第45話 War is over
お久しぶりです。
色々とまとめるのが上手くいかず、投稿期間に空白ができてしまいました。
何卒宜しくお願い致します。
日没間近の夕暮れ時。
魔王フェリシアが解き放った爆炎の蹴りは島中に響き渡り、そこから立ち上るキノコ雲の煙が威力の凄まじさを物語っていた。
その様子をやや離れた距離で観戦していたエルネストと植物精霊達は、戦いの終わりを告げる爆炎が上がっている光景を前に呆気に取られるほかなかった。
「何だ……あのデタラメな力はよ……」
「な、分かったろ……エルネスト。あたしゃ等が下につくって決めた理由が」
「フィオレちゃん達はここに来る前、ライムンドとか言うグランレイスにサキュバスロードの……フェリシア様の強さを教えられたのだ~。あのサキュバスロード様の扱う心力型の魔法術がとんでもなくてね~、曰く『イメージしたことに出来ないことはほぼない』ということらしいよ~」
エルネストの傍らで飄々とした口調ながらも、フィオレはフェリシアの強さをシンプルに伝えた。
出来ないことはほぼない。
「ほぼ」という単語にややエルネストは引っかかったが、そんなことはどうでもよかった。それほどに、目の当たりにしたフェリシアの強さはエルネストにとっても衝撃的な出来事だった。
――あれが……極位、俺たち最上位種を遥かに上回る強さ……か。
この出来事を未来永劫忘れないように、自分よりも上回る存在がいたという事実を噛み締めよう。
エルネストがそう心の中で誓い、再度固唾を飲みこんだ……その時だった。
「おー、お前ら。しっかり見てたか、あたしの戦い」
戦いを終えたフェリシアが、両手で伸びをしながら戻ってきた。
「……ああ、見せつけられたぞ……テメェの全力をよ」
「全力ぅ? ニッヒヒ、あれがあたしの全力だと思ってんならまだまだだね、エルネスト」
「何だと……!?」
フェリシアの「全力ではない」という発言に、エルネストはまたもや驚きの色を隠せなかった。全力ではない力であの破壊力と体術を操っていたかと思うと、先ほどまで自分自身が冷戦状態で対峙していた相手であるということに戦慄を禁じ得なかった。
そんなエルネストとは対照的に、フェリシアの表情は戦いを終えた爽快感よりもどこか煮え切らない不満げな様子を見せていた。
「どうした、フェリシア。数十年ぶりに派手にやった割には不満気ではないか」
「ライムンド……まあ、な」
傍に降りてきたライムンドに、フェリシアは罰の悪そうな表情で答える。
「あたしとしたことが情けねえ、逃げらったわ」
「逃げられた……だと? どういうことだ」
耳を疑うようなフェリシアの発言に、思わずライムンドはオウム返し交じりに質問する。
対してフェリシアは、大層不満気に頭を掻きながら何があったか説明し始めた。
――――――
「爆風脚」
尻尾でシュトルツをしっかり拘束した状態で、フェリシアは相手を弔うように静かな声色で彼の首元に向けて煌々と灯る右足の蹴りを首元へとお見舞いさせようとした……その時である。
「……こんなところで死ねるか」
シュトルツは何とか右腕を解放させ、蹴りが当たる寸前で辛うじて防御したのだ。
この時フェリシアは、シュトルツが何か握っていたのを感じ取った。爆風脚がシュトルツの握っている何かに触れた瞬間、「パキッ」と何かが砕ける音が聞こえたからだ。
そしてその瞬間シュトルツの気配は一瞬で消え去り、フェリシアが放った爆風脚は相手を仕留めることなく空振りに終わってしまったのだった。
――――――
「それで逃げられた……と言うわけか。しかし、シュトルツが逃げた手段も気になるが……お前の拘束を解いたというのにも驚かされた。フェリシア、確認するが……手は抜いておらんよな?」
「抜くわけねーだろ、トドメ刺す時以外は抜いてたけど」
「オイ抜くな、阿呆」
知りたくもなかった情報を前に、ライムンドは思わず呆れた声を上げてしまった。
「それよりもだ、ライムンド。今やらなきゃいけねーのは他にあんだろ?」
そう言いながらフェリシアは、地に伏すエルネストと宙に浮かぶライムンドにはきはきとした声色で告げる。
「ライムンド、エルネスト! とっとと終わらせんぞ、この戦!」
「分かってる」
素直に即答するライムンドだったが――。
「オイ待て……、何で俺まで含まれてんだぁ!?」
エルネストは当然、疑問の声を上げる他なかった。そんな彼に対し、フェリシアは彼の眼前に近づいて穏やかに口を開く。
「なぁに……ちょっとだけ協力してほしいだけだよ、ニッヒヒヒ♪」
*
本陣付近で轟いた爆音は、龍人族の砦で戦う野良ゴブリン達にもしっかりと届いていた。
その衝撃は敵味方問わず、一瞬戦闘が休止するほどである。
しかし、その休戦は文字通り一瞬で終わってしまう。
音が止んですぐに敵方の上位魔人が野良ゴブリンの軍勢に不意打ちしたことがきっかけになり、戦闘はそのまま再開する形になった。
敵方の大将である二人の龍人族が事実上の撃破された情報を知らずに、野良ゴブリンと龍人族側の上位魔人達は戦い続ける。
そんな彼らの元へバレンティアも加勢に加わったが、それでも状況は一向に良くなる様子を見せない。むしろ戦況は益々激しさを増していき、収拾がつくのか見当がつかない状況へとなってしまっていた。
「クソっ……キリがない」
「せっかく助けに来てもらったってのにすまねえな、スカンクの嬢ちゃん!」
「気にしないで……っと!」
苦戦するウリセス達と連携し、トドメの蹴りを敵にお見舞いさせてからバレンティアは答える。
敵が完全にダウンしたのを確認してから、ウリセスはバレンティアがここに来た理由を尋ねる。
「そういやオメーさんがここにいるってことは……まさか、やったのか!? あのパトリシアを!」
「そうだよ、苦戦してるんじゃないかなって思ってきたんだけど……思った以上だったね」
「うぅ……ごめんよ、スカンクさん」
「いいから、ウジウジしないの! それ……っと!」
タデオの背後に迫る敵の攻撃にいち早く気付いたバレンティアは、敵味方の目にも止まらぬほどの素早い動きで鋭い蹴りを敵の顔面に叩き込んだ。
そのままバレンティアは鮮やかに敵を倒した直後、野良ゴブリンたちには奮い立たせるように、そして敵の上位魔人達には戦闘意欲を奪うべく威圧するようにして声を張り上げる。
「ここにいる皆、よく聞きなさい! アタシの名はバレンティア、バレンティア・ノーブル! アンタ達の副リーダー、パトリシアを撃破したスカンクの獣人だ!!」
ライムンドから与えられた「敵の戦意を奪う」という指示の下、自らがパトリシアを倒したということを強調してバレンティアは洞窟一体に声を響かせたのだった。
大将の妹であるパトリシアは龍人族の砦における事実上のナンバーツー、彼女を倒したことで多少の動揺を誘えるかとバレンティアは踏んだ。
ところが――。
「だったら証拠を見せてみろ!」
「口でならどうとでも言えるだろ、どうなんだ!」
あたかも相手の粗探しをする野次馬の如く、敵方の魔人達はバレンティアに証拠を求め始めた。
「わ、分かったよ。連れてくるからちょっと待ってなよ、それが分かったらとっととこの戦いをやめること! いいね?」
「ああ……それでいいさ」
素直に答えた上位魔人の発言にやや違和感を感じるも、バレンティアは素直に理解してくれたと見受けそのまま踵を返してパトリシアの身柄を連れてこようとした……その時である。
「隙あり!!」
上位魔人達はバレンティアが背を向けた瞬間、一斉に彼女の背に向けて属性攻撃型の魔法術や様々な攻撃で奇襲をしてきたのだ。
「危ないっ!!」
奇襲に気付いたタデオ達は慌ててバレンティアを庇おうと駆け寄るが、攻撃の動きの方が彼らよりも一歩早く動いており、今まさに火の玉がバレンティアの背に当たろうとしていた……次の瞬間。
バシュゥッ!
バレンティアが振り返るのと同時に、迫ってきていた火の玉は植物のツタで作られたバリケードによって防がれた。それから程なくして、ツタのバリケードをかき分けた先から植物精霊のアージアとフィオレ、そして龍人族の勢力のリーダーであるエルネストが姿を現したのだった。
「エルネスト!?」
「……おう、バレンティア。生きてたんかテメェ……っつーこたぁ、パトはやられたってことか」
バレンティアを一瞥するも、エルネストはどこか気の抜けた声色でそのまま洞窟の高台へと歩を進める。そして上位魔人や野良ゴブリン一同を見渡せる位置に辿り着くと、エルネストはスゥッと深く息を吸って高らかに告げる。
「テメェ等、いつまで戦ってんだぁ! 戦いは終わりだ、とっとと静まりやがれ!!」
エルネストの鶴の一声により、争っていた魔人達は敵味方問わず再び手を止める。
「エルネスト様、戦いは終わりって……どういうことですか!」
「そうだ、まだ裏切り者のゴブリン共は健在だし……パトリシア様だってきっとまだ生きてるはず……」
「おい……今、パトはまだ生きてるって言った奴……どいつだ。パトを馬鹿にしてんのか、カスがぁッ!!」
エルネストの恫喝に、発言した魔人はビクッと怯えた反応を見せるも表立って発言することはなかった。そんな真似をしたら最後、即座に首をはねられることは明白であろうことだから。
「パトだけじゃねえ、龍人族は簡単には死なねえ! それはテメェ等自体が一番分かってるはずだ、違うか!」
「そ、そうだ! その通りです、エルネスト様!」
「分かってんならそれでいい! だが……そんな龍人族でもだ、はっきり言おう。俺は……ある男に敗北を喫した、サキュバスロードが部下……樋口誇太郎という人間の男にだ!」
エルネストが声を張り上げるのと同時に、敵味方問わず魔人達はどよめき始めた。
龍人族が人間の男に負けた。
ただの人間が最上位魔人を超えた。
その信じがたいエルネストの発言に、辺りが戸惑う反応を見せるのは必然と言っても過言ではないだろう。
そんな彼らの反応を前にエルネストは予想通りと睨んだ。
恐らく自身が負けた証拠を求める輩も出てくることだろう、それを踏まえた上でエルネストは右翼部分を魔人達に見せつける。エルネストが右翼を見せつけてきたことに魔人達は目を凝らしながらよく見てみると――。
「あっ……、逆鱗にヒビが入ってる!」
「何!?」
「逆鱗に!?」
「龍人族が絶対に狙われたくない、あの……!?」
「……そうだ」
益々動揺する魔人達に、エルネストはため息を付きながら短く事実を告げた。
「何て姑息な……その人間は!」
「弱点を狙わないと勝てないとは、いかにも脆弱な人間らしい」
「それでエルネスト様、その人間は今どこに!?」
「倒せるなら総出でぶっ倒してしまいましょう!!」
「そうだ!」
「それがいい、エルネスト様!!」
「そいつを殺してしまえば負けたという事実は闇に消えてしまうでしょう、我ら全員でそいつを葬りましょう!」
野良ゴブリンやバレンティアを除く、上位魔人達はこぞって誇太郎を総力を持って倒そうと満場一致で声を張り上げた。
そんな彼らに対し、エルネストは――。
「ゴガアアアアアアアアアアアッ!!」
鼓膜が破れるような凄まじい音圧で、魔人達の意見を無理やりねじ伏せた。その叫び声の音圧一声で、ある者は気絶しある者は失禁して動けなくなったりと瞬く間に魔人達は戦闘意欲をそがれてしまった。伊達に龍の血を引く種族ではないことを、バレンティアは間一髪で耳を防御した状態で改めて目の当たりにするのだった。
「ガタガタ騒ぐんじゃねえ、テメェ等ぁ!! 俺が負けたことも逆鱗を傷つけられたことも全部事実だ!!」
その上で、戦いを乗り越えた自身の考えを告げる。
「だが……それでもだ、只の人間風情と全力でやり合って負けたことに……俺は後悔はしていねえ。確かに逆鱗を傷つけられたが、そんなことがどうでもよくなるほどに奴は強く……最後まで俺に食らいついてきた。遥か格下の存在だった人間が、最上位魔人であるこの俺に食らいつき続け……最終的に勝利をもぎ取りやがった。見事と言わざるを得なかった、あんな人間を見たのはこれが初めてだった」
噛み締めるように逆鱗を押さえながら、エルネストは見てきたこと全てを告げるべくさらに続ける。
「そして……そんな奴が仕える魔王のサキュバスロード・フェリシアは、俺よりも遥かに格上の存在だった。最上位よりも上位種である、『極位』に至る魔人なんだとよ。さっき……すげえ爆発音が聞こえたと思うんだが、耳にした奴は手ェ上げろ。ああ、野良ゴブリン共。テメェ等も聞こえたんなら手ェ上げろ、どうなんだ?」
エルネストがそう尋ねると、上位魔人が続々と手を上げていく中野良ゴブリン達は自分たちが問われたことに対し違和感を感じざるを得なかった。が、バレンティアが近寄ってきて「今のエルネストに敵意がない」ということを伝えると、多少疑いの目を向ける様子があったものの野良ゴブリン達もまた続々と挙手していく。
やがて、洞窟内にいる魔人達の大多数が挙手したのを確認するとエルネストは引き続き目の当たりにした出来事を簡潔に告げる。
「やっぱ全員聞こえてたみてーだな。実はな、あの爆発音を起こした張本人は……俺たちがさっきまで相対していた魔王の仕業だ」
「えっ……」
「「「「ええええええええええええええええええええええええええええっ!!???」」」」
戦闘中に突如轟いた爆発音の発生者が敵方の魔王の仕業ということを知り、上位魔人達はもちろん野良ゴブリン達は誇太郎以上のオーバーリアクションで驚くしかなかった。
そしてバレンティアもまた、その話を前に周囲とは別に静かに戦慄していた。一応魔帝王の娘である以上、そのくらいの芸当はできてもおかしくはないだろうとは頭では分かっていた。それでも、改めて先ほどの凄まじい轟音を発した張本人がフェリシアによるものということを知ると戦慄を禁じ得なかった。それだけ、フェリシアの力が強大なものだということに。
「俺はコタロウと死闘を終えた後、予期せぬ乱入者に殺されかけたんだが……それを救ったのは他でもねえ。魔王フェリシアだった。奴は俺を助けるだけじゃなく、圧倒的な力をも見せつけたんだ。情けねえ話だが……俺は奴には遠く及ばねえ、仮にもしコタロウに勝っていたとしても……フェリシアには負けていただろうよ」
「じゃあ……これからどうすんのよ、エルネスト?」
津々浦々と語るエルネストに、バレンティアは結論を求めた。その問いに対し、エルネストはどこか満たされたような表情で一度目を伏せた後、顔を上げて声を張り上げる。
「これより我ら……龍人族の軍勢は、魔王軍と和平交渉を行おうと考える!」
「和平だって!?」
突如発せられたエルネストの衝撃発言に、敵味方問わずざわめきがあるがまたもやエルネストの怒喝によって洞窟内に静寂が訪れた。
「勘違いすんな、降伏じゃねえ! あくまで『和平』の交渉……つまり、対等でい続けるための休戦協定を結ぼうと決意した!」
「対等か……」
「確かにそれならまだ、俺たちの自由とかは保障される……よな?」
「でも、本当に大丈夫なのか? さっきまで敵対してた奴らと和平交渉なんて……」
「だーからっ、ごちゃごちゃうるせえつってんだろ! いいか、どっちにしろ今は一時休戦しやがれ! もしも暴れたりねえってんなら……俺が相手になってやる」
傷がまだ完治していない状態にもかかわらず、エルネストは鱗操で全身を鋭利な刃物で覆うような状態に変貌させて上位魔人達に勇み立った。はっきり言ってエルネストの容態は、アージア達に処置を施されたとはいえ完全に回復しきっていない状態だ。特に逆鱗を傷つけられた激痛は今もなお、エルネストをじわじわと苦しめている。
にもかかわらず、鱗操を用いて上位魔人達に勇み立ったのは他でもない。コタロウと戦ってエルネスト自身の心に何かが芽生え始めたことと、フェリシアの実力を目の当たりにした衝撃が抜けきれなかったからに他ならない。
故に、今は互いに話し合うべきだとエルネストは改めて実感した。意地を張り続けて拒絶するのではない、最上位種のプライドを一度懐にしまい正面から話し合うことにしよう。そうすれば、また何か違う光景が見られるかもしれない。エルネストはそう解釈することにしたのだった。
そんなエルネストの姿に、上位魔人達はとうとう観念したのか武器を地面に置き次々と跪き始めた。その様子を伺いながら、エルネストはバレンティアに視線を合わせた。
「バレンティア……、フェリシアにこう伝えろ。『戦は終わらせた。テメェの言う通りにしてやった』ってよ」
「……アンタに命令されるのは不愉快だけど、まあ……負けを認めたと見ていいん……だよね?」
怪訝な表情で伺うバレンティアに、エルネストは短く「ああ」と答えた。バレンティアの疑問は完全には晴れなかったが、鶴の一声で上位魔人達が次々と戦意喪失していく様子を前に一先ずは信じるしかない。とりあえずライムンドへと連絡を入れるべく、スマホを手に取った。
*
「こちらライムンド……バレンティアか。首尾はどうだ……うむ、ああ……そうか。終わったか……。とりあえず、お前も戻ってこい。野良ゴブリンや龍人族達の沙汰は追って俺たちが引き継ごう、ではな」
バレンティアから来た連絡を受け取り、ライムンドは静かにスマホを懐へとしまう。
「無事、役目を果たしてくれたようだぞ……エルネストの奴は」
「ニッヒヒ、そうしてくれると思ったよ」
満足そうに龍人族の砦がある山を見上げながら、フェリシアはニッと歯を光らせて笑みを浮かべた。
エルネストが砦の洞窟に戻る前に、フェリシアは彼に「戦を終えるように仲間達に命じろ」と頼んでいたのだ。
敵方の指揮官である誇太郎が予想外のアクシデントにより退場してしまった以上、敗北の事実を知っているのはこの場にいる数名の魔人達しかいない。特にエルネストは誇太郎と真正面からぶつかり、そして敗北した当の本人。その本人ならば説得力は幾分か増すだろうと踏み、フェリシアはエルネストに賭けたのだった。
とはいえ、敵にこのような賭けを持ちかけるのは正直現実的ではない。敗北した事実を隠し、逆に盛り返すことだって想像できるからだ。
しかし、フェリシアはそうならないと踏み敢えてエルネストに頼んだ。誇太郎との死闘を遠方から見ていた者からして、そんな無粋なことをするやからではないと見込んだ上で。
結果、交渉は無事に成功したという報告が入ってきたことにより、フェリシアはため息を漏らして満足そうな様子を浮かべた。そんな彼女の姿を目にしたライムンドは、短く安堵のため息を付きながら口を開く。
「プライドの高い龍人族が、まさかこうも素直にお前の頼みを聞くとはな。余程コタロウとの戦いで刺激を受けたと見るほかあるまいが……、こうなることも想定した上で最後の最終課題は総力戦で挑ませたのか?」
「エルネストの奴は視野がとにかく狭かったからな、一度でもいいからプライドをバッキバキに折って視野を広げさせたかったんだ。じゃねーとまともに会話にすら応じてくれねーだろ?」
「だが……、本当にコタロウがエルネストと正面切って戦うことになったのは予想外だったろう。正直な所……お前はどうなると思った?」
ライムンドの問いに、フェリシアはやや表情をうつむかせてこう答えた。
「まあ……本陣攻め込まれた時は、勝てるとは思ってなかったよ。元々の予定じゃコタロウには指揮官として頑張ってもらうつもりだったからな、エルネストと真正面切って戦わせるにゃどう考えても無謀だってのは分かってた。だけど……」
「奴は乗り越えた。己よりも力が上の魔人達を率いる以上、自身もまたそれに見合うだけの力を見せつけなければならない。その一心を諦めることなく貫き、奴は最上位種すら乗り越えた。今思い返せば信じがたい話だが、これが事実だ」
「そう……だなぁ」
誇太郎を迎え入れてから早三ヶ月が経過したが、ここまで立派に成長した事実を前にフェリシアは感嘆の息を漏らした。
「コタロウがここまで頑張ったんだもんな、後は……あたし達が何とかまとめないと。な、ライムンド」
「当然だ。それに……この島の統一が成る以上、いよいよ本土の方にも目を向けていかねばなるまい。特に……ギーアのことについては尚更な。あの重装歩兵を捕らえ損ねた以上、この島のことも気付いたと見てよかろう」
「……だな、これから本格的に忙しくなりそうだよ」
次のステップに繋がる悩みを前に面倒そうに言うも、フェリシアの目の奥にある確固たる意志は揺らぐことはなかった。
本土で待ち構えている最大脅威、そしてそれに立ち向かうために本土で起こっている問題をどうにかせねばならないためにも。
いかがでしたでしょうか?
次回は早めに投稿する予定ですが、再び投稿が遅くなるかもしれません。
何卒宜しくお願い致します。




