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悪夢 ‐聖side‐

 寮で沖田静乃と同室で暮らす事になった時から、私の不眠は始まった。

 静乃さんと同室になった初日の日の夜、彼女は脂汗をかく程、うなされていた。


「……はぁっ」


 苦しそうに何度も何度もうなされている。

 だけど、私は静乃さんが、悪魔付きが悪夢にうなされる呪いがかかっている事を白雪一族の人間だから知っていた。


 悪魔付きに対抗する為に代々受け継がれてきた箱庭の呪いをかけるのだから、自分と一緒に道連れに殺す悪魔付きの事は知ってて当然だった。


 だから、放っておこう。彼女は静香の事を忌み嫌っている。疎ましいと思っている人間だ。静香の沖田静乃を想う気持ちも知らない癖に。だから苦しめば良い。そう思っていた。


 ……だけど、私は苦しんでるこの人をずっと見過ごしていれば、静香に酷い事を言ったこの人と同じになってしまう。

 それに……彼女が「悪魔の性格」の方じゃなかったら、私は……。


 幼少期に静香と一緒に佐藤夫婦の元に訪ねた時に会った沖田静乃は確実に悪魔の方の性格だったと言えた。下等な人間を見下す様な眼、会うなり「消えろ」と能力を使ってまで静香との距離を取ろうとしていた。


 多分、静香の浄化の力を使われたら一瞬で自分が消し炭になるのを知っているからだろう。

 あの時の沖田静乃は悪魔の方だと静香への距離の取り方で確信を持った。


 だけど、今日の静乃さんは? 本当に悪魔の方なのか?


 そう思う程、警戒心がゼロで私に易々と背後を取られていた。その後に馬乗りになった時も痛そうに顔を歪めていたし、流石にやり過ぎたと心の中で反省した。

 いくら疑わしいからと、乱暴にするべきではなかった、と。


 それに悪魔の方の性格が悪夢にうなされる訳が無い……と思う。だって悪魔なのだから、そんな悪夢は必要ない。


「仕方ない」


 私は彼女の頭に手をかざす。そして箱庭の呪いの力で精神の共有して、彼女の悪夢の半分を貰って負担を減らし、私も眠る。


 その日の夜、やはり私も悪夢を見た。沖田静乃……彼女を殺そうとする夢。多分これは悪夢を半分貰ったペナルティだろう。


 何度も何度も雪女付きの能力で出した氷の剣で彼女を滅多刺しにしても彼女は悪魔付きだから死なない。

 身体は血だらけで、傷だらけで、痛みを悪魔付きの能力で抑えながらもボロボロで笑うだけで無抵抗の彼女を指す夢。


 彼女は私に「気の済むまで刺せばいいよ」と言って笑う。


 後味が悪くて、いつもの私なら早寝早起きなのに彼女よりもかなり遅く起きてしまった。

 私は彼女が来てから、毎日静乃さんの悪夢の負担を減らす為に精神の共有をして、貰って、静乃さんを刺す夢を見た。そして、早起きが苦手になった。


 静香からは「聖ちゃんはお姉さまが来てから、朝起きるのが遅くなったね」と言われたが。

 多分、静香は私が静乃さんに甘えていると思っているんだろうな。そんな事はないのに。






 それからしばらくして、気が動転したような様子の静香から滅多刺しにされてボロボロの静乃さんが医務室に居ると知らされた。


 正直慌てて医務室に行って、静乃さんを確認した。

 あの夢の中の静乃さんみたいに滅多刺しにされてボロボロで痛々しい傷だらけ。


 やったのは自分じゃないのにとんでもない罪悪感に襲われた。


 その後から天堂さんから幽霊騒ぎの事を聞いたがほとんど解決したのは静乃さんだと言う。すぐには信じられなかったが、悪魔の方ではないこの彼女ならそういうアイディアを出すかもしれないと思った。


 怪我した静乃さんを自分のくだらない意地を張って置いて学校に行ったが、やはり来るべきではなかったと罪悪感に苛まれた。


 その事は静香にはお見通しみたいで静香から次の日に学校にしばらく行かないと静香に伝えると「お姉さまの事、よろしくお願いするね」と返事が直ぐに来た。


 彼女にどうしてそんなに優しいのかと聞かれて、初日からあなたを疑った罪悪感と悪夢の中であなたを殺そうとする夢を何度も見たからです。


 なんて言えずについ咄嗟に病弱な母親が居ると嘘をついてしまった。ちなみに母は病弱ではなく、元気だ。こんな嘘をついたと言ったら、母は多分、私がこんな嘘をつくなんてと笑うだろう。


 それから時が経ち、静乃さんは能力が使える程度に回復した。

 本当に良かったと安堵する……が、それでも自分の毎日夢で見る悪夢と自分が彼女にした罪悪感は晴れる事はなかった。









「静乃さん。こんな所で何やってるんですか?」


 私のベッドの横で悪夢にうなされながら、眠っている静乃さん。おそらく私を付きっきりで看病してくれたのだろう。そのおかげか知らないが、熱も引いてる。


「んっ……はぁっ……ラーメン……冷やし中華……悩む……」

「……うなされながら、なんの夢見てるんですか。静乃さんは」


 普通、悪夢を見てる時に言う寝言じゃないと思うのだけれど、とこの人から悪夢を半分貰う時に毎度毎度思う。


「だいたい、そんな所で寝てたら今度はあなたが風邪引きますよ」


 なんて言っても、この人はだいたい朝の決まった時間まで起きない人なので、とりあえず抱えてベッドに寝かせる。(というか抱き抱えて横にして転がしたけど、それでも起きない)


「こんなに雑に扱っても起きないなんて……」


 はぁ、と深いため息が出る。それに今から自分の布団を敷くのもめんどくさい。


「一緒に寝るか」


 静香が私の誕生日にプレゼントしてくれた大きなクマのぬいぐるみを抱き枕にしていつもは寝るのだが、このベッドに人間が二人居ては置くスペースがない。


 ……悪いけど、静乃さんにはいつものぬいぐるみの代わりに抱き枕になってもらおう。そうじゃないと私が寝られない。


 などと思い、静乃さんを抱きしめて瞼を閉じる……が、その……静乃さんの胸が大きいからあまり触らない様にしよう。流石に触ってしまったら、いくら女同士とはいえセクハラだ。


「布団敷けば良かったな……」


 なんて後悔しつつも、いつも通り静乃さんから半分悪夢を請け負い、なんとなく静乃さんの体温が心地好くていつもよりもすんなりと眠れてしまったのだった。

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