第95話 戦狂いのRhapsody
こんばんは。
生活が忙しくなってきたこともあり、そこそこ間を置いてからの最新話投稿となります。
何卒宜しくお願い致します。
アマンシオの部隊が戦いを終える三十分前。
彼らの戦いが始まった時とほぼ同タイミングで、スミレ達が相対するホーンラビットも戦いの火蓋を切った。
その報せを告げたのは、スミレの身体術のメンソウこと人面瘡である。
『正面から相当数の敵意を確認!! 三十体くらい来るぞ!!』
メンソウの叫びが響くと同時に、洞穴から予告通り三十体近くのホーンラビットが一斉に突っ込んできた。
この時点でホーンラビットは既に角が生えている頭部で突っ込んできており、テリトリーに近づいた者を容赦なく殺すという明確な敵意が伺える。
これに対し先手を取ったのは、何と戦狂いの猫団長のランハートだ。
彼よりも一歩出遅れたスミレは「しまった」と一瞬後悔する。この場にいるメンバーの中で一番ホーンラビットの現場を理解している立場からすれば、自分が真っ先に飛び込むべきだった。何かあっては誇太郎から受けた「戦狂いの猫と仲を深めながら支えてほしい」という課題に影響を受けるのは言うまでもない。
しかし、そんな彼女の不安はこれからランハートが見せつける実力にかき消されることとなる。
「久々だ……刺すほどの敵意、恐れ知らずの殺気。死が間近に迫るこの感覚……だからこそ――」
ぞくぞくと心を昂らせながら、ランハートは身の丈以上の青白い戦斧を振りかぶる。
そして――。
「生きているって実感を得られるなああああああ!!」
歓喜に満ちた咆哮と共に、ランハートは突風のような横薙ぎを解き放った。戦斧から放たれたものとは思えないその横薙ぎは、三日月形の極太の衝撃波となって襲い掛かるホーンラビットを瞬く間に返り討ちにした。
余りにも予想外な一瞬の出来事に、スミレとメンソウは思わず言葉を失う。
「嘘でしょ……!?」
『信じらんねえ……俺が捕捉したホーンラビット三十体、一気に仕留めちまうなんて』
ホーンラビットが動き始めて、まだ一分も経っていない。たったその一瞬の間に、ランハートは迫るホーンラビットの群れを撃破したのだ。
だが、ランハートが撃破した群れはあくまで先兵。倒されたことにより命の危機を感じたホーンラビット達は、突進をやめてラッシュボア達のような物量作戦で押し潰す流れへと切り替えた。
その数、ざっと見積もって四百体。白い兎が押し寄せる姿は、さながら季節を先取りしすぎた雪崩にも見て取れる。
しかし、ホーンラビット達がこの手段を取った時点で彼らの敗北は決定してしまった。なぜなら彼らが相手取ってしまった相手は、スミレとカラヴェラを除いた戦闘狂の傭兵団、戦狂いの猫なのだから。
「早いな、もうおかわりが来てくれた」
「ええの、ええのぉ! やっぱし戦闘はこうでなけりゃ楽しゅうないな!!」
「あの子達でどれ位上質な毛皮が取れるかな、楽しみだ」
「皆まとめてオイラの実験台にしちゃうんだな!」
「全部ぶっ飛ばして資金に還元。借金返済目指して頑張るよ、うん!」
「ちょ、ミラっちだけ何か趣旨違くね!? とか言ってるアタイも、アドレナリン爆発寸前なんだけどね! ってなわけでトーマン、景気良い掛け声よろしく~!」
レイチェルの無邪気な呼びかけに呼応するように、副団長のトーマンは皆を奮い立たせる勢いで声を張り上げる。
「おどれ等あああああああ!! 祭りは始まったばかりじゃあ、ド派手に暴れ尽くせええええええ!!!」
トーマンの掛け声を合図に、戦狂いの猫一同は一斉に突撃していった。
爆発的な闘気に再度圧倒されるスミレ達だったが、これ以上気圧される訳にはいかなかった。
「私達も負けてられないわね。行くよ、カラヴェラ!」
「了っす、記念すべき俺の復活デビュー戦! 存分に暴れちゃうっすわ!!」
各々の猛る思いと共に、戦闘狂と魔人達は改めて迫りくるホーンラビットとの戦いを始めるのだった。
*
「さあ、仲間の為にもっと盛り上げようか!」
わらわらと群れを成して迫るホーンラビットを、再度ランハートの戦斧が荒れ狂う太刀筋で薙ぎ飛ばしていく。
戦斧はその大きさと重さから、元々一撃に長けた武器である。受け止める側はもちろん、操る側も振り下ろすだけで精一杯のはずだ。
しかしランハートに至っては違った。
さながら太刀を振るうかの如く繰り出される連撃は、季節が冬場前の魔獣季ということもあって鎌鼬と化した木枯らしにも見て取れるレベルだ。この時点でランハートは既に百五十体以上、ホーンラビットを撃破していた。
そんなランハートの斬撃を掻い潜りながら続いたのは――。
「おっしゃあああ! 祭りじゃ祭りじゃあああああああ!!」
副団長のトーマンだった。凄まじい踏み込みで瞬く間にランハートを追い抜くと、ホーンラビットの群れ目掛け自身の武器を懐から取り出す。
取り出した武器の正体は何と、酒のビンだった。
トーマンは瓶を取り出すや否や、ホーンラビットの群れにすれ違いざまに――。
「祝砲代わりじゃあ! 食ろうとけぇぇええ!!」
バリィィンッ!!!
容赦のない一撃を酒瓶一つで叩き込んだ。攻撃をまともに食らったホーンラビットはその時点で即死し、粉々になった破片も連鎖反応するように周囲のホーンラビットに降り注ぐ。
しかし、トーマンの勢いはここからだった。
「まだまだあああ!! 全員ザク切りにしちゃるぁああああああ!!!!」
トーマンは瓶の柄を掴み、割れた影響で鋭くなった底部で群がるホーンラビットを切り裂いていく。下手な刃物よりも鋭利な武器と化した瓶底は、酒代わりにホーンラビットの返り血で満たされて真っ赤に染まる。
「オラぁあ! ウルぃやあああ!! でありゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃあああ!!!」
返り血を浴びながら破竹の勢いで暴れるトーマンは、戦いが始まってから二分足らずで五十体前後のホーンラビットを屠っていた。
「兄やんの喧嘩殺法、いつ見てもむさくるしいなぁ。遠くで見てても汗臭そうでやだ、うん」
ランハート達からやや離れた右翼部分でそう呟いたのは、両腕機械の少女ミラだった。口ではむさくるしいだの汗臭いだのと毒づいてはいるものの、実力だけは確かなものとして舌を巻く他なかった。
そんなミラの下にも、五十体近くのホーンラビットが襲い来る。
するとミラは――。
「来ちゃぁあああ……お金のもとおおおおおおっ!!」
激しく瞳をぎらつかせながら、迫る群れに向き直る。
その状態のまま、ミラは気合を入れる要領で力強く口を開く。
「魔導機構武闘術、第二形態」
ミラが呟いた直後、ガシャガシャと耳に響く金属音と変形音をと共にミラの両腕が見る見るうちに五指の先端に銃口を携えた武装へと変貌を遂げた。
そして五指をホーンラビットの群れに構えた瞬間――。
「魔銃腕乱撃」
ミラが告げる技名と同時に、銃口から無数の弾丸が一斉射撃されたのだった。
魔力を結晶化させて放出される彼女の弾丸は、現世界の機関銃並みの威力となっている。食らえば一溜まりもない。
真正面からその豪雨に向かったホーンラビットは、瞬く間に何百発もの魔力の弾丸を食らうこととなり次から次へと散っていった。
しかしホーンラビット達の群れはまだ尽きることはない、後詰の増援が入れ替わるように現れた。
その群れに対しても迎撃態勢をミラが取ろうとしたが、身体に力が入らず地に膝を付けてしまう。
全速力で走り切れば息が切れるように、短時間で大量の魔力を使ってしまったせいで魔力切れを起こしてしまったのだ。
「やっばい、調子乗り過ぎちゃった……うん」
万事休す。ホーンラビットの群れがミラを覆いつくそうとするが、そこに割って入った巨漢が彼女の命を繋ぐ。
「させないんだな、ほいっと!」
団一の巨漢であるカジミアがミラの前に割り込むと同時に、ホーンラビットの群れ目掛け青い球状の物体を投げ入れた。
その球状が群れの中に完全に潜り込んだところで、カジミアは口角を吊り上げる。
「氷結爆撃」
カジミアがそう告げた次の瞬間、轟音と共に激しい爆発がホーンラビットの中枢で炸裂する。直後飛んできた爆風は冷気を纏っており、周囲の草木を凍てつかせた。
一秒にも満たない刹那、ミラ達に迫っていたホーンラビットの群れは氷属性の爆弾によって氷漬けにされてしまうのだった。
「ふぅぅ、間一髪なんだな」
「ありがと、カジちゃん。助かった」
「油断大敵なんだな、ミラ。初っ端からこの調子じゃ、またトーマンに怒られてしまうぞ!」
「うぅ……確かに、不覚だった。うん」
しゅんとなるも、ミラは自身のミスを認めて反省する。
そんな謙虚なミラの姿はどこか愛くるしく、カジミアは微笑ましそうに手を差し伸べる。
「でも、そんなに凹むことはないんだな。次また気を付ければいいだけ、そうして人間は成長していくんだな」
「カジちゃん……」
「ほらほら、休憩にはまだ早いんだな! もっとホーンラビット倒して、少しでも機構腕の開発代返済に充てなきゃだろ、ミラ!」
「……その通りだね、うん! カジちゃん、行こう! あ、でもまたミスったらゴメンね」
「そこはせめて『もうミスらないから』って言ってほしかったんだな!!」
景気のいいツッコミを送りながら、ミラとカジミアは更なる群れに挑んでいった。
反対の左翼部では、燕尾服のデリーとオシャレ女子のレイチェルが別のホーンラビットの群れと対峙していた。
群れの数だけならばランハート達の次に多いだろう、百十体ほどのホーンラビットが迫ってきている。
そんな群れに対し、レイチェルが心を躍らせるような表情を見せる一方デリーは面倒そうな様子で顔を曇らせていた。
「うわ、思ったよりも多く来ちゃったね」
「どったの、デリっち? ビビってるぅ~?」
「まさか。ただこうも一気に来られると、流石に骨が折れそうでね」
短くため息を付くデリーに対し、レイチェルは含み笑いを浮かべながらこんな提案を投げてきた。
「ふっふっふ、だったら久々に力合わせない?」
「レイチェルと?」
「たまにはいーじゃん、デリっちの戦い方めちゃくそ面白いからさぁ♪」
「……分かった、その代わりちゃんと息を合わせてくれよ」
「もっちろん!」
渋々ながらデリーは了承するも、その表情に不服と言った様子はなかった。共に同じ釜の飯を食ってきた仲間と一緒なら、どんな相手も恐れるに足りないと分かっていたからだ。
「まーずは早速、ウサギちゃん達を集めまーす!」
嬉々とした言動でレイチェルは刃の付いたブーメランを懐から取り出した。それに自身の魔力を一定数込めた所で、レイチェルは大振りの構えを取りながら声を張り上げる。
「捕縛暴風衝!」
技名と共に、レイチェルは華奢な腕からは想像もできないほどの腕力でブーメランを放り投げる。
すれ違いざまにホーンラビットを数体ほど切り裂きながら進んだブーメランは、群れの中央付近にて一時停止するとその場で扇風機の如く高速回転を始めた。
ブーメランを核にした高速回転はやがて小規模の竜巻に変貌し、レイチェル達に迫っていたホーンラビットの群れを次々に絡め取っていく。
そうしてホーンラビットの群れの大半が捕らわれた所で、レイチェルは悪戯っぽく舌なめずりする。
「さーてと、そろそろ頃合いかな? デリっち、準備いい!?」
レイチェルの問いに対し、デリーは自身に満ちた声色で返す。
「いつでもどうぞ」
「了解! んじゃ遠慮なく……捕縛解除!」
レイチェルがそう言い放った瞬間、ブーメランを軸とした竜巻は突如として消滅した。同時に一斉に解放されるホーンラビット達に、デリーは遠くからしっかりと照準を合わせる。
そんな彼の右手に握られた獲物は、何と裁縫用の小針だった。ホーンラビットの毛色に合わせた白い縫い糸を括りつけた小針を人差し指で握りながら、完璧に照準を捉えた所でデリーは口角を吊り上げる。
「行け、ジャベリンヘッジホッグの小針よ。獲物を全て縫い尽くせ」
直後、デリーから放たれた小針は真っ直ぐ飛んでいき下層部にいるホーンラビットの後ろ脚に直撃する。
小針はそのままホーンラビットの口から顔を出すと、別のホーンラビットの下半身に潜り込んでいく。やがてその作業を繰り返し全てのホーンラビットに小針と縫い糸が通った所で、小針は血を纏いながらデリーの手元へと帰還した。
そして戻ってきた小針をデリーが勢い良く引っ張ると、小針が通ってきた百十体全てのホーンラビットが芋づる式に引き寄せられていく。
戻ってくる頃には一塊の巨大な兎玉となっており、ホーンラビット達がどれほどもがこうと決して解放されることはなかった。文字通りの「一網打尽」である。
デリーの鮮やかな手前を前に、レイチェルは拍手を送りながら舌を巻く他なかった。
「お見事お見事! 流石デリっち、見事過ぎる小針捌きだよ~! こういうのを神業、って言うんだろ~ね♪」
「いや、レイチェルの魔法術のサポートあってこそだよ。僕の武器はリーチが短すぎるからさ、一対一ならまだしも多対一の戦いはどうしても向かない」
「それ込みでも充分でしょ? 謙遜しないしなーい♪」
この時、レイチェル達がホーンラビット達の討伐に費やした時間は僅か一分にも満たない。
余計なダメージを負わず、効率的なパフォーマンスで百体弱の群体をたった二人で一網打尽にしたその実力は正に圧倒的と評してよい物だろう。
そしてそこから十分経たないうちに、四百体近く迫っていたホーンラビットの群れは、ほぼほぼ戦狂いの猫の六人によって全滅する運びとなったのだった。
*
予想以上の活躍を見せる戦狂いの猫の戦振りに、スミレとカラヴェラは開いた口が塞がらなかった。
「凄すぎる……さっきのランハートの実力もそうだったけれど、あの軍勢をこうもあっさり倒すなんて」
「活躍するチャンス逃しちゃったっすわ、たはは」
無論、彼女達も一歩出遅れながらも群れの一角を殲滅させる功績は残している。
しかしあくまで一角のみ。大半は戦狂いの猫の活躍によって、お株を奪われてしまった。
更に誇太郎から聞いた情報によると、戦狂いの猫のメンバーはギーアの人間の中ではあくまで末端の人間。
それはつまり、ギーアにはランハート以上の猛者がゴロゴロひしめいているということになる。
その情報を思い出しながらランハート達の活躍を照らし合わせ、スミレは思わず固唾を飲んだ。
――これが……ギーアの人間の強さ。侮れないわね……。でも、今はせめて彼らが仲間になってくれていることを喜ぶべきよね。
静かに肝を冷やしながらも、スミレは改めてランハート達が仲間になってくれている事実に感謝した。
メンソウによる敵の増援報告もないことを踏まえ、スミレは戦い終えたランハート達の元へと歩を進める。
「皆、お疲れさま。凄まじい戦振りだったわ」
「ありがとう、スミレさん。祭りの開幕に相応しい戦いだったよ、皆もそう思うだろ?」
ランハートが団員各位に問いかけると、一同はそれぞれ肯定の返事を返した。それどころか――。
「さてスミレさん、次はどうすればいい?」
「何じゃったらまだまだ暴れちゃるぞ?」
暴れ足りないと言わんばかりに、ランハートやトーマンが拳を鳴らす始末だ。
対するスミレは、感心する一方で一区切り付けるべく首を横に振る。
「今日はこの程度でおしまいにしましょう」
「あれ、いいのかい?」
「島の存亡をかけた季節の割りには、結構余裕があるんだな」
ランハートとカジミアが首を傾げる中、スミレは「そういうわけじゃないわ」と前置きして話を続ける。
「余裕……というよりも、奥に引っ込んでる親玉を引きずり出す為に敢えて手を引くと考えるといいわ」
「ほぉ、親玉のぅ。一体どんな奴なんじゃ?」
「エルダーホーンラビットだよ、副団長。膨大な群れを束ねるホーンラビットの親玉で、肥えた体系に似合わない俊敏さと岩をも貫く鋭利な角を何発も飛ばしてくる討伐レベルの高い魔物さ。だったよね、スミレさん?」
デリーの質問に、スミレは静かに頷いた。
「ただスミレさん、一つ気になるんだけど……いいかな?」
「何かしら、デリー君?」
「本当に撤退していいの? 普通ならこの勢いに乗って一気に親玉ごと討伐するべきだと思う、わざわざ親玉を引きずり出すために態勢を整える必要もないだろうしその方がスムーズに事が運ぶはずだよ。それとも、何か撤退しなければならない理由でもあるのかな? わざわざこんな回りくどい方法を取らなきゃいけないなら、せめてその理由を教えてほしいね」
デリーのその問いに対し、スミレは毅然とした態度で理由を述べる。
「理由は主に二つよ。一つ目は他でもない、まだ戦ってる仲間の援助に向かうべきだから。私達が早く終わっても、他はまだ終わってないはず。魔獣季は私達だけが戦っているんじゃない、この島の皆一丸となって戦ってるの。だから皆が無事に魔獣季を乗り越える為にも、早く終わった私たちはフォローに向かうべきよ。傭兵からしてみたらどう思うかは知らないけれど、コタロウならそう指示すると思うわ。理解できたかしら?」
「……そういえば言っていたね、『誰かの幸せを守れる狂人になれ』って。なるほど、確かに一理ある。傭兵である以上、雇い主の命令は遵守しないとな。皆も肝に銘じるように」
ランハートが団一同に命じると、団員たちは首を縦に振る素振りを見せた。
「一つ目はそういう理由なのは分かったよ。それじゃあ二つ目は何だい?」
再度デリーから尋ねられると、スミレはやや対応に困った様子で返答する。
「それなんだけど……説明が難しくて、恥ずかしながら私もよく分からないのよ」
「分からない……ってどういうことなんだ? 曖昧に言葉を濁されるのは好きじゃないな」
「ちょいちょい、デリっち。圧強めだよ、女の子相手に色男がそれやるのは駄目っしょ?」
「おっと、それは失礼。でもレイチェル、正直気にはなるだろう?」
「……まあ、そりゃあね。ただガチで分からないって言うならそりゃあもうしょうがないでしょ。で、実際の所どうなのスミレっち? どうしても話せないならこれ以上は聞かないけど、アタイ達もう仲間じゃーん? 大事な情報なら教えてほしいな、報酬にも関係してくるわけだし」
レイチェルが妖艶に近づく一方で、ミラは鼻息を鳴らしながら激しく頷いていた。余程報酬が大事なのだろう、目が再びギラギラしている。
その様子を見ながら、スミレは短くため息を付いてこう告げる。
「本当に詳しいことは知らないの。ただ、回りくどい手段で倒すことに意味があるって豪語した魔人はいるけれど」
「ふーん……ってことはその魔人に聞けば、分かるんだね」
「なんか面白そうじゃん、どんな意味があるんだろね?」
「それでスミレさん、その魔人は誰か分かるかな?」
ランハートがそう尋ねると、スミレはその魔人の名を口にする。
「料理悪魔のアマンシオ。私達と同じ、出向部隊に応募した腕利きの悪魔よ」
*
それから時は過ぎ、夕方五時前後。
午前中に終わった戦狂いの猫やアマンシオの部隊を筆頭に、出向部隊のメンバーが所属する部隊の報告も続々と上がってきた。
活躍は上々、大した被害を出すことなく魔獣季初日は終わることとなった。
ただ強いて誇太郎の頭を抱えさせることがあるとするならば、ワッショイフォックスの討伐を任せたライガとアデマーの編成が期待通りの戦果にならなかったことのみだろうか。
ライガの成長を促すために編成したはずが、想定以上にライガがアデマーの動きに付いてこれずに終わってしまったからだ。これが単なるベテランと若手の実力差として見るならばまだ理解はできるだろう。
しかし、アデマーは病を患っている身だ。そんなハンデがあるにもかかわらず、ライガは父であるアデマーに付いてこれないままその日を終わる羽目になったというのだ。
増援として参じた戦狂いの猫の助力もありどうにかなったとはいえ、これでは本末転倒という他ない。
「うーん……」
戦果を確認しながら、誇太郎は唸るようなため息を漏らす。
想像していなかった出鼻をくじくような戦果は、悩みの種になるには充分だった。魔獣季前に確認したライガの言動から、こうなる可能性もと考慮していたがまさか初日からなるとは思わなかったからである。
しかし、魔獣季はまだ始まったばかり。終わるには最低でも二ヶ月はかかる。
その間に少しでも成長してくれればそれでいい。
そんなことを思いながら誇太郎が再度ため息を漏らすと、彼の自室に一人の魔人が入ってくる。
「どぉも、お疲れ様ぁぁ。お加減どうよ、隊長さぁぁん」
「嬉しさ半分残念半分と言った気分だよ。お前こそどうしたんだ、アマンシオ?」
ため息交じりに誇太郎が視線を向けた魔人は、料理人悪魔のアマンシオだった。
いつもの一張羅を着込んでいる彼だが、唯一違う所があるとしたら料理人らしくコック帽と腰に白いエプロンを巻いていた所だ。更にちょうど料理を作り終えた後なのか、肉料理の香ばしい匂いがアマンシオから漂っていた。
「夕飯のお時間ですぜ。折角だし、隊長さんもどうよ? 腹が減っちゃあ、戦もできねぇでしょ?」
「ああ……そうか、もうそんな時間か。わざわざありがとう」
「気にすんなぁぁ、俺の性分みてぇなもんなんで。そんじゃ、行きましょーや」
「ああ」
ライガに関して思う所があるものの、今は押し隠して誇太郎はアマンシオに連れられるまま食事に移ることとした。
彼が誘ってきたということは、既に出向部隊のメンバー一同も食事に入っているのだろう。ならばその時に接触を図ってもいいはずだ。
願わくば、自分と関わった人物が全員出向部隊のメンバーとして連れていけるように。
そう願いながら、誇太郎は食堂へ赴いた。
いかがでしたでしょうか?
しばらく投稿ペースが落ちてしまいますが、引き続き執筆は続けていく所存です。
何卒宜しくお願い致します。




