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第88話 災いと恩恵をもたらす季節

こんばんは。

今回は何度か話題に出た魔獣季の詳細が明らかになります。

何卒宜しくお願い致します。

 噴水の見える大広間には、かつて誇太郎の最終課題で集まった魔王軍の面子が当時と同じ状態でひしめき合っていた。


 唯一前回と違う所があるとすれば、昨日誇太郎が本土から連れてきた新参メンバーの為に特別に用意された場所があることくらいだろう。そこにはランハート一味とハーピーのカーラとエミリーの姿があった。


「どんな説明があるんだろう、緊張してきちゃうな……」


 様々な種族と人間が集まっている魔王軍を一望し、カーラが固唾を飲む。その一方で、彼女の親友であるエミリーは器用な手さばきならぬ羽さばきでペンを持ち、これから始まるスピーチを記述する準備を整えていた。


 彼女は緊張のあまりガチガチに固まっているカーラを励ますように声をかける。


「心配ナッシング的な、カーラ。あーしとバレ姉さん、んでアンタの力があればどんな困難も乗り越えられる案件」

「……ありがとう、エミりん」

「チープな御用だよ、気にすんなし」


 ハーピーの二人が微笑ましいやり取りを見せる中、ランハート一味も今か今かと発表を心待ちにしていた。


「ああ、うずうずするのぉ。一体どがぁな発表が来るんじゃろうな、団長?」


 副団長のトーマンがワクワクした様子で団長のランハートに顔を傾ける。


「コタロウさんが言うには、島の存亡をかけた戦いになる……らしい。充分自分たちが楽しめる物にはなると思うな」

「ええの、ええの! 存亡をかけた戦いって響きだけで胸が高鳴ってしまうわ!」


 ゾクゾクと武者震いするトーマンだが、それは他のメンバーも同様だった。


「この島にはどんな素材があるんだろう、戦いながら新しい布素材になりそうなものが手に入るといいな」

「デリーは本当に裁縫が好きなんだな。オイラも新しい爆弾の実験ができると思うと楽しみで仕方ないんだな!」

「そうだね、カジミア。ああ、ここの魔獣季(まじゅうき)はどんな具合なんだろう……本当に楽しみだ」

「全くなんだな!」


 赤髪の燕尾服の優男――デリーと、豊満な茶髪の男性――カジミアはそれぞれの目的に向けて心を躍らせていた。


 一方ランハート一味の女性陣はというと、青緑髪の女の子がうつらうつらと舟をこぎかけているのを琥珀色のウェーブヘアーのオシャレ女性が気にかけている様子が伺えた。


「どしたの、ミラっち? 随分眠そうじゃーん?」

「ああ、ごめんレイ姉。実はちょっと……(にい)やんの寝相のせいで寝不足なっちゃって、うん」

「えっ、ミラっちそれマジ?」

「マジだよ、レイ姉」


 そう言いながらレイ姉と呼ばれた女性は、透かさず半目でトーマンを睨みつける。


 対するトーマンはキョトンとした様子で首を傾げるも、レイ姉は続けてミラっちという女の子の話に耳を傾ける。


「何したのさ、お姉ちゃんに詳しく聞かせてみ?」

「えっとね、お互い離れたベッドで寝てたはずなんだけど……何でか(にい)やんの足が飛んできたん、うん。いびきも鼓膜破れるレベルでうるさかったし……もう最悪だった、うん」

「うーわ、やっちゃった系じゃん。トーマン!」


 突如背後から呼びかけられ、トーマンは「何じゃあ!?」と素っ頓狂な声をあげてレイ姉に向き直った。


「ミラっちに謝んなよ、アンタのせいで眠れなかったって言ってんだかんね?」

「その件はもう朝の時点で謝ったわ。ミラにゃぁ悪いことしたと思うとる」

「……だってさ。どうなの、ミラっち?」


 と、レイ姉が尋ねるとミラっち改めミラは機械で出来た両手を瞼の下に持ってきた。


 そして――。


「えーんえーん」


 清々しいまでの棒読みな声色で、泣き真似をしたのだった。


「ほらー、ミラっち泣いちゃったじゃーん。もっかい謝った方がいいんじゃない?」

「じゃかあしいわ、レイチェル! どう見てもミラなぁ嘘泣きじゃろうが!!」

「えーんえーん、(にい)やんがいじめるよ~。うぇーん」

「われも中途半端な泣き真似してんじゃねぇ、ミラ!!」

「やーい、妹泣かした戦馬鹿~♪」

「おぉまぁえぇらあああああ!」


 女性陣は戦いの件は一先ずさておき、二人でトーマンをいじり倒していた。


 すると――。


「静かにしなさい、お前達」


 冷たい声色でランハートが一味を諫めたのだった。


 たった一言且つ丁寧語で言ったものとはいえ、その一言は女性陣はもちろん傍で談笑していた男性陣にも強烈な殺意を感じさせた。


 それと同時だった。


「おはよう、お前ら!!」


 壇上に上がったフェリシアの声が大広間にこだました。それが朝礼の合図を告げるものだと察したランハートは、改めて一味に告げる。


「……ほら、もう本題始まるから。全員静かにしなさい」

「昨日に引き続きすまん、団長! ほら、レイチェル、ミラ! お前らも謝らんかい!」

「はーい、うるさくしちゃってごめーんね♪」


 レイ姉改めレイチェルがかわい子ぶって謝り――。


「……悪いのは(にい)やんだけど、ごめんなさい」


 トーマンのことを毒づきながらも、ミラもまた素直に謝罪した。


 そうして一味全体がようやく落ち着いたところで、壇上に上がったオークのアロンゾと女騎士のカルラが声高に告げる。


「さーて、ほいじゃあ始めていくとするかねィ!」

「しっかり聞いて備えるんだよ! 初見の人はもちろん、何回か乗り越えた経験者の皆も油断しないように!!」


 カルラのその言葉を最後に、アロンゾとカルラによる魔獣季(まじゅうき)の説明が始まったのだった。


 *


 先ずこの世界の季節は、誇太郎のいた現世界(げんせかい)と異なり、四季ならぬ五季という五つの季節が巡る仕組みになっている。(こよみ)も十二月ではなく、十五月もあるほどだ。


 その五季のうち、秋季と冬季の間に位置する季節こそ魔獣季(まじゅうき)である。


 魔獣季(まじゅうき)は十二月から十四月の中旬までの間、越冬や繁殖活動で魔物や魔獣が一斉に活発になる季節を指す。


 これは本土でも同様に発生する季節だが、その中でもフェリシア達が住む嫌われ者の秘島は群を抜いて過酷なものとなっている。


 なぜなら、季節が終盤に差し掛かるに連れて討伐レベルの難易度が高い魔物が猛威を振るうからだ。


 その中でもトップクラスに危険な魔物は、本土から越冬のために訪れるワイバーンの群体である。


 ワイバーンは一体で上位魔人並みの力を誇り、それが何百体となって押し寄せてくるのだ。その為、下位魔人のゴブリンや中位魔人の人狼族(ウェアウルフ)を傘下に入れているエルネストを筆頭とした龍人族(ドラゴニュート)の勢力は、何度も壊滅的な被害を出していた。彼らが治める北部地帯が荒れ地になっているのも、元はと言えばこの魔獣季(まじゅうき)がもたらすワイバーンによる爪痕が未だに癒えていないものだと言う。


 無論、ワイバーン以外にも強力な魔獣や魔物が活発に動く為、仮にワイバーンの被害が少なく済んだとしても犠牲者は毎年必ず出ていた。


 (ゆえ)に毎年魔獣季(まじゅうき)が訪れる時は、当時対立関係にあったフェリシアとエルネストでさえ一時的に手を組んで立ち向かわねばならない事態だった。


 そして、彼女らが手を組んで何とか壊滅的な被害を少しずつ抑えながら乗り越えてきた――というのがこの島における魔獣季(まじゅうき)の概要である。


「……と、ここまで聞けばとんでもねぇ季節だって思うだろうが、ところがどっこい! 実はそれだけじゃねーんだな、これが!」


 アロンゾが勿体ぶった口調でそう言いながら、今度は相方のカルラが会話のバトンを引き継いだ。


「確かに危険の多い季節だけど、その一方で貴重な食材や素材が手に入る恵みの季節でもあるんだ。コットンシープの毛皮、エルダーホーンラビットの角とそのお肉、ブレードマンティスの鎌と、本土じゃお目にかかれない素材がわんさか手に入るのさ!」


 カルラが声高に説明した瞬間、ランハート一味の目の色がギラギラと輝きだした。


 特に機械の両腕を持つ少女、ミラに至っては目の瞳孔が開くぐらい顕著な反応を見せていた。


 そんなランハート一味を尻目に、カルラの説明は続く。


「中でも一押しなのは、最大脅威のワイバーン! ワイバーンは捨てる部位が一切なくてね、弾力のある食感が魅力的なお肉は保存も長持ちするし、翼は加工すれば防御力のある革製品に、骨も同じく防御力の高い鎧に加工できるし、鋭い爪や牙は武器の素材にもなる。おまけに血と肝は、疲労回復に効く薬の原料にもなるからね。正にワイバーンは『素材の宝庫』と呼ぶにふさわしいモンスターなんだ!」

「だが、忘れちゃいけねえぜィ。ワイバーンは一体当たり、オーガのスミレ並にクソ強い魔物だ。ただ倒せばその分の恩恵もデカい、所謂ハイリス……何だっけか、カルラ?」

「それを言うならハイリスクハイリターンだろ、ダーリン?」

「そうそう、それそれィ! とまあ、ざっとこんな具合で毎年魔獣季(まじゅうき)は訪れてるわけだ。思い出してくれたかィ?」


 大広間にいる魔王軍全員にアロンゾがそう確認を取ると、一同はそれぞれの反応を見せる。


「そうそう、毎年こんな感じだよね」

「今年もこの時期になりましたか……、何人生き残れるでしょうか」

魔獣季(まじゅうき)は魔物がうるさくなって嫌いなんだよ、特にワッショイ言いまくるワッショイフォックスとか!」

「そういや、龍人族(ドラゴニュート)の方にはどんな魔物がいるんだろ?」

「今人狼族(ウェアウルフ)のメンバーから聞いてきたんだけど、向こうには獲物を脱力させてから捕食するマタンゴのボスがいるらしい」

「何それ、怖いな! 究極的なサディスティック野郎かよ!?」

「ってかそうか、今年から本格的に龍人族(ドラゴニュート)の勢力側の魔物も討伐対象になるんだ」

「編成とかどうなるんだろうね?」


 魔獣季(まじゅうき)あるあるを語る者、時季特有の大変さを思い出して愚痴る者、そして正式に手を結ぶことになった龍人族(ドラゴニュート)のことに見解を示す者。


 魔王軍のメンバーが様々な反応を示す中、ハーピーのカーラはその過酷な内容に緊張感が爆発して顔をこわばらせたままガタガタと震えていた。


「あわばばばば……こんなに過酷な季節だったなんて……。どどどどどうしよう、エミりーん!」


 怯えた声で鳴きつくカーラに、同じハーピーのエミリーは呆れながらも優しく抱きしめる。


「いや、落ち着けし。あーし等の力なら乗り越えられるってさっき言ったろ案件」

「でも……」

「大丈夫だって。ってか、まだ始まってもいないのにビビりまくりんぐは良くないよ?」

「その通り。こんな楽しいお祭りを前にして、ビビってばかりじゃ損するだけさ」


 及び腰になっているカーラを元気づけようと二人のハーピーの間に、ランハートが入ってきた。


「ランハートさんは……怖くないんですか?」

「怖い? むしろ楽しみで仕方ないよ。ほら、自分のメンバー見てみて」


 そう言ってランハートは親指で自身の一味を指差す。


 するとそこには――。


「いよっしゃあああ! 想像通りの季節じゃ、心が躍り過ぎて胸に穴が開いちまいそうじゃけぇね!」


 両手でガッツポーズをしながら激しく意気込むトーマンに――。


「コットンシープにエルダーホーンラビット……。どれも希少な高級素材が見込める魔物ばかりだ、いい……いいよ。是が非でも手に入れてやろうじゃないか」

「終盤のワイバーンも面白そうなんだな! 早く来てほしいんだな!!」


 最早恍惚とした表情を隠さなくなったデリーに満面の笑みで鼻息を荒くするカジミア、そして――。


「ワイバーンで一気にお金稼いで借金返済、ワイバーンで一気にお金稼いで借金返済……!」

「ちょいちょい、ミラっち。目ェギラ付きすぎだよ、まあアタイもガッツリ稼いでオシャレ楽しみたいからどっこいどっこいだね♪ じゅるり……」


 ギラギラした目でブツブツと呟くミラと、自身の武器であるブーメランを舌なめずりするレイチェルの姿があった。


 そんな彼らを見ながら、カーラは率直に感じた思いを口にする。


「すごく楽しそう……命がかかりそうな季節が来ようとしてるのに」

「そりゃそうさ、傭兵にとっての生き甲斐は『戦いを通して困難を乗り越えること』だからね。命懸けになればなるほど、血が滾るのが性分だよ」

「それじゃあ……ランハートさんも?」


 か細く尋ねるカーラの問いに、ランハートは迷うことなく頷いた。


「だから……そうだね、先ずは目の前の困難を楽しんでみるといいよ。そうすればどんな困難でも、後から楽しい思い出になると思うから」

「そういうもの、なんでしょうか?」

「ああ。自分が保証する」


 そう言い残し、ランハートは騒ぐ一味の元へと戻っていった。


 それから程なくしたその時――。


「おーい、お前ら! 静かにしろ!!」


 再び壇上に上がってきたフェリシアが大広間の一同を一喝する。


 彼女の叫びが大広間に響き渡ると同時に、魔王軍の騒ぎは時と共に過ぎ去る風の如く徐々に小さくなっていった。


 やがて完全に静かになったタイミングを見計らい、フェリシアは口を開く。


「さて、アロンゾとカルラのおかげで魔獣季(まじゅうき)のおさらいは済んだかな? こっからは、今年の魔獣季(まじゅうき)対策について大事な話がある。引き続き聞き逃すんじゃねーぞ」


 そう言いながらせき払いをしたフェリシアは、改めてその内容について触れていく。


「今までは魔獣季(まじゅうき)が来るたびに、真正面から対応してきたが……毎年規模がデカくなるに連れて被害もひどくなってきた。まあ、あの時はまだエルネストと睨み合ってた時期だったから仕方なかったけどな。

 だが、今は違う。コタロウの武働きによって、ようやくこの島の治安を整えることができた。そこでだ、エルネストと手を組むことができた以上……今年から魔獣季(まじゅうき)の対抗策を大幅に改良していくことにしたってわけだ」

「改良……?」

「いったいどのように改良していくんですか?」

「フェリシア様は手を引いてしまわれるのですか!?」


 不安に思った一部の魔人が意見すると、フェリシアの代わりにライムンドが答える。


「案ずるな、完全に手を引くわけではない。ただ、今まで主にフェリシアとエルネストに任せてきた分を、我等魔王軍とエルネストの勢力でより積極的に作業を分担していく。今回フェリシアが発表したい内容はそれだ。分かったか、凡愚共」


 フードの奥から覗くライムンドの碧眼が質問者を捉えると、対象の魔人はそれ以上意見できずに着席するしかなかった。


「ナイスフォロー、ライムンド! さて、本題に戻すが……今からその改良内容についてコイツが詳しく説明してくれるから。良ーく聞いとけよ」


 そう言ってフェリシアは指を鳴らして壇上の下にいる人物の名を呼ぶ。


「コタロウ、説明してやれ!」

「承知いたしました」


 丁寧な返事と共に、誇太郎は修繕されたスーツを着込み壇上へと姿を現した。


 礼儀正しく一礼し、満を持して発言する。


「皆様、おはようございます。戦闘部隊隊長、樋口誇太郎(ヒグチコタロウ)です。フェリシア様からご紹介いただきました通り、これから今年行われる魔獣季(まじゅうき)への対策について、説明をさせていただきます」


 意外な人物の登場に、魔王軍は再びざわめき始める。


「おお……戦闘部隊隊長さんだ」

龍人族(ドラゴニュート)の攻城戦で一役買った、あの……!」

「どんな対策ができているんだろう?」

「ちゃんとしたものなんだろうか……?」


 期待と困惑が渦巻く中、誇太郎はその詳細を説明し始める。

いかがでしたでしょうか?

予定では明日も投稿予定ですが、もしかしたら間に合わなくなり予定変更になるかもしれません。

何卒宜しくお願い致します。

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