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「獏~バク~」  作者: 星屑太虎
序章 「夢想~ヒゲキの始まり~」
6/20

6「定義と希望」

前回までのあらすじ


サンゴによって集められた百鬼夜行たちは、メンバーの一人、猫又によってふるいにかけられ多くが命を落とす。サンゴは残ったメンバーに、輝とヤクを殺すよう命令するのだった


一方輝は妖狐との戦いの後、自宅にて目を覚ます。すると、目の前には制服を着た少女が恥ずかし気に立っているのだった

序章


6「定義と希望」



「……だ、誰だ⁉お前は!」



突如、俺の部屋に現れた美少女。…美少年といっても通るかもしれない。

実際この子の着ている服が女性用のものでなかったら、俺は男と勘違いしたかもしれない。

というか、メッチャタイプなんですけど…


二重の大きな瞳にショートカットのその子は、顔を赤らめてこちらを凝視している。

ファッション誌に載るモデルの女の子と引けを取らないほどかわいいはずなのに、もじもじしているせいか、少し幼めにも見える…


 と、少女がやっと口を開いた…


「…!もう、何だよ!そんなに見つめて、キミが後で話がしたいっていうから仕方なく話せるように調節したんだからね!ボクは本当は普通にふわふわ浮いてるだけが良かったんだ!なのに何?わからないこといっぱいだから教えろって?キミは本当ならボクに夢さえ分けてくれれば、何にも考えなくてよかったのに自分で勝手に仕事増やしちゃって…これだから頭の切れる子は嫌いなんだ!かわいくない!ちっともかわいくなあい!」


…何言ってんだこの女は?ヤクみたいなこと言いやがって…


⁉  …待てよ?ふわふわ浮く…。夢…。


そういえば先ほどからヤクの姿を見かけない…


ま、まさか…


「お前…ヤクなのか?」


そう俺が言うと少女はまんざらでもないといった顔をして答えた。


「はあ…頭いいくせにキミは鈍感なんだね、ほんとに…。だいたい、キミの理想にぴったり合うような子がそう簡単に部屋に登場するとでも?おかしな話でしょ?人間の舌じゃないと話せないの!人の体を借りなきゃならなかったから、今まで食べた夢の中によく出てきた人を再現して器を作ったの!ボクはヤク!キミの呪い主だぞ?」


「はあ⁉てめえ性別詐称にもほどがあるぞ?しかも俺のタイプの女に化けて話そうっつう根性がどうかしてる!趣味が悪いぞマジで…」


「…女の子が女の子に化けて何がいけないんだよ!それに、キミの夢から再現しているからレパートリーが少ないのも承知してほしいね!だってキミの夢、こんな女の人ばっかり出てくるんだよ!」


ヤクは第一人称が「ボク」なので、勝手に男だと想像していた俺は思わず息が漏れた。


「…600歳のババアが偉そうに…!」


「ば、ババア⁉ボクはキミたち人間でいうところの30歳前後なんだよ⁉せめてお姉さんとか言ってくれてもいいじゃんか!…ていうか、聞きたいことが山ほどあるんじゃなかったの?話聞かないなら、ボク変身した意味ないんだけどさあ…」


…そうだ…。俺はこいつに聞きたいことが山ほどある…。


…どうして俺があんな力を持ってんのか…


…どうして今まで気づかなかったのか…


…そして何より…


こいつがなぜ、600年もの間、決着のつかない相手と戦い続けているのか…




「まず、キミの1,2番目の疑問についてだけど…」


俺はまだ何も話していないのに、ヤクのほうから勝手に話し始めた。まるで、俺の心を読ん


でいるかのように…


「もちろんだよ?キミの夢を支配したボクは今やキミの脳そのものみたいなものさ!よって、キミの考えはボクに直接共有されるのだあ!いいでしょ?すごいでしょ!」


「ええ⁉プライベートもくそもねえなおい!…だったら話は早いけどな!頼む、教えてくれ…!」


「りょーかあーい!」


そういうとヤクはその華奢な腕をするりと伸ばし、自分の頭に人差し指をチョンと乗せ、舌を出した。いわゆる…てへぺろというやつだ。俺は不覚にも一瞬、「かわいい」と思ってしまった。こいつに読まれてると思うとより一層腹立たしく思えた。


「ふふふん!じゃあキミの権能、“鏡”についてだけど…おそらくあれは後天的なものだね?あの戦いの中でキミが夢渡の器として得たキミだけの力…」


「…要は、俺があの戦いに参戦しちまったがために、何かの拍子に俺の中の何かが目覚めたってことか?」


「うん、そうだね。もともとどんな人間でも、超次元的な力を扱う要素自体は持っているらしいよ?人間が脳を100パーセントフル活動させたら、世界中に飛び交う、あらゆる情報を瞬時に処理できるらしいからね。それで、キミはその100パーセントに近い状況下をあの戦いで経験してしまったってわけ!」


「…俺の第二の脳、ヤクに足して、夢渡中の状況下なら、可能…ってわけか?…ん?でもよ!人間が脳を100パーセント使用するだけのエネルギーを消費した場合、餓死しちまうって聞いたことがあるぞ?」


「ふふん、さすがヒカルくん!物知りだねえ…。そうさ!ボクが着目したのはそこ!ボクがいたとはいえ、常人が餓死するようなエネルギー消費、キミはその状況下にも耐えられる。つまり“適正個体”なんだ!権能を扱う上でね!」


「…理屈がわからねえな?なんで俺は莫大なエネルギー消費に耐えられた?むしろ俺は朝飯も食ってない栄養不足状態にあったってのによ?」


当然の疑問だ。俺は17年過ごしてきたが、普通に腹は減る。エネルギーが無限に湧いて出るとは思えない。


「んー…その辺に関しては、ボクもよくわかんないんだよねえ?だからさ、もうキミはそういうものって割り切るしかないと思うんだ!よくわかんないけど…テイギって奴かな?」


「定義ねえ…」


まだ納得いってない節もあるが、こいつの言うことにも一理あるのかもしれない。


俺がそういうもんだと定義づけてしまえば、無駄に悩まずにこれから起きることにもいち早く対処ができる。現状、実に合理的だ。


俺は、“鏡”。相手の攻撃を反射することができる…


「そうか…そうだな。まあ発動の動機は知れたことだし、その件に関してはクリアっつーことで!」


「わかった!それで、最後の質問だけど…」


先ほどまで笑っていたヤクの顔が急に険しくなるのがわかった…


「…それが、ボクが生きている理由なんだ。ボクはそのために生まれてきた…」


「それってどういう…」


そこで、俺の口は言葉を発するのをやめた。


「…いや、やっぱりいいわ!その質問はなかったことにしてくれ!」


ヤクは、その言葉を聞いて目を大きく開けて、こちらをじっと見つめた。


「何で⁉知りたいんでしょ⁉」


「いや、何ていうか、俺の感覚の話だ!この話は多分俺は、まだ知らなくていい!仮に知ることになっても、それはお前の口からじゃないってな!


…だってお前…すげえ辛そうな顔してるもん」


ヤクはハッと我に返り、自分の頬に手を当てた。恐らく、その険しい顔は無意識だったのだろう。


「…キミは優しいんだね…ヒカルくん。本当ならボクは呪わせていただいてるんだから、キミの力になってあげなくちゃいけないのに…そんなに優しくしてくれるなんて…」


呪わせていただいてるとか言っちまう悪霊がいるかよ、と俺は心の中で突っ込んだ。


誰にでも、話したくない過去はある。


そう、だれにでも…


俺は、自分の頬を両手で叩き、喝を入れた!


「ヤク、ありがとう!お前のおかげで大方、心の整理がついた。そうと決まれば、俺のやることは一つだ!百鬼夜行をぶち倒して、日常を、俺の完璧な日常ルートを取り戻す!」


その言葉を聞いて満足したのか、ヤクは手のひらから緑色の煙を出し、ほほ笑んだ。


「それじゃあ、この姿のボクはお役御免だね?」


そういったかと思えば部屋中に充満した煙はいつのまにやら消えてしまい、俺の目の前にいた美少女は、ずんぐりとしたバクに姿を変えていた…。



「輝!!あんた、いつまで寝てんの!もうすぐお昼よ!」


下から母の怒鳴り声が聞こえてきた。慌てて、時計を確認した…。


11時半…。今日の俺の計画はもう修正が効かない。


「はあ…今日はとんだ一日だったぜ?…なあヤク?」


ヤクはそうだねというように、耳をパタパタして「ぱう!」と一発鳴いた。


「…嫌味込めたつもりだったんだけどな?ほんと鈍感は、お互い様だな?」


俺はそういって半日ぶりに部屋の戸に手をかけた。



ここからだ…。俺が選ばれたんじゃ仕方ない。


俺が拾ってしまったんだ。俺が落とし前をつける。



そして、またいつも通りを手に入れるんだ…









_____しかし、少年の希望が叶うことは決してないのである。______




序章  完

次回より新章突入です。

次の章は長くなりそうです。お楽しみに

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