第65話 心強き援軍
こんにちは。
今回は短めになりますが、何卒宜しくお願い致します。
ミーティングルームを後にしてすぐ、誇太郎は自身が携帯しているスマホで相談を試みる。
連絡先はもちろん、フェリシアだ。
龍人族の戦いの後、魔王軍の魔法術研究者である魔女のシャロンが複数の端末を密かに開発していたらしく、フェリシアを筆頭にいくつかのネットワークが試験的に運用されていたのだ。
もちろん誇太郎もネットワークに喜んで加わり、現世界から持ってきたスマホを異世界仕様に改造してもらったのだ。
そういうわけで、誇太郎は早速フェリシアへとスマホを介して相談を持ち掛ける。
従来通りのスマホの操作で電話を起動させ、独特の待機音を耳にしながら誇太郎は返答を待つ。
しかしそれから数十秒経つも、一向に返事が来ない。
「忙しいのかな、フェリシア様……」
誇太郎がそう呟いたその時、プツっという音が耳に響く。電話の相手側が通話に出たことを意味するものだ。
「もしもし、フェリシア様! ただいまお時間よろしいでしょうか?」
誇太郎がそう尋ねるも、向こう側からの応答はない。もう一度誇太郎が呼びかけるも、やはり返答がない。
何かあったのかと不安になりながら三度目の呼びかけをしようとしたその時――。
ぶう~~~~ぶうっ♪
「…………!!??」
突如スマホ越しから聞こえてきた景気のいいおならの音色に、思わず誇太郎は下半身を押さえてしまう。そして程なくして、このおならを放った張本人が悪戯っぽく笑いながらスマホから誇太郎に語りかけてきた。
『ニッヒヒヒ、いい音だったろ?』
「フェリシア様、いきなりのおならはホント下半身に悪いからおやめください!」
『何だよ、本当は嬉しい癖に』
「いや、それはそう! 本当にそうですけど! それよりも今は、フェリシア様にご相談事がございまして」
『おう、言ってみな?』
大らかに笑いながら尋ねるフェリシアに対し、誇太郎は絞り出すように増援の相談を持ち掛けた。
その結果は――。
『あー、悪いな。戦闘部隊は今、手ェ離せねーから出せないぞ』
「えええっ!?」
何とも旗色の悪い返答が返ってきてしまった。
「お待ちください、フェリシア様! 一人もそちらからは派遣できないのですか?」
『ああ。こっちもほら、ノエミと話してた時言ってたろ? 魔獣季が迫ってるって。あれに備えて島民全員で色々やらなきゃいけないんだよ』
「島民全員……、それほどまで……なのですか」
『もちろんだ。魔獣季は毎年訪れんだけど、その度に島の存亡をかけた戦いになる。だからその準備だけは怠っちゃいけねーんだよ』
「存亡をかけた戦い……確かにそうとなると難しい、ですね……。お忙しい所申し訳ありません、フェリシア様」
想像以上の返答を前に、誇太郎は旗色の悪い現実を受け入れざるを得なかった。
こうなってしまった以上、今いるメンバーのみでどうにかするしかない。
そう思って通話を切ろうとしたその時――。
『ちなみにそっちの陣営はどんな感じか教えてくれ、コタロウ。運が良けりゃ何人かはメンバーを回せるかもしれないぜ』
「本当ですか、ありがとうございます! 早速ですが、こちらの陣営は……」
短く礼を告げ、誇太郎は現在の味方と敵の陣営を簡潔に説明した。
一通りの説明を聞き終えた後、フェリシアは「ふむ」と一言添えて誇太郎にこう告げる。
『分かった。お前が応援呼びたくなる気持ち、分かる気がするよ』
「面目ありません。いかがでしょうか?」
『待て待て、今確認してみ……おっ』
「どうされました、フェリシア様?」
『ちょっと待ってな』
フェリシアが何かに気付いた様子で、一旦電話から外れた。そこから誰かと話す様子がスマホ越しに聞こえるも、ぽつりぽつりとしか声が入ってこないため誇太郎は難儀した。
しかし、それも僅か三分ほど経過した辺りで再びフェリシアがスマホ越しから語りかけてきた。
『待たせたな、コタロウ。援軍の目途がついたぜ!』
「本当ですか! 一体誰が……」
と誇太郎が尋ねようとしたその時、フェリシアが話していたと思われる相手の声がスマホから響き渡る。
『……よぉ、俺を頼らねえなんて水臭ェじゃねーか。なぁ、コタロウ!?』
「その口悪い感じの声、まさか……!」
『口悪いは余計だ、馬鹿野郎がぁ!』
その声の主を、誇太郎はよく知っていた。
ラッフィナートに来る直前まで、お互いに拳もとい剣を交え死闘の果てに友情を交わした戦友の声に他ならなかったからだ。
「まさか、お前が出てくれるなんて嬉しいよ……エルネスト!」
『はっ、言ったろ。相談してぇことがあんなら遠慮なく言えってよ』
「でも、そっちの準備の方は大丈夫なの?」
『心配すんな。俺が留守にしてても、ウルガが代わりに皆をまとめる。つーか、そっちの方が都合いいんだよ』
「いや、本当に助かる。そっちも忙しい時にすまないな」
『謝んじゃねえ、下等種族! こっちは魔獣季のことはオメーよりもしこたま経験してんだ、心配してんじゃねーぞクソが!』
「わ、分かった……ありがとう」
毒舌ながらも気遣うエルネストの言動に感謝しながら、誇太郎は彼から援軍の詳細について聞き出した。
先ずは真っ先に名が挙がったのは、当初課題の一つだった「数の優劣」を簡単に覆せる分身魔法の使い手、シャロンから始まった。
五十人はいるという彼女の弟子から数人連れた状態で来るらしい。魔王軍からの援助はここまでだったが、それでも十分すぎるほどだった。
他にもエルネストの妹であるパトリシア、続いて野良ゴブリンから兵隊ゴブリンへと格上げされたウリセスと酋長のタデオ、そして誇太郎を支持する元エルネスト側のスカンクの獣人、バレンティアが立候補するとのこと。
それらを聞いた誇太郎は思わず胸が熱くなった。
「そんなに来てくれるのか……! しかも、バレンティアにあの人まで……!」
『こんくらいいりゃあ十分だろ?』
「充分すぎて笑みが止まらないよ。重ね重ねになるがエルネスト、本当にありがとうな!」
『気にすんじゃねえって言ってんだろ、クソが! 明日にはそっちに行けるからよ、準備忘れんな!!』
「了解した、こっちも手筈整えとく!」
誇太郎がそう礼を言うと同時に、入れ替わるようにして今度はフェリシアがスマホ越しに語りかける。
『話はまとまったな、コタロウ?』
「ええ、ありがとうございます!」
『よーし、それじゃあお前はエルネストの言う通り転移門の準備を頼む。ライムンドの黒転移門から直通でそっちに繋げられるよう、あのチンチクリンエルフに伝えてくれよな』
「チンチクリンエルフ……」
転移門の名とエルフがフェリシアから告げられた瞬間、誇太郎は青髪ショートのあのエルフの姿が脳裏によぎった。
「もしかして、レベッカのことですか?」
「そうさ。黒転移門の開発の時もそいつには世話になったからな、連絡頼むぜ」
「承知しました、ありがとうございます!」
その言葉を最後に、誇太郎は期待に胸を膨らませながら通話を終えるのだった。
いかがでしたでしょうか?
次回もまた楽しみにしていただければ幸いです、何卒宜しくお願い致します。




