムをひっくり返した。
――お幸せに!
……力強く油性ペンで書かれた文字に少年は思わず笑みを溢した。
――おおきに……。
夜の通天閣。
眼下に広がる忙しない商店街。
……少年は静かにそう呟いたのであった。
これにて当作品は終了です。
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