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第94話 四人の魔人の狂気に満ちた料理ショー

こんばんは。

一週間弱間を置いて、最新話投稿となります。

何卒宜しくお願い致します。

 迫りくるラッシュボアを迎え撃つのは、ドワーフのチェザリオが先陣を切った。


「ぬぅぅんっ!!!」


 猛然と突進してくるラッシュボアをチェザリオの大楯が弾き返す。ぶつかった反動で、盾に大型重機さながらの凄まじい衝撃が襲い掛かる。


 しかし、彼は意にも介さずむしろ楽しむように口角を吊り上げた。


「いいタックルじゃん……開幕戦に丁度、いいっ!!」


 言い終えるタイミングと同時に、チェザリオは気合を入れながら自らの身体術(フィジカルスキル)を発動させる。すると次の瞬間、押し込もうとしていたラッシュボアは反射されたように勢いよく弾き返された。


 鮮やかに吹き飛ぶ様を見ながら、チェザリオは満足気に呟く。


「おー、いい具合に吹き飛んだな。相手が悪かったな、イノシシちゃん。俺のダブリングカウンター相手にタックルなんざ、分が悪すぎんぜ」


 チェザリオの身体術(フィジカルスキル)の名は「ダブリングカウンター」。相手から受けた衝撃やダメージを数倍にして相手に返す、カウンタータイプの身体術(フィジカルスキル)だ。


 一見するとかなり強い身体術(フィジカルスキル)に見えるが、これを扱えるのは頑強な肉体を持つ種族にしかできない。どれだけ強力なカウンターを放てるとしても、それを一手に引き受けられる肉体がなければ成立しないからだ。


 その点からしてみれば、チェザリオは正にうってつけだ。ちょっとやそっとのダメージではびくともしない彼の頑強な肉体は、この身体術(フィジカルスキル)を扱う為に備わっていると言っても過言ではない。


「そぉら、どんどん来いよ! イノシシちゃあああん!」


 チェザリオが勢いよく咆哮すると、それに抗うように新たなラッシュボアが攻めてくる。これに対しチェザリオは防御態勢を取るが、眼前の光景を見てすぐに眉を潜ませる。


 なぜなら、更に二匹のラッシュボアがチェザリオに向かってきていたからだ。そして程なく、合計三匹の鈍重なタックルがチェザリオの大楯に響き渡った。


「ぐおおおおおっ!!?」


 流石の威力にチェザリオが一瞬のけぞった。無理もない、大型重機が一点に集中放火しているようなものだからだ。


 しかし、この集中放火もダブリングカウンターのあるチェザリオからしたら好都合でしかない。


「舐めんなよ、豚共。どっこいしょおおおおおっ!!!!」


 三匹の突進エネルギーを一気に大楯に込め、チェザリオは襲い掛かってきたラッシュボア三匹を真上に弾き飛ばした。


「オレガリオおおお!! やれええええっ!!」


 チェザリオが咆哮を上げると同時に――。


「承知いたしたあああああっ!!!」


 西洋薙刀(グレイブ)を振りかぶった美男子オーク、オレガリオが凄まじい跳躍で上空に姿を現す。


 そして無防備になっているラッシュボア達を――。


「チェリャああああああっ!!!」


 横一文字に両断した。


 更にオレガリオは地面に着地するや否や、凄まじい踏み込みでダッシュランナーの群れに突撃していった。そこで一匹のダッシュランナーを西洋薙刀(グレイブ)で貫通させると、それを天に掲げたまま大きく身体を捻った独特の構えを見せる。その構えは、オークならではの剛腕でお披露目できる必殺技の構えだ。


猪突旋風斬トルベリーノ・デ・ヒャバリ!!」


 技名を叫ぶと同時に、オレガリオは激しく回転しながら魔獣の群れに突撃していく。その回転は凄まじく、進むほどに勢いを増していく。終いには斬撃が入り混じるつむじ風を発生させ、多くのラッシュボアとダッシュランナーを狩りつくしていった。


 旋風斬で屠った魔獣の群れは、全部で二十七匹。たった一人でこの数を屠ったオレガリオは、より一層猛進すべく雄叫びを上げる。


「まだまだ参りますぞおおおおっ!!」


 熱量が高まったことで、オレガリオは益々破竹の勢いで引き続き魔獣の群れに突入していった。


 しかし、猪突猛進とはよく言ったもので勢い任せに偏り過ぎたからか所々討ち漏らしの魔獣たちがシエロの住宅街に迫ってきていた。


「ああっ! ちょっと、オレガリオ!? 前出過ぎだって、討ち漏らし出てる! 出てるよ、ほらあああっ!!」


 後方にて戦況を見守っていたサバスが名を呼ぶも、オレガリオの耳には届いていない。チェザリオの方もタイミング悪く複数のラッシュボアを相手取っており、手を回せる状態ではなかった。


 アマンシオの忠告通り、討ち漏らしが発生した現状にサバスは深くため息を付いた。


「マジでアマさんの予想通りになっちゃったじゃないか……。なら、仕方ない」


 目の色を変えて、サバスはファルシオンを抜刀する。


「一肌脱いじゃうよ、俺」


 *


 オレガリオ達が討ち漏らした魔獣たちは、真っ直ぐシエロの住宅街に突進していく。その姿にゴブリン達は戸惑う様子を見せてしまう。


「うわああああっ! 来た、来たぞおおおっ!」

「こうなったらやるしかねえ!」

「俺達だってやれるんだああっ!」


 迫る魔獣の軍勢にゴブリン達が覚悟を決めて立ち向かおうとした瞬間、半径五メートル近くの範囲を突如青緑色の空間が魔獣のみを取り囲んだ。


 そしてそれと同時に――。


「プギィっ!」

「グギャッ!!」


 空間内にいたラッシュボアとダッシュランナーが次々に鮮血を噴き出しながら地に伏していったのだ。一体何が起きたのか、ゴブリン達には知る由もないまま魔獣たちは次々に倒れていく。それは正しく、一方的という言葉がこれほど似合う状況はないと言っても過言ではなかった。


 やがて五分が経過し青緑色の空間が消える頃、それまで空間内にいた魔獣たちは一匹残らず全滅した。そんな魔獣の屍の中心に、青緑色の空間を生み出した張本人が短いため息と共に空を仰ぐ。


「不安に思ってたけど、意外といけるもんだな。やったぜ、俺!」


 深緑髪のインキュバス、サバスである。


 事前にアマンシオより討ち漏らしを任されていた彼は、たった一人でニ十匹近くの魔獣を自身の魔法術(マジックスキル)とファルシオンを用いて撃破していったのだ。


 豪快なオレガリオとはまた違った強さを見せつけたサバスの姿を目の当たりにしたゴブリン達は、驚嘆の声を漏らさずにはいられなかった。


「すげえ……すごすぎる」

「たった一人でラッシュボアとダッシュランナーの群れを……」

「チェザリオさんやオレガリオさんもだけど、サバスさんもやばすぎんだろ!」

「しかも無傷って……」

「か、かっこいい……!」


 驚嘆に満ちた喝采を送るゴブリン達を前に、サバスは思わずご機嫌な鼻息を鳴らす。


「いやあ、そう言ってくれると嬉しいなあ! 俺も頑張った甲斐があったよ、なんちゃって!」


 陽気な声色で上機嫌になるサバスだが、直後一気に顔を青ざめる。


 なぜなら――。


「ぴぎいいいっ!!」


 間髪入れずに別のラッシュボアがシエロに突っ込んでいく姿が見えてしまったからだ。


「嘘だろぉぉ!? ちゃんと討ち漏らし魔獣全部仕留めたと思ったのにいいい! まずいぞ、これアマさんにバレたら殺され――」


 反射的にアマンシオのいる方角に目をやると、そこには不自然な程に穏やかな笑みを浮かべていたアマンシオの姿があった。


「バレてたああああああ! っていやいやいや、動揺してる場合じゃないぞサバス! 任された分はきちんとやらないと、女の子に顔向けできないからな!」


 瞬時に自分を鼓舞し直すと、サバスは突進に夢中になっているラッシュボアに向けて視線を合わせた。


悪戯空間エスパシオ・トラヴィエーソ、前後反転」


 技名を口にすると同時に、サバスは右手を天に掲げて小気味のいい音で指を鳴らす。


 次の瞬間、真っ直ぐシエロへと向かっていたラッシュボアの進行方向が真逆に入れ替わったのだ。


 進行方向が入れ替わっても、ラッシュボアの勢いは止まることはない。仮にラッシュボア自身が気付いたとしても、時すでに遅し。


 彼の進行方向には、万全の状態でサバスが待ち構えていたからだ。


「どうも、突進しか能のないお馬鹿さん。こうなったら回避できないよね!」

「ぷぎゃああああっ!!」


 命の危機が迫っているという状況を野生の直感で痛感したのか、ラッシュボアは腹をくくった様子でサバスに猛突進していく。


 対するサバスは、憐憫に満ちた表情でファルシオンを強く握りしめる。


「君等に恨みはないけど、島を荒らす以上俺達も見逃すわけにはいかないんだ。運が悪かったんだよ、君等はね」


 そしてラッシュボアがサバスの目と鼻の先に迫ったその時――。


「さよなら」


 短く呟くと同時に、サバスはラッシュボアの勢いを逆手に取って真っ二つに切り裂いた。


 上下に分かれたラッシュボアはそのまま、糸の切れた操り人形のように地面に倒れて死んだ。


 ラッシュボアの返り血を掃うサバスの更なる武勇に、ゴブリン達は再び歓喜の喝采を上げることになる。


「家すらぶっ壊す突進力のラッシュボアを真正面からでも返り討ちにしちまった!?」

「すげえよ……またやってのけちまったよ、サバスさん!」

「マジで最高過ぎるでしょ!」

「かっこいい……好きになっちゃいそう……!」


 わいのわいのと囃し立てるゴブリン達に照れ臭そうにしながらも、心の中でサバスは激しく喜んでいた。


 その様子をアマンシオは遠目で満足気に眺める。


「ほらな、サバスぅぅ。お前はやればできんだよぉぉぉ」


 嬉しそうに呟きながら、アマンシオは俯瞰して戦況をざっと見渡して動向を自分なりに分析し始める。


「魔獣共の勢いはまだ収まらねぇか。前衛二人とサバスが何とか抑え込んでるが、このまま持久戦に持ち込まれりゃジリ貧で全滅は不可避だわなぁぁ。まあでも……丁度いい、こっちの下ごしらえもやっと終わった所だぜぇぇ」


 シエロからやや離れた位置で、アマンシオは謎の液体を巻き続ける下ごしらえを終えたのだった。


 そして狂気に満ちた笑みを浮かべて、奮闘する三人に視線を戻す。


「後は魔獣共が猛攻に入るタイミング、それに合わせて号令一声。俺が見極めねぇとなぁぁ」


 この時アマンシオは悪魔的とも言えるプロットを考えていた。攻めてくる魔獣の軍勢を一気に覆す、劇的な逆転の筋書きを。


 *


「はぁ……はぁ……やべぇな、まだ来んのかよ」

「怯むな、チェザリオ殿! ここが我等の踏ん張りどころですぞ!!」


 ラッシュボアとダッシュランナーの突撃が始まってから、早三十分。


 アマンシオの推定通り、魔獣の軍勢は更に勢いを増してチェザリオとオレガリオの前衛二組に襲い掛かってきた。


 相手の勢いが増せば当然討ち漏らしも増える為、サバスにも同様に負担が増し始めるのは言うまでもなかった。


「ああ、もう! 次から次にキリがない! これ大丈夫!? ちゃんと勢い止まるよね、これえ!?」


 立て続けに増す魔獣たちの猛攻を相手に、三人の顔に疲弊の色が浮かび始めた。


 その瞬間、アマンシオの叫びが響き渡る。


「よぉぉし、テメェ等ぁぁ!! 俺が立ってる所を必ず通って、住宅街近くまで後退しろぉぉぉ!!!」


 劣勢が見え始めた状況ドンピシャで放たれた後退命令に、三人はアマンシオのいる方向に視線を向ける。


「料理長!?」

「アマンシオ殿、一体何故!?」


 一瞬動揺する前衛組とは対照的に――。


「了解、アマさん! すぐ退きます!!」


 サバスは即座にアマンシオの指示に対応する。


「オルァァ、前衛二人ィィ!! 後はテメェ等だけだ、早くしろこの野郎ぉぉ!!!」

「だけど料理長、今ここで後退しちまって大丈夫なんですかい!?」

「左様、ここで退いてしまってはシエロが壊滅してしまいますぞ!!」


 後退命令に疑問を抱くチェザリオとオレガリオは、それぞれ魔獣を撃破しながら住宅街の安否を案じる。


 対して彼らに返ってきたのは、アマンシオの放った赤紫の炎。二人の頬をかすめた炎は、背後にいる大型個体のラッシュボアとダッシュランナーを一瞬で屠る。


 ほんの少しでも二人の立ち位置がずれていれば、確実に食らっていたであろう一撃。それはアマンシオが発す、無言の命令でもあった。


 そして再度狂気をはらんだ瞳でアマンシオは通告する。


「やかましい、脳筋凡人。ウダウダ言ってねーでさっさと下がれ。じゃねーと次は髭と毛皮燃やすぞ、コラ」


 殺気に満ちたアマンシオを前に、二人はこれ以上反論できなかった。


「し、仕方ねえ。オレガリオ、ここは料理長を信じようぜ!」

「よいのか、チェザリオ殿!?」

「確かに料理長は(こえ)ぇけどよ、何の考えもなしに後退させるわけがねえ。きっと何かあるはずだ!」

「ぬぅぅ、武士(もののふ)たる(それがし)が後退など選びたくなかったが……致し方ない! 信じますぞ、アマンシオ殿!!」


 歯痒い面持ちで、オレガリオは一足先に行動に移したチェザリオを追う形で自身も後退するのだった。


 そうしてアマンシオの指定する安全圏内にメンバー全員がたどり着くと同時だった。


「ぶもおおおおおおっ!」

「ぐぎゃああああああ!!」


 好機と言わんばかりに、ラッシュボアとダッシュランナーが総攻撃を仕掛けてきたのだ。


 その数は少なく見積もっても六十匹は下らない。


「うわああああっ!」

「まだあんなにいたのかよ、魔獣共!」

「もう駄目だあああああ!!」


 更なる窮地にゴブリン達の動揺が迸る中、アマンシオだけは得意げに鼻歌を歌いながら前に進んでいった。


 そして一定のラインに立つと、両手に赤紫の火球を宿す。


「飛~んで火にいる冬場前ぇぇ~♪ 丸焼きショーの開幕じゃあああ!!」


 無邪気なメロディーと共にアマンシオが足元に火球を落とした次の瞬間――。


 ゴオオオオオっ!!!


 何と火球が落ちた先から横一列に激しい勢いで燃え上がり、炎のバリケードを作り上げたではないか。


 先ほどアマンシオが地面に撒いていた謎の液体は油だった。それを住宅街に及ばないようある程度距離を置いたところで、天然の炎バリケードを作るべく撒き続けていたのだ。


 運悪くバリケードに足を踏み入れた魔獣たちは、一匹残らず火だるまとなってしまった。


 その光景にアマンシオは狂喜乱舞に満ちた声を高らかに上げる。


火油防壁バレッラ・デ・アセィテ・フエゴ炸裂じゃああ! これがホントの豚鳥の(まーる)焼きぃぃ!!! ゲヒャヒャハハハ!!!!!」


 馬鹿笑いしながら抱腹絶倒するアマンシオを余所にゴブリン達はもちろん、チェザリオ等三人の魔人も驚愕のあまり言葉を失う他なかった。


「なっ……え、え!? マジかよ、何だありゃあ!?」

「何と……全てはこの一計の為に我等を後退させたというのか、アマンシオ殿は!」

「天才かよ、アマさん……って、んん!?」


 周囲が呆気に取られる中、サバスがあることに気付き目を細める。それは炎バリケードに見える致命的な穴だった。


「アマさん、大変だ! 一箇所だけ通れる隙間ができてるよ! 魔獣に気付かれたら……」


 とサバスが警告した瞬間、あたかも見計らったかのようにダッシュランナーの群れがその隙間目掛けて突撃してきた。


 しかし、アマンシオは――。


馬鹿野郎(エストゥピード)ぉぉ、考えなしに隙間造ったと思うかぁぁ!?」


 不敵な笑みを浮かべながら自信たっぷりにそう告げた。


「この隙間はよぉぉ、わざと作ったんだよ。こうして考え無しに突っ込んでくる魔獣共を一網打尽にする為になぁぁぁ!!」


 爆発的なテンションと共に、アマンシオは膨大な数の赤紫の火球を両手に生み出した。


 そして――。


紫炎放射弾幕ボンバルデオ・デ・イアマス!!!!!」


 狂気爆発の絶叫と共に、アマンシオは空中に浮かべた火球を全て迫るダッシュランナーの群れ目掛け解き放った。


 その勢いは正に一糸乱れぬ火球の豪雨、バリケードの僅かな隙間から入り込もうとしたダッシュランナーからしてみればたまったものではない。


 結果、ダッシュランナーは一匹残らず火球弾幕の集中砲火を食らうこととなってしまった。


「燃えろ燃えろぉぉぉ!! この場で一足早いランチタイムにしちゃいましょうねぇぇえ、ゲヒャヒャハハハぁぁぁぁ!!!!」

「「「グギュアアアアアアア!!」」」


 狂気に満ち満ちたアマンシオの爆笑とダッシュランナーの断末魔。


 余りにも強烈過ぎる光景に一同はこう思ったという。


 アマンシオだけは敵に回したくない魔人だと。


 *


 こうしてアマンシオ達が任されたシエロの住宅街は、一切の被害を出すことなく迫る魔獣を返り討ちにした。


「チェザリオぉぉ、俺が焼いた魔獣の死骸以外は全部城の倉庫に回せ。本土の輸送用になるだろうからなぁぁ」

「了解だぜ、料理長」

「オレガリオ、サバス。お前等もフォロー行けぇぇ、俺は隊長さんに報告しなきゃいけねえからよぉぉ」

「承知いたした、アマンシオ殿! このオレガリオ、最後まで責務を果たしましょうぞ!」

「一々大げさだな、オレガリオは。分かったよ、アマさん。後もう一踏ん張り行ってきます」


 後処理作業に向かう三人を見送り、アマンシオは懐からスマホを取り出した。


「……もすぃ、隊長さぁぁん? ああ、アマンシオだ。こっちは今しがた終わりましたぜぇぇ。被害もゼロ、完封勝利でしたわぁぁ」

『お疲れ様、アマンシオ。しかし随分早く終わったな、まだ一時間も経ってないのに』

「いえいえぇぇ、俺らにかかりゃあこれ位朝飯前ですぜ」


 初日のスタートとしては申し分ないと言わんばかりに、アマンシオは満足気にスマホの向こうにいる誇太郎へと伝えた。


 しかし、そのホクホク顔も誇太郎から返ってきたある一言で消えることとなる。


『いや、本当に凄いな。想定よりも早く仕事が終わったのはお前等で二番目だよ』

「……二組目? ちょっと待て、俺らよりも先に終わったチームがいんのか? 誰なんだ、そいつ等はぁぁ?」


 自分達よりも早く終わったというチームの存在に、アマンシオは興味を惹かれるあまり矢継ぎ早に質問を投げる。


 それに対し返ってきた答えは、予想外のチームだった。


『スミレ、カラヴェラ、そして俺が本土から連れてきた戦狂いの猫(クリークス・カッツェ)の八人だ』

戦狂いの猫(クリークス・カッツェ)って確かあれっすよねぇぇ、隊長さんが最初に出向部隊の説明に出てきた内定組の人間達」

『そうだ。アイツ等は元々ギーア出身だったが、この間のリオーネ奪還戦の時にぶつかってね。潔く降伏してきた彼らを半ば強引な形で仲間に入れたんだが、蓋を開けてみれば想像以上に優秀な人材ばかりだった。詳しく聞きたい?』

「是非とも……って言いたいとこだがよぉぉ、まぁぁだこっちの後処理終わってねぇからよぉぉ。後で聞かせてもらえますか、隊長さん」

『分かった、じゃあ戻ってき次第詳しく教えるよ。とにかく先ずはお疲れ様、アマンシオ』

「いえいえぇぇ、そんじゃあまたぁぁ」


 緩い声色で通話を切ると、アマンシオはダッシュランナーを集中放火した時のような悪魔的な笑みを浮かべる。


「人間連中が龍人族(ドラゴニュート)のエルネストよりも早く終わるなんてなぁぁ。いいねぇぇ、面白くなってきやがった。終わったらご挨拶でもしとこうかぁぁ、ゲヒヒヒヒ」


 明らかに腕の立つ存在が未来の仲間ということを思えば、頬が緩むのは必然だった。


 出向部隊として共に肩を並べられることに胸を膨らませながら、アマンシオは後処理作業のフォローへと向かっていった。

いかがでしたでしょうか?

次回も少々遅めの投稿となります。

何卒宜しくお願い致します。

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