第29.5話 一足先に行く者、見知らぬ所で荒らす者
こんばんは。
先ずは皆様に謝罪いたします。
今回はスミレの活躍回を書く予定でしたが、ちょっと予定を変更して幕間に近いお話を投稿させていただきました。
何卒よろしくお願いいたします。
「ここが……」
ルビーゴーレムを撃破した後、グライムは数人の獣人と共に人狼族の拠点のある部分へと訪れていた。人狼族の居住区よりも奥にある天然の階段を進んだその先には、洞窟を流れる地底湖が存在していた。
この地底湖はバレンティアから攻め込む前に語られた情報であり、曰く人狼族の飲み水を確保する場所として使われているとのこと。そして、この地底湖の流れる先には龍人族の本陣――所謂エルネスト等がいる場所へと繋がっているというのだ。
故に誇太郎は、グライムを筆頭として人狼族の拠点を落とすように指示を出した。シャロンから「水さえあればグライムはほぼ無敵」と言う情報を事前に手に入れていたからこそ、誇太郎は敢えて初陣であるグライムに先陣を切らせたのだった。
陥落させた後に挟撃するのはもちろん、更に先手を打った奇襲をかけて龍人族の高慢ちきな鼻っ柱をへし折るために。
「グライムちゃん」
ちょうどそこに、魔力補給のためエナジーバナナを頬張りながら水流の魔法術持ちのアデリタが降りてきた。
「準備はできてる? 魔力の回復もオッケー?」
「オッケー……、そっちは……?」
「こっちはまだかかるかも。でも大丈夫、この拠点は私たちに任せといて。だからグライムちゃんは……」
「うん……大丈夫、コタロウから言われてる……から」
自信を持った表情で、グライムは答えた。
「それじゃ……先に行ってる、アデリタ先輩も……気を付けて」
「うん! でも、無理はしないでね!」
アデリタのその言葉をしっかり聞き終え、グライムは水泳選手のように地底湖へと飛び込んでいった。
残されたアデリタは寂しそうな表情をしながらも、すぐさまその気持ちを振り払って獣人達に告げる。
「よーし、皆! コタロウ隊長の合図が来るまで、しっかり拠点を守ろう!」
「おおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
獣人達のやる気に満ちた雄たけびと共に、アデリタは意気揚々と洞窟の大広間に戻ろうとした。その時であった。
「……ッ!?」
突如、悪寒が走った。風邪による体調不良と言うわけではなく、動物が何かしらの危機を感じ取るような不吉な直感と言ってもいいだろう。そんな感覚をアデリタは、どういうわけか知らないが感じたのだった。
「どうしたんだ、アデリタ?」
「う、ううん。何でもないよ」
一人の獣人が気遣ってきたが、アデリタは「気のせいだろう」と脳内からその考えを追い出して拠点の防衛に務めるべく大広間へと足を急がせた。
だが、アデリタのこの直感は……当たっていた。
既にこの戦場に、誇太郎達も龍人族達にも予期せぬ事態が起きていたことを。
*
洞窟から少し離れた紅葉並木の雑木林。
そこには、伝令役の人狼族を全員屠った謎の重装歩兵が周囲を片っ端から探索していた。
時には近くにあるキノコを採取したり、紅葉並木の中に不自然に混じる青く彩る木の歯を一枚もいでみたり、そしてある時には野生のイノシシを所持しているハルバードで貫いて仕留めたりと、騎士と言うよりは冒険者に近い採取や狩りに近い活動を行っていた。
しかし、採取や狩猟と言うにはあまりにも周囲を荒らすような勢いで行っていた。特に狩猟と言うには、一体仕留めればよいものを逃げ惑う動物たちを徹底的に追い回した。それこそ木々をなぎ倒し、邪魔になる動物や魔物がいれば片っ端からハルバードで時には薙ぎ払い、時には貫きながらである。
やがて周囲の物を採取し終えた重装歩兵だったが、それでもどこか不満そうな表情でいた。
「……どれもこれも二束三文な物ばかりだな、希少価値のある素材が一杯あると奴は言っていたが……騙されたか?」
呆れるような声色と共に、重装歩兵の男は金髪の髪をポリポリとかいた。そして、先ほど出くわした人狼族達が急ぎ足で向かおうとしていた方角へと目を向ける。
「もしかしたら、あそこに何かあるのかな? ならばいいのだがな……」
急いで向かおうとしていたのならば、何か理由がある。そこに何があるのかは分からないが、少しでも希少なものがあるのなら行ってみる価値はあるだろう。
そう思った重装歩兵は、少しだけ歩くスピードを速めて並木を進んでいく。
重装歩兵が歩を進めている先には、バレンティアが宝石岩人族達と戦を繰り広げている場所へと真っ直ぐ繋がっているのだった。
いかがでしたでしょうか?
重装歩兵の正体は、まだ明かせないのでご了承ください。
次回こそ、スミレの活躍回を始める予定です。
何卒よろしくお願いいたします。




