第28話 グライム、粉砕!?
こんばんは。
今夜は遅くの時間帯に投稿してしまい、申し訳ありません。
何卒よろしくお願いいたします。
「大きい……」
巨大なルビーゴーレムを相手に、グライムはどこかボーっとしながらも素直に感心するような感想を呟いた。その隙を突いてか、ルビーゴーレムは大振りのパンチを勢いよく振り下ろす。
しかし、グライムもまんまと食らうほど単純ではない。即座に自身を液状化させて難なく回避した。避けた場所をちらりと一瞥すると、そこには大きくひび割れた地面が現れた。
「これは危ない……」
巨体から振り下ろされた一撃を前に、グライムは警戒を強める。対してルビーゴーレムは攻撃を避けられたことが不服だったのか二度、三度と連続でたたみかけてきた。だが、それでもなおグライムにとってはその攻撃は止まって見えていた。攻撃そのものは液状化しながらほんの少しのモーションで避ける程度で済ませられる程に、ルビーゴーレムの一撃は遅かった。
だが問題はそれではなかった。攻撃をよけながら、グライムはルビーを粉砕した際に解き放った右腕を一瞥する。
「……」
未だに修復は完了しておらず、欠損したまま水滴がぽたぽたと垂れる様子を前にグライムは渋そうな表情をするほかなかった。「ルビー」と言う宝石を打ち砕く以上、ダイヤモンドほどではないにせよそれなりの破壊力を持った一撃が必要だったのだ。
しかし、一方でグライムを構成する水分を腕一本ならその分を消費してしまうため、近くに水源がなければ攻撃に使用した分の水分は簡単には修復できない。誇太郎と戦った時は予め自切した右腕が残っていた状態だったため戻すことができたが、今回はルビーを粉砕した時に右腕も木っ端みじんになってしまったため修復ができなくなってしまっていたのだった。
それでもルビーゴーレムを倒す以上、先ほど放った最大限まで圧縮した腕砲弾で撃破するしかない。攻撃をかわしながらどうすべきか悩んでいたその時。
「加勢するよ!」
ルビーゴーレムの攻撃が振り下ろされそうになった瞬間、勢いのある水流がルビーゴーレムを妨害した。その一撃にルビーゴーレムは尻もちをついてしまい、体勢を崩してしまう。
「さっきは助けてくれてありがとね、グライムちゃん。おかげさまで、百獣部隊は全員無事だよ」
グライムの側に一人の魔女が姿を現した。恐らく百獣部隊に交じりながら水流を放った張本人と見られるその魔女は、黄緑色のローブを羽織った赤毛という水属性の魔法術を放った人物とはかけ離れた色合いの服装だった。
「えっと……君は、ううん……あなたは……?」
「私はアデリタ、シャロン先生の三十四人目の弟子よ。あなたの先輩ってとこかしら?」
「せん……ぱい……?」
「そう、先輩! それよりも、あんなゴーレムに苦戦してちゃ駄目。師匠や隊長さんから大事なこと、言われてるでしょ?」
「大事なこと……あっ」
アデリタから叱咤されたことに、グライムは人狼族の拠点を制圧した先のことを思い出した。
作戦通りに挟み撃ちをするために、自身も実力を振るわねばならないという事を。
そして、誇太郎の元に行く前にシャロンから教わった自身の特有スキルを活かした戦い方のことを。
――――――
「ではでーはグライム、これからあなたにもっと自由な戦い方を教えようと思いまーす!」
「自由……?」
誇太郎の元に配属される前、グライムはシャロンと共に魔法術のトレーニングのため中庭へと訪れていた。シャロンの言う「自由」と言う意味に首をかしげるグライムに、シャロンは彼女を納得させるように説明を続ける。
「コタロウさんとのバトールで、すごい弾数の属性攻撃や接近戦で攻撃してたーのは覚えてまーすよね?」
「うん……」
「でもでーも、グライムの特有スキルの『千変万化』から考えーると……たったそれだけで済まーすのは勿体ないと思うのでっすん」
「勿体ない……?」
「例えーば、属性弾を打ってーる時……もっと強ーい一撃とかを出してみたい、とか思ったことはありまーすか?」
「ある……と思う、岩を壊そうと思った時……できなかったし」
グライムのその悩みに対し、シャロンは力を放つ部分に魔力を圧縮させて解き放つようにアドバイスをした。そのアドバイスにグライムは何度か試行錯誤を繰り返し、そして僅か一時間ほどで右腕に力を圧縮させ破壊力を増した属性砲撃を解き放つことに成功するのだった。
「すごいすごーい! よくできまーしたね、グライーム!」
「ありがと……シャロン」
「ではでーは破壊力の増した攻撃も身に着けーたことですーし、次のステップに……っておやおーや?」
次の指導に移ろうとしたその時、シャロンはグライムが放った腕の部分が跡形もなく欠損していることに気付いた。グライムもそれに気づき、普段無表情なことが多い彼女にしては珍しく多少動揺した表情を見せていた。
「シャロン……これ、どうしよう……」
「落ち着いてくーださい、そうでーすね……よーし、これでどうでーしょ! てりゃっ!」
掛け声とともにシャロンは自身の分身体を数体呼び出して、グライムの上空からありったけの水属性の魔法術を雨を降らせるが如く浴びせた。地面がびしょびしょになるほどの水を食らったグライムは、その後地面の水を勢い良く吸い上げて何とか右腕を復元させることに成功した。
「ありがと……シャロン……」
「お礼なーらこちらこーそ! なるほどなーるほど、上位スライムは水さえあれーば再生もできるんでーすね! こーれは新たーな発見でっすん! そうだ……!」
何かを思いついたかのように、シャロンは指を鳴らして閃いた。
「グライーム、ちょっといいでーすか?」
「どうしたの……?」
「今かーらもう一度水をぶっかけまーす!」
「なぜ……?」
「あなーたの再生力の素晴らしーさを見計らった上で、次のステップに移りまーす! 次は私の指示通りにできーるようにしてくーださい! これができれーば、あなたはもっともーっと強くなれまーすよ!」
そう言いながら、シャロンは再び勢いよく上空から滝の如く水を降らせるのだった。
――――――
その記憶を思い出しながら、グライムは側に水属性の魔法術を使える魔女のアデリタがいるという状況も把握した。それを踏まえた上で、グライムはアデリタに視線を向ける。
「アデリタ……頼みがあるの」
「アデリタ先輩! そう呼びなさい!」
「アデリタ……先輩……、地面を水びたしに……できる?」
「お安い御用よ! でも何で?」
「シャロンから……面白い戦い方、教わった。グライムだけじゃ、ちょっと……できない。だから……お願い」
「先生から教わったなんて……羨ま……じゃなかった、そういうことならお安い御用よっ!」
「……あっ、出来れば灯りは消さないで」
「それもわーかった!」
グライムから託された二つの指示を前に、アデリタは手に持つ短い杖に魔力を込めながらバトントワリングの如く高速で振り回していく。そして天に構えた瞬間、噴水のように勢いよく水属性魔法を噴射させた。
一方ルビーゴーレムは、ようやく体勢を立て直し身体を起き上がらせた。その時アデリタが水を噴射する姿を目の当たりにするも、一体何が目的なのか今一つ把握できなかった。それよりも始末せねばならないターゲットである、グライムしかルビーゴーレムの考えにはなかったのだから。
グライムに照準を合わせ始め、ルビーゴーレムは背にある大き目のルビーをわしづかみにして投げつける構えを取り始める。それと同時にアデリタもまた、グライムの指示通り松明の炎を消さないように調整しながら周囲を水びたしにし終え一切の準備を整えていた。
「さあ、グライムちゃん。準備は終わったけど、ここからどうするわけ?」
「……」
「……グライムちゃん、ちょっと? 聞いてるの!?」
再度アデリタが尋ねるが、グライムは目を閉じたまま何も答えなかった。それから何度も呼びかけるが、グライムはだんまりを続けてしまっている。
一方のルビーゴーレムは完全にターゲットとしてグライムとの距離を掴み終えていた。そして――。
「滅セヨ……」
ルビーゴーレムが一言発すると同時に、先ほどよりも巨大なルビーの塊がグライムに向けて勢いよく放り投げだされた。隕石の如く勢いを持ったその一撃は、ちょっとやそっとの水流じゃ防げない。迫りくるルビーを前にアデリタはそう確信し、直撃を免れるため即座に距離を取った。しかし――。
「グライムちゃん! 何してるの、早く逃げなさいって!」
グライムのみ、一向に目を閉じたままその場を離れようとしなかった。そうしている間にも、巨大なルビーは勢いを持って迫ってくる。
何とか戻ろうとアデリタは地を駆けるが、思った以上に水を張りすぎたせいか地面がぬかるみ過ぎて足が重くなってしまっていた。それでも何とかグライムを攻撃からよけようと苦し紛れに水流を杖から解き放ったが一足遅かった。
ルビーの塊は確実にグライムに距離を詰めていき、そして――。
ドグチャァッ!!
トマトが潰れたような聞こえの悪い音と共に、グライムの全身はルビーの一撃によってバラバラに消し飛んでしまうのだった。
「先ズハ……一体……」
「そんな……グライムううううううううううっ!!!」
同胞が虚しく散ってしまった中、アデリタの慟哭のみがただただ無常に洞窟に反響するだけだった。
いかがでしたでしょうか?
グライムの運命や如何に、次回も楽しみにしていただければ幸いです。
何卒よろしくお願いいたします。




