中編 『 見えない、触れられない 』
(……誰やねん、その子)
……タッちゃんの横には一人の女の子がいて、タッちゃんと親しげに話していた。
(……何でそんなに仲良さそうやねん)
これじゃあ、まるで――……。
(……恋人みたいやないか)
ウチは立ち止まり、その場から動けずにいた。
楽しそうに語らいながら夜の大阪を眺める二人。ウチはそんな二人を見ていることしか出来なかった。
……初恋は実らない。と誰かが言っていた。
(……ほんまやな)
ウチは自嘲気味に笑った。
(……ウチって、ほんまに馬鹿や)
情けないことに涙目になっていた。
もっと早く行動していれば良かった。
もっとはっきりと好意を伝えていれば良かった。
後悔ばかりが頭の中で渦を巻く。
――好き
……たったの二文字をどうして口にすることが出来なかったのであろう。
(……もう消えてしまいたい)
ウチは静かに見晴台へと歩み寄る。
(……だけど、最後までちゃんとやらなあかんな)
ウチは涙を拭って、タッちゃんと彼女さんの前に立った。
(……馬鹿なのはわかっとる……見苦しいのもわかっとる。けど)
だけど、この気持ちを伝えなければウチは前に進めなかった。
「タッちゃんっ……!」
ウチの呼ぶ声にタッちゃんは振り返らない。
「ウチ、タッちゃんのこと大好きや。もう手遅れかもしれへんけど、気持ちだけは伝えたかったんや」
周りに人がいようと関係ない、彼女さんが隣にいようと関係ない。
「……タッちゃん……大好きや」
ウチは振り絞るようにタッちゃんに告白した。
「……」
そんなウチの告白にタッちゃんは――……。
「……………………やっぱり駄目やったか」
……振り向きも返事もしなかった。
「……タッちゃんならもしかしたらって思っていたんやけど、現実は甘くあらへんな」
ウチは俯き、涙を流す。
涙の滴が頬を伝い落ちる。
――しかし、涙は床に落ちる前に消えてしまった。
「……三年」
タッちゃんも彼女さんも他の客も、俯き涙を流すウチを気にも止めない。
「……あと……三年遅かったんや」
――享年、十四歳。
そう、ウチは三年前。
雨の強い昼下がり、スリップした大型トラックに轢かれて。
……死んでしまったんや。
それからウチは未練がましくも、通天閣の展望台に地縛霊として残り続けていた。
(……三年間、タッちゃんが来るのを待っていたんや)
どうせ成仏するなら告白してからが良かったから、三年間、タッちゃんが通天閣まで足を運ぶのを待っていたのだ。
(……届かないんやったら、もう待つ理由もあらへんな)
ウチは諦めて、この通天閣から立ち去ることを決意する。
そのときだ。
……「僕には幼稚園の頃からの幼馴染みがおったんや」と、タッちゃんが彼女さんに話し始めたのであった。