ピザ食って地固まる
「ねぇ、ウルティアさん。トム……さんって喋れないの??」
「えっと……わ、私の能力的には無理……そこまで出来るのは私より上位の魂付きの人くらい。多分、出来そうな人ならデビルブラッドとかに居そう」
「へー」
ふーん。そんなものなんだ。やっぱり、色々と応用出来る能力の悪魔付きがおかしいのか。
それにしても、ウルティアの部屋に招いて貰って美味しいピザ食べてたけど、周りを見ても人形、人形、人形。普通に不気味だ。
「それにしても、この人形さん達かわいいね」
「だよね。言ノ葉さん……というか、こ、ことちゃんって呼んでいい?? 私の事はウルって呼んで」
かわいい……言ノ葉さん。この不気味な人形達の事をかわいいと言うの?????
「うんいいよ。ウルちゃん」
「私の事は??」
「ひぃ……し、静乃さま……」
「さまは要らないよ??」
「静乃……さま……」
ウルはブルブル震えながら、言ノ葉の後ろから、私の様子を伺う。
なんでよ……私、全然怖くないのに。
「ま、良いや。ピザも美味しかったし、ありがとう。トムさん」
「トムさん、美味しかったです」
喋らない人形に向かってそう言うとトムさんはこくこくと嬉しそうに首を振っている。
「うーむ。本当はトムさんにこのチーズたっぷりバジルソースのピザの作り方教えて貰いたかったんだけどなぁ」
なんて、呟くとトムさんはポンと手を叩いて、サラサラと器用に紙に文字を書く。
「え、コレは……レシピ??」
私の反応にトムさんはグッと指を立てる。案外トムさんって結構ノリの良い人らしい。
「ありがとうございます! 覚えて作りますね!! ……と、お礼と言ってはなんですが」
私は手からハンドガンを出して、トムさんに向けるとトムさんはびっくりしたのか、手を前に出して待ったのポーズ。
「大丈夫。私以外の人は痛くないですから」
躊躇なく引き金を引いて、トムさんに弾を当てるとトムさんはそのまま、ただの人形からコック服を着たナイスガイなおじさんに変化した。
「え、……静乃さま。何したの?? トムさんが……」
「言ノ葉、このトムさんに喋れるように力を使って見て」
「え、あ、うん。……寡黙な人形さん。喋って??」
言ノ葉がパァっと光った言霊をトムさんに当てる。するとトムさんはパクパクとして次第に喋れるようになった。
「あれ?? 僕、喋れるよ。なんで??」
「ああ、それは私が他人を操る力を利用して、トムさんの生前の姿になるように見た目の姿形を変化させたんです。見た目に口が出来れば言ノ葉が喋れるように力を使えば喋れるようになるとも思いまして」
前に実験してみたが、何の変哲もない木の葉の見た目を刀に変える事だって出来た。だから、人形の見た目を変化させるのも出来ると思ったんだよね。
正直、これは結構悪どい事にしか使えないなって思って使う日が来ないと思ってたけど、こういう使い方なら使うのはアリかな。
「静乃ちゃんありがとう! 僕のピザのレシピを知りたかったらいつでもウルちゃんの所に来てよ! 僕、いつでも教えるからね!!」
トムさんは久しぶりに生身の身体っぽい見た目にテンションが上がったのか、私と握手したままブンブン手を振る。
「ひっ……静乃さまが私の部屋に……」
「いや、ウルが嫌なら来ないよ」
普通に私の事を怖がってるし、無理はさせたくない。プライベートなのに嫌いな人間とずっと一緒に居るのは流石に可哀想だ。
「で、でもトムさんがこんなに喜んでるし……ありがとう。静乃さま」
「まぁ、見た目を生前の身体に変化させただけだけどね。成仏したらただの人形に戻っちゃうから」
トゥルームーン寮の桐生 颯先輩が力を貸してくれるなら、狐付きの対象を変化させる力で生身の人間にも出来そうだけど。まだ、彼には出会ってないしな。
「分かってますとも! それと言ノ葉ちゃんも僕を喋れるようにしてくれてありがとう!」
「いえ、静乃ちゃんのおかげですよ。……そんなに喜んでくれるなら、私も嬉しいです」
言ノ葉もウルもあんまりにも喜ぶトムさんを見てニコニコしている。
まぁ、こんなに喜ばれるなら、私も嬉しいな。
あれからしばらく入学式前までトムさんにピザ作りを教えてもらう様になり、ウルの部屋に入り浸っていた。
「し、静乃さま。このパフェ食べていいの……??」
「ん? いいよー。試作品だし、聖は絶対食べてくれないし、味見してくれる人欲しいから食べてもらえると助かるかな」
トムさんにピザのレシピを色々教えてもらうついでに、自分が作った料理やデザートをウルに味見して貰っていた。
ウルは食べるのが大好きみたいで、言ノ葉も自分の作ったクッキーやケーキなどを食べてもらってるみたいだ。
聖は私の料理は「何が入ってるか分からない」って嫌味しか言わないしね。本当にあの女、今、思い出してもムカつく。
「なんでウルってそんなに食べるのが好きなの?」
「……私には母とシグマって兄が居る、母は料理があんまり上手じゃなくて、それを見かねた兄が料理覚えて作ってくれた。すっごく美味しい。いつもご飯食べるのが楽しみになった」
「なるほど。それで好きなんだね」
「うん。でも、静乃さまの料理もすっごく美味しい。優しい。初めは怖がってごめんなさい」
「いや、いいよ。私だってウルの立場なら怖がると思うから」
多分、ウルのお母さんは働きながら疲れて作ってたっぽいから、料理の上手さとは別にそれを助けたくてシグマも料理を覚えたんじゃないかな。なんて、なんとなくだけど。
「静乃さま。そんな風に笑ってる方が好き」
「そう? 私、そんなにいつも仏頂面??」
自分的には表情豊かだと思うけど。
「んー。上手く言えない、けど静乃さま、笑ってるってより悪い笑顔してる時多い」
「……え、マジ?? そんなに??」
「うん。正直オーラも相まって怖い」
「んーマジかー。気をつけよ。教えてくれてありがとう」
ウルの頭を撫でると心なしかウルは嬉しそうに綺麗な蒼い瞳を細めた。