表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「獏~バク~」  作者: 星屑太虎
序章 「夢想~ヒゲキの始まり~」
2/20

2「呪いと素質」

前回までのあらすじ


理屈っぽくて、自分の立てた計画を曲げるのが大嫌いな真面目な高校生、大原輝は、夏休みのある朝、人の夢を食べて生きる妖怪、バクと遭遇する。輝はバクが鼻から放出する”眠り霧”によって眠らされ、自身の夢の中へといざなわれる。そこで、輝はバクに「自分に呪われてほしい」と頼まれるのであった

序章

2「呪いと素質」


「は…?呪われてほしいだと?」


俺は頭に木霊しているセリフがあまりにもぶっ飛びすぎていて、思わず聞き返してしまった。自分の夢に誘っておいて、呪う?一体こいつの目的は何なのか、そもそもこれは単なる夢に過ぎないのか…すべてを理屈でとらえてしまう俺は、考えすぎて頭の中がショートしそうだ。


「お前、妖怪なんだろ?…その…呪うってのは、どういうことだ?憑りつくってのとはまた別の事なのか?」


「んん?憑りつくっていう行為は、ボクらにとっては一時的なものに過ぎないよ…。呪うっていうのはね、その人に一生涯付きまとうことだね!悪く言うと」


一生涯…付きまとうだと…?この化け物が…?


俺はこいつから呪われることで起きるありとあらゆる災難を想像した。こいつは俺を自らの手で寝かしつけ、この夢の世界にいざなったといった。仮にそれが本当だったとすると、気を失った直前に見たあの桃色の煙の正体は明白となる。あれはこいつの言う“眠り霧”なのだろう。だとしたらあいつは俺を、あいつの好きな時に、こうして眠らせることができるということだ。


昔じいちゃんから聞いた話が本当なら、こいつらは人間の夢を食べて生きている。俺はこいつに、死ぬまで、こいつの好きな時に眠らされて夢を喰われる生活を続けなくてはならないというのか…。


「…もしそれを断ったら…お前はどうするってんだ…」


俺は聞いてみた。どうせ、この場で始末するだの、動けない体にするだの言いだすんだろ、やれるもんならやってみろって気持ちで。投げやりだったのかもしれない。


だが、あいつから帰ってきた答えは意外なものだった…


「…何もしない…」

「…はあ?」


俺は、こいつの予想外の答えに思わず声を出てしまった…


「…!だから!何もしないと言っているんだ!もちろん、妖怪のボクはその気になれば、キミを呪殺することができる。脳を乗っ取って自殺に見せかけることも可能さ!でもそんなことしてボクに一体何の利益があるっていうんだ!事実、キミはボクを怒らせるようなことなんて何一つしちゃいないだろ?」


頭の中に流れ込んでくる音声は実に感情のこもったものだった。念のため目の前のあいつの表情も確認してみる。ホースのように太い鼻をぷくっと膨らませ、なんだかもの言いたげな感じだった。どうやら、嘘ではなさそうだ。


「…意味わかんねえよ…じゃあ何で俺を呪いたいんだ?」


当然の疑問だ。こんな夢にまで干渉してきたのにも関わらず、肝心な契約ともとれるこの取引で自ら手を引いたようなものだ。相手の意図が全くくみ取れない…


「それは…キミが“夢渡”の素質を持っているからさ!」


ここにきてまた新しい情報?もう勘弁してくれ…


「ユメワタリ…?余計意味が分からねえんだが⁉」


「ん~?おかしいなあ…キミはあの古文書を持っておいて、“夢渡”の事も知らないのか?机の引き出しに大事に保管してあるじゃないか!全く最近の子は不勉強だなあ…あの本ちゃんと読んだ?」


古文書…?そういえば、俺は机の引き出しが気になって確認しようとしたときに倒れたんだっけ?結局机の中は確認できなかったが…


あ…


――――――――――――――――――――



俺の記憶は四日前にさかのぼる。親友である雄一と近所の神社に肝試しに行った日だ。その日の夜は、日中の暑さが残っていて、二人とも暑さと緊張でTシャツは雨に打たれたかのように濡れていた。


「なあ輝、知ってっか?」


「ン?どしたあ雄一?」


「ここの神社…ほんとに出るらしいよ…?」


「…言ってるだろ?俺は自分の目で見たものしか信じないって。じゃねえと理屈じゃあ説明できないだろ?幽霊なんて」


「…はあ。ほんとしらけてんなあ輝って…。とか言って、ビビッて汗だくじゃん!」


こんな夜中に神社にきて、怖くないやつがあるか。と俺は声には出さずにそうつぶやいた。


肝試し中は特に変わったことはなく、予定通り30分ほどで境内を回りきることができた。たまに雄一が女みたいな声で悲鳴を上げるのが癪に障ったが…


と、一通り神社を回り終えた後だったか、俺は“何か”に躓き、転んでしまった。


「…つぅ!何だってんだよ!…?」


俺は足元を確認した。

そこには、黒っぽい表紙の分厚い本があった。


「はあ?なんだこれ?…おい雄一!変な本拾ったぞ?いやらしい本じゃねえか?」


俺は好奇心からその本を手に取り、近くで心配そうに見ていた雄一にその本を差し出した。と、雄一は俺の言葉を聞くと顔をしかめた。そうして…



「…本?何言ってるの輝…輝は何も持ってないじゃん…」



真顔でそういった。

その時、俺は雄一がわざと俺を怖がらせようとしてふざけているのだと思った。


「…えー!うそぉ!見えないの!俺の幻覚?もしかして幽霊?あー怖いなー…」


俺はあきれ顔でそう雄一に棒読みをかまし、そそくさと神社を後にした。雄一はどうも腑に落ちなかったようで、終始俺と目を合わせようとしなかった。


結局、その本は俺が家に持って帰り、一ページも開くことなく、机の中に…



―――――――――――――――――――



そう、すべてが怖いくらいに繋がった。これは理屈ではないが、そう繋がることの必然さに俺は驚きを隠せなかった。


「もしかして…その、ユメワタリ?の資格って…その本の存在を確認できる…ってことなのか?」


俺はそいつをじっと見つめ、返答を待った。


「んー。”夢渡“の最低条件はそうだね。だけどね、君はもう”夢渡“には十分すぎる素質を持ってるんだよ?


 だってあの古文書に封印されていたボクを解放してくれたんだからねー!」


「…は?ちょっと待て!俺があの本を拾っちまったせいで、お前の封印を解いちまったってのか?」


「うん!ご名答!そうだよ、あの時キミが本を拾ったその瞬間に、ボクの封印は解かれたんだ。あの本が見える人でも、触れただけで封印を解いたのは君が初めてだよ!だからもしかしたらと思ってね、4日ほど君の夢を頂かせてもらっていたのさ。キミは決まって午前2時に寝て午前8時に起きる生活をしているみたいだったから、“眠り霧”を使う必要もなくて助かったよ。それでね、ボク、封印が解かれても、一年間、誰かの夢を食べ続けないと実体化できないんだけど、キミの夢を4日も食べれば、この通り実体化できたんだよ!ボクが生まれて600年が経つけど、キミみたいな人は初めてだったからボクは嬉しくてね、ついぐっすりお休み中のキミを起こさずにはいられなかったってわけ。」


…なるほど、おおよそは理解した。こいつはどうやら、“夢渡”の素質を持つ人間を600年探し続け、俺を見つけたと…。俺にはこいつがこれまで出会ってきた人間の誰よりも抜群の才能を持っていると…。


「で、俺がお前に呪われてその“夢渡”になったとして、俺は何をすればいいんだ?」


「ん?ボクにキミの夢を提供してくれるだけでいいんだ。そうしてくれるのなら、ボクはキミをいかなる災難からも守ってあげる。これが呪ったボクと呪われるキミとの契約になるんだ。」


「……。ギブ&テイクってやつか…。」


…俺はしばらく悩んだ。いかなる災難ってのが少し気になるが、こいつが俺を呪ってもむしろプラスだとこいつは言っている。でも、そう簡単にのんでいいものなのか…?夢を提供するってことは、俺は一生、夢を見ることはなくなるということ…。


俺の頭に、一瞬、不快な思い出がよぎった。


――夢なんて…見ないほうがましだ…―――


俺はいたって冷静だった。俺はふと我に返り、顔を目の前のこいつのほうへ向け、こう言った。


「…これが単なる夢って可能性もあるが…もし、本当にお前が俺の夢で語りかけていたのならば……

    その時は、呪われてやるよ…。」


そいつは少しだけ驚いた表情を見せたが、嬉しかったのか、口角を緩め、丸太のような鼻をパタパタさせた。


「…うん!じゃあ契約は成立だね!ボクの名前は“ヤク”っていうんだ。前のパートナーにつけてもらった、ボクの大事な名前!」


「そうか。じゃあ、改めて、大原輝!17歳!将来は物理学者になるのさ!よろしくな、ヤク。」


俺はヤクのまえにこぶしを突き出した。ヤクは、ふわふわとこっちに近づくと、鼻を俺のこぶしと合わせた。グータッチをしたのは、人生でこいつで二人目だな…。


と、突然面の前の景色が絵の具に水を垂らした時のようにぼやけ始めた。


「あ、それから、目が覚めたら、古文書ちゃんと読んでよね!」


ヤクにそういわれたあと、俺は再び意識を失った…。





「はあ!」


しばらくして、俺は目を覚ました。気づけば、俺は自分の部屋の床にあおむけになっていた。


「…ほんとに、夢だったっていうのか…。」


夢の中で起こったであろうヤクとのやり取りはすべて鮮明に覚えている。時間が気になった俺はすかさずズボンのポケットにしまっていたスマホを取り出す。午前8時。ヤクが気を利かせてこの時間に起こしてくれたのだろうか。偶然というには正確すぎる時間だ…。


「ぱあううう!」


と、頭上で聞き覚えのある声がしたので、頭を上げて机のほうを見た…。




そこには、空中をふわふわと漂い、早くしろと言わんばかりに引き出しのほうを鼻で指す、ヤクの姿があった…。


二話まで書き終えたので、次のお話から本格的なホラーバトルへと展開していきます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ