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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【完結済短編】異世界恋愛・ハイファンタジー

【短編】勇者パーティの荷物持ち、発現したスキル【脱力】のせいで追放される〜敵も味方も立っていられない戦場を作り上げる無双スキルで最強に至る、今更パーティになんて戻れるか〜

作者: 真波潜

これは、ハイファンが書きたくなったものの現在連載する余裕が無いので、短編でキリが良いところまで書いたものです。ご了承の上お読みください。

「お、エインのレベル10になったじゃん。スキル出たろ?」


 勇者パーティの荷物持ちとして王都を出発して5日。非戦闘員だが、パーティに入れてくれているので、おこぼれながら経験値をもらっていたら、いつの間にかレベル10になっていたらしい。


 俺はエイン。城の小間使いの下っ端で、見た目の割に力があり、年若い勇者一行と同じ年代だからという理由で城から追い出された16歳だ。


 瘴気の濃くなった各所を巡る勇者パーティは、この国の冒険者の中で一番ランクの高い『月の大狼(ムーンフェンリル)』というパーティだ。


 剣士のダニエルがリーダーで、黒魔法使いのミラ、僧侶のフィオナ、盾役のジーク、そして荷物持ちの俺で構成されている。


 みんなの平均レベルはとっくに40を超えているし、レベル差から俺に入ってくる経験値は微々たるものだったが、レベルが10上がればこの世界ではスキルが1つ発現する。


 それも、その職業にあったスキルだ。


 荷物持ちの俺に期待できるスキルは、狙った所に正確にアイテムを投げられる【アイテム投げ】、素材から薬や武器、防具を作れる【調合】、超当たりなら無限に永久保存の効く空間を作れる【アイテムイベントリ】だ。みんな俺によくしてくれてるし、俺もなるべく役に立つスキルが出ていて欲しいと思う。


 そう思いながら自分のステータスを開いたら……なんだ、このスキルは。【脱力】って……何? 初めて見たんだけど……。


「なんのスキルだったのですか?」


 フィオナが期待を込めた目で見てくる。白いローブがよく似合う金髪のおっとりとした可愛らしい僧侶は、メイスを握って首を傾げている。


「だいじょーぶだいじょーぶ! あんた荷物持ちでしっかりアタシたちについてこれてるんだから、絶対いいスキルだって!」


 笑いながら背中を叩いてくるのが、露出の高い黒い装備に大きな帽子のミラ。


 寡黙なジークも、明るく優しいダニエルも期待を込めて俺の言葉を待っている。別に荷物持ちとして何か悪いことじゃないし、……少し戸惑ってから、俺は言った。


「【脱力】ってスキルだった。アイテム関連じゃなくてごめん……」


 本当、スキルを見て俺の方が【脱力】したよ。


 スキル説明を見ても『効果範囲にいる対象を心身ともに脱力させる』としか書いてない。なんだよ、マッサージでもしろって? 夜みんなをよく寝かせてやれるとか?


 なんとか役に立つ使用方法を考えていたけど、ダニエルたちの顔が真顔になってこっちを見ている。


 え、何? 何か悪いこと言った? スキルなんてランダムだし……、俺今だって役に立ってるよ、な?


「悪いけどエイン……、ここで君とはお別れだ。貴重な経験値を分けていたのは、今後ついてきてくれる君がもっと役に立ってくれると思ったからだ」


「脱力って……脱力させてどうすんのよ? それで敵が死んでくれるわけじゃないし、危なっかしくて連れてけないわ」


「……もう少しで町がありますから、そこまではお送りします。でも、そこで別の方を雇うことにしますね」


「…………荷物はもう持たなくていい。俺が担ぐ」


 みんなそれぞれの言葉を述べて、ジークに荷物も取り上げられて、目の前の町まで……開きっぱなしのステータス画面には、パーティを外された表示が現れた。


 パーティリーダーはパーティのメンツのレベルと名前が見えるが、基本的に自分のステータスは自分でしか見れない。


 俺は、今、レベル10の無職のエインになった。持ってるスキルは【脱力】だけ……装備は布の服と、護身用の短剣だけだ。


 とぼとぼとみんなの後ろをついていき、町の入り口で路銀を渡された。ここまでの報酬……銀貨5枚に銅貨が10枚。一晩泊まって飯を食って、乗り合い馬車で王都に戻る金額だ。


「じゃあな、エイン。……悪いけど、アイテムスキルの無い荷物持ちを守りながら戦うのは、俺らも気が乗らない」


「死んじゃったら寝覚も悪いしね。恨むならアンタのスキルを恨みな」


「お元気で」


「気を付けて帰れよ」


 勝手に別れの言葉を言われて去っていく。待って、と言う暇もない。


 腹がたった。俺は13歳の時から馬屋の下働きから初めて、やっと城内の下働きになって……それを辞めてついてきたのに。


 荷物持ちだってまだできる。体力には自信がある。


 なのに、たったこれだけの路銀で、1個目のスキルがどう見てもハズレだったからって……、追放されるなんて!


「くそっ……! くっそぉぉ!!」


 俺は町には入らなかった。夕暮れの草原に向かって走り出す。


 日が落ちてからのフィールドは魔物の縄張りだ。昼間より魔物の力が強くなり、その分貰える経験値も増える。


 勇者パーティは40以上のレベルでも昼間しか行軍しなかった。つまり、彼らでも夜は危険だ。だから俺は町まで送ってもらったわけだ。


 でも今は、もうどうでもよかった。このままじゃ、王都に戻ったってロクな仕事にもつけやしない。そのうちのたれ死んで終わりだ。


 それなら。【脱力】ってやつ、試してみようじゃねーかよ! 最後にどれだけ自分が使えないやつか、自分で確かめて死んでやる!


 日が落ちて、自分の居場所もわからない平原の中、赤い目がいくつも光る。ラージウルフの縄張りに入ったらしい。10〜20頭で群れるこいつら相手は、昼でも勇者パーティが少し足止めを食らうくらいだった。とにかく数と連携が厄介なのだ。


 泣きながら走ってきた俺は、乱暴に涙を拭って短剣を構える。魔物と戦った事なんてない。足が震える。


 グルル、と喉を鳴らすラージウルフたちが、だんだんと俺を取り囲み距離を詰めてくる。


 へたらりこみそうになりながら、どうせ野垂れ死ぬか、やけっぱちになって死ぬかのどちらかだと腹を決めて、俺はやっぱり町中で情けなく野垂れ死ぬのは嫌だと思った。


「くそぉ! ……【脱力】!」


 脱力したからどうなるかなんて知るか! とばかりに大声で叫んでスキルを使うと、自分の足元から段々と草が萎れていく。


 その範囲は声が届いた範囲だろうか。ラージウルフたちが情けない声をあげてバタバタと倒れていった。


「へ……?」


 動いてる魔物の気配がないのを確認してから、おそるおそる近づいてみる。生きてはいるが、体に力も入らず、四肢を投げ出してピクピク震えている。力が入らないし、立つ気力も、狼としての誇りも保てないらしい。


(い、今ならもしかして、狩り放題なんじゃないか?)


 俺はステータスを開いてスキルの持続時間を確かめた。あと20分程のカウンターが、少しずつ目減りしていく。


 俺は慌てて近くに転がっている無抵抗のラージウルフの急所を切って切って切りまくった。経験値がどんどん入ってくる。レベル10だったのが、すぐに20を超えて、35まであがった。


 時間内になんとか全部のラージウルフを倒したら、スキルが2つ増えていた。モンスターの死骸をその場で素材に分解できる【素材加工】と、あの超大当たりの【アイテムイベントリ】だ!


 【脱力】最高じゃん! 俺は喜んでラージウルフたちをスキルで素材にし、アイテムイベントリに放り込んでいった。鼻歌混じりだったと思う。ちなみに魔物を倒すとお金が落ちる。どんな仕組みかは分からないが、ラージウルフ一体につき銀貨30枚は手に入った。


 これだけあれば、もっといい装備も揃えられる。勇者パーティに戻れるかもしれない。


 ……というか、効果範囲に有効だとすると、これってパーティでも脱力しちゃうんじゃないか?


 それなら、いまさらパーティなんて組む必要はない。この【脱力】スキルはこんなにレベル差があっても有効だという事は、間違いなくハズレスキルだけど、つまり『システム』と呼ばれるステータスやスキル、魔物から落ちるお金なんかを決める世界の法則にとっても、ハズレすぎて手を掛ける必要が無かった究極のハズレで究極の当たりスキルだ!


 ……たしかに俺は早くに両親を亡くして、楽がしたくて働き続けてきた。勇者パーティの荷物持ちは、今までで一番楽ができる仕事だった。だって、他人の荷物を持ってついていけばいいだけなんだから。


 そんな怠け者精神の俺だから発現したのが【脱力】スキルなんだとしたら、俺は、俺は……!


 このスキルで一山あてて、とりあえず誰に襲われても命の危険が無いくらいレベルを上げて、田舎にこもってスローライフしたい!


 人付き合いもめんどう。一人で戦って金を稼いで、適当な人付き合いをしながらダラダラ暮らせたら……最高じゃん!


 もう一生分の苦労はした。両親が死んでからの孤児院では鞭で叩かれながら奴隷のような労働、追い出されてからも城の馬屋の下働きで給金は雀の涙。多少は器用で力持ちだったから城の下働きになれたけど、あのままだったらあと何十年かかるかわからないような大金がこんなに一瞬で稼げた。


◇◇◇◇◇


 ——これは一生楽をしたい、平和にのんびり暮らしたいと願った少年が、システムにすら見放されたハズレスキル【脱力】によって、最強へと至りスローライフを目指す物語。


 その、前日譚。ほんの序章である。

お付き合いありがとうございました。

いずれ、連載できたら幸いです。

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[一言] 連載で待っております! 短期連載でもいいかも!
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