第164話 雪上に舞う血煙
こんばんは、一週間後の最新話投稿です。
新キャラとスミレ達の活躍回です。
何卒よろしくお願いいたします。
「さあ、ランチ前の準備運動と行きましょう! 皆様方っ!!」
フリーデの号令を皮切りに、暴王の嘲笑構成員とカチ合うスミレ一行。
「舐めんじゃねーぞ、アバズレ共が!」
「怯むな、数ならこっちが上だ!」
後続の構成員が一斉に銃火器を構える。
だが、先の構成員の銃撃を見たスミレ一行は二度目を許さない。
「させんよ、撃て」
ノマド族長、ルイーサの一言で部族全員が発砲する。反応の遅れた構成員はすべからくハチの巣にされた。
しかし、全員ではない。
「ちいいっ!」
「あっぶなあっ!!」
一部はすんでの所で間一髪躱してみせた。銃の扱いに長けた狩人の射撃から逃げた安堵感は、彼等からすれば相当なものだろう。
尤もそれは、一時的なものとなって終わることとなる。
「何安心してるの?」
「俺等もいるぜぇぇええええっ!!」
「うおおおっ!?」
構成員が躱した先には、既に金砕棒を振りかぶるスミレと巨大な肉切り包丁を構えるエメットが迫っていた。
咄嗟に防御を固めようと試みるも、最早焼け石に水。
「吹き飛びなさい!!」
「ごおおおおっ!!」
「がばああああっ!!!」
スミレの金砕棒が構成員二名の身体をくの字に折り曲げる。そのまま強引に振り抜き、構成員は宙を舞う。金砕棒が胴体に叩き込まれた時点で構成員は即死、人間の数倍もの力を誇るオーガのスミレだからこそ為せる力技だ。
その傍らでは、エメットの肉切り包丁が猛威を振るう。
「ぜりゃあああああっ!!」
「ぎゃあああっ!」
「どるぅあああああっ!!!」
「ぐばっ……!」
一人を上下分断し、またもう一人は真っ二つにぶった斬られる。刃の付いた巨大な鉄塊がエメットの手により縦横無尽に暴れ回るのだ、戦い慣れた人間ですらエメットの戦闘スタイルを前にすればたまったものではない。
「次ぶった斬られてェ奴、どいつだ!!?」
豪快に肉切り包丁を振り回しながら吼えるエメットに――。
「上等だ、逆に叩き切ってやる!!」
「遠距離無理なら超至近距離だ、コラああっ!!」
西洋刀を構えた構成員が数名猛進する。
しかし、その構成員達はエメットに近づく前に突如横から飛んできた矢によって頭部を貫かれた。矢は頭部を貫通し――。
「おごっ……」
「こぇ……っ!」
勢いそのままに、隣にいる構成員の額を穿ち抜く。飛び散る血飛沫が雪上のキャンパスを赤黒く染め上げる中――。
「う、うわああああっ!」
「何だ、一体どこから!」
構成員達はその衝撃的な光景に戦慄する。
矢一本で二人の頭部を穿ち抜くなど、余程のパワーと技術力でなければできぬ芸当だ。
そんな規格外の一矢を放ったのは、魔食布教会一の巨漢――ワルデン。
「エメットには近づかせねぇど、馬鹿」
強靭な腕力から発せられる一矢は、人の頭部を紙を破るように容易く穿ち抜く威力を誇っていた。
だが、構成員達の判断力も早い。
「はっ、馬鹿が!」
「弓矢なんてエルフじゃあるまいし!」
「近づいちまえばこっちのもんだ!!」
標的をワルデンへと切り替え、一気に距離を詰めてくる。
対してワルデンは――。
「……オメ等、オデのこと馬鹿だと思ってんだろ」
ドスの利いた声で呟くと同時、弓に付いてあるスイッチを押す。その瞬間、弓に内蔵してある刃が小気味いい金属音と共に顔を出す。
そして、近づいてきた構成員を容赦なく撫で斬りにした。
「近接対策なんて今時常識だど」
刃の付いた弓――ブレードボウを操るワルデンは遠近両刀に長けた武闘派、その実力はエメットに負けず劣らずだ。
更にその一方、スミレ一行もとい偉大なる少数派陣営も存分に武を振るう。
「はあっ!」
「ごぶっ!」
「やあああっ!!」
「げばああっ!」
バレンティアの蹴り技が次々に構成員を文字通り蹴散らし――。
「ほーら、派手に吹っ飛ぶんだな!!」
「ごばああっ!!!」
「ぎゃああああああああっ!!!!!」
カジミアの投げた爆弾が豪快に敵を吹き飛ばす。
そして遊牧民族ノマド一行の操る射撃術も凄まじい実力を誇っていた。
特にルイーサの射撃術は一線を画していた。彼女が狙いを定めると同時――。
ズダァンッ!
「はが……っ」
ドパァンッッ!!
「ぎ……ぃっ……!」
射線の先にいる構成員は、反応すらできずに死んでいった。
「張り合いがないね」
ドライに吐き捨てるルイーサの射撃のモットーは即断即決、照準が敵に合わさった瞬間に彼女は迷いなく引き金を引く。それこそが彼女の強さだ。
そんな偉大なる少数派とノマドの姿に、フリーデは銃で構成員を屠りながら感嘆の声を零す。
「わお、皆様痺れる戦い方ですわね。これは、私も負けてられませんわ……はぁっ!」
次の瞬間、再度フリーデが凄まじい跳躍。今度は高速回転しており、その姿はさながら雪上に舞う踊り子のよう。
そして、最高の位置に達した瞬間彼女の銃口が火を吹く。
「竜巻銃乱舞」
「ごはあっ!」
「ぐげぇっ!!」
縦横無尽に飛ぶフリーデの銃弾が、構成員達に降りかかる。
高速回転から発せられた弾丸は、文字通り鉛の豪雨と化す。間断なく放たれた刃は、多くの構成員の命を屠るには充分だった。
すると――。
「ちょっと、フリーデ! 無駄撃ちし過ぎよ!」
自身の構成員を対応し終えたルチナが、フリーデにツッコミを入れる。彼女の眼前には黒焦げとなった構成員の姿がある、恐らく炎属性の魔法術も操れるのだろう。
「こんな所で弾薬使い果たしたら、里の奪還もできなくなるからね!? ただでさえ、さっきまで里周りの集落奪還で戦ってたんだし……分かってるよね!?」
実は、魔食布教会はオーガの里周囲にある下位・中位魔人の五つの集落を奪還し終えたばかり。故に体力も弾薬等も消費している状態だ。ルチナはその懸念を指摘したのだ。
「分かってますわよ、ルチナ。けれども心配には及びませんことよ」
迫る構成員を拳銃で殴り倒し、フリーデは告げる。
「資源が足りなければ、構成員から拝借すればいいだけのこと。先ほどまでもそうなさって来たでしょう?」
「いや、拝借じゃないからね、それ! 奪取の間違いだからね!」
「とはいえ、あなたのいう通り……本丸奪還の為に少々節約せねばなりませんわね。私としたことが、はしたなく暴れてしまいましたわ」
「だから言ったでしょ!?」
フリーデにルチナがツッコミを入れる。
しかし、ルチナの懸念はある程度払拭されることとなる。
先のフリーデの乱射により、三十人近くいた構成員は残り十人程度にまで追い詰めた。
ただ、残ったのは簡単に雑魚と呼ぶにはやや強い敵だった。特に、スミレが応対している鋼鉄装甲の大男は、見立て通りのパワーを誇りオーガであるスミレに肉薄せん勢いだ。
更にはこの大男――。
「その角は金の成る気だなあああっ!? 寄越しやがれえええっ!!」
「ちっ、何なのコイツ……!?」
頓珍漢な言葉と共にスミレに手甲を振るう。
その大男を、フリーデは遠目からじっと見ていた。大男の言葉はもちろん、彼の目も焦点があっていない。
「俺の誕生日はいつだっけ? あっ、十三ヶ月後だああああ!!」
錯乱状態で暴れる大男の行動を前に、フリーデは確信する。
「……愚かですわね。一時の超強化と引き換えに、薬物に身を落としましたか」
「え、フリーデ……それって」
ルチナが心配そうに察する中、フリーデの脳裏に過去の記憶が過ぎる。
彼女の生まれ故郷が、彼女の知り合いから家族に至るまで薬物漬けになった、忌まわしい記憶が。
されど今は後回しだ。戦況を解決すべく、ルチナに告げる。
「ルチナ、あのでくの坊は私とスミレさんで潰します。残りは他の方々と協力して蹴散らしておやりなさい」
「分かった、けど……冷静にね」
フリーデを気遣いながらも、ルチナは彼女の指示に従いカジミア等の元へと向かう。
「エメット、ワルデン! こっち来て!」
「おぅっ!」
「分かったど」
エメットとワルデンを呼び出し――。
「カジミア、スカンク獣人ちゃん、ノマドの皆さん! 助太刀するわよ!」
「おー、ちびっ子が来たんだな!」
「え、いいの!?」
「助かった、丁度リロードする暇が欲しかったんだ」
ルチナは偉大なる少数派とノマド陣営に合流を果たす。
反対にフリーデは奮戦を続けるスミレの元に駆け付けた。その際、大男目掛けて銃弾を飛ばして牽制する。
「ごめんあそばせ、スミレさん。ご助力いたしますわ」
「ありがとう、フリーデ。そっちはもういいの?」
「粗方片付きましたが、あの愚か者は少々目に余りましてね。どうしても私自ら手を下さねば気が済まないんですの」
曇った表情で語るフリーデの姿にスミレは察する、彼女も何か思う過去があるのだと。
その表情のまま、フリーデは続ける。
「それに、少々弾薬を節約せねばならなくなりましてね。里を奪還する為にも、可能な限り最小限の手段でこやつを屠らねば」
「……なるほど」
フリーデの助力理由に納得しつつ、スミレは自分達以外の陣営に向かった敵の残存戦力を確認する。少々腕の立ちそうな構成員がいるものの、バレンティアやカジミア達とノマド、そして残る魔食布教会ならば問題はないだろう。
それを踏まえた上で、スミレは声を張り上げる。
「バレンティアっ!!」
「ビックリしたあっ! どうしたの、スミレ!」
大声で問い返すバレンティアに、スミレは告げる。
「敵の構成員引き連れて、出来る限り遠くまで下がって! 後、魔食布教会の皆さんもできれば戦力温存して!」
「何言ってんの!?」
スミレの指示にバレンティアはもちろん――。
「おいおい、どういうこった?」
「何だオメ、オデ等のこと舐めてんのか?」
エメットとワルデンも疑問を呈さずにはいられない。だが、ルチナはスミレの言葉の真意を理解した。
「もしかして、フリーデから聞いたの!?」
ルチナの問いに対し、スミレは「ええ!」と声高に返す。
最早、これ以上の問答はいらない。ルチナは男性陣二人とバレンティア等にフリーデに忠告した事情を説明する。
それを知ったエメット達は、納得したように頷いた。
「それなら敵さんはどうする? まだそこそこいるだろ」
エメットの疑問に対し、答えたのは――。
「大丈夫、アタシが全部倒すから」
何とバレンティア。
堂々と断言すると同時、スミレに向けて告げる。
「スミレ、こっちは任せて! 全員臭い目に合わせてぶっ潰すから!!」
得意気に黒白尻尾を振り、サムズアップするバレンティアの姿を見て、スミレは安堵する。
「お願いね、バレンティア!」
「まっかせて!!」
最後に言い残し、バレンティア達は一時撤退を決行する。無論、構成員も放ってはおかない。
「逃がすかよ!」
「待てや、ゴルァああっ!!」
怒号と共に、バレンティアを追走し始める。
そうして残ったのは、薬物中毒者の大男とスミレとフリーデ。
「世ぇぇ界が~、真っ黄っ黄に染まってく~。夕方にはまだ早いだろ~」
相も変わらず大男の発言は支離滅裂極まりない。
「もう滅茶苦茶ね……」
眉を顰めるスミレに、フリーデが告げる。
「スミレさん、相手は最早自ら人間を辞めたのと同義です。一切の遠慮はいりません、存分に捻り潰してくださいまし」
「安心して、元よりそのつもりだから。というか、フリーデ」
「どうなさいました?」
「……折角の救援ありがたいのだけれど、あなたも温存して。大男は私が倒すから」
意外なスミレの言葉に、フリーデは目を丸くする。
「あら、大丈夫ですの? 先ほど少々押され気味に見えましたが」
「大丈夫。さっきまでは力をセーブしてただけ、だから……ここは一気に決める。あなたが抱える想いも込めて、ぶっ倒すから」
そう言い終えると同時、論より証拠と言わんばかりにスミレの背筋と両腕が隆起する。力をセーブしていたというだけあり、今のスミレの闘気は先ほどとは別格だった。
そんな彼女の姿に、フリーデは思わず固唾を飲みこんだ。
「……承知いたしましたわ。でしたら、あなたの実力……改めて拝見させていただきましょう」
「お手柔らかにね」
最後にそう言い残し、スミレは大男に向き直る。
対して大男は痺れが切れたのか、或いは禁断症状によるものか益々理解不能な言葉を吐き散らす。
「とっとと潰れろ、ゴキブリ共おおおっ!!」
「失礼ね。女性に対して投げる言葉じゃないでしょ」
正論で返すスミレに、大男は激昂する。
「ゴキブリだろおお、ちょこまかちょこまか動きやぁがってええええええええっ!!!」
頂点に達した怒りと共に、大男はスタートを切る。巨大な猪の突進と見紛うそれは、常人ならば食らった時点で全ての肋骨が砕け散る勢いだ。
だがあくまで直線的、スミレからすれば「狙ってください」と告げているようなもの。
迫る大男の隙を穿つべく、冷静に見据える。
やがて――。
――ここね。
遂にスミレが大男の隙を捉える。
そこからは一瞬だった。右手に握る金砕棒を――。
「やぁっ!!」
人知を超えたパワーで、槍投げのように投擲する。
真っ直ぐ飛んだ金砕棒は、寸分違わず大男の顔面に直撃。
「ぶげぇっ!」
この時点で大男の顔はぐしゃぐしゃに潰れた。
だが、まだ終わりではない。
スミレは金砕棒を大男の顔面に投げつけた時点で、既に懐へと潜り込んでいた。
悶絶する大男の隙を突き、手放した金砕棒を掴む。
そして、太鼓のばちを構えるような体勢で技の名を告げる。
「鬼人修羅太鼓」
言い終えた瞬間、スミレは透かさず大男の腹部に二対の金砕棒をフルスイング。
「ぐぼぉっ!!」
大男はたまらず吐血する。
それが、スミレの血風吹き荒ぶ演奏の始まりを告げる合図となる。
間髪入れず、右の金砕棒が腹部に入る。
続けて左、右とリズミカルに金砕棒が叩き込まれる。
「はっ!」
掛け声と共に、スミレの殴打はテンポアップ。金砕棒の連打が、ハイテンポ且つリズミカルに腹部に炸裂する。
大男を太鼓に見立てたスミレの勢いは止まらない。連打のテンポは益々上がり、叩きつけられる打撃音も同時に上がる。
やがて、曲調が最高に盛り上がった所でスミレは金砕棒を後ろに大きく下げ、渾身の力を込める。
そして、終局の一手が落とされる。
「だぁぁあああああっ!!!」
ドグォオオオッ!!!!
「ごびゃああああああああああああああああああっ!!!!」
静寂な雪原の里に轟く轟音の後、大男は激しく吹き飛ばされた。
勢いは止まらず、大男の身柄は何とそのままオーガの里の玄関口にまで到達。
「ご……ぉお、あ……」
岩壁にぶつかった所で、大男の息の根は止まることとなった。
完膚なきまでに大男が吹き飛んだのを確認し、スミレは二対の金砕棒を納める。
「……ふぅ」
やり切ったと言わんばかりに短くため息を漏らす。
血濡れた演奏を終えたスミレの姿に――。
「ブラボー……素晴らしいと評すほかございませんわ!」
フリーデは感激に満ちた拍手を送る。
「ありがとう。でも、拍手をもらうほどかな……」
「そう謙遜なさらず。あなたの力はまごうことなくオーガの名に違わぬものでしたわ」
「改めてそう言われると、ちょっと照れ臭いな」
穏やかにスミレが微笑んだ、その時。
ぶぶぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!!
フリーデの背後で爆発的な放屁音が響き渡る。
同時、黄土色の風と共にどぎつ過ぎるニンニク臭と硫黄臭が辺り一面に広がった。
「な、何事ですの……ごほっ」
余りの悪臭に顔を覆うフリーデに対し、スミレは鼻をつまみながら口角を上げる。
「どうやら、バレンティアの方もケリがついたみたいね」
*
スミレが大男と向き合っている同時刻、バレンティア達はギリギリスミレ達が見える範囲まで距離を取った。
バレンティアの眼前には、大男を除く暴王の嘲笑の構成員が全て集まっていた。
「ようやく観念しやがったな、クソアマ共が」
「存分にかわいがってやるよ!」
下劣な啖呵と共に、構成員は武器を構える。
それもそのはず、なぜなら構成員と向き合っているのは何とバレンティアのみ。
カジミアとノマド一行、そして魔食布教会の三人は更に距離遠くの木陰でその様子を見守っていた。
「なあ、オイ。ホントに嬢ちゃん一人で大丈夫なのか? スカンク獣人の武器っていやぁ何となく想像は付くけどよ」
「あの人数差を覆せるの?」
エメットとルチナが疑問視する中、偉大なる少数派に所属するカジミアは断言する。
「甘く見ない方がいいんだな。至近距離にいたら最悪、悪臭のあまり窒息するぞ」
「窒息……」
一切のふざけ無しに断言したカジミアの言葉に、ルチナは背筋が凍る。
「距離は取ったけど、それでも悪臭自体は飛んでくる。ガスマスクとかあるなら用意すべきだな」
「あ、それなら大丈夫だよ! エメット、ワルデン!! 持ってるよね?」
ルチナの呼びかけに――。
「おぅ、予備用込みで多めに持ってきた!」
「ノマドの奴等も装着するんだど」
エメットとワルデンはありったけのガスマスクを取り出す。
そしてカジミアとノマド一行、魔食布教会は完全防毒装備を施して遠目から戦況を見守る。
その頃、啖呵を切る構成員達にバレンティアは堂々とこう返す。
「逃げるなら今のうちだよ、臭い目に合いたくなければね」
不敵に言い放ちながら、バレンティアは背を向けてお尻を前に突き出す。黒白尻尾もふわりと上げ、弾力感を思わせるお尻がズボン越しに露わとなる。
その姿は、傍から見れば色気溢れる誘惑のポーズだがスカンク獣人にとっては相手に銃口を突き付けた独自の臨戦態勢に他ならない。
対する構成員達はバレンティアの狙いに気付いていないのか、強気な言葉を飛ばす。
「何だぁ、そのポーズ? 誘ってんのか?」
「それともスカンクなりの降参ポーズか?」
「だったらお望みどおりにしてやらぁ!!!」
勝利を確信した言葉と共に、構成員達は一斉にバレンティアに飛びかかる。
それが彼等の運命を決定付けることになるとも知らずに。
「……忠告はしたよ」
冷徹に吐き捨てると同時、バレンティアは濃厚なガスの貯まる腹部にありったけの力を込める。
「んんんっ!!!」
バレンティアが勢いよく息んだ声を上げた瞬間――。
ぶぶぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!!
けたたましい爆音と共に、途轍もないおならがバレンティアのお尻から放たれた。
純白の雪原地帯は、一瞬にして危険な悪臭地帯へと変貌する。
無論、それを真正面から食らった構成員が無事であるはずもない。
「ぐっざああああああああああああっ!!!??」
「ウヴォェっ!」
「あがが……が……」
スカンク獣人のおならはただ単に臭いで終わる代物ではない、余りの悪臭にまともに息すらできなくなる毒ガスなのだ。
それを「勝った」と勘違いし、まともに食らった人間の末路など言うまでもない。
「息が……出来、な……」
「たしゅ、け……」
びくんびくんと痙攣しながら、構成員は一人残らず地に伏すこととなった。
そんな構成員達に、バレンティアは再度冷たく吐き捨てる。
「だから言ったでしょ、臭い目に合うよって」
*
「なるほど……放屁、でしたか。流石はスカンク娘、ですわね」
スミレから説明を受けたフリーデは、合点が言った様子で頷く。
同時に――。
――何かに使えるかもしれませんわね、覚えておきましょう。
奇策の一手に使えるかもしれないと、記憶の片隅に留めることにした。
やがてカジミア達とノマド一行、エメット等三人もスミレ達の元に合流する。
その際、カジミアは懐から煌びやかな装飾が施された爆弾を取り出す。
「弾けるんだな、芳香爆弾」
カジミアが宙に投げた瞬間、芳香爆弾は花火のような爆音で破裂する。
爆発と同時、心地よい香りがバレンティアの放屁を消臭していった。
程なくして、悪臭地帯だった周囲はたちまち元の雪原地帯へと戻っていった。
「おぉー、一瞬で元通りぃ!」
爽やかな反応を示しながら、エメットはガスマスクを外す。そして染み渡る厳冬の空気を目一杯吸い込んだ。
「はぁーっ、見るからに臭かった屁の臭いもきれいさっぱりだ! ほら、お前等も外せ!」
エメットに促され、ワルデンとルチナもガスマスクを取る。
「ホントだ、ビックリだど」
「すんすん……ついでにコートも消臭されてる、すっごい!」
通常なら服にまでねっとりと悪臭がこびり付くのだが、カジミアの爆弾はそれすら消臭した。魔食布教会からの称賛を、カジミアは得意げに受け取った。
そうして、暴王の嘲笑の構成員を掃討した偉大なる少数派陣営は、改めて魔食布教会と対面する。
「さて、招かれざる横槍でご挨拶が遅れてしまいましたね。改めまして……私はフリーデ、エッセン商会の抱える武闘派小隊が筆頭、魔食布教会のリーダーです。此度は暴王の嘲笑に乗っ取られたオーガの里を奪還すべく参りました。ではスミレさん、あなた方の目的も改めて教えていただけますか?」
丁寧な態度でフリーデに促されたスミレも、慇懃な態度で返す。
「人魔妖精連合国の自警団、偉大なる少数派のスミレよ。目的は魔食布教会と同じ、オーガの里の奪還。こちらのハッカが助けを求め、ここに来たの」
スミレの言葉に紹介される形で、ハッカが頭を下げる。
「では、我々は共に里を奪還する同士というわけですわね。よろしければ、ご協力いただけますかしら?」
フリーデの誘いに、スミレの答えは決まっていた。
「さっき戦う前にも言ったけれど、勿論よ。一緒にオーガの里を奪還しましょう!」
「頼もしいお返事、痛み入りますわ。それでは……エメット!」
フリーデの呼びかけに、寸動鍋を用意しているエメットが返答する。
「おぅっ、お嬢! 早速ランチタイムと行こうぜぇ!」
豪快に言いながら、エメットは野菜と豚肉を鍋にぶち込んでいく。寒冷地に備えたシチューを作る予定なのだろう。
一方、スミレはキョトンとした様子で魔食布教会を見ていた。
「えっと……今すぐ行かなくて大丈夫なの?」
その問いに対し、フリーデは穏やかに微笑んで答える。
「ご心配なく。我々は既に、具体的な奪還計画を経てておりますの。尤も、今回の襲撃とあなた方との邂逅で多少変更しなければなりませんが」
「だったら尚更急いだほうが――」
と、焦るスミレにフリーデは「いやいや」と人差し指を横に振る。
「先程私が申し上げたこと、覚えてますかしら? 自己紹介を兼ねた、情報交換も行いましょうって。丁度ランチタイム時ですし、今は英気を養う時ですわ」
「だとしても、ゆっくりしてていいのかしら……」
「でしたら、その心配から払拭させていただきます」
コホンと咳ばらいをし、フリーデは告げる。
「族長オダマキと暴王の嘲笑の調印式は明日、恐らくこれは如何なるトラブルがあろうと揺らぐことはありません。これだけでも、猶予としては充分ですわよ」
「そこまで……」
想像を超えるフリーデの情報力に、スミレは圧巻する。
「ですので、今はランチタイムを兼ねて互いの情報を擦り合わせるべきです。お互いの目的、戦力、そして現在の状況……その全てをね」
「……分かったわ、詳しく聞かせて」
ここまで説得されたら首を横に振るわけにはいかない、スミレはフリーデの話に乗ることにした。
魔食布教会と共同戦線を張ることになった偉大なる少数派とノマド一行。
ここから、痛快且つ奇想天外な奪還作戦が展開されるのだ。
いかがでしたでしょうか?
次回もまた、早めに投稿できればと思います。
何卒よろしくお願いいたします。




