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第166話 リカードの甘言

こんばんは、比較的早めに最新話投稿です。

今回は元々没ネタだった場面も含めて投稿いたします。

何卒よろしくお願いいたします。

「……ここから出してやると言ってもか?」


 リカードから告げられた案に、クロッカスは驚きを隠せない。


 自分達を誘拐した男が突如解放すると言い出したのだ、動揺するのは必然と言えよう。


 そんなクロッカスに対し、リカードは噛んで含めるように詳細を告げる。


「取引は簡単だ。調印式をぶち壊してくれればいい。オダマキが憎らしいのだろう? 俺達の脅迫を飲み、保身に走ったあの無能族長が。それは俺も同意見だ、トップに立つ無能程目障りなものはない。だからチャンスをやる。調印式をぶち壊し、オダマキを殺せ。代わりに俺はナーを()る。そうすれば、仇敵を殺した上で自由になれる」


 リカードの提案は、クロッカスの利害に一致するものだった。


 だが、クロッカスはまだ首を縦に振らず自身の意見を述べる。


「勝手に他人様の集落乗っ取ろうとしておいて、今度は敵に肩を貸す。君の考えることはよく分からんな」


 そう、クロッカスが最も疑問を浮かべる点はリカードの真意が見えない所にある。


 わざわざ暴王の嘲笑(タイフリッシュ)の不利益になる行為を取ろうとするその真意が。


 情報が少ない中、クロッカスは憶測前提でリカードに問う。


「はっきり言ったらどうだい? オーガの里の利権に興味なんかないって」


 クロッカスの言葉に、リカードは僅かに眉を顰める。


「何故そう思う」

「俺達を無力化した時、君はこう呟いてたよね」


 クロッカスが口にするリカードの呟きとは次の通りだ。


「いい経験値を得た。これだけでも参加した甲斐がある」


 このセリフをクロッカスはこう分析する。


 リカードはナーやオダマキの指示に従って捕縛したが、それはあくまで表向き。真の狙いは、クロッカス等オーガ達との戦闘そのものだと。


「『経験値』なんて言葉口にしてる時点で、里よりも俺達の腕前目当てだろ。組織の目的そっちのけで、わざわざ上位魔人(オーガ)との戦闘を経験しようというんだからさ。物好きとか言われたことなかった?」

「どうとでも解釈するがいい」


 無感情に返すリカードに、クロッカスは更に続ける。


「俺達との戦闘を終えた君に、里にいる意味はもうない。いや、そもそもあれか? 君の武器で俺達を支配下に置くことの方が目的だったのかな?」

「……」

「まあどっちにしろ、大将さんとお仲間さんとは違って……君の目的自体は果たし終わった。利権なんて目先の目的じゃなく、君はもっと遠くの景色を見てる感じだった。俺達との戦闘も同胞を支配下に置いたのも同じだ、オーガという種族そのものをデータの一つとして直接確認したかった。君の内に秘める、何かしらの野望の為に」


 持論を述べ終えたクロッカスに対し、リカードはくつくつと笑う。


「ククク……やはり貴様は有能だ、人の言動や立ち振る舞いをよく見ている」

「伊達に族長の補佐役やってないからね。それで、実際はどうなんだい?」


 改めてクロッカスが真意を問うと、リカードはすっと笑いを止めて打ち明ける。


「……半分正解だ。確かに俺の目的はオーガの戦闘を直に味わい、インプットすること。だがな、完全に興味がないわけではない。利権は貰うに越したことはない。少なくとも、俺の目指す役職(ポスト)に必要な財源代わりになる程度には魅力的な里だ」

「へぇ、意外だなぁ。野心深そうな感じはしてたから、オーガの里(俺達)はあくまで通過点程度なんだろうなと思ったら……財源(財布)代わりにする気ではいたんだ」

「俺は俺なりに、有能な人間は種族問わず認められて当然だと思っている。貴様のように、無能族長の影で里の運営と発展に貢献している者なら尚のことだ。だからこそ、俺は貴様に取引を持ちかけた。俺と貴様が組めば、より一層オーガの里をワンランク上のレベルに引き上げられると確信している」

「……嬉しくないなあ。オダマキをぶん殴れるって所はいいけど、里を乗っ取ろうとした組織の君に褒められるのは――」

「ところでクロッカス。聞けば貴様等夫婦は、八年前にオダマキの命によって愛娘を捨てさせられたそうだな」


 リカードがそういった瞬間、それまで飄々としていたクロッカスの目の色が変わる。


「何故、それを……」

「図星か」


 その反応を見て、リカードは更に続ける。


「愛娘は生まれ持った身体術(フィジカルスキル)のせいで同胞から忌み嫌われ、迫害を受けるまでになった。やがてピークになった迫害を目障りに感じたオダマキに呼び出され、娘を追放するよう命じられた。貴様等としては迫害に負けずに愛を育み続けてきたわけだが、限界だったのだろう? 精神的に追い詰められていた貴様等は、苦痛から逃げるように愛娘を捨てざるを得なかった……」

「……分かったような口を叩くな、人間」


 牢からギラリと睨むクロッカスに対し、リカードは憐れみを込めた眼差しを向ける。


「理解するぞ、その憎悪。俺も人間性を捨てて久しいが、貴様等の話を嘲笑うほど堕ちてはない。だからこそ理解できん。愛娘を捨てるよう命じられて尚、オダマキ(あの無能)に従っている貴様の心根が」


 先のシチュエーションとは真逆に、今度はリカードから質問を受ける立場になったクロッカス。しかも、探られたくなかった過去に踏み込まれる形となってだ。


 だが、噴火寸前の火山の如き怒りを滾らせながらもクロッカスは冷静だった。


「……だから、力を貸してやろうってか?」

「悪いことは言わん、貴様には敵討ちする正当性がある。俺の案に乗り、調印式ごとオダマキを滅せばいいだろう。その後はお前好みに里を盛り立てればいい。尤も、暴王の嘲笑(タイフリッシュ)との同盟は結んではもらうが……貴様等の意思はなるべく尊重しよう。俺と貴様の手によって、里を更なる高みに引き上げてやろうじゃないか」


 穏やかさと冷徹さが合わさった声色で、リカードは再度提案を投げる。


 対するクロッカスの返答は――。


「……断る」


 断固とした拒否だった。


 無論、リカードは納得しない。


「何故だ。貴様等の意思を尊重すると言っても尚、拒む理由は何だ?」

「簡単だよ、俺は外部の侵略者に里を明け渡すオダマキみたいな売国奴じゃない。第一、暴王の嘲笑(君達)と同盟を結んでどうなる? 俺達の戦闘力を当てにして、対帝国戦線を始め……あちこちの揉め事に突き出して金儲けする魂胆だろ?」

「……フン、最初(ハナ)からお見通しというわけか」


 薄ら笑いを浮かべるリカードに、クロッカスは容赦なく吐き捨てる。


「『意思を尊重しよう』って傲慢な口叩いてる時点で、対等に接する気なんて更々(さらさら)ないってバレバレなんだよ。それに、俺は娘の好きな里を守りたいんだ」

「娘の好きな里、だと? 迫害を受けていた貴様の娘が、この里を愛していたと? 何を根拠にそう言える?」

「逆に君の方こそ、娘のことを知りもしないでよく好き勝手言えるものだね。確かに俺の娘……スミレは多くの同胞から迫害を受けてたよ。だけど、里の文化そのものが嫌いなわけじゃない。里の海産物も、この(やしろ)の建築も……スミレは大好きだった。嫌っていたのはあくまで彼女の身体術(フィジカルスキル)と迫害してきた連中だけだ」

「だから断るというのか。娘が戻る確証などないにもかかわらず」

「君には理解できないだろうね。というわけで、改めて言おうか」


 皮肉で前置きし、クロッカスは力強く告げる。


「俺は、俺の愛娘の好きな里を守る為に泥をかぶり続けたんだ。誰が何と言おうと、文化や種族の敬意も払わない……外部の人間に渡しはしない!!」


 頑として譲らぬクロッカスの瞳には、愛娘を捨てた悔恨と過去の過ちに対する贖罪を原動力とした揺るぎない決意の炎が宿っていた。


 最早如何なる説得も届かないだろう、そう判断したリカードは失望と憐憫に満ちた冷たい眼差しでため息を漏らす。


「残念だ、クロッカス。有能なオーガかと思いきや、叶う見込みのない幻想に想いを馳せる無能だったか。そんな姿勢だから……愛娘は愚か、妻の命すら守れないのだよ」

「な、何を言って……?」


 理解できずにいるクロッカスに、リカードは冷淡に告げる。


「言い忘れたが……クロッカス、オダマキは明日の調印式である余興を設けた」

「余興だと……?」

「反乱意志を徹底的に圧し折る為の見せしめとのことだ。有能な貴様なら分かるだろう?」

「……まさか」


 自身の妻、そしてオダマキが設けたという余興。


 リカードが並べた言葉を前に、クロッカスに最悪の光景が過ぎる。


 そして、その予想は答え合わせのように告げるリカードの言葉で(つまび)らかとなる。


「そうだ。調印式の余興として、貴様の妻であるサルビアから処刑を実行する。無論、貴様は牢の中でその死に目を拝むことすら叶わん。全くいい性格をしているな、無能族長にしては面白い判断だ」

「貴様あああああああああああっ!!!!」


 淡々と告げるリカードに対し、クロッカスは怒りのあまり鉄格子に掴みかかる。


 無駄な足掻きなことは理解できている、されど怒り心頭になった瞬間ぶつけずにはいられなかった。


 そんなクロッカスの怒りを嘲るように、リカードは最後にこう言い残す。


「これが貴様の選んだ選択だ。淡い幻想に想いを馳せたが故に、妻の命も里の安寧も守れんのだからな」


 無情な言葉と共に、リカードは去っていく。


「待て……待て、貴様ああああっ!!!!」


 一人残されたクロッカスは、ただ無念に打ちひしがれて慟哭する他なかった。


 *


 更に時は過ぎ、夜十時半。


 日中クーノが張っていた櫓の中に、リカードの部下はある建物を見張るよう命じられていた。


 彼等が見据えるは、一戸の和風住宅。クーノが仕入れた情報によると、魔食布教会(ガストロノミー)が活動拠点にしている別荘とのこと。


 オーガの反攻勢力に協力してきた魔食布教会(ガストロノミー)の動きを監視し、補足でき次第即座に叩き潰す為だ。


 だが、部下達はこの指示を甘く見ていた。


「はぁぁ、クソ(ねみ)ぃ。本当に魔食布教会(アイツ等)ここに来んのかよ」

「知らねー。ってかやる意味あんのかな、この仕事」

「リカードさんもよく分かんねーよな、普段から無能無能って見下す癖によ」


 彼等はリカードの真意を理解できていなかった。


「なあ、どうだ? 灯りとかついてる?」


 監視している構成員に問うと――。


「全然。本当に来るのか分かんないな」


 痕跡の面影すら感じられないと言わんばかりの答えが返ってきた。


 その返答が、より一層構成員達のやる気を削ぐ。


「だよな、来るわけないよな」

「全く何でこんなことしなきゃいけないのかねぇ」

「とりあえず、時間が過ぎんの待てばいいってことにしようぜ」


 別荘に人影が来ることなどありえない、構成員達はそう判断することにした。



 だが、魔食布教会(ガストロノミー)は既に別荘の中にいた。


「帰還成功……ですわね」


 リーダーのフリーデは決してバレない独自の移動手段を持っていた。


 別荘直通のポータブル転移門を用いることで直接別荘へと赴くだけでなく、それを寝室内に置くことで、外部から気付かれることなく移動する手段を可能にしていたのだ。


 室内にいるのはフリーデとスミレ、そして使者のハッカ。残りのメンバーは、フリーデの持つ魔道具の一つ「携帯大広間の扉ブローチ」にて一足先に休息を取っていた。


「スミレさん、敵の気配は確認できまして?」


 フリーデは身体術(フィジカルスキル)人面瘡(メンソウ)で探りを入れるスミレに確認を取る。


 スミレの身体術(フィジカルスキル)人面瘡(じんめんそう)、相手の敵意を把握できる索敵特化の身体術(フィジカルスキル)だ。


「……大丈夫よ。監視している奴等がいるのは確認できたけど、油断しきってる」

『ありゃあ、来るとは思ってねえ様子だな』


 スミレとメンソウの言葉を聞き、フリーデは口角を上げる。


「計画通りですわね。では私達(わたくしたち)も休みましょう、ベッドはこちらですわ」


 フリーデの計画性、そしてスミレの索敵能力。


 鮮やかすぎる手筈に、ハッカは感嘆を禁じ得なかった。


 ――すごい……あっという間に里に入り込んだ。本当に、この人達なら……。


 潰えていた希望が徐々に照らされ始めている、そんな予感がしてならなかった。


 故に、気付けばハッカは口を開いていた。


「あの……スミレ様」

「どうしたの?」

「少々……お時間よろしいですか」


 ハッカが呼び止めたのはスミレ、どうしても話したいことがあって仕方がなかった。


 それに対し、フリーデは警戒態勢に移る。


「……メンソウ」


 多くは問わない、フリーデはメンソウに話しかける。


 だが、メンソウの言葉は――。


『心配ねえ』


 予想に反するものだった。


 同時にスミレもフリーデに告げる。


「メンソウの言う通りよ、フリーデ。彼女は敵じゃないわ。先に休んでて」

「……承知しましたわ。ですが、長くなりませんようにね」


 穏やかにそう言い残し、フリーデは先にベッドへと入り込んだ。


 *


 夜闇に紛れるように、ハッカとスミレは居間に移動し腰を下ろした。


 ここも櫓からは死角になっており、外部から動きを捉えることはならない。


「それで、ハッカ。要件は何かしら?」


 発言を促され、ハッカはゆっくりと口を開く。


「実は……ずっと、怖くて言えなかったことがあったんです」


 そう前置きし、ハッカは衝撃的な事実を告げる。


「私は……オダマキの間者です。隙を見て、クロッカス夫妻を仕留めるよう……命じられておりました」

「……そう」

「驚かないん……ですか?」


 予想していた反応と違い、ハッカは思わず面食らう。


 その疑問に答えるように、スミレが口を開く。


「あなたが連合国に来てからずっと、メンソウがしきりに警告し続けててね。半信半疑で泳がせていたら……そう、オダマキの間者だったの」

「はい。隙あらば闇討ちするよう、命じられておりました。あなたがいるとは想像しておりませんでしたが」

「その割には、打ち明けるこの瞬間まで大人しかったわね。それはなぜ?」


 スミレからの問いに、ハッカは正直に打ち明ける。


「人生で初めて、私の意思で里を守りたいと思ったから……です」

「と、言うと?」

「私は……幼少期から間者としての人生を定められておりました。里を守る大義名分の下に、オダマキの命令を忠実にこなしてきました。でも、オダマキは……」

「……暴王の嘲笑(タイフリッシュ)の暴力に怖気づいて、里を売り渡した」


 スミレはハッカの怒りを目の当たりにしている。誇太郎やフィガロ達の前で告げたあの憤怒は、演技にはとても思えなかった。


 事実を振り返るように返すスミレに、ハッカはゆっくりと頷いた。


「あの時も言いましたが、オダマキは……我が身可愛さに侵略者に魂を売りました。その瞬間、私は使命を捨てました。売国奴(オダマキ)を裏切り、クロッカス夫妻……もといあなた方の味方になって、里を救いたいと……生まれて初めてそう思ったんです」


 そこまで言い切ると、ハッカは額を地面に擦り付けた。


「改めてお願いいたします。オーガの里を……私の好きな故郷を、どうか救ってください……!」


 絞り出すような声で訴えるハッカに――。


『スミレ……』

「……分かってる」


 偽りの色は微塵もなかった。


 故に答えは決まっている。


「ええ。必ず取り戻しましょう、私達の故郷を」

「お願いします……私も力を奮います……!!」


 様々な思いが交錯する夜は、ゆっくりと更けていく。


 そして、来たるべき調印式当日。


 多くの人間の運命を左右する日は、穏やかな冬の日差しと共に訪れるのだった。

いかがでしたでしょうか?

次回からいよいよ奪還作戦本番です。

何卒よろしくお願いいたします。

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