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蛇の女(じゃのめ)

「おいで、ジャノメ。朝ごはんに生卵をあげようね」

 窓から差し込む春の光。博士は優しく微笑(わら)いながら、あたしのために生卵を割ってくれる。グラスに三つ入った卵を、あたしはごくりとのどを鳴らして飲みほした。

「美味しかったかい? ジャノメ」

「うん! とっても!」

 あどけない声で答えるあたしに、博士は甘く微笑んだ。あたしの肌に無数に浮いたウロコを撫でて、いつものように注意をする。

「いいかいジャノメ、この研究所から外へ出てはいけないよ。君は人間にとっては魔物だからね。見つかったら捕まって殺されてしまうから、決してここから外へ出てはいけないよ」

 あたしは素直にうなずいて、博士の手のひらにざらざらの肌をすりつけた。

 ――ねえ、博士。あたし本当は知ってるんだよ。この皮膚は病気の一種なんだって。

 博士はたまたま村で出逢った赤ん坊――昔のあたしに魅入られて、さらってきて研究所で病気のもとを植えつけて、無理やり「魔物」にしたんだって。あたしが人間だってよその人にはバレないように、あたしが逃げ出さないように。

 でも良いの、あたしも博士が好きだから。これから一生だまされているフリをするから、あなたも一生「良い博士」のフリをしていて。もし捨てるそぶりをちらとでも見せたら、そののど首に食らいついて、病気を伝染(うつ)してやるんだから。

 内心でそう念じる少女は、いまだに気づいていなかった。彼女が大人になったなら、博士は真実彼女の恋人になり、唇を吸い、(はだ)を求め、そのため自分も病気にかかって「魔物」となる気でいることを。

 開け放たれた窓の外から、風が花の香を運んでくる。窓から差し込む春の日は、うららかに二人を包んでいた。(了)

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