第77話 外道を屠るバトンタッチ
こんばんは。
少々投稿期間が開いてしまいましたが、最新話投稿です。
何卒よろしくお願い申し上げます。
誇太郎とショウジの両者による刃の打ち合いは、第三者の介入を許さない異様さを周囲に見せつける。
刃を交える度に鳴り響く金属音が。
傷だらけの誇太郎が放つ激しい怒号が。
時折ショウジの放つ魔法術の風が。
より両者の打ち合いのボルテージを上げていく。
「リーダー……」
ショウジと刃を交える誇太郎の姿を、バレンティアは不安げに見守ることしかできなかった。
こんな斬り合いに割り込んだら間違いなく足手まといは愚か、先ず間違いなく巻き添えになるだろう。
そう鑑みれば、迂闊に加勢できないことは明白だった。
そして何より――。
「カーラ、しっかりしろ! オイ!!」
「ごめんなさい……ごめんなさい……、ぶたないでショウジ……お願いだから……!」
ショウジの姿を見るなり恐怖の表情に捕らわれたカーラと、彼女をなだめるエミリーたちを放ってこの場を離れることなどバレンティアにはできなかった。
「アタシはどうすれば……」
自身の行動に頭を悩ませていたその時だった。
「どうもどうもー、皆さんご無事でーすか?」
「シャロン……先生?」
逃走支援部隊をサポートする魔王軍の魔女筆頭、シャロンがバレンティア達の前に姿を現した。
「どうすればいいか迷っておいでのようでーすね」
「恥ずかしいけど……そんな感じです」
「だったらシンプルに伝えまーすよ。ハーピーさん達にビビアナ、あなた達にも同じ指示を出します」
「え……?」
「ハーピー達……って、あーし等のことか」
「指示って何だい、先生?」
激戦を繰り広げる誇太郎達を尻目に、バレンティア含む四人が耳を傾けたのを確認してシャロンは告げる。
「コタロウさーんの援護は私に任せーて、あなた達は早く撤退しなーさい」
「……!」
シャロンから告げられた撤退命令を前に目の色を変えたのは、彼女の弟子であるビビアナだった。すかさずビビアナが返事を返そうとした時、バレンティアが「待って!」と前に出る。
「リーダーを放って下がれないよ! アタシに何かできることがあれば……」
「身の程をわきまえなさい、バレンティア」
普段の奇天烈な言動とはうってかわって、シャロンは鋭利に伸びる杖の先端をバレンティアの口元に突き付けた。
突き付けられたバレンティアの口元には、カーラから受けたダメージの証拠として鮮血が滴っている。
「そんな手負いの状態で出来ることなんて何もありませんよ。それが分かっていたからこそ……加勢すべきか逃げるべきか迷っていたのではないですか、バレンティア?」
「……そうです」
シャロンに指摘され、バレンティアは口惜しげに答える。
「だったら、今は大人しく下がりなさい。カーラの確保という目的も果たしたなら、これ以上ここにいたって意味はありませんから」
「でも、シャロン先生。一人で大丈夫なんですか?」
「心配いらないさ、バレンティアちゃん!」
そう言ってシャロンの代わりに答えたのは、ビビアナだった。
「先生はあちき等五十人の魔女の上に立ち、あらゆる魔法術を研究して習得した……誰もが認めるめちゃつよ魔女様なんだから! 万が一のことがあっても大丈夫だよ!」
「ビビアナちゃん……」
「ちなみに先生、ペルラとブルーナは?」
「彼女たちはここに来る前に先に下がらせました。残るはあなた達だけです」
「分かった。それじゃハーピーさん達、バレンティアちゃん! ここは大人しく逃げるよ!」
そう言うとブルーナは、自身の泡の魔法術を用いて即興の逃走回廊を作り上げた。
先ほど作り上げた巨大防壁陣に比べれば脆い造りだが、彼女らが逃げる時間は稼ぐ分には十分だった。
「ほら、急いで急いで!」
「ういっす。ほら、カーラ。逃げるぞ」
「ご、ごめん……エミりん……」
「気にすんなって」
ビビアナが先導し、続いてエミリーとカーラが泡の逃走回廊に姿を消していった。
そしてバレンティアが最後に回廊へと入ろうとするが、その直前で彼女はシャロンに視線を向ける。
「まだ何か?」
「シャロン先生、リーダーに一つ伝言お願いできますか?」
「どうぞ」
そうしてバレンティアからの伝言を受け取ったシャロンは、深く頷く様子を見せる。
「しかと聞きました。さあ、後は急いで避難を」
「お願いしますね!」
そう言って逃走回廊へと入っていくバレンティアを見送って、シャロンは杖を一振りした。すると早速自身の分身が一体生まれ、すかさず激戦を続ける誇太郎達の元へ突撃していった。
「さぁて、シャロンちゃんはもう一踏ん張りしちゃいまーすよ」
*
誇太郎は決して油断していたわけではなかった。
エミリーがショウジの能力の詳細を掴めていなかったにしても、奴が何人もの人々を殺めてきた時点でおおよそ察せることはできていた。
ショウジが人を殺すことに何の躊躇いも持っていないということを。
しかし、それでも実際に相対した時の怖気は群を抜いた。
ショウジに魔法術を叩き込まれる前でも、彼の太刀筋は非常に恐ろしいものだった。
目や頸動脈と言った急所はもちろん、出血多量になりかねない腹部をも狙ってくる残忍な太刀筋は、戦うためのものではなく相手を殺すためのもの。
故に誇太郎は、ショウジの攻撃をしのぎ切って反撃しようとした時に思わず「これで終わりだ」と油断してしまったのだ。
その結果、ショウジが奥の手として隠していた魔法術――禍風を食らってしまう羽目になった。
腹部に禍風を叩き込まれた瞬間、スーツごと肌を斬り刻む衝撃が誇太郎の全身を駆け巡った。その際、禍風はかすり傷程度に負っていた誇太郎の切り傷を大きく開かせて、より体力を奪い取った。
その為、ショウジと鍔迫り合っているこの現状でも誇太郎は足元には夥しい量の血が流れていた。
力を込めて睨み合う度に誇太郎の意識はぐらりと揺らぐ。
そして時折訪れるその隙を、ショウジは的確に突いてくる。
このままでは埒が明かない。
そう判断した誇太郎が後退しようとしたその時、彼はうっかり地面に流れる血で足を滑らしてしまう。
仰向けに倒れかけた誇太郎の態勢は無防備そのものだった。格好のチャンスをショウジが見逃すはずもない。
「死ねや、ド変態野郎!!!」
二対の鎌が誇太郎を切り裂こうとした、その時だった。
「ぐおっ!?」
ショウジの胴に割り込む形で一つの火球が直撃した。
火球が飛んできた方向へ誇太郎が視線を向けると、そこには杖を正面に構えているシャロンの姿が目に映った。
「シャロン先生……」
「横槍入れさせてもらいまーしたよ、コタロウさーん」
「え……おわあっ!?」
背後でシャロンの声が聞こえたと思った瞬間、誇太郎の背後に彼女の分身の一体が立っていた。
「ごめんなさいーね、割り込んじゃって」
「いえ……助かりました、ありがとうござ……ごふぁっ!」
礼を言おうとしたその時、誇太郎は思わず吐血してしまう。
そこで改めて自身のダメージの重さを思い知る。
「無茶しすぎでーすよ。最終課題のグライム戦や重装歩兵の時もそうでーしたけど、コタロウさーんって結構無茶するところありまーすよね」
「肝心な戦いで……負けたくないだけ、ですよ。その戦いは……今、この時も同様です」
口では強気ながらも、誇太郎のダメージは顕著なもので瀕死の一歩手前の状態だ。
「そんなボロボロの状態でーも、まだ戦うつもりでーすか?」
「もちろんです。奴だけは……この手で始末せねばなりませんから」
「その根性は買いまーすが、現実を見ーなさい。そんな満身創痍の状態で勝てると思うんでーすか?」
バレンティアに見せた態度でシャロンは尋ねる。
しかし、誇太郎はそれに動じることなくはっきりと告げた。
「……それでもやらねばなりません。男には、為さねばならぬ時があるのだから」
「コタロウさーん……」
満身創痍の状態にもかかわらず、誇太郎の戦意は喪失するどころか闘志がより一層強くなっていた。
恐らく腹を刺し違えてでもショウジを葬る気でいるのだろう、シャロンは一目見て確信した。
思えばグライム戦の時もエルネストの時も同じだった。
誇太郎は傷を負っても尚、確実に勝利に向かって突き進む所があると。
――やっぱーりあなた、すごいお人でーすよ。なればこーそ、今はこの人を……。
心に頼もしさを感じながら、シャロンは口角を吊り上げて誇太郎にある提案を持ち掛ける。
「コタロウさーん、これーを」
「こいつは……確か、ポーション?」
「ええ、それ飲んで休んでてくーださい。ここからは、シャロンちゃんが選手交代しまーすから」
「なっ……!」
動揺する反応を誇太郎は隠せないだろう、シャロンはそれも踏まえて敢えてそう告げた。
当然、そこからの誇太郎の発言は予想通りだった。
「待ってください、奴は俺がやらねばならないんです! だからここは……」
「落ち着きなーさい!」
迫る誇太郎をぴしゃりとシャロンは黙らせた。
「分かってまーすよ、それくらーい。選手交代する理由は、あくまで時間稼ぎでっすん」
「時間稼ぎ……ですって?」
「ええ。そのポーションを飲ーめば、恐らーく三分程度で傷が全快するはずでっすん。その間に私が時間を稼ぐのーで、コタロウさーんは傷を治しながーら柔軟な肉体や感情色をフル活用して、少しでーも勝率をあげるようにしてくーださい」
「ですが……」
と、誇太郎が言い淀んだその時――。
『いいではないですか、その提案。お言葉に甘えて受け入れてみては?』
彼の脳内に落ち着いた声色が響き渡る。
その者の声は、誇太郎に宿る感情士の根幹を司る感情――「根性」だった。
「根性!? お前まで何を……」
『奴を潰したいという想いはあなただけではありません。我ら感情士も同様です。ですので、模擬戦の時みたいにまたもや倒れられては困るのですよ。樹木城で私が告げた忠告をお忘れですか?』
「……」
痛いところを突かれた様子で、誇太郎は顔をしかめてしまう。が、それは一瞬で終わりカラカラと笑って誇太郎は根性に謝罪する。
「……ごめん、そうだったな。俺の感情である以上、一蓮托生だものな。一人で戦ってるわけじゃなかったわ」
『それでよいのですよ。くれぐれも、時忘れの門で背中に刻んだ覚悟に恥じぬ戦いをしなさい。その為ならばいくらでもご助力いたしましょう』
「……分かった、ありがとう」
そう言い終えて短くため息を付くと、誇太郎は改めてシャロンに向き直る。
「シャロン先生。誠に恐れ入りますが、お時間を稼いでいただけますか?」
慇懃な態度で尋ねる誇太郎に対し、シャロンの返答は明確だった。
「私にお任せでーすよ! それよーりも、今お話してたのって……感情色でーすよね?」
「はい。もしかして、フェリシア様から伺っておいでで?」
「もちろんでーすとも! しかーし、本当に魔法術が意志疎通を持つとーは……私にーも予想外でーしたよ。まあ、とりあえーず今は!!」
顎に手をやって感心する様子を見せるも、シャロンは杖を構え直して態勢を整い終えたショウジに向き直る。
「時間をがっぽーり稼いじゃいましょーかね! コタロウさーん、この戦いが終わったーら感情色について詳しく調べさせてもらいまーすからね!」
「いや、お待ちください先生! それ死亡する前提の奴が言う、お決まりの台詞ですよ!!」
「ご心配なーく! 万が一そうなってーも、ここにいるのーはあくまーで分身体なーので!!」
「そういう問題じゃないでしょ!?」
と、誇太郎のツッコミを尻目にシャロンは既にショウジと睨み合っていた。
「さーてと、お待たせしましーた」
「いや……待ってねーよ、テメェが横槍入れた火の玉消すので手一杯だったからな」
「あららのらー、それはすみませーんでしたね。ではでーは、改めーて……」
そう言い切ると、シャロンは帽子のつばをかぶって不敵な笑みを浮かべる。
「試合再開と行きましょうか」
*
ショウジは苛ついていた。
女性が舐めた口を聞くことが何よりも目障りで仕方なかった。
だからこそ、どんな女性でも自身に犯されることで泣き叫ぶ光景が滑稽で面白い。
そう思えば、ショウジにとってはこの苛立ちは性癖の前座に過ぎなかった。
ところが――。
「気に入らねぇな……」
「何がでっすん?」
「その面だよ、余裕たっぷりなそのツラが気に入らねえ」
「ほっほぉ?」
今眼前に立ちはだかる魔女はそんな気配は感じられない。
むしろ自身を打ち倒すつもりまんまんの余裕たっぷりの表情だ。
それが一層ショウジの気に障って仕方なかったが、やることは変わらない。
力でねじ伏せて、辱めて支配する。
その一択のみだ。
すると、相手の魔女――シャロンはこれでもかというくらいわざとらしくショウジを煽り始めた。
「おかしなこと言うもんでーすね」
「ああ!?」
「今まーで数多くの女の子を甚振っておきながーら、こんなくりくりお目目の魔女ちゃんにビビってるんでーすかー?」
唾を吐き捨てるような挑発を投げつけると同時に、シャロンは既に杖の照準をショウジへと真っ直ぐ突き付けていた。
そして――。
「分身砲弾」
技名を詠唱すると、杖の先からシャロンの分身体が雪崩の如く召喚され、瞬く間にショウジの頭上を覆いつくした。
その数は両の手では数えきれないレベルで、少なく見積もっても百体は下らない。
――さーて、先ずーは小手調べ。コタロウさーんを屈服させーた実力は如何ほどタコ程か。
圧倒的物量を相手にショウジがどう出るか、シャロンは杖を構えながら様子を伺っていた。
対してショウジは、分身体で自身を押しつぶすと踏んだのか鎌を握る右腕に禍風を宿して迎撃態勢を取る。
「舐めんじゃねーぞ、クソアマぁあっ!!」
獣のような咆哮と同時に、ショウジは天を切り裂く勢いで禍風を用いた漆黒の鎌鼬を一閃解き放った。
たった一薙ぎの太刀筋は、上空を覆いつくしていたシャロンの分身体を瞬く間に一掃してしまった。
そして無残に切り裂かれたシャロンの分身体は、さながらバラバラ死体の如く次々と地面に降り注いでいく。
「へっははは!! どうだ、俺の禍風の味はよぉ!!」
天狗になっていきり散らすショウジだったが、対するシャロンは顔色一つ変えることなくこう告げる。
「まだ攻撃は終わってませーんよ?」
「あ?」
と、ショウジが聞き返したその時、バラバラになったシャロンの分身体が煌々と光り始めた。
そしてシャロンが指を鳴らした次の瞬間――。
「分身爆撃」
シャロンが指を鳴らす音をトリガーにして、ショウジの周囲に降り注いでいた分身体が一斉に大爆発を引き起こしたのだった。
凄まじい轟音と共に爆風が吹き荒れる様は、まともに見れば生存不可能なレベルの爆発だった。
それでも、シャロンは油断することはない。
なぜならショウジの魔力の残滓が消えていなかったからだ。
――お次はどーう来ますかーね。
慎重にシャロンが動向を伺っていたその時だった。
「シャロン先生!!」
焦燥に満ちた誇太郎の叫び声が響き渡る。
それにシャロンが気付いた瞬間――。
「隙ありゃあああっ!!!!!」
彼女の懐に迫ったショウジの凶刃が炸裂しようとしていた。
いかがでしたでしょうか?
次回からは諸事情により、投稿期間が更に開くかもしれません。
何卒よろしくお願い申し上げます。




