第36話 ライガ、奮戦す
こんばんは。
何とか猛スピードで書き上げることができました。
ライガの過去も振り返りつつ、楽しめていただけたら幸いです。
何卒宜しくお願い致します。
ライガの人生観は、フェリシアとはまた違った「ありのままに人生を楽しむ」というものだった。幼い時からそれは変わらず、運動することを楽しみ食事を楽しみ武術を鍛えることを楽しむ。ただやるのではない、そこから生じる一つ一つの過程に感慨を覚えながら楽しんでいく。そういうスタイルのままライガは人生を楽しんでいきたい、そう思いながら願っていた。
だが、そんなライガにも納得できず絶対に受け入れたくないものが二つある。
それは「ライオンの風習」と「未来の獣人族の頭首になってほしい」ということだった。
先ずは風習から紐解いていこう。知っての通り、ライガはライオンの獣人なのだがライオンの風習というものは恐ろしく残酷なものだった。それは、「自分たちが戦いに敗れれば、問答無用で自身の家族はもちろん率いる仲間の獣人族諸とも皆殺しにされてしまう」というもの。
実際に、これは元の世界のライオンの風習においても同じことが言えるのだが、異世界での獣人族の場合は仲間や家族はもちろん率いる他種族の獣人も対象になるという、より残酷で凄惨極まりないものだった。
この風習を前に、ライガはこう思う他なかった。
――何で負けただけでそこまでされなきゃならねーの? 百獣の王とかって言っても、本当に一度も負けたことがないわけねーだろ? それなのに……たった一回の敗北で、家族仲間皆殺しとか……普通に笑えねーだろ。
幼い時から色々な出来事を前に楽しみながら生きていたライガだったが、十歳頃に告げられたこの風習を聞いた瞬間彼は瞬時にそういう疑問を思い浮かべた。
そんな彼とは裏腹に、父であるアデマーはライガを「次期獣人族頭首」にしようと考えていた。周囲の獣人族もまた、それを拒む者はいなかった。
だが当然、ライガは真っ向から反対した。ライオンの風習としても有名な崖から落とされようとも、どれだけ強烈な折檻を受けようともライガは「ありのままに人生を楽しむ」というスタイルを貫いた。それでも周囲の小言やアデマーによる躾はエスカレートしていくばかりで、少しも治まる様子を見せなかった。
やがて限界に達したライガは、父が所属する群れを離れることに決めた。家出を決め、自由にありのままに人生を楽しもうと。
しかし、程なくして彼は瀕死に陥ってしまう。群れから離れる際に蓄えた「体力保存」のエネルギーが、底を尽いてしまったのだ。
ただ、そんな状況下においてもライガは受け入れようと思っていた。ありのままにそうなるなら、仕方ないことだと。そう思った時だった。
「おーい、まだ生きてるか? そこの……何の獣人だ、コイツ?」
「ライオンだと思うが……珍しく黒髪だな」
黒いローブを羽織った影と、一人のハスキーな女性の声がライガの元に立って自身を見下ろしていた。
「あんた等……は?」
「あたしはフェリシア、サキュバスロードのフェリシアだ。で、こっちの浮いてる影はライムンド」
「一応ローブを纏っているから影そのものではないぞ、フェリシア」
「ニッヒヒ、悪い悪い! それより、だ。そこの獣人、お前に聞きたいことがある」
フェリシアと名乗る女性は、ライガに視線を合わせるためしゃがんだ姿勢でシンプルな質問を投げかける。
「まだ生きたいか? それとも……このまま死にたいか?」
生きるか死ぬか。文字通りのシンプルな質問だった。
「ありのままに人生を楽しむ」ライガの人生観からしてみれば、終わりに至るまで「ありのまま」で終わってもよかった。少なくとも幼少の頃は、そう思っていた時もあった。
だが、いざ死を目前にして彼は感じた。
――生きたい……。まだ、楽しいことが一杯あると思うから……生きたい。
そう願った時、ライガは気付けばフェリシアの足首を掴んでいた。そして、瀕死の状態にもかかわらず声高に叫ぶ。
「生きたい……!! まだ、人生ここで終わりたくねえ!! もっともっと……楽しく生きてえ!!!」
気付けば涙も出ていた、本音が駄々洩れになり感情が抑えきれていなかった。
それをフェリシアはニッと歯を浮かべて笑いながら、ライガの身体を肩に担ぐ。
「そういう答えを待ってたよ。大丈夫、あたしの所で……お前の赴くままに人生楽しみな」
こうして、ライガはフェリシアに拾われ、魔王軍の一部隊の隊長へと任命されたのであった。
*
時は戻り、現在。
かつての走馬灯を、ライガはパトリシアの紅雷を浴びる度に感じていた。
基本は自身が得意とする体術に誘導することにより、紅雷の発生頻度を減らすことに成功していたが、時折放たれるその一撃は身体の一部に当たっただけでも走馬灯を思い起こさせるほどの凄まじさを誇っていた。
しかし、それでもライガは「ありのまま」に楽しんでいた。嫌われ者の秘島に来てからは、食糧確保のために比較的弱い相手のモンスターを狩ることが多い日々が続いていたが、それはそれで楽しく過ごしていた。
特に誇太郎が来てからは、「異世界から来た人間を俺様が教えてやろう」という兄貴分として面倒を見ることの楽しさも自分なりに見出していた。
そして今回、龍人族と対峙している現在。生まれて初めて味わう自身よりも格上との戦闘。パワー、属性型魔法術。全てを持っても格上の龍人族、パトリシアと戦闘を続けながらもライガは新しい楽しみを見出し無意識に笑みをこぼしていた。
だがそれが、パトリシアの怒りを助長させることになる。
「何……笑ってんのよ、あんた!」
笑みを浮かべるライガに苛立ちを覚えながら、パトリシアは自身の尾に紅雷を宿し始めた。そして――。
「紅雷輪衝波!」
パトリシアは右足を軸にしながら一回転して、円状の紅雷の波状攻撃を解き放つ。対してライガは、さながら縄跳びの要領で跳躍して回避した。そのまま間髪入れず、ライガは自身の尾を鞭のように勢いよくしならせながらパトリシアの顔面に一撃をお見舞いさせた。
「獅子鞭ぉ!」
腰だけでなく全身を使ってお見舞いされたライガの一撃は、パトリシアの鼻の部分にヒットした。そこから鼻血が飛び出してしまい、思わず押さえながらよろけるパトリシアだったが、ライガは不服そうに舌打ちをする。
「ちぃっ、惜しかったなー! 目ェ狙えてたらもっと状況良くなると思ったんだけどなー!」
「このぉ……調子に乗ってくれちゃって……」
種族的には格上であるはずのパトリシアだったが、どこか余裕のない態度が目立っていた。一方でライガは、まだまだこれからだろと言わんばかりの様子で挑発するような言動で咆哮する。
「そりゃあ乗っちまうぜー! 何てったって、初めてだかんなー! 最上位種と戦闘レんのはよぉー! 楽しくて仕方ねえぜー!」
高揚感が伝わってくるライガだったが、そんな彼をたしなめる声が二人ほど背後から届く。
「ちょっとライガ隊長!」
「アンタ、作戦忘れてないよね? 大丈夫だよね!?」
アデリタとバレンティアだった。
依然としてグライムの治療は終わっておらず、バレンティアも今か今かと攻撃のタイミングを計っていた。
一方ライガは右手をひらひらと振りながら「分かってるっつのー!」と一言。
「本当に分かってるのかな……」
「大丈夫だよ、バレンティアちゃん」
不安そうに見つめるバレンティアに、アデリタは治療を続けながら告げる。
「ライガ隊長、ド直球な印象が目立つけど……肝心な時はしっかりやってくれるから」
そのアデリタの一言を前に、バレンティアは彼女とグライムから告げられた作戦を思い返す。
――――――
「作戦? どんな作戦なんだよー?」
ライガの質問に、アデリタは即座に答える。
「先ず……ライガ隊長がメインとなって、相手を引き付けてください。その間、私はグライムちゃんの治療に専念します。それが終わるまで……時間を稼いでください」
「待て待て待て、それはいいけどよぉ……」
チラッとライガはパトリシアの方を一瞥する。そこでは、引き続き激しく紅雷を放出し続けるパトリシアの姿があった。
「あんなやべェの相手にどれだけ時間が持つか分かんねーぞぉ……? 俺様の体力保存だって無限じゃねえ、限界がくりゃその時点でダウンしちまうんだー。あの攻撃相手に俺様の体力が持つかどうか……」
「大丈夫だよ、ライガ」
そう言って安心させようと告げたのは、バレンティアだった。
「パトリシアの紅雷は、確かに凄まじい威力だし手強い。でも……兄弟似た者同士なのかな、プライドが高すぎるのが弱点なんだ」
「どういうこったよー、バレンティア?」
「ライガ、もしあれだけ優秀な魔法術を自分が使えたら……どうする?」
「どう? どうって……そうだなー、俺様なら出し惜しまずに全力でぶっ潰すかもなー」
「……そうだよね。それじゃあ、何でパトリシアは丸腰のこっちに仕掛けてこないと思う?」
バレンティアの質問にライガはしばし考える様子を見せ、あることに気付いた。
「まさか……舐めてやがんのか、アイツー!」
「半分正解だよ。あの放電はあくまで威嚇でしかない、派手に魔法術を見せつけて……相手に『勝てない』ってイメージを植えさせて委縮させる。それが狙いなんだよ」
「どんだけ上から目線なんだよ、龍人族よぉー!!」
呆れた様子を見せるライガだったが、先に告げたバレンティアの「半分正解」という言葉が引っ掛かった。
「そういや、半分正解っつったけど……もう半分は何なんだ?」
「パトリシアは、属性的に有利な相手には必ず紅雷で叩き潰すんだよ。だから、グライムは見事にパトリシアにコテンパンにされちゃったの。でも……アタシ達が不意打ち入れて、増援が迫ってきて……状況が変わり始めた。つまり……」
「余裕綽々から焦り始めて威嚇してるってこったな、なるほどぉー!」
納得するライガに、治療を続けながらアデリタが付け加える。
「それに加えて……属性攻撃型の魔法術である以上、魔力の限界はあります。心力型じゃない限り、魔力が尽きてしまえば……相手ももう雷撃は撃てないはず」
「なるほどぉ……じゃあ俺様は、それまで時間を稼げばいいってこったな! んで、向こうの魔力がスッカラカンになった所を……」
「グライムが大地属性で仕留める、以上……」
ライガが言い終えようとしたところを、グライムが全て持っていくように結論を述べた。「最後まで言わせろよぉ!」と突っ込むライガだったが、すぐさま態度を変えて爪を伸ばし突撃の準備を始めようとした。が――。
「あっ、待ってください。まだちょっとだけ続きがあります」
「何だよー?」
と言いながら、アデリタはもう一つある策をライガとバレンティアに耳打ちした。
それを聞き終え納得した二人は、改めてパトリシアに向き合った。そして、ライガは突撃しバレンティアはその場で待機の姿勢を取るのだった。
――――――
ライガとパトリシアの戦闘が始まってから、早くも十五分が経過しようとしていた。
グライムの治療はまだ終わっていないものの、後もう少しだけ時間を稼げば完了する段階まで近づいていた。
そしてライガの方も、息切れする様子を見せずパトリシアに必死に食らいついていく。
「獅子猛攻ぇえっ!!」
誇太郎の面倒を見る際に披露した刺突の雨を、ライガは容赦なくパトリシアにお見舞いさせていく。対してパトリシアは、龍人族自慢の硬い鱗で受け止めていた。
――鋼鉄よりも堅い龍人族の鱗を砕ける訳がない!
そういう自負を抱きながらパトリシアは受け止めていたが、やがて彼女はライガが一箇所に集中攻撃していることに気付いた。そして――。
バキィンッ!
獅子猛攻を受け続けていた一枚の鱗が、金属音と共に砕け散ったことを伝えた。やがてそれは、周囲の鱗にも伝播しパトリシアの硬い鱗はボロボロと崩れていく。それから程なくして、人間と遜色のない肌色がパトリシアの腹部が露出するのだった。
「やっと剥がれたな、その鱗ー! 止め行くぞ、オラああああああああっ!!」
生身の身体が見えた瞬間、ライガはそれが弱点じゃないかと予測し一旦距離を取った。そして、助走と共に両手を前面に構えて咆哮する。
「獅子衝撃波ぉぉ!!」
体力保存に宿っている全体力を使い、ライガは渾身の一撃をパトリシアにお見舞いさせた。その衝撃から、一瞬辺りを凄まじい衝撃波が包み込む。これにより、パトリシアは戦闘不能になった……はずだった。
「……惜しかったわね、ライオン君。龍人族の鱗が……胴体だけだと思って?」
「あぁ……?」
パトリシアは、ライガの一撃を彼と同じ構えで真正面から受け止めていた。鱗に覆われた両手がその衝撃を全て吸収しボロボロと剥がれ落ちていくも、パトリシアのダメージを軽減させていたのだ。
そして、パトリシアはライガの手をガシッと掴んで放さなかった。その様子を前にライガも危機を察知して後退しようとするが、パトリシアの腕力はかなりのものを誇っており絶対に逃げられない状況に陥ってしまっていた。
絶体絶命の状態に、ライガは思わずこう言うしかなかった。
「……やっべ」
「ここまで生意気に足搔いてくれてどうもありがとう……。お礼に、私の残る全魔力で……返してあげるわ」
その一言ともに、パトリシアが威嚇に用いていた紅雷が彼女の翼から腕へと伝播していく。そして全ての紅雷が両腕に集結した瞬間、パトリシアはどこか敬意を込めた様子で技の名を告げた。
「……紅雷嵐撃派」
パトリシアの両腕から放出された紅雷が、凄まじい轟音と共にライガへと解き放たれた。その一撃は、巨大な塊となって放出されあっという間にライガの姿を包み込んでしまった。
やがて雷撃による煙幕が晴れていくと、そこには完全に黒焦げになり力尽きるライガの姿があった。それを確認したパトリシアは、「フン」と鼻で笑いながらライガを放り投げた。が、次の瞬間彼女もまた魔力を使い果たしたのか息を切らしながら地に足を付けてしまった。
「……やっばい、ちょっとやりすぎちゃった……こんなに疲れるなんて思わなかった」
魔力をほぼ使い切らせるほどの実力を引き出させてきた獣人、ライガ。放り投げた先で横たわるライガの姿に、パトリシアは思わず息を飲んだ。と、思ったその時。
「は……はぁ……、はは……まだ……俺、生きてるみたいだ……残念……だったなぁ……」
あれだけの雷撃を真正面から受けてもなお、ライガはパトリシアとは別の咆哮を見ながらそう言った。しかし、立ち上がるのは愚か指すら動かない状態であることに変わりはなかった。
「まだ生きてるなんて……すごい生命力なのね」
「だなぁ……、俺の身体術……まだ体力がほんの少し残ってるぞって……生かしてくれたみたいでよぉ……」
「でも……その命ももう、終わりだよ。私に潰されて……終わり」
パトリシアはゆっくりと立ち上がりながら、ライガに止めを刺すべく彼を右足で踏みつけた。
「魔力を尽かせる作戦でも練ってたんだと思ったけど、残念だったわね。魔力を使い果たしたって……」
と、パトリシアが続けようとしたその時。
「今だ、グライム! やれえええっ!!」
ライガのしわがれた声の叫びが響くのと同時に、地面がライガを押しのけパトリシアを四方から包み込んだ。
「な……何よ、これ! まさか……」
属性攻撃型を持つ自分自身だからこそ分かる、この攻撃は大地属性のものであると。そしてその属性を使えるものは、この場では一人しかいない。パトリシアはその攻撃を放った者――グライムを睨みながら、何か言おうとする間もなく泥の牢獄に閉じ込められた。
「作戦……完了」
「やったね、グライムちゃん。これでパトリシアも……」
完封できたとアデリタが喜ぶのも束の間。
泥の牢獄からパトリシアの爪が顔を出し、程なくして強引にパトリシアは泥の牢獄を真正面から破壊して姿を現した。
「……全く、人の話は最後まで聞きなさいよね。あなた達、私が魔力を使い果たしたところを狙って……上位スライムに不意打ちを当てようって作戦だったんでしょうけど……残念でした」
んべっと嘲るように舌を出し、パトリシアは高笑いを決め込んだ。
「魔力が尽きようとも、アンタ達如き素手で相手取るぐらいの余裕はあるのよ! ねえ、どう? どんな気持ち? せっかく練りに練った作戦が水の泡になった気持ちは、ねえ? どんな気持ち?」
これ以上ない高飛車な声色で、パトリシアは周囲に問いかける。
相手方が必死に作戦会議を立てていたのは知っていた、恐らく魔力を使い果たさせるのが狙いなのだろうという事も予想していた。
そして仮にもし、本当に魔力を使い果たしたとしても瀕死のライガはもちろん、アデリタやグライム達を葬れる体力はまだ残っている。
自身の硬い鱗はある程度失いはしたが、それでも防御に役立てないわけではない。少なくとも、風向きは再び自分に向き始めた。パトリシアはそう確信し、高飛車に笑い声を洞窟内に響かせた。
しかし――。
「そのグライムの攻撃は……アンタを閉じ込める物じゃない、アンタを足止めさせるものだ」
「はぁ?」
バレンティアの言葉にパトリシアが疑問の声を上げた次の瞬間、破壊された泥の牢獄は再び動きを見せた。破壊された部分を修復するように、パトリシアが立っている場所を包み込もうと動き始めたのだ。それに気づいたパトリシアは、両手で踏ん張り何とか泥の牢獄と競り合い始める。
「はっ! 押しつぶそうって考えなわけ!? でも無駄無駄、こんな泥の牢獄! アタシには通用……」
「……しないことぐらい、分かってるよ。グライムが勝てなかったんだもの、そりゃそうじゃん。だから……止めはアタシがぶち込んでやるんだよ」
言葉を続けながら、バレンティアはグライムお手製の天然パチンコの中央で力を溜めていた。ゲル状のそれで出来たパチンコは、左右対称に位置する岩に水属性のスライムを纏わりつかせ、見る見るうちに天然パチンコとして完成させたのだった。
全ては止めの一撃を、確実にパトリシアに当てるべく確実に動きを止める必要があった。魔力を使い果たさせ、四肢の自由を封じさせた状態で止めを入れるシチュエーションが今、四人の手によって完成した瞬間だった。
「さて、と……覚悟はいいかな。パトリシア?」
「ま、待って……バレンティア。今までのこと謝るから、何とか子供たちのこともしっかり面倒見るから……」
「アンタに面倒見られるくらいなら、リーダー……コタロウに面倒見られた方がずっとマシだ……よっ!!」
パチンコの勢いが解き放たれ、バレンティアがパトリシアに真っ直ぐ向かっていく瞬間。
ぶぶうううううううううううっ!!
自身もオナラを放つことにより、より強い推進力で剛瞬脚の威力を高めていった。そして――。
「突風蹴!」
鱗と骨を砕く音と共に、バレンティアの強力な跳び蹴りがパトリシアの胴体に叩き込まれた。今度という今度はパトリシアも耐えられず、くぐもった声を一瞬漏らした直後吹き飛ばされて壁に叩きつけられてしまうのだった。
「身に染みたかな、これが……今まで下等種族と侮ってきた龍人族の末路よ」
その一言ともに、バレンティアは短いため息を付きながら駆け寄ってきた仲間から称賛を浴びるのだった。が――。
「臭っ! そうだった、バレンティアちゃん……スカンクの獣人だったの忘れてたよ……うぅ」
「そ、そんな臭かった? それなら謝るけど……って、あっ! ライガ、ライガを早く出さないと! 臭い充満する前に!! グライム、アデリタ、お願いできる?」
「了解だよ、バレンティアちゃん!」
「バレンティアは……? 一緒に来ないの……?」
「アタシは……もうちょっと残る、先行ってて」
そう言い残し、バレンティアは気絶しているライガを連れたアデリタ達を見送った。
そして、くるりと吹き飛ばされたパトリシアに目を向けて告げる。
「起きなさいよ、パトリシア。まだ生きてるでしょ?」
バレンティアが投げかけた問いに対し、パトリシアは呻き声で答える他なかった。身体を覆う鱗はもちろん、骨を砕かれ激痛に覆われる今の自分自身にとってはこれしかできなかった。
そんなパトリシアに対し、バレンティアはどこか嗜虐心に満ちた目でゆっくりと近づいてくる。
「アンタ達にやられた恨みはさ、まだこんなもんじゃないんだよ。丁度まだお腹にガスがほんの少しだけ残ってるんだ、付き合って……くれるよね?」
悪魔のように笑むバレンティアに対し、パトリシアは先ほどまで見せていた傲慢な態度とはうってかわって必死に首を振る。が、そんな返答を無視しながらバレンティアは自身の尻をパトリシアの顔面に押し付けた。
「何、心配しなくていいよ。ほんの一発だけだから。耐えられるはずでしょ? 最上位種である龍人族様なら……ねっ」
ぷすぅぅぅ……。
一瞬だけ音が鳴るも、後はほとんど音のなることのない放屁――所謂すかしっ屁がパトリシアの鼻からゆっくりと染み渡っていった。バレンティアの尻に押しつぶされながら、パトリシアは苦悶の声を上げ悶え続けたが……先に受けたダメージと相まって、パトリシアはとうとう力尽きたのだった。
相手が気絶したのを確認すると、バレンティアは尻を顔から話して気持ちよさそうに伸びをした。
「やっと……嫌な過去を一つ、洗い流せたよ……リーダー」
爽やかな表情で嬉し涙をにじませながら、バレンティアは一人本陣で死闘を繰り広げる誇太郎へと感謝の意を告げるのだった。
いかがでしたでしょうか?
次回も多少お暇を頂くことになるかもしれません。
何卒宜しくお願い致します。




