前編 『 初恋は実らない 』
全3話構成です。
10分ぐらいで読み終えられるので、気軽に読んで戴ければと思います。
……ウチは通天閣から飛び降りる気持ちで、幼馴染みのタッちゃんに告白しようと思っていた。
清水寺から飛び降りる。とかいう言葉を聞いたことがあった。
それは確か、何か一大決心して挑むとか、そういうときに使うらしい。
だけど、ウチは京都に行ったことがなかったので清水寺とか聞いてもイマイチピンと来なかった。
だから、ウチにとっての清水寺は通天閣だと思った。
「ずっと前からあんたのことが好きやったんやーーーっ!」
話は戻って、ウチは現在、幼馴染みのタッちゃんに告白する練習をしていた。
ここは通天閣の展望台、観光客や地元の人間がちらほらと見受けられた。
「……うーん、何かロマンチック感が0やなぁ」
そんな人々に構わずウチは独りぶつぶつと呟く。
「もっとしっとりした感じにしたいんやけどなー」
少女漫画とかドラマの告白シーンみたいな感じなのが良かった。
とはいえ、実際に告白するとなると凝れば凝る程に気恥ずかしさが上回ってしまう。
それでも人生最初で最後の初告白、少しぐらいは気取りたいものでもあった。
「たとえば――……」
ウチは考え得る限りのロマンチックな告白を脳内で試行錯誤する。
「十年先、五十年先もタッちゃんの隣でこの景色を見たいねん」
……プロポーズやないか。
「愛してるで、タコヤキよりもお好み焼きよりも」
……ただの食いしん坊やないか。
「あんたはソース、ウチは青海苔、ずっと傍にいてな」
……何でやねん。
ウチは独り髪をわしゃわしゃしながら、自身のセンスの無さに悶えた。
「……はあーーーっ」
ウチは大きな溜め息を吐いて、展望台から恵美須の街並みを見下ろした。
「……」
そこには夕暮れとただただ忙しない街並みがあった。
沢山の人と雑音が行き交う商店街、揚げ物とソースの香りが五感を刺激する。
(……ロマンチックとは程遠いなぁ)
そこにはキラキラは無く、ゴチャゴチャやガチャガチャといったものしかなかった。
しかし、もう少し時間が経って日は沈めば、ロマンチックな景色に一変するのだ。これがまた感動的な景観なのである。
(……昔はよくタッちゃんと一緒に眺めてたんやったっけな)
ウチは夕暮れの恵美須の街並みを見下ろしながら、昔を振り返った。
……タッちゃんとウチは幼稚園からの幼馴染みであった。
ウチは病弱で引っ込み思案でよく一人で遊んでいた。
皆みたいに走ったり、ボールを投げたり出来なかった。そんなことをすれば直ぐに喘息を発作して倒れてしまうからだ。
だから、毎日部屋の隅っこで絵を描いたり、お人形遊びをしていた。
辛くはなかった。
充実もしていなかったけど……。
そんなときにウチに手を差し伸べてくれたのがタッちゃんだった。
タッちゃんはウチの手を引いて色々な場所に連れていってくれた。身体の弱いウチに合わせて、ゆっくりなペースで、ウチの体調を気にかけながら知らないことを沢山教えてくれた。
最初は強引さに戸惑った。
気づけば楽しさばかりが残った。
今では好きになっていた。
……だけど、ウチは引っ込み思案でちゃんと好意を伝えることが出来なかった。
頑張ってやったことといえば、互いの名前を消しゴムに書き合ったりとか、それくらいのことしかしていなかった。
それでも満足していたし、今のままでも充分に幸せだった。
(だけど、ウチはタッちゃんに告白するんや)
その選択に深い意味なんてなかった。ただ、そうしたいと思ったから告白しようと思ったのだ。
日は完全に沈み、
街には明かりが灯り、
光の海が眼下に広がっていた。
……そんなときである。
ーー声が聴こえた。
「ーーっ」
心臓が鼓動した。恋の鼓動だ。
……タッちゃんだった。
タッちゃんが通天閣の展望台に来てくれたのだ。
「タッちゃんっ」
ウチはタッちゃんに歩み寄って、声を掛けようとした。
「 ここがタツキくんのおすすめの場所? 」
……タッちゃんの隣で、知らない女の子が展望台から夜の街並みを見下ろした。