悪魔付きの本
「なんで、私まで……」
すっごい嫌そうな声の聖。だが仕方ない。だって私は頭数が欲しかったのだから。
「仕方ないでしょ。手伝う人が居ないって言うんだから、それに聖は部屋で暇そうにしてたし、ボランティアくらいいいじゃない」
「暇にしていた訳ではないですよ」
「……静香が他のボランティアに出てるのに?」
「……早くしましょうか」
美純と銀に頼んだものの、他にも人手が欲しいなと思い静香に聞いてみると、静香は言ノ葉と同じボランティアに参加すると言う事でダメだった。というか流石主人公で聖女付き。私がサポートしなくても自主的にボランティアとかイベントをやっていく。
ちなみに聖はその静香がボランティアに参加するなんて知らなかったみたいで普通に休日は静香と一緒に過ごす予定にしようとしていたみたいだった。
私はその事を聖に伝えると直ぐに静香に連絡取って確認してたけど。……ま、静香がボランティアに出てるんだから、アンタも出なさいよと強引に誘って、先生にも聖が追加で手伝うと伝えて逃げ場も無くすと、仕方なく渋々にという感じで一緒に来てくれた。
「……はぁ」
「はいはい。本当は静香と同じボランティアが良かったですね。ごめんね。私で」
「……あなたが連れて来たんじゃないですか」
なんて恨み言を言いつつも聖はちゃんと、仕事をやる女なので、もう字が読めないくらい傷んでいる本や本のページが一部破れている本等をテキパキと仕分けていく。
そう。この本の仕分けは図書館の規模がデカいし、整理だけでも大変で人数が凄く要る。ちなみに傷んでいる本やページが破れていたりする本を仕分けるのは修復目的だ。
だいたいの物にも憑き物が付いていて、その物が傷んだ本が修復出来るらしい。魔法が使える世界なら憑き物が魔法みたいなものかなと一人勝手に納得する。
まぁ、司書さん達も本が返ってきた時点で傷んでいるなと思ってたら修復すりゃあいいのに、なんてちょっと思ったけどよく良く考えればこんなに広い図書館で一日に結構な数返ってくるのに全部中身なんて見ていられないかと納得する。
それにほとんどは本は返却されたら、司書さんが可能な限り中身を確認してから、図書カードに戻し印を押すと瞬間移動で本が元の場所に戻る憑き物が憑いてる。つまり修復は修復専属の憑き物に見せれば勝手に直っているという事だ。
修復したら中身を再確認して、戻し印を押したり、修復が必要な本を確認して整理したりするのが私達の仕事だ。
「……大変だなぁ。ちょっと目薬差してくるよ」
「まぁ、目が疲れるのもそうだよね。自分で手伝ってくれって言ったけど、私も眼精疲労がやばい」
私も美純みたいに目薬差そうかな。目が凄いしばしばする。
「それにしても……」
「ん? どうしたんだい??」
「いや、渋々来た聖とその場に居たから私に巻き込まれた銀が意外とスムーズに仕事進めてるなって」
いい笑顔で銀が私達の方を振り向くが、私的には本当に意外だった。銀と聖の二人、こういう作業仕事を効率よく進めるのが上手い。
「ふふっ。私はよく、レディ達の委員会のお手伝いとかしてるからね」
「へー。銀って本当に優しいんだね」
「君にも優しいじゃないか、麗しの君」
「……ちょっとイラッとはしたけど、手伝って貰って助かってるのも事実だし。今日は許す」
私一人だったら、地味に苦労してたと思うし。美純の罪滅ぼしに手伝えって言うのも実は方便だし。
まぁ、それにしてもここの図書館は凄い。銀や聖は要領が良いというのもあれど、私と美純みたいに集中力が途切れたら他の本を読んだりしてリフレッシュ等せずにやっているからってのもありそう。私、たまにレシピ本見てるしね。
「あれ? ……なんだこの本」
真っ黒な背表紙にタイトルも何も書かれていない。こんな本まで誰か借りて見ているのかと思う。返却済みの本に対してそう思うのは当たり前だと思うが。
とりあえず、なんだろうと中をパラパラと捲ってみると、悪魔付きについて色々書かれていた。
読むと悪魔付きの能力は代々取り付く悪魔が違っていて、その取り憑かれた悪魔にも人格がある……らしいという事だった。
そして、その悪魔に身体を乗っ取られてしまった悪魔付きも居ると。
「人格……乗っ取り……」
人格がある……という事は少し心当たりがあるかもしれない。私がもしかしたらその悪魔の方の人格かもしれないという事だ。
だって、私の中に居るはずの悪魔の人格が居ないし、本当に私は静乃として転生したのだろうかと疑問は常々あった。
ゲームの静乃の性格は変わっていないし、私の記憶的にも間違えはない。ただ私が転生したせいで今までの静乃の記憶が他人事の様に思っていた事が、私が悪魔の方の人格で静乃の身体を乗っ取ったから他人事の様に感じているのか、それは私にもどっちなのかは判別がつかない。
「本当に、……分からないな」
「……何か言いましたか?」
「ん? いや、何にも言ってないよ」
反射的に聖に平静を装って返事をするも、少しいつもよりおかしかったかもしれない。
「ねぇ、梶さん。この本読める??」
「うん? なになに。……レシピ本かぁ。読めるけど、私にはこの料理難しいかも」
「そっかぁ。ありがとう」
と、美純は苦笑いをしていたが、なるほどと納得する。他人には真っ黒な背表紙のこの本がレシピ本に見えたという事はこの本はもしかして悪魔付きの人間しか読めない本なのかもしれない。
悪魔付きしか読めない本がどうしてここの図書館に有るのだろうという疑問やどうして誰かが借りた後なのかという疑問はあるが、私はこの日を境に本当に自分が本当の沖田静乃の人格なのか疑いを持つ様になったのであった。




