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「獏~バク~」  作者: 星屑太虎
第一章 「幻影~マボロシに消え待つ友へ~」
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第一章 1「休息と遭遇」

新章開幕!

第1章

1.「遭遇」




____ここは、神奈川県にある日本でも有数のビーチ______


俺と、その親友、雄一は夏休みに最高の思い出を作るべく、ここにやってきた。


「うわあ!きれいな海だね、輝!海水がキラキラしていて気持ちよさそうだよ!」


「それだけじゃねえ!見ろ雄一!ぴちぴちお姉さんがいっぱいだろ?砂浜にはジュース、ビーチボール、そしてきれいなお姉さんってな!」


「それ全部輝の好みでしょ?…それにしても今日人が多いね?」


「夏休みに人が多いのは当たり前!小学生でも知ってるわ!

 んま!気にせず行こうぜ!この夏が俺たちの高校生活最後の夏だからな!」


来年は二人とも受験生。俺はこう見えても学校では10番内には入るほど、勉強は真面目にやっているほう…というか真面目にやっているのである。


将来の夢が物理学者である俺は、絶対大学には進学しなければならない。加えて、うちは両親ともに一般的なサラリーマンであり、妹と理系大学生になる俺を養うとなると、決して金銭的に余裕があるわけではない。つまるところ、俺は国公立の大学に進学することが、家では暗黙の了解となっている。要はこうして二人でばかやれるのはせいぜい今年の冬までという訳だ。


 雄一のうちは、代々国務大臣を輩出する名家の御曹司なのだが、雄一には何か特技があるわけでもなく、両親からは見限られている。断言するのは、本人からそう聞いたからだ。


「僕、両親からは、せめて大学には行けってせびられるんだ。正直、僕またあと四年も勉強しなきゃいけないなんて想像できないよ。」


最近では二人とも将来のことを考えることが多く、話す内容は勉強の事と学校の事ばかりだった。

だが、今は違う。せっかくこんなうららかなビーチまで来て、何故がり勉になる必要がある?そう、今回俺たちはすべての抑圧や重圧から解き放たれ、心行くままに旅行を満喫する!





そう、そのつもりだった…。こいつが引っ付いてこなければの話だったが…。


「おお!ヒカルくん、ここがうわさに聞くびーちって奴かあ!はっは!愉快愉快!…おおお!ねね、ヒカルくん見給えよ!あの出店のかき氷、絶品そうだね!うん、どうぞ買ってきて!いつかキミの夢にこのかき氷が登場すれば、キミの夢は一層美味に…」


「…るせえよ!友達いんだよ!いつもみたいには突っ込めねえから。それと、他人に見えてないからって勝手に動くのもなしだからな。」


「イェッサー!ヒカル大佐!ボク、ここで直立しとくよ、ほら?」


「…阿呆が」


俺は雄一に気づかれないように小声で横にいる、スタイルが良く水着の上に桃色のパーカーを羽織るというなんとも大胆な服装のボーイッシュなお姉さんにツッコミを入れた。無論、ヤクなのであるが…


奴の姿は、雄一には見えていない。だからついてくるにしても、別にバクのままでよかったはずだ。それなのにこいつは…。海に行くとわかった瞬間、俺の前では恥じらいを見せていたはずの人間化を、躊躇なく繰り出した。一体海の何がこいつをそこまで積極的にさせるのか…


「そんなの決まってるじゃない?ボク、祠生まれ祠育ちだから、海とか言ったことなくて。今までの夢渡の子にも連れて行ってもらったことないのさ」


…まただ。人の心をかってに読みやがって…説明する手間が省けて、時間を有効に使えるのは確かだが、何も言わずに返答されるのは新鮮な感覚で、どうもなれないものがある。


そういえばあれ以来、俺たちは特に変な奴と出くわすことなく2日間を過ごした。ヤクが俺の夢を喰う時間を計算しなおす必要があったが、それ以外は特に計画のずれなく動くことができていた。


百鬼夜行…奴らは600年もの間、ヤクと…正確に言えばヤクたちと殺しあいをしてきたという。お互い、何を目的に争っているのか、俺の拾った古文書には触れられておらず、ヤクには俺のほうから、無理に話すことはないと言っている。それがわかるのはこの戦いに終わりが近づいたとき…そんな気がする。果たしてその時まで俺が生きていたらの話だが…


「ねえ輝、何一人でぶつぶつ言ってんの?」


雄一から指摘されて俺はハッと我に返った。どうやら俺は独り言を言っていたらしい。


「な、何でもねえ!お前もぼさっとしてると、おいていくからな!」


俺は上着を脱ぎ棄て海パン一丁になり、そそくさと海のほうへ走っていった。


「こ、こらあ!この服どうするつもりなんだよお!」


そういって雄一は渋々と俺の後ろをついてくる。

俺は波打ち際で足を止めた。


波が打ち寄せ、俺の足がつかる。


「いつも頑張ってるね、ゆっくりしていきな」


波にそう言われたような気がした。疲労のたまった足を、太陽の熱がこもった柔らかな手でもみほぐしてくれる。


束の間、波はまた遠くのほうへと戻ってしまった


待ってくれよと言わんばかりに、俺は海に飛び込んだ。


この疲れ切った体を海水が、社会という名の悪霊から清められる気がした…

ああ…もうずっとこうしていたい…


「社会からは逃避できても、こんな塩水でボクは成仏しないよ?」


「…ばはあ!お、お前いつの間に…!」


気づけばヤクが俺の隣でぷかぷかと水に浮いていた。


「へ?キミが一人で走ってちゃうから、ついてきただけだよ?それで何度名前を呼んでも返事がないから、何かと思ったら…妄想はほどほどにしときなよ?後キミ、考えることがいちいちクサい」


「…!っるせーな!どう思おうと俺の勝手だろうが!」


ヤクはお得意のてへぺろポーズをかましてきた。その姿でやられたせいで、この十七年、女っ気一つない俺は動揺を隠すことができなかった。


「……!」


「あ!今かわいいって思った!ふっふー、青春だねえ坊や!ボクをキミのひと夏の思い出の一ページに加えてくれても構わないよ?全然悪い気はしないからさああ?…ほんと、今日の晩御飯が楽しみだよ?」


「…?な、なんで晩飯の話なんかに…!」


「あ、言ってなかったね?だってボクの大好物は…キミみたいな若い子が見る淡くて切ない恋の夢…だからさ!」


確認していないのでわからないが、多分俺の顔は売れ時の桃みたいな色をしているに違いない…


「…!やっぱお前は質の悪い化け物だったわ!ババアが調子乗ってんなよ!」


「ああ!またババアって言った!だから言ったじゃんボクの事は…」


「そこのお姉さあん!」


「そうそう、お姉さんと…ほへ?」


俺とヤクは声のしたほうへ目を向けた。すると、俺と同い年くらいだろうか、さらっとした長い茶髪の女の子が、こちらに泳いでくる。ヤクと同じように水着の上からパーカーを羽織っていた。

「あのお、すみません。男の人を観ませんでしたか?180センチくらいで…あ、そう、金髪で目つきが悪い!」


「んー見てないね…ヒカルくんは?」


「いや、見てねえな、そんな奴?」


お決まりのパターンだ。彼氏とはぐれたのだろう。今の女子高生、大学生と付き合ってる奴なんてごまんといる。


「…そうですか…彼、すぐ一人でフラフラするんですよね…。ご迷惑をおかけしました。では、私はこれで…」


「そうかい、気を付けなよ~」


そうヤクがいうと彼女は二っとはにかんだ。


「はい、ありがとうございます!」


「…ちょ、ちょっと待って!!」


俺がそう発すると、彼女はあ…と困った顔をした。


そうだ、俺もヤクも肝心なことを忘れていた…こいつは…ヤクは今はいくら見た目が人間とは言え、人間には見えていないはずなのだ。


「あんた…この女の事、見えるのか?」


俺がそういうとヤクは最初は反応しなかったが、後で気づいたのだろう。目をぱちくり見開いて大声で叫んだ。


「ああああああああああああああああああああ!そうだよ!その場の雰囲気で人間になり切っちゃってたボクでした!」





一瞬だった…

いつの間にか俺たち二人は、ビーチのはずれの岩場にいた。


何が起こったのか…何なのだ…いったい誰が…


その答えは言うまでもなかった…


俺たちの目の前には、先ほどの女の子が立っていた。


「…見つけた、やっと見つけたよイナリ。この人たちだ…」


「…まだ二日しかたってねえんだぞ?それに今は友達と旅行中ってのに…ほんと空気の読めねえ野郎どもだな…なあ、百鬼夜行さんよ!」


俺がそういうと、彼女は目を大きく開けて首を大きく横に振った。


「ち、ちがいます!あんな野蛮な連中と一緒にしないでください!むしろ彼らの敵です!し、信じてください!」


俺はそう簡単に信じることはできなかった。が…


「お悩み中失礼するけど、彼女はホントに百鬼夜行じゃないよ?」


「…!まじかそれ?」


「うん。もしそうだったらボクに近づいてきた時点で気づいてるし、それに…」


「…それに?」


「…この子からは、顔なじみのにおいがするよ…しかもボクが一番苦手な奴の…」


「あ!やっぱりお姉さん!イナリを知ってるんだね?」


彼女は目を輝かせて言った。


「ちょっと落ち着けって!…じゃあ、お前はナニモノなんだよ?」


そう俺が言うと彼女は自分の胸に手を当てて、こちらに向かってお辞儀をした。


「申し遅れました。私、バケギツネのイナリと契約し、“目暗まし”の名を賜ったものです…

   鈴城すずしろ 紗香さやかといいます。以後、お見知りおきを」


次回もお楽しみに

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