佐藤夫婦と静乃
「静乃さん、ご飯もう出来てますよ」
そう言って朝ご飯を用意してくれている人は佐藤カネさん。私を引き取ってここまで育ててくれた母のようなおばあちゃんだ。
「おはようございます。……いつもありがとうございます。いただきます」
私の朝食を並べているカネさんにそう言うと、カネさんは目を丸くした。
まぁ、その反応は当然だろう。普段からの静乃は黙って食べて、黙って自室へ帰って行くのだから。
「……どうしたんですか??」
わざと惚けてカネさんの様子を伺うと「い、いえ」と謙遜して、一緒にご飯を食べた。
変に質問して私の気を障るのが怖いのだろうか。まぁ、普通に考えても急に普通に挨拶してくる私は怖いだろうなぁ。
なんて言いつつも、今日はコロッケパンとコーンスープだ。コーンスープの匂いとコロッケの匂い。うん。凄く美味しそう。
「こ、このコロッケパン!!!!!! すっごく美味しいですね!!!!!!」
えっ、めっちゃ美味い!!? 私の家の定食屋でもこんな美味しいサクサク衣のコロッケは作れなかったよ!!!!!! うちの店は質より量って感じだったけど。
「えっ……?????」
あ、やってしまった。静乃は実にクールな女。こんな感情豊かな女ではない。
「あ、あの。本当はいつもいつもそう思ってたんです」
咄嗟にフォローしたものの。なんだ。このフォロー。下手くそか。
なんて、恥ずかしそうにモジモジしている私なんて大層変にしか見えない。だって昨日まではクソクールな女だったんだもの。
「ふ、ふっふふ」
「えっ?????」
「あははは。……静乃さんからそう言われるなんて、なんか静乃さんが小さい時を思い出しました」
カネさんは心底可笑しそうに笑う。静乃の小さい頃、確かにそうかもしれない。
小さい頃は天使のように可愛いと言われていたしなぁ。
「じ、実は小さい頃の夢を見て懐かしいなと」
これは違和感のない会話。完璧でしょう。
「ふふっ。なるほど。さ、静乃さん。まだコロッケパンはありますよ」
なんて、遠慮なくコロッケパンのおかわりをもらっているとこの家の主、道夫さんもやってきた。
「おやおや、静乃さんがが笑っているなんて珍しい」
微笑みながら、食卓に着く道夫さん。どうやら、私も微笑んでいるのを見てなんとなく察してくれたみたいだ。
「こうして皆で食卓を囲んでいると、小さい頃に戻ったみたいですね」
私ではないが、静乃はこんな穏やかな人達と過ごせてとても幸せだったのだろう。
「……これからも皆で楽しく食卓を囲みたいです」
何となく、そう思った。私の家族はこんなに穏やかな人達ではなくもっと騒がしかったけど、こういう雰囲気も良いな。
「ふふっ。そうだね。……うん。僕達も静乃さんは変わってなかったのに、態度を変えてしまって悪かったね」
「……お義父さん」
「そうね。私も悪かったです。でも、これからは違いますよ! それにこのコロッケパンが好きなら作り方とかも教えますよ」
力こぶを作ってにっこりとするカネさん。静乃も早くこうやって二人とは早く打ち解けたかったのではないかと勝手に思ってしまった。
なんて、じんわりとしていたら普通にコロッケパンを食べ終わってしまった。
「お義母さん。コロッケパン……おかわりください」
「ふふふ。静乃さんは作るより食べる方が好きみたいですね」
「いえ! 出来るならお義母さんの料理、覚えたいです!」
そう。私はなんだかんだ。前職は定食屋で働いてたクソゲーマーだったし、今世はクソゲーの乙女ゲームに生まれ変わったけど、ここの世界は世界観が洋風だけど名前は和風、食べ物も前世で住んでいた日本と同じみたいだ。
そういや、世界観めちゃくちゃ過ぎてクソとかも言われてたな。
だけどそれなら、それでいいや。前世の夢が実家の食堂を継ぐだったし、今世は是非とも死亡フラグを回避し、自分の定食屋を作るぞー!!
そうやって改めて決意した私は昔みたいに穏やかに暮らし、しばらくして妖付きの学校に入学して、寮生活になる事をすっかり忘れていた。