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異世界転職戦記~マイノリティが集った人生逆転物語~  作者: 定光
第3章 最終課題Ⅲ 龍人族の砦攻城戦編
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第34話 探し出せ乱入者、突き進め敵陣営

こんばんは。

今回は久々に場面展開が激しく、情報量が多いお話となります。

何卒宜しくお願い致します。

「おお……素晴らしい、まさかこんな所で宝石岩人族(ジュエルゴーレム)の宝石がこんなにも取れるとはな」


 エルネストが魔王軍本陣に襲来するほんの数分前、謎の重装歩兵は目の前に散らばる宝石岩人族(ジュエルゴーレム)の屍と共に混ざっている数々の宝石に目を奪われていた。その様は、年甲斐もなくはしゃぐ子供のように喜びに満ちた姿だった。


 だが、普通の人間であれば無理もないことだろう。


 サファイア、ルビー、エメラルド、アメジストなどいずれも宝石商に差し出せば高額で買い取ってくれる天然物がこうも簡単に収集できているのだ。そう考えれば、重装歩兵も中年の年代とはいえ喜ばずにはいられなかった。


 その一方で、重装歩兵は周囲で湧き上がる騒がしさに思わず顔をしかめる。


「騒々しいな……戦争でも行っているのか?」


 あちらこちらで周囲に轟く歓声や雄たけびに、重装歩兵はそれが「島内で行われている戦によるもの」ということにようやく気付いた。


 それと同時に、先ほど殺めた人狼族(ウェアウルフ)のことを思い出す。


「あの時のあいつ等は……差し詰め伝令兵と言ったところだったか、悪いことをしてしまったな」


 やりきれなさそうな様子でため息を付いた次の瞬間。


 ズドォォォォォンッッ!!!


 自身が位置する場所より遥かに(ふもと)の方角から、激しい轟音が響き渡る。


「何だ……今のは一体?」


 その衝撃に、重装歩兵は思わず採取を忘れて立ち上がる。


 恐らくこの島にいる者の仕業だと見立てたが、それでもここまでの力を出せる者を重装歩兵は久しく見ていなかった。


 それだけ凄まじい実力者が放った衝撃ということに、心が躍り始めているのを重装歩兵は感じていた。


「……観戦する分には面白くなりそうだな」


 僅かに口角を上げながら、重装歩兵は残る宝石を全て回収し真っ直ぐその衝撃が轟いた元へと降りていくのだった。



「なあ、ライムンド殿。本当にコタロウ君を残してきてよかったのかい?」


 本陣を移す道中、単身でエルネストに立ち向かっている誇太郎をエリックは不安そうに気遣った。


 エリック自身もうっすらとではあるが、魔人の強さの階級については理解があるつもりだった。


 下位魔人は知能や力の弱い野良ゴブリン等が該当し、中位魔人はそこからある程度底上げした力を持つ獣人等が取り上げられる。ライガはその中で実力だけは上位に匹敵するが、単純な所がまだ多いため中の上程度である。上位魔人は、スミレのようなオーガといった強靭な力と高い知能を持つ存在が当てはまる。


 そして最上位種である龍人族(ドラゴニュート)、彼らはそんなオーガ達の完全なる上位互換である。中には複数の身体術(フィジカルスキル)魔法術(マジックスキル)を持つ者もおり、それが龍人族(ドラゴニュート)を最上位種たらしめんとする所以である。


 そんな存在相手に単身残してきたことを、エリックは後ろ髪を引かれる想いで仲間と共に駆けていた。だが、ライムンドは――。


「奴が自ら『乗り越えたい』と積極的に言い出したのだ。ならば、止める理由などなかろう。これまで通り、等しく乗り越える。俺はそう信じる……、ただそれだけだ」

「ライムンド殿……」

「とはいえ、奴を見殺しにするつもりはない。どう転ぼうが……全うに挑んだところで、独りでは勝つのは難しかろう。加勢に向かわせられるなら、一人でも多く向かわせるつもりだ。とにかく先ずは……」


 ここで一度言い切り、ライムンドは前面に視線を向けた。


「カラヴェラが構えていた場所に合流する! そこに本陣を移すぞ!」


 そう言いながら、力強く己と周りを鼓舞するようにライムンドはギュンっと浮遊速度を上げて先陣を切っていった。ここまでスピードを上げているのには、もう一つ理由があった。


――スミレとカラヴェラの行方も確認せねばならんからな、とにかく急がねば。


 そのスピードに少しでも追いつこうとエリックやロッサーナ、その他の従者達も急ぎ足で彼の元を追っていく。



 それから程なくして、カラヴェラ達アンデッド兵士の待ち構えている紅葉並木が見えてきた。味方の陣地が健在という事もあり、一同が入るとそこには予想外の光景が広がっていた。


 そこには捕虜として確保されている人狼族(ウェアウルフ)達と元の姿に戻っているカラヴェラ、防衛役として残ったと見られる数人のアンデッド兵士達。ここまでは予想できた光景だった。そして、ここからが予想外の光景である。


 予想できた光景と面子以外に、緑色のワンピースを着た青髪を三つ編みにしたどこか気品を感じさせる植物精霊(ドライアド)のアージアと、同じく植物精霊(ドライアド)と見受けられる緑の袖余りの服とスカートを着込んだ無邪気なイメージを感じさせる女性が、あたかもライムンド達を待っていたかのような佇まいを見せていた。


「何だこれは……どうなっている?」

「あっ、ライムンド軍師殿。ご無事っすか? さっき本陣で爆発音が聞こえたみたいっすけど、一体何が……」


 とカラヴェラが続けようとしたその時、ライムンドは彼の元に詰め寄った。


「聞きたいことが山ほどあるのはこちらの方だ、カラヴェラ。なぜ先ほど連絡を寄こさなかった? スミレから何か連絡はあったか? そして、ここにいる女どもは一体何だ!?」


 聞きたいことが多すぎる、その中でも特に知りたかった「カラヴェラとスミレの安否」。その内の一人が無事だったことにより、ライムンドは一刻も早く現場の状況を整理しようと必死に問い詰めようとした。


 しかし、カラヴェラもどこから「説明すればいいか分からない」と複雑そうな表情で弁明するしかなかった。それでもライムンドの剣幕が収まらないその時、二人の影が割って入ってきた。


「はい、ストップ~。フィオレちゃんは無意味な争いをこれ以上許さないのだ~」

「俺も同意見ってとこだね。いつものクールなあんたじゃないぜ、ライムンド殿? 焦る気持ちも分かるが……冷静にな(カームダウン)、オッケー?」


 一人は緑の袖余りの服とライトグリーンの髪色が目立つフィオレと名乗る植物精霊(ドライアド)、そしてもう一人は魔王軍のドクターであるエリックだった。そんな彼らをフォローするように更にアージアがライムンドの元へと近寄ってくる。


「安心しなよ、別にあたしゃ等は敵対したいわけじゃないのさ。ただ……調べてほしいことがあるだけなんだわ。オーガのお嬢ちゃん……スミレ、だったっけ? 彼女のことも教えてあげるからさ、先ずは話だけでも聞いてくんないか?」

「……いいだろう。カラヴェラ、改めてお前からも話を聞かせろ。そちらの方で今、何が起きているのか。こちらも……今の現状を伝える必要がある」


 ようやく冷静になったライムンドは、目を細めてフードを調整しながらアージアたちと向き合った。そしてライムンド、アージア達は先ほどまでの敵同士の関係を休止させ、交互に現状を整理し始めるのだった。



 先ずは魔王軍側であるライムンドから。


 龍人族(ドラゴニュート)の砦に総攻撃を命じた直後、示し合わせるかの如くエルネストが本陣を急襲。そして指揮権をライムンドに移した誇太郎が、現在一人で応戦中とのことをライムンドは余すことなく説明した。


「えっ……じゃあ、今コタロウ隊長さんは一人で相手取ってるってことなんすか!? まずいじゃねーっすか、早く応援いかないと……」

「その前に……カラヴェラ、次はお前が話す番だ。お前とスミレ達に何があったか、それを説明してからでも遅くはなかろう」

「す、すんません……」


 ライムンドに諫められ、カラヴェラは一先ず平静を取り戻して自身とスミレが連絡を返せなかった理由も含めて語り始める。


「先ず……連絡が取れなかったのは、俺とスミレさんでスマホの連絡の取り合いをしてたからなんす。コタロウ隊長さん曰く、誰かが連絡取り合ってたら第三者が間に入るのは無理……みてーらしく。多分それで本陣からの連絡を把握できなかったんじゃねーのかなと、俺は思います」

「お前の側にはライガがいたろう、奴からは何も聞かんかったのか?」

「ええ、聞こうとしたんすけど……『殴り込み許可出たから俺様も行ってくる!!』って言い残して……。それで、初めて『本陣に突撃する』っていう指示が降りたんだなって解釈したんすけど……あってます?」


 カラヴェラから伝えられた単純かつ抽象的なライガの言葉に、ライムンドは呆れた様子で「問題ない」と深くため息を付きながら答えた。


「……それで、スミレは今どこにいる」

「それはあたしゃが答えてあげるよ」


 ライムンド達の間に、待っていたと言わんばかりにアージアが入ってきた。


「スミレちゃんは今、あたしゃの頼みに協力してもらってる。悪いね、一方的に依頼しちゃって」

「……してその依頼とは何だ、植物精霊(ドライアド)よ」

「あたしゃには『アージア』って名前があるんだ、そっちでお呼びよ?」


 釘を刺すようにアージアにたしなめられたライムンドは、一瞬顔をしかめるように翡翠の瞳を細めるもすぐさま改めて尋ね返した。対してアージアもしっかりと礼儀正しく返してくれたことに満足したのか、素直にライムンドの問いに答える。


「この島に、得体のしれない男がどういう手段で来たんだか知らないが……森を荒らしてる。スミレちゃんには、エルネストんとこの人狼族(ウェアウルフ)・ウルガと協力してそいつを捜索してもらってんだ」

「得体のしれない男、だと? それが我が軍と貴様らにどう関係あるのだ?」

「少なくとも、あたしゃ等植物精霊(ドライアド)にとっちゃ……致命的な問題なんだよ」

「そうそう~」


 アージア達の会話に、今度はフィオレも交じってきた。


植物精霊(ドライアド)にとって~、森は命の恵みそのものなのだ~。でも、ついさっき……その森を荒らす不届き者がどこからともなく現れたんだよ~。散々荒らした挙句、今度は野良ゴブリンの方に行ったみたいなんだけど……植物精霊(ドライアド)的にはもう堪忍袋ぶち切れ状態なのだ~」

「……なるほど、貴様ら植物精霊(ドライアド)にとっての言い分は理解した。が、我が軍にはどう関係しているというのだ?」

「じゃあ逆に聞くけど、このまま放っておいて本当に大丈夫かい? 万が一その男とお仲間が鉢合わせたら、被害を被るのは確実だよ?」

「……なぜそう言える?」

「俺たちの仲間が殺されたからだよ!!」


 ライムンド達の会話に、今度は怒りを交えながら捕虜の人狼族(ウェアウルフ)が割り込んできた。


「さっき……ウルガの(カシラ)が、その小道具越しに伝えてくれたんだよ! その謎の乱入者とやら、伝令に向かった俺たちの仲間を……ぶっ殺しやがったんだ!」

「俺たちは何も悪いことしてないのに……許せねえ!!」


 怒り心頭の人狼族(ウェアウルフ)達を指さし、「ほらね?」とアージアとフィオレは二人で証拠とばかりに示す。が、ライムンドは疑念を抱いた声色で尋ね返す。


「『何も悪いことをしていない』? 本当にそう断言できるのか?」

「疑ってんのかよ、俺たちを!?」

「貴様らはウルガと違い、エルネスト並みに血の気が多いとバレンティアから聞いているのでな。大方……その謎の男とやらと対峙し、無理に押し通そうとした結果返り討ちに遭った。という風に考えられるのだが?」

「この野郎、言わせておけば……!」


 ライムンドの言葉を証言づけるように、人狼族(ウェアウルフ)達は捕らえられている身分だという事を忘れた様子だった。縄に縛られながらも、怒号と罵声でライムンドに反論しようと必死な様子を見せる。


 ただ、一方でライムンドは一つだけ人狼族(ウェアウルフ)とアージアの発言で確実に言える結論を見出していた。それをライムンドは暴れる人狼族(ウェアウルフ)達の元に近づき、落ち着かせるようにこう告げる。


「だが……いずれにせよ、これだけははっきり言えよう。『邪魔をする者は殺す』、その男の目的が何なのかは分からんが……目的のためには手段を選ばん冷酷な者と見た」

「ああ……ああ、そうだよ! そういうことを言いたかったんだよ!」

「ならばそう申せ、凡愚め」


 「何をぉ!?」と再び頭に血を登らせる人狼族(ウェアウルフ)を差し置き、ライムンドは再びアージア達の元へ赴く。


「アージアと言ったな。他にその男の情報はあるか? 何でもいい、貴様ら植物精霊(ドライアド)が植物を介して得た情報は多い方がいい」

「そうだねぇ……身なりとしては、ごっつい鎧をまとった騎士さんってとこかなぁ?」

「ごつい鎧をまとった騎士……?」


 アージアが告げた謎の男の容姿に、カラヴェラが僅かに反応した。が、アージア達は気付かずやり取りを続ける。


「他には何かあるか?」

「後は……フィオレ、何か見てないかい?」

「う~ん……あっ、思い出した~。ごっつい鎧と身体と同じくらい大きな盾に、王冠を爪で引っ掻いたようなマークがあったのを見たよ~」

「「何っ!!??」」


 フィオレが告げた「王冠を爪で引っ掻いたようなマーク」という単語を前に、両者アンデッドにも拘らず血相を変えた様子が伺えるような声色で、カラヴェラは立ち上がりライムンドはフィオレの両肩を掴んでもう一度尋ねる。


「本当に見たのか、王冠を爪で引っ掻いたようなマークとやらを……!」

「う、うん。そうだけど……どうしたの~?」


――奴らめ……どういう手段でここに来たのだよ!? この戦争中……アリシアからの連絡は一切なかった、ということは……海から来たわけではない。まさか……俺以外に空間を移動できる手段を、奴らは持っているという事か!?


 何かに気付いたライムンドは、困惑するフィオレを他所に急速的に何かを推理し始める。そんな彼に、カラヴェラも何か気付いた様子で彼に尋ねる。


「ライムンド軍師殿、ちょっと……いいすか」

「何だ、カラヴェラ。今考え事を……」


 同じアンデッドとして近しい何かを感じたのか、神妙な面持ちを見せるカラヴェラの姿にライムンドは先ほどしていた考え事を一旦置き、カラヴェラの元に近づく。


「何か、心当たりでもあるのか?」

「……ええ、勘違いであってほしいところなんすけど。良かったら……その男の捜索、俺に任せてもらえねっすか。お願いします」


 そう言いながら、カラヴェラはガチャガチャと骨を鳴らしながら深々と頭を垂れて懇願した。その姿を前に、ライムンドはカラヴェラの出自を思い出して口にする。


「そうか……思えば、お前は元ツーガントの特攻部隊の隊長だったな。アロガンシアとの戦いにて討死し、墓前でフェリシアによる蘇生放屁リザレクションファートでお前が蘇ったのを……今でも覚えている。蘇生放屁リザレクションファートは、『強い未練がある者』しか蘇らせられんからな。もしや……」

「ええ、その強い未練の一つっす……その男は」


 髑髏らしからぬ力強い視線を前に、ライムンドは彼の覚悟を察して頷いた。


「……いいだろう、お前にその男の捜索を命ずる。位置はスミレの人面瘡(じんめんそう)を頼りに、こちらから可能な限り伝えていく。行ってこい」

「あざます……ライムンドさん」


 噛み締めるような声色を残し、カラヴェラは一人骨を鳴らしながら急ぎ足で陣を後にした。ライムンドがその姿を見届けている最中、背後からロッサーナが声をかけてきた。


「一先ず……本陣の件を龍人族(ドラゴニュート)に攻め込んでいる者達に伝えておいたゾ、ライムンド殿」

「ロッサーナ、助かった。俺の代わりに行ってくれたこと、感謝する」

「……して、これからどうするのだゾ?」

「先ずはスミレをここに呼び寄せたいが、その前に……ここにいる面子に指示を出さねばならん」


 そう言いながら、ライムンドはアージア達含め魔王軍の関係者を自身の元へと呼び寄せた。皆が集まったことを確認し、ライムンドは皆に聞こえるように告げる。


「改めて、ここを魔王軍の本陣とする。何かあった時はここに戻ってくるよう、エリックとロッサーナはスマホを介してその所持者にそう伝えろ」

「了解だゾ」

「任されたぜ、ライムンド殿」


 ピシっと引き締まった返事とは対称的に、軽いノリでエリックは返事を返すが目の色は真剣そのものだった。すると――。


「お……おーい、そこの……ライムンドとか言うレイスさんよ!」


 捕虜として捕らわれている人狼族(ウェアウルフ)達が、ライムンドの名を催促するように呼んできた。そんな彼らの、自身を呼ぶ声をライムンドは聞き漏らさなかった。


「何だ?」

「お……俺たちを解放してくれ、殺された仲間の敵を討てねえまんま……じっとしていられねえ。何ならアンタの味方になっても構わねえからよ、力を貸させてくれ!!」


 人狼族(ウェアウルフ)達の瞳は、全員敵討ちに燃える色で染まっていた。しかし――。


「駄目だ」

「何でだよ!!」

「自惚れるな、凡愚共。先ほどまで敵同士だったものを、そう簡単に信用できると?」

「それは……そうだけどよ……。でも、もしも仲間をやられちまったら……黙ってられねえのはアンタだって同じだろ!?」


 情に訴えるように、人狼族(ウェアウルフ)は再度持ち掛ける。が、それでもライムンドは「駄目だ」とぴしゃりと黙らせてしまった。


 やりきれない表情でうなだれる人狼族(ウェアウルフ)だったが、「だが」とライムンドの発言はまだ続いていた。


「その謎の男の行方が分かったその時は、協力してもらおうか」

「ほ、本当か!?」

「ただし、二つ条件がある。その男を倒す時は背後から我らを攻撃しないこと、そして……貴様らのボスであるウルガと合流するまでは俺の指示に従え。それが条件だ、いいな?」

「りょ、了解っす……ボス!!」


 大声で素直な返事を返す人狼族(ウェアウルフ)に、ライムンドはもう一つ付けたした。


「だから……今はまだそのまま捕らわれていろ、まだ貴様らに出番はないのだからな」

「了解っす、ボス!!」


 人狼族(ウェアウルフ)達は、再び素直な二つ返事でライムンドに答えた。その様子に「本当に理解しているのか?」と不安になりつつも、先ずはそれぞれに指示を出し今後の方針が決まったことにライムンドは胸をなでおろした。


 そして、アージアから依頼を受けたスミレに指示を告げるべく一台のスマホに手をかけた。


「……スミレ、俺だ。ライムンドだ、聞こえるか?」



「……はい、スミレです。……ライムンド殿! はい、聞こえます。どうしたのですか?」


 その頃、スミレは紅葉並木を下っていた。


 ウルガの後を追った彼女は、あの後すぐにウルガと合流した。


 そこでは、殺された仲間を前に怒りと苦悶に満ちた表情で顔をゆがませるウルガの姿があり、スミレは二人で丁重に人狼族(ウェアウルフ)亡骸(なきがら)を弔った。


 そしてウルガは上方面から嗅覚を頼りに、スミレは下方面からメンソウの索敵を頼りに森を荒らした男の捜索を続けつつ、可能なら上下から挟み撃ちにして追い詰めるよう作戦を立てていた。


 その最中、魔王軍本陣で爆発音が聞こえるというトラブルに気を取られるも、先ずは男の捜索を優先すべきと判断し捜索を続けていた。


 その旨を、ライムンドにスマホを介してスミレは報告した。


「ところで、さっき本陣で爆発音があったみたいでしたけれど……何があったのですか?」

『よく聞け、スミレ。実は……』


 スマホ越しに、ライムンドは今本陣で起きていることとそれによって本陣を移したことを簡潔に告げた。


「エルネストが!? しかも、コタロウがたった一人でって……それなら助けに行かないと!!」

『待て、スミレ。加勢に行くのは拒否せんが、一度こちらに来い。お前にはやってもらいたいことがある』

「やってもらいたいこと……ですって?」


 ライムンドがスマホ越しにスミレに伝えたこと、それは――。


「カラヴェラにその謎の男の位置を、メンソウの索敵を活かして案内してほしい……ですか。しかしそれなら、私が直接カラヴェラと合流した方がいいと思うのですが……」

「……阿呆か、お前は。先に自分が言いかけたことを思い出すのだよ」

「え……あっ」


 ライムンドのその一言に、スミレは思わず誇太郎の元へと加勢に向かおうと衝動的に動こうとしたことを思い出した。


「とにかく、一度状況と気持ちを整理するためにも……一旦こちらに来い。待っているぞ」

「……ありがとうございます、ライムンド殿」


 短くそう言い終え、スミレはスマホを懐にしまった。そして、メンソウに時折尋ねながらライムンド達のいる元へと急行していくのだった。



「ええ!? 本陣が急襲された!?」


 時はやや遡り、バレンティアは敵本陣に突き進む最中でロッサーナから本陣急襲の件の連絡を受けていた。


 この時既に野良ゴブリン達と共に、龍人族(ドラゴニュート)の本陣へと攻め込んでいる真っ只中だった。その突然の窮地を告げる情報に、バレンティアはカラヴェラやスミレと同様加勢に向かおうとしたが――。


『案ずるなだゾ、バレンティア。お前はお前のやるべきことを為すのだゾ』

「いいんですか!?」

『ライムンド殿も考えなしにコタロウ一人で任せる訳がない、いずれにせよ増援の手続きは取るはずだゾ。この連絡(こと)は、ライガと人狼族(ウェアウルフ)の陣を攻めに向かったメンバーにも全員伝えている。だから、お前は安心して目の前のことに集中して臨むのだゾ」

「……分かりました! 行ってきます!」


 快活な返事と共に、バレンティアはスマホを懐にしまい進軍に意識を戻した。


「何か……本陣が急襲されたって聞いたけど、行かなくていいの?」


 バレンティアを気遣うように、野良ゴブリンをまとめる酋長・タデオが尋ねてくる。対してバレンティアはやや心配そうな表情を見せるが、すぐに「大丈夫!」と明るく返事を返した。


「あっちも大事だけど……今はこっちの方が大事でしょ、パトリシアを倒さないと」

「そう……だね。でも、僕らが束になって勝てるといいんだけど……」

「何言ってやがる、タデオ! 俺たちの軍勢に加え、悪鬼部隊(デモーニオ)だったか? 魔王軍と合わせて一万は軽く超えてんだ、これで勝てねー訳ねーだろ?」


 不安げになるタデオに、ウリセスが豪快に笑いながら奮い立たせてきた。


「そ、そうだね……ごめん、ウリセス。また弱気になってしまって」

「いいってことよ、それよりも……!」


 と、ウリセスが続けようとした瞬間、未だに龍人族(ドラゴニュート)側に付いている魔人達が野良ゴブリン達を迎撃しに襲い掛かる。洞窟内という事もあってか、伏兵が多く突如の奇襲に陣形が崩れつつあった。


 また、脅威なのはそれだけではなく――。


「クッソ、こいつ等……全員上位レベルの魔人ばかりじゃねーかっ!」


 ウリセスの言う通り、人数こそ一万を超える野良ゴブリンと魔王軍の混成部隊に届かぬものの、一人一人がやたらめたら強く少なくとも二百人を相手取っても不足ない力を誇っていた。それこそ、単純なパワーだけで言うならば宝石岩人族(ジュエルゴーレム)レベル以上の者達が次々と奇襲してきているのだ。


 野良ゴブリン達にとってはいくら頭数をそろえていても、一人の敵を倒すのに最低でも十人がかりで挑まねば勝てない状況を強いられていた。そんな彼らを少しでもフォローすべく、悪鬼部隊(デモーニオ)やバレンティア達が相手取っていく。しかし、伏兵はまだまだあふれ出てくる様子を見せていた。


 キリがない。バレンティアがそう感じ始めた瞬間――。


「スカンクの嬢ちゃん、先行け!! ここは俺たちに任せろ!!」


 野良ゴブリンの一人、ウリセスが上位魔人の一人を仕留めてバレンティアを先へと急がせるよう発破をかけた。「いいの?」とバレンティアが尋ねようとしたが――。


「心配いらねーよ! さっきも言ったが、ここにゃ俺たち野良ゴブリンと魔王軍の力自慢がいるんだぜ!? 雑魚共は俺たちが引き受けるから、オメーさんはとっととパトリシアをぶっ飛ばしてこい!!」

「僕からも頼む、野良ゴブリンの怒りを……君に託す! お願いできるかな!?」


 敵の攻撃を受けながら、タデオも必死に声を振り絞った。二人の激励を前に、バレンティアはこれ以上無下に扱うのは失礼に値すると判断した。


「ありがとう! そっちも無理しないでね、約束だからね!」


 そう言い残し、バレンティアは魔人達を剛瞬脚(ごうしゅんきゃく)で押しのけながら単身パトリシアのいる元へと歩を急がせるのだった。

いかがでしたでしょうか?

後もう一話ほど、対戦カードを切るお話を投稿して各種にスポットを当てていく予定です。


何卒宜しくお願い致します。

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