黒猫の導き
「……なんか居るのですが」
「えー。黒猫かわいくない??」
聖は苦手なモノを見るような瞳で私と戯れている黒猫の事を様子を伺うように見ていた。
「だいたいなんで、黒猫がこんな所までに来ているんですか」
「……さぁ? なんか私、懐かれてるみたい」
黒猫の身体を撫で回していると、黒猫は気持ち良さげに鳴いた。
なんでこんなに懐かれているのかはさすがに知らないし、部屋にも勝手に入り込んできた。私はこの子が着いてきてる事を知らなかったし。
「にゃー」
ひと鳴きして、私の手からすり抜け聖にすりすりと身体を擦り付ける。
「……っ」
「聖は猫が苦手なの?」
なんとなく聞いてみると、聖は観念するようなため息をついた。
「苦手ではないです。むしろ逆なんですよ」
聖は黒猫をそっと抱き抱えようとすると、黒猫は私の所に飛びつく。成り行きでそのまま黒猫を抱き抱えた。
「ほら、好きなんですけど私が触ろうとするとすぐにこれなんです」
「あー。触らせてくれないのね」
「はい。好きなんですけどね」
少しがっかりした様な表情で聖は私に大人しく抱かれている黒猫をじっと見つめていた。
へー。猫が好きなんて意外。なんて思ってないんだけどね。顔に似合わずかわいいものが好きっぽいし。
数日後、またあの黒猫を見た。見た場所は人気の少ない学校の裏庭。
何してんだろう。あの黒猫。
なんて思っていたら、ベンチで座って居た私の方を目掛けて膝に飛び乗ってきた。
「にゃ〜」
「お前は私を全然怖がらないね。変なオーラ出てるらしいのに」
まぁ、動物には何故だか好かれるんだよねぇ。なんでだろ。なんて黒猫を撫でていたら、誰が入ってきた。
「珍しい……私が居る時って余計に誰も来ないのにって……」
「お姉さま……」
「静香」
静香が入ってきた。今まで聖のせいて全然会わなかったのに。
「にゃ〜」
「あっ……!」
私の膝から飛び降りて、黒猫は静香の方に行ってしまった。
「ふふっ。よしよし」
静香に身体を擦り寄せる黒猫を抱き抱えて、静香は私の隣に座った。
「お姉さま、えっと、お久しぶりですね」
「え、ええ。そうね」
なんか気まずい。静乃の記憶的に静香に酷い事言ってから会ってないし。
「あ、……この猫、誰かが飼っているみたいですね」
「え? 本当に??」
静香が黒猫の黒い首輪を見せてくれた。
「……真っ黒だったから全く気づかなかった」
「ええ、こんなに黒いと案外気付かないものですね。柄もないですし」
「「ふ……ふふっ」」
お互い、全然気づかなかったことに対してなんか面白くなって笑ってしまった。
そこからなんとなくお互い、色々と話し始めた。
「そーいや、静香は最近どうしてるの??」
「最近ですか? 聖ちゃんと遊んだりご飯食べたり、同じ寮の銀さまに勉強を教えて貰っていたりしてますよ。銀さまの名前を出すと聖ちゃんは不機嫌になりますけど」
困ったように笑う静香。私的に銀に嫉妬してるのではとは思うけど。アイツ、静香の事好きだし。
それに銀は女だけど静香が攻略出来る攻略対象だしね。そりゃあ、聖だって不安にもなるか。
「へー。聖は私には冷たいのに。静香の前だと表情豊かね」
「そうなのですか?? 聖ちゃんはお姉さまの事、まだよく思っていないのですね」
「ううん。私のやった事を無理に許さなくていいよ。嫌な事とかやっちゃってるし」
「お姉さま……」
「ま、今日は静香と喋れて良かったよ。これも全部この子のお陰だね」
「ふふっ。そうですね」
黒猫は欠伸をして私達にひと鳴きし、私達の元から去った。まるであの黒猫にまたねと言われた気持ちになった。
それにしても、そうか。静香は攻略対象全員に会ってる訳じゃないし、会ってるのは同じ寮の銀くらいか。
ホワイトナイト寮のギルバートにも会ってないみたいだし。
もしかしてこのルートはハーレムルートではない??
ハーレムルートなら今の時点で攻略対象全員と会ってないはおかしいし。とりあえず、静香には定期的に聖をかいくぐって、会っておきたい。
「ねぇ、静香。静香って確か料理作るのって好きでしょ??」
なので、静香に食堂のお手伝いを一緒にやろうと誘ってみた。
これなら、料理の「りょ」の字も興味の無い聖は来ないよね。私から誘ったってバレたらめんどくさそうだけども。