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美純の部屋

 美純の様子を伺いにホワイトナイト寮まで来てみる。本当は言ノ葉にも来て欲しかったが、昨日先生から頼まれていたお手伝いでゴミ拾いのボランティアに駆り出されていて部屋に居なかった。


 人が足りないからって各寮の断りそうにない人……もとい、優しい生徒に先生達が声を掛けていたみたいだった。


 ホワイトナイト寮や一般生徒の多いトゥルームーン寮なら簡単にボランティアをしてくれる生徒が居そうだが、デビルブラッド寮は特にそんな人間希少種だからね。先生が言ノ葉に目を付けるのは分かる気がする。


 ……まぁ、私はデビルブラッド寮の医務室の先生に「お前、来週の土曜日にボランティアに興味無いか?」って声掛けられたんだけどね。下手にお世話になってるからって言うのと、先生の圧で断れなくて来週の土曜日の予定が潰れてしまったんだけど。


「あの、梶 美純さんは居ますか??」


 一応他寮なので、一階で庭の掃除をしていた寮母さんに聞いてみる。


「梶さん? 梶さんなら、出て行った様子ないから部屋に居るんじゃない??」

「なるほど。わかりました。教えてくれてありがとうございます」


 お礼を言い、一年生なので下の階から端から総当りで美純の部屋を探す。いや、マジで他寮だから総当りじゃないと分からないんだよね。


 あいうえお順とかなら良いんだけど、そうでも無いし。そして、運良く静香の部屋もついでに見つけられないかな?? 今度こそ連絡先交換してやる。


「おや。美しい人じゃないか?」

「ゲッ、……天堂さん」

「久しぶりに再開して、ゲッとは流石に傷つくな。ところで何をしているのかな?」


 銀は相変わらずにキラキラとお花を背負って登場してくる。眩しいし、ノリがめんどく……いや、苦手だ。


「ああ、私、今、梶さんの部屋を探していて……」

「美純かい?」

「部屋を知っているの?」

「ああ、美純とは同じクラスだからね」


 なるほど。それで呼び捨てなのか。銀にしては呼び捨てとか珍しいと思ってたし。


「教えてくれないかな? 私、美純の様子見たくて」

「良いよ。美しい人」

「その呼び方辞めてくれない?」

「じゃあ、静乃ちゃん? 私の事も名前で呼んで欲しいかな?」

「……それでいいわ。じゃあ、銀」

「ふふっ。いいね。君にそう呼ばれるの」


 嬉しそうに笑って銀は私に美純は部屋を案内してくれた。


 まぁ、銀ってゲームしてる時にそう呼んでたから呼び慣れてたし、銀の呼び名変更の申し出は嬉しかったかな。いつかボロ出そうだったし、銀も本当に嬉しそうだし。


 しばらくして、美純の部屋に着くと呼び鈴を鳴らし、直ぐに美純が出てきた。


「やぁ! 美純、元気かい??」

「ゲッ、銀」

「ゲッとは本当に傷つくな……本日二回目だよ」


 あ、やっぱり。銀に好感がそこまでない人にはそんな反応なんだ。


「……と、沖田さん」

「あ、うん。元気? ……って、あの時は梶さん、悪霊に乗っ取られてたから覚えてるか分かんないけど」

「えっと、二人とも中に入って話そう?」


 美純に部屋に招き入れてもらい、美純の部屋を眺めてみるとわりと猫グッズが多い。案外、かわいいものが好きなのかな。


「にゃあ」

「あ、」


 あの時、静香と裏庭で会った時に居た黒猫だ。どうしてこんな所に。


「るーちゃんと知り合い?」

「るーちゃん?」

「うん。この猫の名前。なんか寮に居たら懐かれちゃって飼ってるんだ」

「へー。私はこの子とは私の部屋で初めて会ったんだ。なんか着いてきてて」

「そうなんだね。るーちゃん、多分沖田さんが食べ物の匂いしてるから懐いてるんだと思う」

「へ?」

「あー、沖田さんって食堂でお手伝いとか良くしてるでしょ? 言ノ葉もその理由で凄く懐かれてるから……るーちゃん、食べる事が大好きで」

「あーなるほど。それで……」


 聖には全く懐かなかったのか。聖、食べ物の匂いしないし、どちらかと言うと食べ物にテキトーだし。


 ……聖、るーちゃんは他の動物と違ってそんな理由だから今度は食べ物でもあげたら懐いてくれると思うわ。


「それで私にはひたすら引っ掻いてくるんだね」


 るーちゃんが威嚇しながら銀を引っ掻き回しているが、銀は笑顔で「痛い痛い」とじゃれているつもりだ。傍目から見るとめちゃくちゃ嫌われていると思うけど。


「残念だけど、るーちゃん、銀の事は素で嫌いだから」

「ええっ!! どうしてだい?? こんなに可愛がっているのに」


 鬼付きの力で引っ掻かれたところを治しながら、るーちゃんを撫で回している。相変わらず引っ掻かれてるけど。


「いや、そんなんだからだよ」


 美純は呆れ顔をしながら、るーちゃんが嫌がっているしっぽに触ったりと確かに露骨にるーちゃんが嫌な所を撫で回している銀を見ている。そりゃあ嫌われるわ。


「話に戻るけど……」

「あ、うん。私は沖田さんの事覚えてるよ。……悪霊に乗っ取られてたけど記憶はあるんだ」


 申し訳なさそうに美純は私の方を見つめた。


「そっか」

「うん……あの時はごめんね。……サーベルで銀も沖田さんも刺した時の感覚が鮮明に濃厚に残ってる」

「でも、それをやったのは君じゃないんだから気にしないでくれよ」


 るーちゃんに引っ掻かれて軽く血だらけな銀に言われても少し説得力は欠けるがその通りだと思うけど。


「私もそう思う。……梶さんは悪くない」

「……そう、言われても身体を乗っ取られたのは私の失態。それに桐生先輩に私の事を頼んでくれたのは沖田さんなんでしょう?」

「なんで……ってそうか桐生先輩」


 あの人なら、豚汁飲みたくて素早く言いたい事だけ言って帰って来た感あったからそうかもしれない。


「うん。桐生先輩がそう言って「豚汁が待ってるから」ってお礼も言わせてくれなかったから、代わりに沖田さんが言ってくれる?」


 困ったように笑う美純。それにこの子は責任感が強くて真面目だ。……本当にホワイトナイト寮の子だな。私とは違って。


「分かった。どうせあの人、食堂に来るだろうしその時に言っとくね」

「後、本当にありがとうね。沖田さん。銀。本当はどう謝れば良いんだろうって思ったけど沖田さんも銀も私の謝罪は受け取ってくれそうにないし」

「そうだね。私は受け取らないね」

「私もだよ」


 それでもまだ申し訳なさそうにしている美純を見ていると、なんとなく美純にもスッキリして貰いたくて提案をしてしまった。


「まぁ、どうしても謝りたいって言うなら来週の土曜日は私に時間をくれない?」

「時間を? いいよ」

「私もあげるよ。美しい静乃ちゃん」


 なんかムカついたので、無言で銀にハンドガンを向ける。


「ごめんごめん」

「じゃあ、銀も一緒でいいわ。どうせ人が欲しかったし」

「「人が欲しい??」」


 まぁ、美純の罪滅ぼしには持ってこいだよね。正直困ってたんだよ。


「来週の土曜日、図書館で傷んだ本の区分けのボランティア。ちなみに私は半ば強制的に参加だから」


 死んだ魚の目をして美純と銀に伝えると、二人とも顔を見合わせてボランティアという言葉に何かを察した顔をした。

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