夜行列車②
なんで聖がここにと困惑してると、聖は大層不服そうなツラで玉座に座る王様の様な態度で私を見つめる。
「げっ、とはなんですか。げっ、とは」
なんで、めちゃくちゃ怒ってんのよ。コイツ。声からしてかなり不機嫌。理由はさっぱり分からない。
「なんでアンタ、来た訳? 普通に明日、静香達と楽しくワイワイお昼の電車で行けば良かったじゃない」
静香大好き人間の癖になんで今来るんだ。聖。お前、私の事そんなに好きじゃないだろ。
「……静香の事は大好きですが、貴方の監視は私の気持ちとは別です」
「ふーん。あっそ、それなら好きなだけ監視しなさいよ」
ならなんで箱庭の呪いの範囲の力を弱めてくれたのよと言いたいが、どうせ私と離れて静香と一緒に居る為だろうし聞かなくてもいいか。
「あの……」
「ん? 何よ」
「私、あな「静乃さまぁぁ!!!!」
「ごはっ!!!!!!」
聖が何か言いかけた所で私に豆タンクの様にタックルしてくる人物。
「ちょっ、……ちょっと何なのよ……すっごい痛いし……良いタックルじゃない」
というかなんでウルがここに居るの……。
「なんで、私が居るのかって不思議そうにしてる?」
「なんで心を読んでくるのよ」
この車両、自由席だけど深夜だからガラガラだし、ほとんどの人は夜だから指定席や寝台車両に行くのに。(お金ない人はだいたい夜行列車の自由席だけど、わざわざ金持ち学校の近くの駅に行く人も居ないし)
「なんでって静乃さまが居るからだよ?」
「いや、なんで今行くって分かったのよ……」
ウルの少し思案する様な間。言葉に悩んでいる様な表情。ウルってだいたいノータイムで私に言葉を投げ付けて来るのに。ちょっと毎回どもってるけど。
だから珍しく言葉を選んでいるウルに少し違和感を抱いていたのかもしれない。
「そこに静乃さまが居るから……だよ?」
……考えた割りには同じ答え。まぁ、いいか。気にしたって変わりはしないだろうし。
そのまま当然のように私の隣に座って来るウルに、心なしかいつもより鋭い目をしてる聖。
その割りにはウルが来てから、ずっと黙ってるけど。さっき言いかけてた事を言いたいんじゃないかと思って聖を見る。まぁ、向こうも見てるから見つめ合ってる感じになるんだけどね。
「さっき言いかけてた事、言わなくていいの?」
「ええ。大丈夫です。大したことじゃないですから」
「そ、それならいいけど」
なんて言いながら、夜も更けてきたのでお互い睡眠を取ろうと言う話になって瞼を閉じる。
……が、なんとなく隣の気配で目を開けてしまう。ウルは中々眠れないみたいで何処か落ち着きのない様子だった。
「……ウル、眠れない??」
「うん……ちょっと興奮しちゃったせい、かも」
「そ、ならちょっと夜食でも食べてから寝る? お腹いっぱいになれば寝れるかもよ」
「それじゃあ、牛になりますよ」
なんて聖が茶々を入れてくるが、ウルは何やら少し迷ってるような仕草。
「うん。でも、夜食食べる前に、」
そう言って、ウルはドサッと急に私の胸の中に倒れ込んだと思いきや、キラッと光った刃物の切っ先がちらりと見える。
「え、」
「沖田静乃を殺す」
それはいつものウルの喋り方じゃなかった。そして、一瞬冷たい刃が私の心臓を的確に刺し、すぐさま刃物を抜かれる。その瞬間に私の血飛沫を被るウル……いや、ウルの中に誰か別の人間が居るのか、それともこれがウルティア・フルノーツの本性なのか私にはわからずじまいだった。
ウルが立ち上がった拍子に、私の身体はそのまま倒れ込み、自分の血溜まりとなった床に為す術もなく落ちた。
……おかしい。私は悪魔付きだからこの程度刺されたくらいじゃ、死ぬ訳ないのに、何故か意識が遠くなる。
自分の血溜まりが暖かいと感じると同時に身体はどんどん冷たくなってきた。
そんな私を見たウルはにやりと笑い去って行く、聖は静かに怒ったような表情をしていて、直ぐにウルの足と手を雪女付きの力で凍らせて捕まえた。
無力化させたウルから私の方に走ってきて聖は今まで見た事ない様な表情をしていた。
「静乃さん!!」
いつも「あなた」って呼ぶ癖にこういう時は私の名前を呼ぶんだと言いたかったが、喋る気力すらもなかった。
……ああ。なんか知らんけど、私、本当にここで死ぬんだとぼんやり思った。
自分のお店持ちたかったし、自分の料理を美味しそうに食べる客も見たかった。そして何より、この女……聖がやっと私の料理を美味しいってなんだかんだ言いながらも食べてくれるようになったのに。
なんて最後の最期にそんな事を後悔する。
ああ……本当に、転生人生のチャンスも貰えたのに。こんなに呆気なく死ぬなんて勿体ないな。私。