第89話 対策資料と出向部隊の募集案内
こんばんは。
年末年始連続投稿とはいきませんでしたが、一日開けて最新話の投稿となります。
今回も色々と情報量が多いですがご了承ください。
何卒よろしくお願い申し上げます。
「皆様、おはようございます。戦闘部隊隊長、樋口誇太郎です。フェリシア様からご紹介いただきました通り、これから今年行われる魔獣季への対策について、説明をさせていただきます。先ずはこれからお配りする資料を受け取ってください」
そう前置きすると、誇太郎は側にいるシャロンの分身体に視線を合わせて頷く。
誇太郎の合図にシャロンは了承の意を込めてウインクを返した。
シャロンの手元には山のように積みあがった資料があり、一旦それを床に下ろすと今度は自身の杖を懐から取り出した。
そして、床に置いた資料に詠唱を込めて杖を振る。
「大分裂」
シャロンが資料に向けて杖を一振りすると、何と束に積まれている資料がその状態のまま左右に次々と複製されていった。
さながらコピーのようにも思えるが、ちゃんとした実体である。
やがて資料が両端の列にまで差し掛かると、今度はシャロン自身も資料の数に合わせて分身体を増やした。
「それでーは、今から資料を配っていきまーす! 一人一枚、ちゃーんと取って後ろに回してくーださいね!」
そう言いながら、シャロンの分身体たちは戦闘の魔人から順に資料の束を手渡していく。
程なくして魔王軍全員に資料が行き渡ると、誇太郎の側にいるシャロンの分身体が彼に完了のサインを送る。
「それでは、全員に資料が行き届いたようなので改めて説明を始めていきます。先ずはお手元の資料を開いてください」
誇太郎の呼びかけに、魔王軍の面子はバラバラのペースで資料を開く。
資料の中身は、魔物の名前とそのイラストが記されていた。魔物の生態についても詳しく書かれており、何月にどの魔物が活発に動くかまで記録されていた。更には、全部ではないものの一部の魔物の具体的な弱点まで事細かに記されている徹底ぶりだ。
その精巧な出来栄えに、魔王軍はいい反応を見せていた。
「すごいぞ、これ俺たちが全部今まで倒してきた魔物だ」
「生態や弱点まで書かれてるなんて、いいとこづくしじゃない!」
「待て待て、それもそうだけど最後のページ見てみろ!」
「ここにはどんな素材が取れるかまで書かれてますよ!」
「やっべぇ、これ書いてくれた人マジ感謝だ!」
「それにしても、一体これ誰が書いたんだろう?」
「コタロウ隊長じゃないの?」
「んなわけあるか、あの人まだこの世界に来て一年も経ってないんだぞ」
「えっ、そうなの!?」
「実績がすごすぎて忘れがちだけど、あの人魔獣季に挑むの初めてのはずだぞ」
「それじゃあこの資料は誰が作ったんだろう……?」
感心と疑問が混在する魔王軍一同の反応を粗方確認したところで、誇太郎はフォローする形で説明を再開する。
「こちらの簡略版魔物図鑑はアロンゾ殿が監修したもので、今までの魔獣季で活発に動いてきた魔物の生態が記されています。皆さんにはなるべくこの図鑑の生態を参考に動いてもらいます。特に弱点が明確な魔物は、その倒し方に従って動いてもらえればより楽に倒せるはずです」
「確かに……コタロウ隊長の言う通りだ」
「作ってくれたアロンゾ様にも感謝しないとね」
「ありがとう、アロンゾ様~!」
魔人達から感謝の声が飛ぶたびに、図鑑を監修したオークのアロンゾは照れ臭そうに視線を逸らして頬をかく。
「よ、よせやィ! 趣味のたまものみてェなもんだからよィ!」
「でもこうして認められてるんだからさ。胸をお張りよ、ダーリン♪」
照れるアロンゾに女騎士のカルラは人懐っこく抱き着いてきた。それがより一層アロンゾの照れ臭さに拍車をかけるも、内心嬉しいことに変わりはない。
そんな彼らの熱いやり取りを尻目に、誇太郎は引き続き説明を続ける。
「尚、どの魔物を担当するかについての編成は後日改めて皆様に通達いたします。危険度の高い魔物には上位魔人の方々中心で向かってもらう形になりますが、お互いにフォローし合っていきましょう。突然の連絡で戸惑うこともありますが、何卒宜しくお願い致します」
そう締めくくり、誇太郎は深く一礼した。
彼が面を上げるタイミングを見計らい、今度はフェリシアが魔王軍一同に問いかける。
「何か質問はあるか?」
一般的な場としてはあったとしても中々上がらないのが典型例だろう。それは異世界でも例外ではなく、フェリシアの問いに対し手を挙げる者はいなかった。
その様子を見て短く鼻でため息を付きながらフェリシアが朝礼を終えようとした、その時だった。
「あの……質問、いいでしょうか」
オークやオーガと言った力自慢の魔人を中心とした部隊――「悪鬼部隊」を取りまとめているスミレが挙手して待ったをかけてきた。
「どうした、スミレ?」
「コタロウ、昨日教えてくれた魔王軍出向部隊について話さなくて大丈夫なの? 今この場で話しておかないとまずいと思うのだけど」
「は? 出向部隊? スミレ、一体何の話だー?」
傍らでライガが疑問を呈すも、スミレは「今から話すはずよ、静かにして」とぴしゃりと黙らせてしまう。
対して誇太郎は――。
「ご心配なく、今からそのことについて詳しく説明するよ」
穏やかな口調でライガとスミレにそう言い、改めて魔王軍一同に向き直って告げる。
「……さて、今年の魔獣季対策が粗方分かった所で……ここからは本土に出向く出向部隊の説明に移らせていただきます」
*
「出向部隊?」
「一体どういうことなんだ……?」
魔獣季の対策が終わったかと思いきや、突如聞き慣れない単語と共に別の説明を始める誇太郎に魔王軍が困惑するのは当然だった。
すると説明を始めようとする誇太郎よりも先に、フェリシアが前に出て魔王軍一同に告げる。
「静かにしろ、お前ら。いきなりの告知に動揺する気持ちも分かるけどな、これは同盟国の援助に基づく正式なものだからな」
そう前置きして、フェリシアはこう続ける。
「魔獣季と龍人族との対立のせいですっかり忘れがちかもしれねえが、あたし達は準備ができたらラッフィナートに武力提供する同盟契約を結んでる。アロガンシア帝国に苦戦する戦線の援助をな。ここまで言やぁ思い出したか?」
圧を込めてフェリシアがそう言うと、魔王軍一同はハッとした様子を見せる。
「そうだった……思い出したぞ」
「最近魔獣季のインパクトが強すぎてすっかり忘れてたよね」
「そっか、龍人族と手を結んだ以上……とうとう本格的に本土の支援に向かう形になるんだ」
「なるほど、それで出向部隊というわけね」
各反応を見る限り、事前に武力提供する旨は理解していた様子が伺える。
それと同時に、思わずそんな大事な事情を忘れてしまうほどに魔獣季が過酷で壮絶なものだということを誇太郎は噛み締める。
それを踏まえた上で、誇太郎は発言のバトンをフェリシアから引き継いで口を開く。
「只今フェリシア様が仰った通り、我々魔王軍は密かに対帝国の支援の契約を結んでおります。そして今回、その支援メンバーの選抜をこの魔獣季で行う予定……でしたが、これも大きな変更がございます」
「えっ、また変更?」
「何だよ、今日変更ばかりじゃねーか」
「どんな変更なんだあああ!?」
半ばバッシングの様なざわめきに、誇太郎はやや眉を潜ませる。
しかし、だからこそ皆にこの疑問を払拭するべく説明するのが隊長の責務だ。誇太郎はマイナス意見も覚悟の上で、説明を続ける。
「予定ではラッフィナートへの支援でしたが、今回の魔獣季を乗り越えたらその支援先を大幅に変更いたします」
「変更ー? じゃあその支援先ってどこになるんだ、コタロウー?」
ライガの質問を受け、誇太郎は満を持して告げる。
「……人魔妖精連合国。つい先日、ラッフィナートの王子フィガロが興した新興国だ」
誇太郎のその一言に、魔王軍一同は再びざわめく。
「人魔妖精連合国って、あれか! 元々リオーネだったところの!」
「そういや、この間魔王軍からも何人か応援として出向したよな」
「その中には確か……龍人族のエルネスト兄妹もいたはず」
魔王軍の一人がそう呟いた瞬間、一同の視線がエルネストとパトリシアに集中する。
対して当の二人は、一斉に集中したことが不服だったのかぶっきらぼうな口調で圧を込める。
「何見てんだ、この野郎。俺達ゃ見せモンじゃねーんだぞ、コラ」
「そうよそうよ、下等種族の分際でこっち見てんじゃないわよ!」
エルネストは龍人族の勢力をまとめる存在故の確かな圧があったが、一方のパトリシアはさながら無邪気に騒ぐ子供のような言動でぷりぷりと威嚇する。
それでも魔王軍は彼らの実力を知っている以上、トラブルはまずいと判断し素直に視線を逸らす他なかった。
そんな魔王軍を前に、エルネストは舌打ち交じりに誇太郎に視線を向けて叫ぶ。
「オイ、コタロウ! まどろっこしい前置きはいいからよ、とっとと出向部隊について説明してやれや!」
「そうだね……良し、分かった」
エルネストの指摘を受け、誇太郎は咳払いをする。
それが発言の続きだと察した魔王軍一同が一斉に視線を集中させたところで、誇太郎は改めて本題へと戻るのだった。
「さて、話を戻させていただきます。結論から申し上げると、人魔妖精連合国でのお仕事は……隣接する人間の国、ギーアへ睨みを利かせるお仕事です。奴等から安寧を奪還したとはいえ、連合国はまだまだ新参。その為、今後更なる治安の悪化が予想されます。そこで私とフェリシア様、そしてラッフィナートの女王ノエミ陛下とフィガロ王子と話し合った末……このような結論になりました」
一旦ここで言い切って、誇太郎は満を持して告げる。
「人魔妖精連合国へ派遣する出向部隊を魔王軍から選出し、そこで定住しながらギーアへの睨みを利かせていく。やがてはギーアを味方に引き込み、アロガンシア帝国に立ち向かう戦力として統一させていきます。
全ては一刻でも早く争いのない平和な世界を作る為。その足掛かりとして、先ずは人魔妖精連合国を発展させていく必要があります。そして、その出向部隊の選出を今回の魔獣季にて行わせていただきます。これが、今回の朝礼で発表する最大の変更点です」
「「「「「えええええええええええええええええええええええええええっ!!???」」」」」
誇太郎の口から出た衝撃的な告知を前に、魔王軍に激しい動揺が広がるのは当然だった。
「何だってええ!?」
「魔獣季で出向部隊の選出だと!?」
「しかも相手はあのギーア!?」
「そんなこと急に言われても……」
「まさか、魔王軍から全員選出するとか……?」
「お、俺は無理だぞ! 本土の荒んだ環境に嫌気が差してこの島に来たんだから!」
「それを言うなら私も……。選出が全員強制参加じゃないといいけど……」
突然すぎる発表に魔王軍の中から不安の声が上がり始めていた。これも当然の帰結と言えるだろう、誇太郎は聞こえてきたその不安の声に胸中で密かに同情する。
しかし、それを踏まえた上での不満意見に対する答えを告げるべく引き続き誇太郎は説明を続ける。
「皆さん、落ち着いてください。今回の選出はあくまで『参加したい』という意思がある希望者のみです。流石に『行きたくない』という方を無理矢理連れていくのは論外ですので」
「あ、そうか。それもそうだよな」
「よかったぁ……」
誇太郎の発言により不安を口にした魔王軍のメンバーはほっと胸をなでおろした。
そうして一先ず不安の芽を摘み取れたことに安堵し、誇太郎は再び脱線した説明を戻して説明を再開する。
「ちなみに、今回選出するメンバーはそんなに多くは募集しません。考えている人数としては……一先ず十五人、多く集めたとしても二十人前後辺りです。さて、こう聞くと『総勢一万以上の戦力がいるのに少なくない?』と思われた方もいるでしょう。しかし、これには理由があります。人魔妖精連合国はまだ建国宣言をして一月も経っていないうえ、元々スラム街であった以上食糧を筆頭とした資源やインフラ設備も整っていない。そんな状態にもかかわらず、大人数で行ってしまったら……」
「……逆に崩壊させてしまうってことね、コタロウ」
スミレの問いかけに、誇太郎は静かに頷いた。
「その通り。そして、本土に出向くメンバーには揺るぎない覚悟をもって動いてもらいます」
「揺るぎない覚悟?」
「それって何だよー?」
スミレとライガが揃って首を傾げる中、誇太郎は一瞬顔を曇らせて答える。
「……気になる所だろうけど、申し訳ない。今は言えない」
「ええー、何だよー! 焦らすんじゃねーよー!」
お茶を濁す誇太郎の返答に、ライガが駄々っ子のような言動で文句を飛ばしてきた。
しかし、そんな幼い態度をライガの側にいる老練な獣人が見過ごすわけがなかった。
「……やかましい。黙って話も聞けぬのか、馬鹿息子が」
「ひっ……!」
ライガの父であるアデマーだった。彼の存在はライガが率いる「百獣部隊」にも圧倒的なオーラを見せていた。現に今のアデマーの鶴の一声でライガはもちろん、部隊全員の獣人が一気に静まり返った。
――流石です、アデマー殿。
アデマーの風格に圧倒されながらも、場が整ったところで誇太郎は説明を再開する。
「どうしても気になったお人は、積極的にご応募いただきたい。ある程度人数が集まり次第、一週間後また場を改めて詳細な説明をさせていただきます」
「ぐぅぅ……んなこと言われたら応募したくなっちまうじゃねーかよー!」
ライガの歯ぎしりを尻目に、誇太郎の説明もいよいよ後半に差し掛かる。
「尚、誠に申し訳ない話ですが……今回私の独断と偏見で、既に十名もの人選を決めております」
「十人!?」
「いつの間に!」
「しかも最大募集人数の半数じゃないか!」
「一体誰が決まってるんだ?」
魔王軍が再びざわめくも、予め「内定組」と称したメンバーをリオーネ解放時の宴で一部の者と事前に決めている以上、誇太郎は気にすることなく淡々と続ける。
「それでは、今から呼ばれた人はご起立願います」
そう前置きを言い終え、誇太郎は先ず一人目の内定組を発表する。
*
「先ずは……傭兵団『戦狂いの猫』団長、ランハート・コンペテンツ」
「ああ」
誇太郎の呼びかけに、ランハートは腰を上げてその場に起立する。三十代前後と見られる風格と若さの入り混じった風貌と、がっしりとした恰幅のいい肉体が特徴的な灰色髪の男性だ。
「続いて……その副団長、トーマン・クラウゼ」
「おっしゃぁ!」
続けて副団長のトーマンが、拳を天井に付き上げながら勢いよく立ち上がる。ランハートと比べるとお世辞にも二枚目ではないものの、その瞳は自信と活力でみなぎっている。
「次は……団の服飾担当、デリー・シュローダー」
「はい」
短い返事と共に起立したのは、燕尾服が特徴の赤紫髪の男性――デリーだ。団の中では恐らく一番と言っていいだろう、美男子と呼ぶに相応しい顔つきをしている。
「団の爆弾魔、カジミア・フェット」
「はい、なんだな!」
明るい声色で立ち上がったのは、オーバーオールがトレードマークの茶髪の男性――カジミアだ。誇太郎の説明に「爆弾魔」という物騒なワードが出てきたが、当の本人はそんな要素など思わせないほどに朗らかで愛嬌のある面持ちである。
「続いては……魔導機構、でいいのかな?」
誇太郎は自身の視線にいる機械の両腕を持つ少女、ミラに尋ねる。すると彼女は、無言でこくりと頷いた。
「了解した。では改めて……魔導機構の腕使い、ミラ・クラウゼ」
「待ってた、うん。間違わないでくれてありがと」
淡々とした口調で青緑髪のショートヘアーの少女、ミラが立ち上がる。誇太郎の説明にも出てきた機械の両腕は、内定組の中で一番あどけなさが見て取れるミラが持つには分不相応にも見えるも、当の本人は実の両腕の如くブンブンと自在に動かして周囲に見せつけていた。
「お次は……団一のオシャレ女子、レイチェル・シュパース」
「はいはーい♪」
六人いる「戦狂いの猫」の最後の一人を飾ったのは、琥珀髪のウェーブヘアーがチャームポイントのレイチェルである。一見すると服装は現代の女子高生が着そうな黄色のブレザーと赤いリボン、ミニスカートといった服装だが注目すべきはそこではない。よく目を凝らしてみるとオシャレ女子の異名通り、耳には両耳には赤い宝石のピアスと首元には青い水晶のネックレス、右手の薬指にはこれでもかというほど数多くの宝石が散りばめられた美しい指輪がはめられていた。
そうして戦狂いの猫一同が全員起立したところで、誇太郎はもう一人ある人物の名を呼ぶ。
「続いて……本土より我が部隊に直接雇用したヒクイドリのハーピー、カーラ」
「は、はいっ!」
突然自身の名前を呼ばれ、素っ頓狂な叫びと共に立ち上がったのはかつてリオーネでバレンティアと死闘を繰り広げたヒクイドリのハーピー、カーラだった。青い髪と赤いおさげ、そしてハーピー特有の黒い羽根が特徴のカーラは、及び腰な様子はあれど毅然とした態度で誇太郎に視線を合わせた。
そうして七人が起立したところで誇太郎は残り三人を発表するのだが、その人物たちは意外な者達だった。
「では残り三人、こちらは先日リオーネの解放に出向いてくれたメンバーの中から発表させていただきます。呼ばれた方はランハート達のいるエリアにご移動ください。また、呼ばれなかった方は申し訳ありませんが、参加の意思があれば今回の人選募集にご応募下さい。それでは発表いたします」
似たような口上の前置きを挟み、誇太郎は改めて発表する。
「龍人族の勢力をまとめるリーダー、エルネスト」
「……遅ェんだよ、随分待たせやがって」
粗暴な口調ながらもまんざらでもない笑みと共に腰を上げたのは、ついこの間までフェリシアと対峙していた黒髪の龍人族――エルネストである。誇太郎と同年代の容姿をしていながらも、最上位種としてプライドの高いエルネストは魔王軍の魔人達の間をずかずかとかき分けてランハート達のエリアへと辿り着いた。
エルネストの発表が終わり透かさず誇太郎が次の発表に移ろうとすると、「次は自分だ」と言わんばかりにアピールしてくる女性の姿があった。当然、彼女が次の内定者の為誇太郎は発表するのだが、余りにも主張が強すぎるせいか呆れた様子で発表してしまうのだった。
「えー、お次は……エルネストの妹であるわんぱく龍人族、パトリシア」
「ちょっと何なの、その安っぽそうな肩書き!?」
他の者達に比べて余りにもチープ且つ初々しさを感じさせる肩書きに抗議をしたのは、マゼンタ色のセミロングヘア―がチャームポイントの龍人族、パトリシアである。兄と比べるとどこか抜けており無邪気な言動が目立つ彼女だが、誇太郎はそれに動じず淡々とパトリシアを窘める。
「はい、文句は後程受け付けます。これ以上流れを悪くさせる訳にもいかないので、お兄さんが待ってる所へ向かってください」
「そういうこった、パト。早く来やがれ」
「ぐぬぬぬぬぃ~! 覚えてなさいよ、このオナラ好きのド変態下等種族!!」
エルネストにも窘められたパトリシアは、歯ぎしりと共にぷりぷり怒りながらエルネストの隣に並び立った。
そしていよいよ、誇太郎の口から最後の内定者が発表される。
「それでは次が最後の内定者の発表となります。最後の内定者は……本土より親を喪った孤児をまとめこの島にやってきた心優しきスカンク娘、バレンティア」
「……来ちゃったかぁ」
最後に発表された内定者は、数人の孤児に囲まれながら起立したスカンクの獣人――バレンティアだ。右側が黒色、左側が純白のように真っ白なツートンカラーのロングヘアーとスカンク特有の大きな黒白尻尾がチャームポイントの彼女は、他のメンバーと比べるとミラの次に若い。
そしてバレンティアは、やる気に満ちた他の内定者と違いどこかやるせない表情をしていた。それは他でもない、今まで一緒に寝食を共にしてきた子供たちと別れることになると確信していたからだ。そんな彼女の胸中を察した子供たちは不安そうにバレンティアにすり寄ってきた。対してバレンティアは、慈愛に満ちた表情で優しく告げる。
「大丈夫、ちょっとだけ待ってて。後で詳しく教えてあげるから」
そう言いながらバレンティアは、彼女を案じて近づいてきた人狼族の族長であるウルガに無言で頷いた。
――そうか、バレンティア。これが……君が言おうとして言えなかった決意、だったんだね。
バレンティアの訴えにウルガは噛み締めるように目を瞑り、彼女にエリアへ向かうよう促した。
「……ありがとう。予定よりかなり早く伝わっちゃったけど、ウルガ……後でアンタに頼みごとがあるの。聞いてくれる?」
「分かったよ、聞いてやるさ。だから今は……早く行け」
優しく告げたウルガの言葉を受け、バレンティアはカーラの隣へと移動していった。
こうして内定組がランハート達の席に全員集まった所で、誇太郎の説明は終盤に突入した。
「以上が事前に決めた出向部隊の内定組、十名になります。そして残る十名は応募してきた希望者の中から選ばせていただく流れになります。尚、応募希望者は自薦他薦も受け付けます。ただしその場合は、お互いに相談した上で決めてください。そしてくれぐれも、望んでいないのに応募する羽目になった……ということだけは絶対にお止めください。この選考は生半可な覚悟で応募していいものではないので、ご容赦を」
含みのある言動と圧の籠った声色で釘を刺す誇太郎に、魔王軍一同は強敵と対峙した時と同じくらいの緊張感に包まれる。
そして最後に誇太郎は、最後に魔王軍の士気を上げるべくこう告げた。
「最後になりますが、内定者並びに応募者問わず……これから訪れる魔獣季に対して共通の課題を課させていただきます」
「共通の課題って何だよ……」
「また訳わかんない話になるのか?」
再度どよめき始める魔王軍だったが、誇太郎から発せられた課題はシンプルながらも心を奮い立たせるものだった。
「共通の課題、それは……生き残ること。私はこの世界に来てまだ一年も経っていない新参者ではありますが、フェリシア様のお話やアロンゾ殿が書き記した過去の記録から見て……魔獣季はとてつもなく過酷なものと見受けました。恐らくそれによる犠牲者も数多く出ていたことでしょう。しかし、龍人族と手を組み、島一丸となれた今だからこそ……はっきり申し上げます」
一旦そこで言い切り、誇太郎は力強く咆哮する。
「毎年訪れる未曾有の脅威など、今や敵ではない! なぜなら、最上位魔人と極位級魔人が認めた屈強な我々がいるからだ!! 自らを受け入れてくれたこの島を守りたい、自らの居場所を守りたい、子供たちを守りたい、各々に大事なものを守りたいと願う強靭な覚悟があるからだ!! ならば答えは一つだ!! どんな脅威が押し寄せようとも、俺たちに戦わない理由などない!! 魔王軍と龍人族一同、必ずこの季節を乗り越え無事に生き残れ!! 以上だ、気合い入れていくぞ!! 野郎共おおおおおおっ!!!!!!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」」」」」
魂の籠った誇太郎の演説を前に、魔王軍一同も龍人族の勢力一同も戸惑う様子はなかった。
共にこの島の平和を守りたいという利害が一致している以上、この演説に心を動かされない者はいない。その気持ちが一つになった瞬間、大広間は歓声に満ち溢れた。
その光景を前に、フェリシアは誇太郎を誇らしげに見つめていた。
――すげえもんだな。つい数ヶ月前まで真新しいことに驚きまくってたアイツが、今やこんな力強い発言でまとめられるようになっちまって。だが、こっからが本番だぞ。魔獣季と出向部隊の選出、この二つの大仕事を死に物狂いでやってみせろ。本土で新たにやりたいことが芽生えた今のお前にならできると、あたしは信じてるからな。
誇太郎の演説を皮切りに、魔獣季に備えた動きはここから一気に加速していく。
いかがでしたでしょうか?
次回から再び不定期投稿になりますが、何卒よろしくお願い申し上げます。




