1「夢の中」
作者は漫画家志望です。原作の練習の一環として小説を投稿しております。
文章を書くのに慣れておらず、作中にもこちらの力不足で表現が拙い場合があるかもしれませんが、ご意見やご指摘いただくと大変作者の励みになります。何卒宜しくお願い致します。
序章
1「夢の中」
「ぱああああああう!」
今朝、俺、大原輝の部屋に鳴り響いたのはケータイのアラームではなく、象とカバの鳴き声を組み合わせたような異様な音だった。ベッドから飛び起きた俺はすかさずケータイを確認する。朝の四時。部屋の中はほんのり青みがかり、隣の部屋からは妹の寝息が聞こえてくる。大きな音だったにもかかわらず、うちの家族は誰一人として目覚めたものはいないようだ。
「夢か…。」
なんだか損をした気分だ。俺たち高校生は今まさに夏休み真っただ中。高2の夏休みを有意義なものにするため、俺は俺なりに計画を立てて過ごしている。昨日は夏休み前から計画していた高校で一番仲のいい友達との旅行の段取りを夜中の2時くらいまで確認していた。今日は8時まで寝て、それから明後日の旅行の支度をと予定していたのだが…計画が狂った。俺は自分の計画を少しでもずらされたことにやり場のない憤りを感じた。
「ちっ!」
俺は舌打ちをして自分のぼさぼさな頭を掻きむしった。
「…寝るか…。」
家族の眠りが相当深いか、ただの夢か。俺はとにかく眠たかったので、無理やりそう結論付けてもう一度ベッドにダイブする…つもりだった。
俺の頭上にふわふわ浮かぶ塊に気づくまでは…。
大きさはバスケットボールほど、黒い皮膚に白い斑点、長い鼻をうねうねさせて、朝の薄暗い闇の中で小さな瞳が輝いている。姿には見覚えがあった。幼いころに動物図鑑で見たことがある。象のミニチュアのような風貌で、名前は…思い出せない。そいつは俺が気付いたのを確認すると俺の顔の真正面までふわふわと飛んで来て、こう吐き捨てた…。
「ぱう!」
「ぎぃやああああああああああああああああああ!!」
俺は気づけば鬼に鉢合わせたといわんばかりに雄叫びを上げていた。
「ひかる!どうしたの!」
「ンん…?お兄…?どした?」
俺の雄叫びは母と妹をたたき起こしたらしい。2人とも俺の部屋に飛んできた。
俺は部屋の床にへたり込んだ状態で、自分の頭上を恐る恐る指さして言った…
「ば、化け物が…ここ…ここに…」
「…」
「…ぷっ」
母は黙りこくり、妹は俺のあほ面がよほど面白かったのだろう、笑いを必死にこらえているようだ。
「ひかる…あんた…夜更かしのし過ぎで幻覚でもみた…?」
「お兄…ひぃやああって…ははは…はあおなか痛い…!」
俺は一瞬自分の目を疑ってみた。頬にビンタしてみたり、目をこすったりしてみた。それでもそいつは確かに今も俺の顔のあたりをふわふわと楽しそうに浮かんでいる。
まさか、2人には見えてないのか…。
ということは母と妹には俺がポカーンと口を開けて何もない部屋の壁をじっと見つめているように見えているわけか。
「もう!夏休みだからって夜更かしするからそんな変な幻覚見るのよ!」
「はははは!朝っぱらから怒られてやんの!」
俺は睡眠時間を削られたうえ、母から叱られ、妹からは馬鹿にされてしまった…
今までで一番目覚めの悪い朝だな…
「…ん、わかったから。ごめん、起こして。はい!じゃあ出てって!」
俺は生返事をして、二人を部屋から追い出した。
さて、朝4時にたたき起こしてきたのは紛れもなく目の前のこいつだと謎に断定した俺は無性に腹が立ってきた。ふつふつと湧き上がる怒りを抑えられず、俺はそいつに向かって怒号を吐いた。
「なあ、お前さ。貴重な睡眠時間を奪われて朝っぱらに妹から罵られる気持ち、わかるか?俺の睡眠時間返せよ!」
鏡を見ていないのでわからないが、今の俺は相当どぎつい顔をしているに違いない。意識していたわけではないが、眉間にしわが寄っているのが自分でもわかる。だが、そいつは俺のぶち切れ顔を見ても一切動揺せず、俺の部屋中をぐるぐると飛び回っている。そのきょろきょろと辺りを見渡すしぐさはまるで、何か探し物でもしているかのようだ…。
本当に、こいつはただの幻覚なのか…?
と、そいつは俺の勉強机の上を通ろうとした瞬間、急に動きを止めて勉強机を凝視し始めた。俺の机には、夏休みの課題と、PC、そして最近友達から借りて読み始めたマンガが置いてあるくらいで、正直何が気になるのか俺にはよくわからない…。
あれ…?机の中って、何入れてたっけ…
ふと机の中が気になり、俺はベッドから腰を上げ、机のほうに近づこうとする…何故かはわからない。ただ、無性に引き出しの中が気になったのだ。
…やけに…体が重い…。思うように動かない。ベッドから机までの距離はわずか数歩だというのに、一歩を踏み出すのに運動会で走った後のような疲労感を感じる。意識が…遠のいてゆく。俺はもう一歩を踏み込むことができず、俺はなだれ込むように床に突っ伏した。起き上がろうとするが、手に力が入らない。次第に瞼も重くなってゆく…
あいつが鼻から桃色の煙を噴射させていることに気づいたのは意識を完全に失う直前の事だった…
「………おーい!大丈夫ぅ?」
その声で、俺の意識は戻った。
目を開いてみる。俺は自分の部屋とは全く異なる空間に、一人立っている。辺りは一面真っ白。白すぎて目がちかちかする。そしてここは白という色以外、草木や人、建物なども何もかもが欠如した世界。俺はここで初めて「死」という言葉を連想した。
ああ…俺…死んだのか…
「ねえ!ボクの声は聞こえているの?いや!聞こえなくてはおかしい!聞こえているのなら返事をしたまえよ、キミ!」
いきなり話しかけられて俺は思わず「ふにゃあ?」と変な声を出してしまった。何だ?一体。声の正体を確認すべく辺りを見回したが、やはり俺の目には白しか映らない。
「あ、ごめんごめん!いきなり話しかけられて、脳がびっくりしちゃったのかな?ちょっと待ってね~」
そう聞こえたと思った次の瞬間、真っ白だった空間が、いつの間にか緑あふれる森林へと変わってしまった。突然白以外の色を見たせいで、目玉を握りつぶされたような痛みが俺の体中を走る。地獄かよ…ここは…。
と、顔を上げると、先ほど俺の部屋に現れた化け物が目の前でふわふわ浮いていた。しかし先ほどと明らかに様子が違う。小さかった目玉はまるでアニメのキャラクターのように大きくなり、肌はつるつるでしわが一切ないようだ。そいつは俺をじっと見つめている。鼻が邪魔でよくわからないが、笑っているようにも見える。
今自分の身に起きていることに関して、俺の頭は追い付いていないが、俺は物事の流れから、こいつがこの声の主、そして俺をここに連れてきた張本人だと確信した。
「…何で…俺を殺した?」
俺のそいつに対する第一声はこれだった。
「殺しただって?何を勘違いしているのかな!…キミは眠って、夢を見ているだけだよ?ボクの“眠り霧”でね?…ていうか君、睡眠の邪魔しやがってー!とかあんなに眠たそうにしていたのだから、こうしてキミを眠らせてあげたこのボクに感謝するべきだよ。そう思わないかい?キミ」
不思議な感じがした。こいつはただこっちを見つめてふわふわ浮いているだけで声を発することはないというのに、何故かこいつの話が頭の中に入ってくる。そんな感じだ。
俺は謎に目の前のこいつが言うことに対して非常に肯定的になっていた。本来であればこのような状況、非現実的で理屈っぽい俺にとっては信じがたい光景のはず…
「…どうしてこんなことをするんだ?だいたい、お前は一体何なんだ?」
そう問いかけると、頭の中でこいつはこうつぶやいた。
「そうだった…自己紹介がまだだったね…いいかい?ボクはバク。よく人間からは妖怪とか言われているよ。…て、僕のことを知らないなんて、小さいときに本をちゃんと読まなかったんだね?」
バク?そういえば昔、じいちゃんがよく妖怪の話を俺と妹に聞かせてくれた。人の夢を餌にして生きる妖怪…。
「さあ本題に入ろうか!」
俺に考える間も与えることもなく、こいつの声が脳内に響いた。
「じゃあ、さっそくだけど、…
ボクに呪われてもらおうか!……オオハラヒカルくん……」
まず最初に…
あらすじに怪奇ホラーバトルと書きましたが、しばらくバトルシーンは登場しません!
ストーリー設定上、1,2話は結構重要なので、バトルを読みたい方には申し訳ないです。
この作品は、作者の落書き帳から生まれました。ここ半年の間、新型コロナの影響で全く外に出られず、作者は自宅でずっと絵ばかり描いていますよ。皆さんはいかがお過ごしでしょうか?