第9話 遅咲きのRestart
こんにちは。
今回は前話の続き、誇太郎が異世界に行きたいという想いを告げる話になります。
見方によってはおかしく感じられるかもしれませんが、何卒よろしくお願いいたします。
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時は前日の夜。
フェリシアが告げた「白黒はっきりつけろ」という助言に対し、誇太郎が一瞬躊躇った時に遡る。
「い、いいんですか?」
「当たり前だろうが!」
迷う誇太郎に、フェリシアは素直に彼に告げた。
「お前の人生だぞ、コタロウ。お前の選択は、お前自身にしか決められないんだ。いいか、よく聞け。あたしは……お前がこの世界に残ると言っても、それを受け入れるつもりだからな」
「な……!?」
思いもよらない衝撃的な一言だった。何かの聞き間違いだろうと思い、誇太郎は動揺を隠さずに尋ねた。
「何を言ってるんですか、フェリシアさん!?」
「何を言うも何も、その言葉の通りだよ。あたしはお前がどんな選択を取ろうとも、それを尊重しようと思う」
「どうして……どうして、そこまでしてくれるんですか?」
その問いに、フェリシアは「何を今更」と言わんばかりにクスクスと笑って告げた。
「あたしは幸福を探求するサキュバスの王、フェリシアだ。お前がどんな選択を選ぼうとも、それがお前のやりたいことで幸福につながるルートなら……あたしはどんな道だろうと尊重する! だから、リハーサルも兼ねて改めて聞くぞ!」
ぐっと誇太郎の両肩を掴み、フェリシアは告げた。
「お前が本当にやりたいことは何だ! 素直になって、お前の望みを告げろ!」
「俺は……!」
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そして、現在。
誇太郎は声を震わせながらも、毅然とした態度で口を開いた。
「俺は……今の今まで、心が枯れた状態で生きていた」
今日まで歩んできた人生を見つめ返すように、誇太郎は自身の右手を見つめながら続ける。
「人生って……何気ない日常がただ続いて、その中で趣味を見つけてなあなあで生きていくものなんだと。それさえできれば十分なんだと。そう思いながら生きてきた。
そんな中で、俺は大学で……自分の好きな漫画やアニメ、ゲームについていろいろ研究する機会を得た。特に……登場人物が織りなすドラマ、現実でも心に響く名言の数々。それら全てを紐解いて、考察していったあの時は……本当に楽しかった。次第に、俺は……子供のような気持ちで『こんなかっこいい人物になりたい』って夢が芽生えたんだ」
「誇太郎……」
愁いを帯びた表情で母の鹿波が声を漏らしたのを耳にしつつ、誇太郎は続ける。
「でもさ、でも……現実とフィクションは違うだろ?現実は思い通りにいかないし、本当に自分のやりたいように生きられる人間なんてほんの一握り。ましてや、創作物の世界観でもない現代だったら……夢が叶わないなんて言うのは、尚更ね。それでも、俺は大人らしからぬ乳臭い夢だとしても……この思いは捨てきれなかった」
話せば話すほど、感情が込みあがるのを誇太郎は感じていた。
「社会に出て間もなかったあの時は、そんな一縷の望みを持ちながら……どうにかこうにか心を押し殺して生きるほかなかった。とりあえず果たした就職でも、一先ず直向きに頑張れば……何か形に残る物なんだと。そう思って頑張ってきたけど……、まさか一社目の上司に……俺が好きだったことを否定されるとは……思わなかった。今までの人生を全て全否定された気分になったんだ……!」
一度ここで言い切ると、誇太郎はかつて一社目で放たれた上司の一言を思い出し苦悶の表情を見せてしまう。嗚咽を漏らし、苦しみながらも誇太郎は何とか続ける。
「それから先は……お父さんたちも知っての通り、何も長続きできずに放浪する日々が続いた……。この時、俺はこう思ってしまったのさ」
かつての暗い記憶が蘇り、絶望に満ちた声色で答えた。
「趣味も生きがいも何もかも……全て失って、そうして消えていくのが人の運命。そういうものなんだとずっと思って、心を押し殺して生きるしかないんだと……。幾度と職場を変えてみても、結局何も変わらなかった。子供のような夢が俺の心に巣食う以上、どこに行っても同じだった。
それなら……心を押し殺して無駄に長く生きるくらいなら、死んでしまった方がましだと思った。お父さんやお母さんのことも全て忘れて、この世から逃げてしまえば楽になれると。そう思ったその時だった……」
崖から身を投げて人生を終えようとしたその時。フェリシアに救われたことを思い出し、誇太郎は彼女を一瞥した。
「フェリシアさんに命を救われ、自分の記憶を全て見られて……それを踏まえた上でフェリシアさんはこう仰った。
『お前は自分のやりたいことからも、自分の夢からも逃げただけだ。あたしから言わせたら、『勿体ない』と『ふざけるな』。これに尽きる』……と。
こう言われた時、俺は……如何に自分が窮屈に心を押し殺して自分を騙して生きていたんだと……思い知った。もっと自分の心に素直になって生きていいんだと、改めて思い知った」
フェリシアに連れられ、異世界での生活を噛み締めるように思い出しながら誇太郎の語りは続く。
「そして……ファンタジーに満ちた世界で、俺はフェリシアさんから戦える力を授かった。頭の中にあるイメージを反映できる能力をもらったことで、俺は……少しずつ自信を取り戻すことができたんだ。とは言っても、自分の身は自分で守らなければいけないから……能力の向上のためにも、基礎体力をつける修業を行う必要があってね。その時は……慣れない運動を久しぶりに行ったものだったから、色々大変ではあった。
ただ、それでも……断言したい。俺はこの時、すごく楽しかった。大学にいた時以来の充実感に満ちた生活を送れた……。あの時以上に興奮と感動に包まれた生活だった……!」
高揚に包まれながらも、誇太郎は昨夜のフェリシアとのやり取りを再び思い出す。
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「もしも……本当に俺が元の世界に戻りたいといったら、フェリシアさんはどうするんですか?」
「……その時は口惜しいが、お前からあたしたちのいた世界の記憶を全て消して……親御さんの元に返す。仲間たちには上手く伝えておくから安心して戻って……」
「それは嫌だ!」
珍しく誇太郎は声を張り上げて、フェリシアの考えを拒んだ。
「俺は……あの世界で、心を満たしながら楽しく生きられる時間を取り戻した。あなたを含んだ信頼できる関係も……いっぱいできた。それを失ってまで……俺は戻りたくない。それは変わらないです!」
「ニッヒヒ、それがお前の本音って奴か。いいぞ、その意気だ。その調子で、しっかり答えるんだぞ」
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「文字通り、千載一遇と言っても過言じゃない異世界での生活。ここでいつものように諦めてしまったら、俺はまた何もかも途中で諦めてばかりの悪循環を繰り返してしまう。また、あの時と同じような不毛な毎日を送って……生きることが苦しい日々に戻ってしまうと俺は確信した。
心を押し殺して我慢強く老後を待つ生活よりも、社会生活から立ち去って自堕落な生活を送るよりも……誰よりも素直になって刺激的な毎日を手に入れられた異世界の生活を、俺は諦めたくない!
そして、そんな生活を提供してくださった魔王様であるフェリシアさんに……俺は恩を返したい! 『二大剣豪列伝』の主人公である黒鉄自由彦みたいな自由人でありながら芯を持った侍として、志久間義衛門のように劣勢を跳ね返す武勇を持った侍として……人生を変えてくれたこの方に尽くしたい!
例え元の世界に戻れないとなったとしても、俺はこの人の下で共に理想を叶えたい! それが、俺の今やりたいことだ!!」
己の想いの全てを誇太郎は言葉にして、両親に告げた。そんな誇太郎の姿を前に、両親は目を疑った。どこか遠慮気味で何かを隠している様子を見せていた誇太郎が、今初めて自分の本心をさらけ出したのだ。
そして、この言葉には確かな覚悟を感じた。迷いのないその言葉を前に、正文は何度か腕を組んだりため息を付いたり無言ながらも落ち着かない様子を目立たせていた。そんな所作を数分続け、うつむいた状態で正文は口を開いた。
「……親としての反対意見は変わらん」
――やっぱり駄目か……!?
精一杯自分の気持ちを告げてもなお、やはり断られるのか。歯痒い気持ちと悔しさが瞬く間に誇太郎の心を覆いつくそうとしたその時。
「でも、それがお前の考え抜いた結論だっていうなら……それで構わん! お父さん達も精一杯応援するぞ!」
気持ちのいい笑顔で、正文は面を上げて告げるのだった。「反対意見は変わらない」と告げた直後に正反対の肯定する発言に、誇太郎はどういうことだと動揺せざるを得なかった。それはフェリシアも同様で、誇太郎程ではないが意外そうな表情で正文たちを見る。
「さっき、お父さんと話し合ったのよ。誇太郎の答えを尊重してあげましょう、って」
「いいのか!?」と尋ねようとしたのを察したのか、誇太郎が言うよりも先に鹿波が口を開いて答えた。そしてそのまま、正文が鹿波の発言を引き継いで続ける。
「行方不明と思われた息子が、わざわざ異世界からこの世界に来て想いを伝えに来たんだ。何か大事なことを伝えたくて戻ってきたんだと、お父さんたちは昨日から確信していたよ」
「でも……本当にいいのか? 俺が行ってしまったら、お父さんたちの老後は……」
「まあ、それは良くないな」
あっさりと再び反対の意見を口にした正文を前に、誇太郎は「だったら……」と前に出かけた。が、正文は待ったと言わんばかりに右手を前に出して誇太郎を制止させた。
「確かにな……本当のところは、許可は出しづらい。元の世界に戻ってこれる保障がないとなったら尚更ね。
だが……、それ以上にだ。いつまでも自分の道を決められず、勤めては辞めてを繰り返して不幸そうに生きる息子を見る方が親としては辛かった」
正文の発言に、鹿波もまた相槌を打ちながら頷く。
「どんな状態であれ息子が幸せになってくれればそれで構わん、子供の幸せが親にとっての幸福なんだからな。
だから誇太郎、お前がフェリシアさんの下で頑張ると決めたのなら……中途半端に迷うことなくひたすら頑張れ! 誇太郎の『誇』は、『誇り』に思って生きてほしいと思って付けたんだ。その名に恥じることのないようにこちらの世界の人間代表として、恥ずかしくないような現代の侍として……魔王様を支えてやれ!」
「ああ……言われずとも!」
正文の力強い激励に、誇太郎もまた覚悟を持って答えた。そしてそのまま、今度はフェリシアに視線を合わせる。
「フェリシアさん、誇太郎の心を奪ったあなたに不躾ながらお願いがございます」
「どうぞ」
短く返したフェリシアの前に、正文と鹿波は席を立って勢い良くお辞儀をした。
「まだまだ至らぬ点の多い我が愚息ですが、どうかしっかり鍛えて……あなた様の側近として活躍できるよう立派な漢にしてやってください……!」
ここまでに至る丁寧な正文らの言動や対応を目の当たりにして、フェリシアは改めて彼が誇太郎の両親だという事を認知した。それを踏まえて、フェリシアは先ほどまでの慇懃な態度からいつもの通りの明るい笑顔で答えた。
「もちろん! あたしに任せてくれ! それに、これが今生の別れではないのだからそこは安心してくれて大丈夫だ」
「え……?」
フェリシアが放った「今生の別れではない」というセリフを前に、一同は思わず目を丸くする。そんな一瞬の沈黙を、誇太郎が破るように尋ねた。
「えーと……フェリシアさん、どういうこと……ですか? ここに戻る前に、『元の世界の未練はすっぱり断ち切ってほしい』って……」
「確かに言ったが、『今生の別れになる』とは誰も言ってねーぞ?」
「でも、さっき……お父さんの質問に『元の世界に戻れる保障はない』って……」
「ああ、それ……嘘♪」
「……はい?」
「お前の本音を引き出すための、ウ・ソ♪」
「んべっ」と悪戯っぽく舌を出してケタケタと笑うフェリシアを前に、誇太郎はいつもの如く激しいリアクションで七転八倒するのだった。
「でも、どの道こっちにはもう戻らない覚悟ではいてくれよ? 何回も何回も行けるほど、あたしの力もそう簡単に使いたくないからさ」
「わ、分かってますけど……俺、てっきり本当に両親と一生のお別れかと思ったから……」
「悪かったって。そう落ち込むなよ、コタロウ」
がっくり来る誇太郎を、フェリシアは優しく撫でて慰めた。そんな彼らを前に、正文もまた豪快に笑ってこういうのだった。
「まいったまいった、流石は人を誘惑するのに長けたサキュバスとやらの魔王さんだ。俺たちもどうやら手玉にすーっかり取られちまってたみたいだな!」
「でも……また戻れるのなら、よかったわ……」
深い安堵感と共に、鹿波は胸をなでおろすのだった。
*
それからしばらくして。
誇太郎は、異世界に戻る為の荷造りを終えていた。具体的なものを取り上げると、先ずは自身の身体術の向上の為に自身の部屋に遭った「二大剣豪列伝」の全巻を入れたバッグが一つ。他にもそのバッグの中には、誇太郎は戦う以外でも何か役に立てないかと考え「孫氏の兵法書」や戦国時代の武将たちの戦い方がまとめられた本なども入っていた。
続いて、異世界に渡る前に貯めていた今まで誇太郎が働いて稼いだ給料とコツコツと貯めた貯金全てを入れたバッグ。これは異世界に戻った時、フェリシアが「向こうの世界の金額に変換して、誇太郎の活動資金として提供するからもしも金があるのであれば用意してほしい」と要求したからである。
そして、誇太郎の世界の文化をフェリシアがより理解できるように誇太郎はいくつかの書物を確保した。国語辞典やことわざ辞典といったシンプルな辞典はもちろん、料理本や先に記した「孫氏の兵法書」を含んだ歴史書に加え、「誇太郎が稼いだ金を異世界の貨幣に変換する」為に簡単な経済や貨幣の仕組みが記された本までと、元の世界に戻った以上可能な限りの文化や知識を異世界に持っていこうと用意したのだった。
そんなありったけの知識と共に、誇太郎は今再び異世界へと戻ろうとしていた。フェリシアは、家族と別れを惜しむ誇太郎とやや距離を置いてそのやり取りを見守っていた。
「忘れ物はないか、誇太郎」
「大丈夫だ、お父さん」
「向こうでも元気でやるんだよ……」
「心配しないで、お母さん」
そういうと、誇太郎は別れを惜しむように両親と抱擁を交わした。最後まで気を遣ってくれた両親に、素直になった自分の背を押してくれた両親に、誇太郎は最大限の敬意と感謝を込めて最後にこう告げた。
「俺……異世界でも必ず頑張るから。幸せに生きてみせるから。だから、安心してくれ……!」
言い終えると抱擁をやめ、フェリシアの元へと戻る。
「……別れの挨拶は済んだか?」
「大丈夫です。ではフェリシアさん、お願いします」
フェリシアは二パッと笑んだ後、右腕に力を籠めて空間を殴りつけ黒穴を作り出す。そのまま誇太郎の手を引いて、フェリシアは彼と共に黒穴の異空間へと姿を消していくのだった。やがて、黒穴は徐々に小さくなっていき程なくして門を閉じるように静かに消えていった。
*
誇太郎の手を引きながら、フェリシアは短い間に感じた誇太郎の両親から伝わる愛情をひしひしと感じていた。ライムンドに言われたとおりにしてよかったと、彼らの親子の絆を前にフェリシアは改めてそう感じていた。
その一方で、フェリシアはこういう気持ちも抱いていた。
「……羨ましいな」
思わず、本音の言葉が漏れる。多くは語れないが、父とは思想が相容れず別れた身。だからこそ、誇太郎とその両親のやり取りを目の当たりにしたときは羨ましく感じたのだ。
そんなフェリシアを気遣ってか、誇太郎は案じるように尋ねる。
「あの、どうかしましたか、フェリシアさん?」
「ん?ああ……いい、親御さんたちだったな」
「……自慢の両親です」
「ニッヒヒ、見てりゃ分かるよ。だから、羨ましいなって思っちまった。あたしは……父上とは仲良くできないからさ……」
最後にやや沈んだような声で語ったフェリシアのその声は、どこか寂しそうだった。そんな彼女に誇太郎が尋ねようとしたその時、一筋の光が二人の眼前に差し掛かる。二人は再びアイコンタクトを取り、その光に満を持して飛び込んだ。
二人が飛び込んだ先に映った光景は、「嫌われ者の秘島」に鎮座するフェリシアの居城の屋上だった。時刻は日没近くに差し掛かっており、ちょうど二人の帰りを待っていたかの如くスミレ、ライガ、そしてライムンドの三人が屋上にて出迎えていた。
「おー! 戻ってきたかー、コタロウー!」
「よかった……そのまま戻ってこないのかと、心配したのよ」
「スミレ、ライガ……心配かけてごめん。でも……」
駆け寄ってきた二人に、誇太郎は申し訳ない気持ちになりながらももう一つ別の気持ちを込めて二人に言った。それは――。
「……ありがとう。もう大丈夫だよ」
感謝の気持ちだった。普段から世話になったことと、自身を待ってくれていた二つの感謝を言葉にして表した。
そんな二人の前に、今度はライムンドが誇太郎の前に割って入ってきた。
「別れの挨拶は済ませてきたか」
「はい」
「これで、心置きなく向上できそうか?」
「……無論です。俺はもう、迷うことはございません」
そう告げると、誇太郎は今度はフェリシアの方に視線を向ける。キョトンとこちらを見つめるフェリシアに対し、誇太郎はやや距離を詰めるとその場で膝をついてフェリシアに忠誠の姿勢を見せながら、時代劇の武士の如く高らかに告げた。
「生まれ出でて二十五年。碌に道も決まらぬ愚鈍な私を、あなた様は救ってくださった。この樋口誇太郎、不肖ながらフェリシア様にこの命に代えても忠誠を誓います! 改めて、これからよろしく……」
「命に代えてもなんて言うな!」
城中に響くような大声で、肯定的なフェリシアにしては珍しく誇太郎の言葉の一つを否定した。膝をつく誇太郎に寄り添うように、フェリシアもまた膝をついて彼に目線を合わせる。
「あたしに忠誠を誓ってくれるのはいい、もっともっと自由に行動したってあたしは拒まない。だが、命に代えても……なんていうのは絶対にするな。あたしは、幸福ってのは生きてこそ得られるものだと信じてる。だから……共に生きて、あたしの理想を叶えながら……お前の幸福を探求してくれ。それが、あたしにしてくれる忠義の証って奴だ」
「承知いたしました……! この樋口誇太郎、誠心誠意を持って……自身の幸福も含め真の幸福とは何かを探求するあなた様の理想を叶えるべく! 微力ながら、ご助力いたします!!」
力強く放たれた誇太郎の決意を前に、フェリシアは軽く微笑んでぽんぽんと彼を称えるように背を叩いた。
「なあなあ、コタロウー! これって何なんだー!? 一体何の本なんだー!?」
「結構……かっこいい人たちばかり書かれてて、すごく興味深いのだけれど……」
そんな二人の前に、突如ライガとスミレが誇太郎が持ち込んできた漫画の「二大剣豪列伝」の一冊を持って割って入ってくる。
「ああ、そういや二人は初めて見るっけ。それが、俺が戦う上で参考にしている娯楽本だよ」
「マジかよー!? どんな内容なんだー!?」
「話せば長くなるから、ここだと言いにくいかも」
「ええええー!?」
無邪気に語る三人を眺めるフェリシアは、一人静かにこう思った。
――真の幸福……か。もしかしたら、本当に見つけられるかも……しれないな。その為にも、いよいよ最終課題に入るコタロウの為にも……上手くおぜん立てしてやらねーとな。
改めて異世界で生きると誓った一人の青年の想いと共に、この日は一日を終えていくのだった。
いかがでしたでしょうか。
ちょっとくどくなり過ぎたかもしれませんが、少しでも「自分の心に素直になると道は開ける」と感じていただければ幸いです。
次回はもう一話のみ閑話を挟んで、いよいよ11話から最終課題編に突入いたします。
今回も楽しめていただけたら幸いです。
次回も何卒よろしくお願いいたします。